南アの外交政策とアフリカでの立ち位置
グローバルサウスから見たウクライナ危機以降の世界

2023年6月14日

ロシアのウクライナ侵攻以降、ウクライナを支援する欧米諸国などとロシア寄りの立場の国々の溝が深まっている。このような中、グローバルサウスの国々は両陣営とうまく距離を取ることで、発言力を増している。アフリカ諸国では中立の立場を示す国も多い。南アフリカ共和国(以下、南ア)もロシアとの関係が深く、国連におけるロシアへの非難決議では「棄権」の立場をとった。欧米諸国との関係も重視し、中立の立場を主張するものの、ウクライナ危機以降もロシアとの共同軍事訓練の実施している(2023年1月25日付ビジネス短信参照)。また、ロシアへの武器提供の疑惑も報道されている(2023年5月18日付ビジネス短信参照)。

南アは近年、国内の政治的な混乱や経済の低迷もあり、国際社会における影響力に低下が見られる。しかし、G20やBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アで構成する新興国グループ)のメンバーであり、引き続き一定の存在感を示し続けている。国内外での情勢が大きく動く中、南アの外交政策やウクライナ危機以降のアフリカ情勢について、独立系公共政策シンクタンクである南ア国際問題研究所(SAIIA外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )所長のエリザベス・シディロポロス氏に聞いた(取材日:2023年3月15日)。


SAIIAシディロポロス氏(ジェトロ撮影)
質問:
南アの外交政策は。
答え:
南アは民主主義国家であるが、多くの課題に直面し、混乱している。経済構造の弱さやウクライナ戦争に伴う物価上昇、汚職の問題など多くの国内的制約がある。一方で、南アは一貫して、国際政治のグローバルアクターであり続けている。WTO、国連総会、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)などの会合では、積極的に意見を表明している。
南アには複数のアイデンティティがあるが、そのうち顕著なものは2つある。1つは、アフリカの国であることだ。外交上もアフリカの利益を主張してきた。もう1つは、グローバルサウスの立場である。さらに、南南協力(開発途上国同士の技術協力や経済協力)、IBSA(インド、ブラジル、南ア)フォーラムに参画し、多国間主義(マルチラテラリスト)としての立場をとる。
これまで大国は、自国の利益のために、国際的なルールを破ったこともある。このため、南アは小国、ミドルパワーとして、ルールによって守られた世界を志向している。国連改革や、最近では新型コロナへの対応としてWTOで医薬品の特許免除などにも取り組んだ。
質問:
主要国との関係は。
答え:
インドとの関係は、経済面ではそれほど強くないが、政治面では歴史的にも重要なパートナーである。与党・アフリカ民族会議(ANC)とインドの国民会議派とは協力関係にあった(国民議会派を率いたマハトマ・ガンジーは、南アに20年以上滞在していた)。また、南アはインド、ブラジルと国際社会での立ち位置が類似している。
南アは民主主義国家であるが、ANCが支配的である。南アの動向を見る場合は、ANCの動きに注目すべきだ。中国共産党やロシアはアパルトヘイト(人種隔離)下で、ANC(現与党、当時の反体制派)を支援した経緯がある。一方で、中国企業はアフリカ諸国において、労働法との関係で問題を抱えている。
米国政府も、2022年12月にワシントンでアフリカリーダーズサミットを開催するなど、アフリカ側の意見にも耳を傾けるようになってきている。ジャネット・イエレン財務長官ら米国要人のアフリカ訪問も相次いでいる。
質問:
ウクライナ危機の影響は。
答え:
ロシアのウクライナ侵攻に関して、グローバルサウスの立場は分かれている。G20では、グローバルサウスを分断することになるので、この他の問題に集中した方がよいと考える。
南アは、非同盟の立場で、欧米、ロシア・中国どちらの側にもつくことはない。しかし、両陣営の対立が激しくなると、そうした立場を維持することが困難な状況になることを懸念している。
ただし、経済面では、南アは欧米諸国との関係が強い。対内投資については、欧米が中心である。ロシアからの投資は少ない。中国は貿易では最大のパートナーであるが、欧米向けにも工業製品を輸出している。
質問:
アフリカのオピニオンリーダーは。
答え:
2022年に開催されたCOP27で、議長国・エジプトがリーダーシップを発揮するなどの動きがみられる。ナイジェリアも人口が多く、経済規模も大きいが、国内問題も多くリーダーシップをとる余裕はない。なお、ケニアは近年、持続的開発目標などのテーマでリーダーシップを発揮するなど、国際的に重要な役割を果たすようになっている。しかし、南アはG20のメンバーであり、アフリカ諸国の中では、最も国際的な視野を持った国だ。
質問:
アフリカ大陸を1つの市場とするAfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)への期待は。
答え:
南アとアフリカ域内の貿易が増えてきており、域内への投資も行っている。既に南部アフリカ関税同盟(SACU)や南部アフリカ開発共同体(SADC)などの地域経済共同体の枠組みもある。しかし、アフリカ各国の購買力は、まだ高くないため、AfCFTAによってより大きな市場を作り出す必要がある。
AfCFTAにより、域内でバリューチェーンを作り出すことも重要だ。ただし、現実的にはアフリカ域内では、まだ工場も少なく、バリューチェーンの構築までに非常に長い時間がかかる見込みだ。また、鉄道、港湾、航空路線などの輸送インフラが脆弱(ぜいじゃく)なことも大きな課題だ。なお、南アの貿易産業省(DTI)出身のワムケレ・メネ氏がAfCFTA事務局長に就任した。
質問:
日本企業へのアドバイスは。
答え:
南アにおいて、日本企業のビジネスチャンスは多い。南ア政府は投資を呼び込みたいが、電力などのエネルギー分野や、物流分野などにおいて、多くの困難に直面している。これらの課題について、高い技術を有する日本企業が南ア政府や企業と一緒に解決していくというアプローチがよいと考える。

国内での政治・経済の混乱も

南アでは、政府関係者の汚職問題が深刻となっている中、汚職撲滅を掲げていたシリル・ラマポーザ大統領自身の汚職疑惑が浮上し、政治的混乱が起こっている(2022年12月15日付ビジネス短信参照)。また、2022年の大規模な洪水や、長引く深刻な電力不足などもあり、経済の混乱も生じている。GDPはナイジェリアに次ぐ2位であったが、南アでは新型コロナウイルス禍の経済への影響が大きく、2020年のGDPはエジプトに追い越されて3位となった。IMFによると、GDP成長率は、2022年に2.0%となったほか、2023年は0.1%の予測であり、2024年も1%台と低成長の見込みだ。さらに、2023年第1四半期の失業率は32.9%であり、世界で最も高い水準にある。

G20やBRICSの議長国に

しかし、シディロポロス所長が指摘する通り、南アは引き続き、国際政治の主要なアクターであり続けている。2023年8月には南アを議長国として、BRICS首脳会合が南アで開催される予定だ。グローバルサウスの中でも強い影響力を持つインド、そして、中国、および渦中のロシアを含むBRICS首脳会合において、南アがどのようなリーダーシップを発揮するか注目が集まる。さらに、G20の議長国は、2023年がインドとなり、2024年がブラジル、2025年が南アとなる予定であり、BRICSの国々が連続で議長国となる。ロシアのウクライナ侵攻以降、影響力を増しているグローバルサウスが、さらに存在感を示す可能性もある。

スペインのシンクタンクのエルカノ財団の各国の政治的な影響力に関する報告書「Global Presence Index 2022外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」によると、国別ランキングで南アは世界で31位となっている。同報告書において、アフリカ諸国では、エジプトが38位、エチオピアが48位、ケニアが54位に位置付けられている。米国メディア「USNews」による「U.S. News Best Countries(2022)」の政治的影響力順位においても、アフリカ諸国では、南ア(20位)、エジプト(24位)、アルジェリア(29位)の順である。

前述のとおり、南アの影響力はアフリカの中でいまだ強いが、政治・経済が混乱している。他のアフリカ諸国で経済成長や人口急増などもあり、南アのアフリカでの政治的・経済的な影響力は相対的に低下していくことが懸念される。このような中で、既に国際的な場においてアフリカ大陸を代表するような政治的発言力は弱まったとの見解もある。

執筆者紹介
ジェトロ調査部中東アフリカ課
井澤 壌士(いざわ じょうじ)
2010年、ジェトロ入構。農林水産・食品部農林水産企画課、ジェトロ北海道、ジェトロ・カイロ事務所を経て、現職。中東・アフリカ地域の調査・情報提供を担当。