自動車産業の動向と展望(アルジェリア)
現地生産拡大の方針を維持

2023年1月30日

アルジェリアの人口は4,400万人で、2012年以降、年間約80万人のペースで増加している。同国の2021年のGDPは、ナイジェリア、エジプト、南アフリカ共和国に次ぐアフリカ第4位となっており、1人当たりGDPも4,000ドル前後と一定の購買力があるため、アフリカ最大の消費市場の1つである。

しかし、自動車の新車市場に関しては、新車ディーラーを対象とした輸入規制により2017年以降、輸入実績がなく、また2020年以降は現地製造も中止しているため、まひ状態に陥っている。ただし、アルジェリアの自動車ディーラーグループ(GCA)など関係者は同国の新車需要を年間40万台になると推計しており、2021年のアフリカ各国の新車販売台数と比べると、第2位の規模となる(図1参照)。本稿では、アルジェリアの新車産業の状況と展望について分析する。

図1:アフリカ主要国における2021年新車販売台数(単位:万台)
南アフリカで46万台、エジプトで29万台、モロッコで17万台、ナイジェリアで1万台であった。アルジェリアの推定新車需要の40万台は、この中で2番目の規模となる。

注:アルジェリアは推定需要。
出所:南ア自動車製造協会(NAAMSA)、モロッコ自動車輸入者協会(AIVAM)、各報道に基づきジェトロ作成

新車輸入中止の背景と影響

2010年代前半に、原油価格の高騰を受け、アルジェリアの輸出総額の大半を占めるエネルギー部門の輸出が大きく伸び、同国経済は好調に推移した。また、国内銀行が自動車ローンを積極的に展開し、2012年には新車の輸入台数が60万台に達した(図2参照)。

図2:アルジェリアにおける輸入規制導入前の新車輸入実績(単位:万台)
2010年に28万台、2011年に39万台、2012年に60万台、2013年に55万台、2014年に43万台であった。

出所:各報道データに基づきジェトロ作成

輸入規制導入前の最後の年となった2014年には、新車販売台数が33万9,094台に達した。欧州系メーカーは市場の56%を占め、韓国系メーカー2社は急成長して19%のシェアを獲得した。また、日系メーカー3社は合計約4万8,000台で14%のシェアを確保していた(図3参照)。

図3:2014年メーカー別新車販売の市場シェア
ルノーが27%、フォルクスワーゲンが17%、プジョーが12%、現代自動車が12%、起亜とトヨタがそれぞれ7%、スズキが4%、シボレーと日産がそれぞれ3%、フォードが2%を占めていた。

出所:各報道に基づきジェトロ作成

しかし、2014年の原油価格下落の影響を受け、アルジェリア政府は外貨準備高の縮小を抑制し、国内産業の育成を図るため、2015年以降に自動車の輸入割当制度を含む、多くの輸入規制を導入した。自動車の輸入枠は2015年に30万台、2016年に8万3,000台であったが、2017年以降は自動車の輸入割当が実施されず、新車輸入ディーラーによる輸入は完全に停止した。

自動車の輸入抑制策とともに、アルジェリア政府は2017年から新車輸入ディーラーに国内での組み立て生産を義務付けた(2016年12月17日付ビジネス短信参照)。アルジェリア企業と合弁会社を立ち上げ、進出した主要メーカーは、ルノー、現代自動車、起亜、フォルクスワーゲン(VW)の4社にとどまった。アルジェリアでは加工輸出を促進するためのインフラや制度の整備が遅れていたため、進出したメーカー4社は、アルジェリアからの輸出ではなく、国内需要に対応することを目的とし、各メーカーの生産規模は10万台以下であった。例えば、最初に進出し、2014年に生産を開始したルノーは、2018年に生産ピークを迎えたが、その生産台数は7万2,615台にとどまった。

さらに、2019年には国際収支の赤字と外貨準備高の減少を受け、輸入増の主要因とみられた自動車組み立て用CKD(コンプリートノックダウン)とSKD(セミノックダウン)向け部品に対しても輸入割当制度が導入された(2019年6月17日付ビジネス短信参照)。しかし、政府は2020年、輸入割当を実施しなかったため、同国で組み立てを行っていた上記4社は生産を中止した。

深刻な供給不足に伴い、輸入再開に道を開く

既述の輸入規制および製造規制の影響で、2016年以降、アルジェリアでは国内の新車需要を満たせなくなった。その結果、中古車の価格は高騰し、輸入規制導入前の新車よりも高価になった、と報道で指摘された。また、個人による新車の輸入は許可されていたため、インターネット上などで個人同士の売買取引が急激に増えたことも報道された。

新車供給不足の深刻化に伴い、国民の不満が高まる中、アルジェリア政府は輸入再開に向けての動きを見せ、2020年と2021年に乗用車やバイクなどの新車輸入要件を規定する政令を公布した。しかし、新車輸入ディーラーが提出した複数の営業申請に対し、産業省は認可を出しておらず、申請ディーラーによる新たな輸入は実現しなかった。

アルジェリア政府は2022年11月17日、3回目の改定となる22-383号政令を公布した(2022年11月24日付ビジネス短信参照)。新車輸入ディーラーとしての営業認可の取得や、燃料の種類の制限、メーカー数の制限など、多岐にわたる条件を導入しており、今回は営業認可が実際に行われるか注目される。

輸入抑制と現地生産保護の方針の下、メーカー進出の動き

アルジェリア政府は、輸入抑制と現地生産拡大を維持する方針だ。新車輸入に関する政令と同時に、乗用車、バス、トラック、バイクなどの現地製造に関する22-384号政令を2022年11月17日付官報で公布した(2022年11月25日付ビジネス短信参照)。新車輸入の政令と同様、2020年の20-226号政令に続き短期間での改定となった。

同政令では、電気自動車(EV)製造の義務、一部工程の現地化、燃料の種類の制限などの条件が課されたが、最も注目されるのは国内調達率と自動車輸出の義務化である。

国内調達率については、最終営業認可を取得してから2年後に10%以上、3年後に20%以上、5年後に30%以上の目標値が設定された。前述のとおり2010年代に自動車メーカー4社がアルジェリアに進出した一方で、外資系自動車部品メーカーは進出していなかった。近年は、タイヤ(イリス社)、ブレーキパッド(イカム社)、バッテリー(ファブコム社)など地場の部品メーカーがスペアパーツ市場に参入したものの、国内調達率目標を満たすには及ばない。同政令の付属資料第12条と第13条で定められているとおり、自動車メーカーは、取引のある外資系部品メーカーに対してアルジェリア進出を促すことと、現地部品メーカーの育成を求められる。

自動車輸出の義務化について、同政令では、最終営業認可を取得してから6年目以降は自動車を輸出することが求められる。ガス、電気、労働力などが比較的安価であるというプラス要因もあるものの、部品は現地調達が難しく、輸入に頼らざるを得ないため、アルジェリア製の新車は価格競争力低下が課題となる。なお、数量的な目標(合計生産台数に対する輸出台数の割合など)は設定されていないため、メーカーは自ら輸出台数を設定することができるが、非エネルギー部門の輸出増を目指すアルジェリア政府が、設定した輸出台数を少ないとみなした場合には、営業申請の認可に影響がある可能性も考えられる。

ジェトロ・パリ事務所の電話インタビューに匿名で応じた現地自動車業界関係者によると、アルジェリア政府は、国民の不満に対応するために新車輸入を一時的に再開するものの、現地製造の基盤ができた時点で再び保護措置を導入し、輸入を中止する可能性が高い。

自動車大手ステランティスは、現地製造に関する同政令公布前の2022年10月に、北西部オラン県のタフラウイ工業団地に新工場を建設する計画を発表した(2022年10月19日付ビジネス短信参照)。11月29日には、同政令に基づく約束書およびアルジェリア投資促進庁(AAPI)との合意書を調印し、初年度の年間生産能力は6万台、2年目以降は9万台に達することを明らかにした。

また、アルジェリア国内でブレーキパッドやプラスチック部品を製造しているTMC社が10月27日、現代自動車ブランドの生産を再開した、と報道された。2022年中には2,344台を生産し、2023年からは生産ラインを増やして、生産能力は年間合計10万台に達する見込みである。さらに、現代自動車からの技術移転を加速し、シートおよびワイヤハーネス部品の生産にも着手すると発表した。

今後も、自動車メーカーの新たな進出もしくは稼働再開の動きが続くのか注目される。

執筆者紹介
ジェトロ ・パリ事務所
ピエリック・グルニエ
ジェトロ・パリ事務所に2009年から勤務。アフリカデスク事業担当として、フランス語圏アフリカ・マグレブ諸国に関する各種事業、調査・情報発信を行う。