日系中小企業の活動拡大、人材軸に経済交流深化(ウズベキスタン)

2023年10月17日

サービス分野を中心に日系中小企業ビジネスが拡大

2020年からウズベキスタンのタシケントで開校したジャパン・デジタル・ユニバーシティ(JDU)は、日本語とIT教育、日本の大学による遠隔教育を提供している(2020年1月20日付ビジネス短信参照)。2023年7月に市内中心部の新キャンパスに移転し、ジェトロが訪問した9月半ばには、10月1日からの新学期に備え、校舎内の改装準備を急ピッチで進めていた。今年度は300人の新入生を迎え、学生数は1,000人規模となった。新キャンパスは、部屋数が旧キャンパスの3倍の30室、設置PC(パソコン)は2倍の60台。新しく食堂や体育館、サッカー場、図書館などもそろえ、タシケント市内に学生寮も確保した。日本語教師、管理スタッフも増員し、最終的には学生数を2,000人まで増やす計画だ。

JDUの最終目的は、IT高度人材の日本向け供給だ。2023年10月から2人の学生が6カ月間、日本のIT企業でインターンを実施している。その後の継続勤務が前提だ。日本側の人材派遣会社もウズベキスタンのIT人材に関心を示し始めており、卒業生の半数を自社で雇用したいと希望する日系企業も現れている。日本での就業が前提のため、卒業生の質は同校の信用にもかかわる。同大学では1年次で日本語能力試験のレベルN3(注)、2年生でN2(注)を取得するのが一般的で、それが進級の必須条件ともなっており、学ぶ側も教える側も必死だ。入学前の学生にAI(人工知能)を利用した語学習得の資質テストなども実施している。同校のラウシャンベク・ママジョノフ学長はジェトロのインタビュー(2023年9月18日)に対し、「JDUが日本へ送り出すウズベキスタンのIT人材が日本とウズベキスタンの架け橋になることを確信している」と話す。


新キャンパス正門(ジェトロ撮影)

ママジョノフ学長(ジェトロ撮影)

講堂(ジェトロ撮影)

体育館(ジェトロ撮影)

2022年3月から営業を開始したホテルインスピラスタシケントは、日本のホテル事業大手H.I.S.ホテルホールディングスが100%出資している(2022年3月20日付ビジネス短信参照)。営業成績は好調で、2023年9月中旬に同ホテルのレストランに付属するバンケットルームを増設した。オープニングセレモニーには、羽鳥隆・駐ウズベキスタン日本大使や地元関係者が参加した。顧客である地元有力企業からの「会合や会社イベントでレストランを使いたい」というニーズに応えた。同ホテルのウマルフ・マルフ社長はジェトロのインタビュー(2023年9月14日)に対し、「日系企業にもこのバンケットルームを利用し、プレゼンテーションやイベントを積極的に開催してもらいたい」と語る。今後は、ウズベキスタン観光の中心地、サマルカンドへの進出も検討している。


新バンケットルーム(ジェトロ撮影)

テープカットを行う羽鳥日本大使とマルフ社長
(ジェトロ撮影)

2023年9月には広島市の中小企業・櫟(くぬぎ)が、タシケント市内中心部にカフェどんぐりをオープンした。ワッフルを中心としたスイーツを提供する。日本人スタッフ2人が常駐し、店舗での製造指導と将来の中央アジアでのビジネス拡大に向けた情報収集などを行う。同じ広島市の企業で、ウズベキスタンにおいて事業を幅広く展開するバルコムが出店支援を行った。櫟の兼田貴代・代表取締役社長はジェトロのインタビュー(2023年9月21日)に対し、「飲食にとどまらず、健康と美容の分野でのビジネス、そしてウズベキスタンと日本の交流拡大に貢献したい」と抱負を述べた。


プレオープンしたカフェどんぐり(ジェトロ撮影)

大統領訪日の成果が拡大、中央アジアでの日系ビジネスの発信地へ

これら企業関係者のビジネスは、同国のシャフカト・ミルジヨエフ大統領が訪日した2019年12月前後に始まっている。同大統領訪日後に出された大統領決定第4553号「ウズベキスタン共和国と日本との間の双方向協力のさらなる強化と拡大に関する施策について」(2019年12月28日付)付属の投資事業リスト(2020年1月15日付ビジネス短信参照)にもこれら企業名が記載されている。コロナ禍を経て、大統領訪日の成果が中小企業分野で徐々に拡大している。

これらの事業では、日系企業の日本本社で日本人社員と肩を並べて働いた経験を持ち、日本語を自由に話すウズベキスタンの若い世代が、現場での調整・運営を担っている。日本人の経営者、本社スタッフの厳しい指導やアドバイスを受けながら、ウズベキスタンで事業の立ち上げ、拡大に取り組んでいる。今後2~3年で日本へ向けてIT分野を中心に、毎年、数百人の高度人材の供給が開始され、将来、母国へ戻ることを考えると、ウズベキスタンは日系中小企業にとって同国のみならず、中央アジア地域全体に向けたビジネスの発信地になる可能性がある。


注:
N3は日本語能力試験において「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」レベル、N2はN3に加え「より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる」レベル。
執筆者紹介
ジェトロ・タシケント事務所長
高橋 淳(たかはし じゅん)
1998年、ジェトロ入構。ロシア・タタルスタン共和国で語学研修、ジェトロ・モスクワ事務所、ジェトロ・サンクトペテルブルク事務所勤務。海外調査部でロシア極東・シベリア、コーカサス地域などを担当。2019年から現職。
執筆者紹介
ジェトロ調査部欧州課ロシアCIS班
小林 圭子(こばやし けいこ)
2022年、民間企業勤務、フリーの通訳翻訳業を経て、ジェトロ入構。