米中対立に出口見えず、振り回される企業はどう動く
今後のサプライチェーン構築を探る

2022年9月16日

バイデン政権が発足して1年半以上がたつ。しかし、米中関係は改善する気配がない。むしろ、分野によってはデカップリングが始まっているという見方まである。ハイテク分野の輸出管理や中国の対米投資に対する審査強化は、トランプ前政権から開始されていた。これらは今も続く。加えて、バイデン政権下では人権とビジネスに関する規制が一層強化されるようになった。その現れの1つが「ウイグル強制労働防止法 (UFLPA)」だ。

一方で、米国も産業政策を重視する構えに、かじを切り始めている。例えば、半導体補助金を含む競争力強化のための大型投資法案「CHIPSおよび科学法」や、史上最大の気候変動対策予算を含む「インフレ削減法」が成立した。

本稿では、米中対立を受けて強化される規制と産業政策の間で、企業が留意すべき点を考察する。

解決の糸口が見えない米中関係

米中間で対立が激化したのは、トランプ前政権時だった。しかし、バイデン政権が発足して以降も、緊張関係は続いている。

ジョー・バイデン大統領と習近平国家主席は、2022年8月までに、バーチャルまたは電話形式で首脳会談の場を5回設けた。しかしそれらは、不測の衝突を回避するのが最大の目的だったと考えられる。換言すると、発展的な議論が交わされた様子が見られない。通商面でも同様だ。キャサリン・タイ通商代表部(USTR)代表と劉鶴副首相の間では、2021年10月に協議再開が発表された。しかし、トランプ前政権以降に両国が互いに課す追加関税は、ほとんど維持されたままだ。

そうした中、米国連邦議会は中国が神経をとがらせる台湾との関係を深化させる動きを見せている。例えば、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党、カリフォルニア州)の台湾訪問だ。こうした動きが、火に油を注ぐ状況になっている。中国はペロシ下院議長の訪台を受けて、8つの対抗措置を発表し、いくつか重要な対話チャネルを停止すると明らかにした(2022年8月9日付ビジネス短信参照)。バイデン政権は議会の独立性を尊重する立場をとる。しかし、米中間での対話は一層難しくなったとみられる。

一方、バイデン政権も、同盟・友好国重視の理念の下で、経済および安全保障に関する2国間・多国間の枠組みを着々と立ち上げてきた(表1参照)。特に、インド太平洋地域に関する枠組みは、中国を意識したものとみられる。こうした動きが中国からの反発を招く面がある。

表1:バイデン政権が発足させた2国間・多国間の経済および安全保障の枠組み
発足年月 名称 参加国・地域(米国以外)
2021年6月 大西洋貿易の未来に関する対話 英国
2021年6月 米EU貿易技術評議会(TTC) EU
2021年9月 AUKUS(豪英米3カ国の安全保障協力枠組み) オーストラリア、英国
2021年11月 日米商業・産業パートナーシップ(JUCIP) 日本
2021年11月 日米通商協力枠組み 日本
2021年11月 日米EU三極貿易大臣会合の刷新 日本、EU
2021年12月 輸出管理と人権イニシアチブ オーストラリア、デンマーク、ノルウェー
2022年5月 インド太平洋経済枠組み(IPEF) 日本、オーストラリア、ブルネイ、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム、フィジー
2022年6月 21世紀の貿易に関する米国・台湾イニシアチブ 台湾
2022年6月 経済繁栄のための米州パートナーシップ(APEP) 未定
2022年7月 米国ケニア戦略的貿易・投資パートナーシップ(STIP) ケニア

出所:米国政府の発表などを基にジェトロ作成

規制強化にあわせ、米国で産業政策勃興

バイデン政権によって立ち上げられた2国間・多国間枠組みの多くは、まだ黎明(れいめい)期にある。すなわち、ルールの確立や運用にはもう少し時間を要する。一方で、トランプ前政権時から続く輸出管理や対米投資の審査強化、通信業界や証券市場からの中国企業の排除、人権問題と絡めた貿易制限措置などは、企業の実務に影響するレベルで加速している。代表的な動きを整理すると、表2のとおりだ。

表2:ビジネスに影響し得る米国による中国関連の規制・措置の動向
規制・措置 直近の動向
中国原産品への追加関税
  • 基本的にトランプ前政権時の状態を維持。
  • 一部見直し中とされる。ただし、新方針の発表は中間選挙後か。
輸出管理
  • 米国の国益に反するとして、厳しい輸出管理措置の適用対象となる事業体を掲載する「エンティティー・リスト」に110以上の中国の事業体を追加。2022年8月時点で累計約600の中国の事業体を掲載。
  • 2022年6月末、輸出管理規則の執行を強化するための規則変更を発表。
  • 2022年6月末、米国の大学・研究機関からの技術流出防止のための「アカデミック・アウトリーチ・イニシアチブ」を立ち上げ。
対米投資審査
  • 2018年成立の「外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」に基づき、対米外国投資委員会(CFIUS)が外国企業からの対米投資に安全保障上のリスクがないかを審査。
  • CFIUSによる案件ごとの審査状況は大統領が阻止しない限り公表されないため、中国企業に対する傾向は把握できない。いずれにせよ、2021年にCFIUSに届け出を行った企業は、国別で中国が44件とトップ。
中国通信企業の米市場からの排除
  • 2021年以降、中国電信など中国国有通信企業の米国子会社の事業免許を取り消し。
  • 「2021年安全機器法」に基づき2022年11月までに、安全保障にリスクをもたらす「対象機器・サービス」(注1)の認証を禁止する規則を導入。
中国の軍産複合企業への証券投資の禁止
  • 2021年6月、中国の軍事産業関連の中国企業に対する米国人(注2)の証券投資を禁じる大統領令に署名。
  • 財務省が「非・特別指定国民 中国軍事・産業複合企業リスト(NS-CMIC List)」を管理。現時点までに、ファーウェイやセンスタイムなど、通信・AI関連大手を中心に約70社を指定。
中国企業に対する米証券取引所上場の制約
  • 2020年成立の「外国企業説明責任法(HFCAA)」により公開会社会計監督委員会(PCAOB)が監査を完遂できない外国企業を、証券取引委員会が「委員会指定企業」に指定。3年連続で指定を受けた場合、米国の証券取引所での取引が禁止となる。
  • 2022年8月末時点で約160社を「委員会指定企業」に掲載。その一方で、PCAOBと中国証券監督管理委員会および中国財政部は8月26日、米国の証券取引所に上場する中国企業の監査情報の検査に関して協定を締結。
人権問題に絡めた貿易制限措置
  • 2021年12月、中国の新疆ウイグル自治区が関与する製品の輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」が成立。2022年6月に本格施行を開始。
  • 新疆ウイグル自治区が関連していなくても、強制労働が関連する製品輸入について、個別の「違反商品保留命令(WRO)」を発動する事例も多数。

注1:2022年8月末時点で、中国の華為技術(ファーウェイ)、中興通訊(ZTE)、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファ、中国電信アメリカス、中国移動インターナショナルUSAの7社と、ロシアのカスペルスキーによる機器・サービスを指定。
注2:米国市民、米国永住者、米国の法律に基づくもしくは司法権が及ぶ域内に存在する法人(外国支所も含む)、または米国内に存在するあらゆる個人を指す。
出所:米国政府の発表などを基にジェトロ作成

少なくとも安全保障に直結し得る分野について、バイデン政権は中国とのデカップリングも辞さない構えで動いているとみられる(注1)。商務省で輸出管理を担当するアラン・エステベス次官は、2022年7月の下院外交委員会公聴会で、新たな多国間輸出管理体制について言及。中国による脅威に対応するため、同盟国と当該体制の構築に向けて協議していると明らかにした。成立すると、多国間枠組みとして5つ目になるという(注2)。また、バイデン政権は半導体に関し、「チップ4アライアンス」と呼ばれる協力枠組みの形成を模索していると言われる。より具体的には、世界の半導体製造サプライチェーンに重要な国・地域として、日本、韓国、台湾に働きかけているとされる。その詳細は、2022年8月末時点で未発表だ。いずれにしても、中国を排除した上で、半導体の研究開発・製造で緊密な協力関係を構築するが目的だろう。中国側も、米国の厳しい輸出管理やこうした水面下での動きを受け、半導体の自給率向上に動いている。こうしてみると、米中双方とも、部分的にはデカップリングを受け入れていることになりそうだ。

また、バイデン政権および連邦議会は、人権尊重の価値観から、強制労働の関与が疑われる製品の輸入制限措置に力を入れている。中でも、特別に中国を対象として取り上げた法律として、UFLPAは象徴的と言える。議会に激しい党派対立があるにもかかわらず、超党派で可決。6月21日から本格施行された。同法は、新疆ウイグル自治区での強制労働に依拠する物品について、米国への輸入を原則禁止するものだ。これを覆すためには、強制労働が関与していないことを証明しなければならない。その立証責任は、企業側が負う。厳しい内容になっていると言えるだろう(注3)。そのため、一部企業では、サプライチェーンの再編に着手する動きも出ている(2022年8月5日付地域・分析レポート参照)。

同時に現場では、混乱も発生している。強制労働に関与していないことを証明する要件などが不明確なためだ。この点、米国政府は輸入者向けにガイダンスを公表済みとはいえ、十分でない。商業税関運営諮問委員会(注4)は、「強制労働が関与していないと反証する際に求められる『明確かつ説得力のある証拠』の定義が依然不明瞭」などと、同法の運用改善を提言している(2022年7月14日付ビジネス短信参照)。

このように、規制面で新たな動きが活発化しているのが現状だ。一方で、米国は産業政策にも力を入れ始めている。バイデン政権は、2021年11月に成立した約5,500億ドル規模の「インフラ投資雇用法」を用いて、老朽化した道路や橋梁(きょうりょう)、空港・港湾インフラの刷新。このほか、電気自動車(EV)普及のためのインフラ整備などを進めている。さらに、2022年8月に「CHIPSおよび科学法」と「インフレ削減法」を立て続けに成立させた。これらはいずれも大型の法律で、企業に直接裨益(ひえき)する資金援助や税額控除が含まれている。前者は、国内半導体産業の振興と長期的な科学技術力強化が目的だ。また、後者は、気候変動対策やヘルスケア改革、一部の税制改革や税務執行の強化を狙う。

表3:CHIPSおよび科学法の概要
項目 内容
商務省製造インセンティブ
(390億ドル)
  • 半導体の設計、組み立て、試験、先端パッケージング、研究開発のための国内施設・装置の建設、拡張または現代化に対して、資金援助。
  • うち60億ドルは、直接融資または融資保証に使用可能。
商務省研究開発
(110億ドル)
  • 商務省が管轄する半導体関連の研究開発プログラムに予算を手当て。
その他(27億ドル)
  • 労働力開発や国際的な半導体サプライチェーン強化の取り組みに、予算を計上。
税額控除
  • 半導体製造に関する投資について25%の税額控除を導入。
科学技術に関連する連邦政府機関への予算手当て
(約2,000億ドル)
  • 連邦政府機関の研究開発プログラムなどに、約2,000億ドルを手当て。ここでいう連邦政府機関には、エネルギー省や商務省、国立科学財団(NSF)、国立標準技術研究所(NIST)が含まれる。

出所:米国議会・政府の発表などを基にジェトロ作成

表4:インフレ削減法の概要
項目 金額(億ドル)
歳出額合計 4,370
階層レベル2の項目エネルギー安全保障・気候変動対策 3,690
階層レベル2の項目オバマケア医療保険の延長 640
階層レベル2の項目西部の干ばつ対策 40
歳入額合計 7,370
階層レベル2の項目15%の最低法人税率 2,220
階層レベル2の項目処方箋薬価改革 2,650
階層レベル2の項目歳入庁の税務執行強化 1,240
階層レベル2の項目自社株買いへの1%手数料 740
階層レベル2の項目超過事業損失制限の延長 520
差引合計 3,000+

出所:米国議会・政府の発表などを基にジェトロ作成

いずれの法律も、企業に対し、単に補助金や税額控除を与えるだけではない。受益者に対し、中国など懸念国との取引に制限を定めている。

例えば、「CHIPSおよび科学法」上、半導体関連の投資に関して政府から補助金を受ける企業は、中国およびそのほかの懸念国(注5)で、10年間にわたり半導体関連の製造能力を拡張できなくなる。そうした合意を商務省と締結するのが、補助金受給の要件になるからだ。

「インフレ削減法」では、気候変動対策に史上最大規模の3,690億ドルを投じることになっている。そのうちEV普及のための購入者向け税額控除について、対象となるために車両が満たすべき条件が厳しく設定された。まず、車両が北米(米国、カナダ、メキシコ)で最終組み立てされていることが要件になる。加えて、バッテリーに含まれる重要鉱物または部品が中国など「懸念される外国の事業体」(注6)によって抽出、処理、リサイクル、生産、組み立てられている場合も、制約を受ける。重要鉱物については2025年以降、部品については2024年以降、税額控除の対象外になる。この条件について、米国自動車業界は企業に負担が大きいと懸念を示している(2022年8月5日付ビジネス短信参照)。さらに、EUや韓国がWTO協定違反と主張している(2022年8月15日付ビジネス短信参照)。もっとも、こうした反発が全く予期されなかったわけでもない。裏を返すと、それでもなお、重要製品のサプライチェーンの強化を推進するという政権・議会の意気込みがあったことになる。

米中対立のはざまで企業がとるべき道は

これまで見てきたとおり、米中対立はグローバルに展開する企業のサプライチェーン管理に多大なストレスをもたらしている。両国の関係が改善する見込みは、当面ない。その中で米国側のルールに従う限り、中国市場から排除される恐れが生じるリスクがつきまとう。その逆もまたしかりだ。両国の安全保障上の利益や価値観が衝突し、周辺国・地域を含む地政学的環境が複雑に絡む中で、絶対的な解はない。限られた与件の中で、企業がリスクを軽減するにはどうすればよいのか。

そこで、中国で事業を展開する米国企業がどのように対応しているかを確認してみたい。そのためには、在中国米国商工会議所PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.19MB)米中ビジネス評議会(USCBC)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(907KB)が、それぞれ会員の米国企業を対象に実施した中国のビジネス環境に関するアンケート調査が参考になる。前者は2021年11月、後者は2022年6月に実施された。調査時期はやや離れているにせよ、ビジネス上の課題として「米中関係」が第1位と第2位に挙げられた。また、その影響について、サプライチェーン関連の選択肢を回答割合の高い順に挙げると、「中国での投資の延期・撤回」「中国での売り上げ増のため製造・サービス・知財取得のローカル化」「中国外からの調達増に向けたサプライチェーンの調整」「特定分野のサプライチェーンの中国外への移転(一時的または恒久的を含む)」などとなっている。ここから類推できる1つの帰結として、次の傾向がみてとれる。

  • 中国市場を重視する企業は様子を見つつ、踏み込める企業は地産地消に動いている。
  • 中国を製造・輸出拠点にしている企業は、米国側の規制や産業政策、中国のゼロコロナ政策などを受け、サプライチェーンから中国を除外する動きを見せ始めている。

中国市場を重視する米国大手企業には、例えば、EVメーカーのテスラがある。上海に工場を建設し、中国内での研究開発活動拡大にコミット、新疆ウイグル自治区にショールームを開設するなど、踏み込んだ対応が目立つ。確かに、新疆ウイグル自治区での動きには、米国内から批判が出た。しかし、米国調査会社のモーニングコンサルトが米国の成人を対象に実施した調査(2022年4月発表)によると、「テスラ車を購入したいか」との問いに肯定的な回答がむしろ伸びている(これらテスラの動きが報道される前は20%だったのに対し、報道後は24%に上昇したという)。この結果を「テスラが市場シェアと知名度を有しているから」と見る向きもあるが、そればかりと言い切るわけにもいかない。中国政府寄りの行動を取ったアマゾンやインテルなどに対しても、同じ傾向が確認できるからだ。従って、米国企業が中国市場でとる行動が米国の消費者に与える影響は、今のところ僅少と捉えられる。

中国をサプライチェーンから除外する動きについては、ブルームバーグ(2022年7月5日)の指摘が参考になる。米国企業のトップは2022年に入り、こぞって製造拠点を中国から移管する計画を打ち出しているという。直近で最もインパクトを与えた要因として、中国のゼロコロナ政策が挙げられている。あわせて、物流の混乱や輸送費の高騰などに加え、台湾問題もこれを後押しする要因になり得るとした。リショアリング・イニシアチブ(注7)は2022年上半期の動向をまとめた報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(2.07MB)で、米国への製造業回帰に影響を与えた最大の要因として、政府によるインセンティブを挙げた。これは、先に述べた「CHIPSおよび科学法」と「インフレ削減法」を指しているものと考えられる。また、同団体は、「今後、自国回帰(reshoring)に加え、近接移転(near shoring)、適正移転(right shoring)、友好国移転(friend shoring)、同盟国移転(allied shoring)に一層注目が当たるだろう」と指摘した(注8)。

つまり、サプライチェーンを構築するに当たり、単に経済合理性だけを考えていては、今後、足元をすくわれかねない。国同士の関係性や地政学的情勢、各国の法令の動向を見極めながら、自社の産業分野や製品ラインのサプライチェーンに潜むリスクを洗い出した上で、最適な資源配置を検討していくことが重要だ。とはいえ、言うは易(やす)く行うは難しというところもある。そこで、特にアンテナを張るべきと思われる点を表5にまとめた。

表5:サプライチェーン再編に当たって、特に考慮すべき項目
項目 主な考慮点
関連国同士の関係性
  • サプライチェーンに含まれる関連国は、それぞれ同盟・友好関係にあるか、それとも敵対関係にあるか。
関連国での重要分野の特定
  • 関連国政府が特定の産業・製品分野について重要分野に指定しているか。
    例えば、バイデン政権は、半導体製造・先端パッケージング、電気自動車用バッテリーを含む大容量バッテリー、希土類(レアアース)を含む重要鉱物、医薬品および医薬品有効成分、防衛、公衆衛生および生物学的危機管理、情報通信技術(ICT)、エネルギー、運輸、農産物・食料生産を重要分野に指定。
  • それら分野では今後、規制またはインセンティブの強化が予想される。
関連国・地域の法令とその執行
(規制面)
  • サプライチェーンに含まれる関連国・地域において、安全保障、人権、気候変動などに関連した新たな規制導入や執行強化の動きがあるか。
  • 特定の敵対国を念頭に置いた規制導入や執行強化の動きがあるか。
関連国・地域のインセンティブ
  • サプライチェーンに含まれる関連国・地域において、当該国・地域に投資した場合などにインセンティブは提供されるか。
  • その場合、敵対国を念頭に置いた制限条項などは存在するか。
関連国・地域の貿易協定
  • サプライチェーンに含まれる関連国・地域において、貿易コストを軽減できる自由貿易協定(FTA)の締結はあるか。
  • 例えば、米国が最終需要地となる場合、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の活用を見据えてメキシコに生産拠点を移管する動きが見られる。いわゆる近接移転(near shoring)の1つ。
世論・消費者のセンチメント
(レピュテーション・リスク)
  • ある国の法令や政府の意向に従うことが、その国の敵対国または国際的な世論・消費者心理(sentiment)に悪影響を与えるか。
  • また、場合によって敵対国から報復措置を受ける可能性はあるか。

出所:ジェトロ作成

ジェトロでも、米中双方の経済安保関連の規制動向を特集したページサプライチェーンと人権に関する世界の動向を特集したページを通じて、可能な限り広く迅速な情報提供を試みている。ぜひ活用を。また、対応が非現実的と思われる規制については、政府当局に対しパブリックコメントを提出するなど、ビジネス視点で現実的な方向性を示すことも重要だろう。個社で提言しにくい場合は、業界団体を通じて実施することも一案だ。また、業界団体を活用するのは、規制の動向など最新情報を得る上でも有用だろう。

不確定要素が広がる一方、2大経済大国の緊張関係は固定化しつつある。企業にとって、中長期を見据えたサプライチェーン管理の戦略立案が急務になっている。


注1:
安全保障に直結し得る分野に該当するものとしては、先端半導体の輸出管理や、中国通信企業の米国市場からの排除などが一例だ。
注2:
既存の4つの体制とは、(1)ワッセナー・アレンジメント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(2)ミサイル技術管理レジーム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(3)オーストラリア・グループ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、(4)原子力供給国グループ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを指す。これらはいずれも、通常兵器、核兵器、化学兵器、大量破壊兵器の輸出管理を目的とした体制だ。このうち(1)のワッセナー・アレンジメントは、機微な関連汎用品・技術も対象にする。それぞれの概要は、外務省ウェブサイトを参照。
注3:
UFLPAは、新疆ウイグル自治区で、全部または一部が採掘もしくは生産または製造された物品を対象にする。その物品が、強制労働に依拠している場合に米国への輸入が原則禁止される。対象物品は輸入禁止対象と「推定」される。ただしこの推定は「反証可能」なため、証明さえできれば覆すことも可能。
注4:
商業税関運営諮問委員会は、民間企業の幹部を中心に構成される組織。なお、当該委員会は、税関・国境警備局(CBP)に助言する立場にある。
注5:
(1)北朝鮮、(2)中国、(3)ロシア、(4)イラン、および(5)商務長官が関係閣僚と協議した上で、米国の安全保障または外交政策に有害と認めた国、と定義されている。
なお、(1)~(4)については、もともと合衆国法典第10章4872条(d)項外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで指定されていた。
注6:
合衆国法典第42章18741条(a)(5)項外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで定義されている事業体。国務長官が指定した「外国テロ組織」や、主に財務省が指定する「特別指定国民(SDN)」に加えて、注5で指定された国の政府に所有・支配されている、またはその管轄・指示に服している事業体などが該当する。
注7:
リショアリング・イニシアチブは、製造業の自国回帰について調査・研究する米国のシンクタンク。
注8:
自国回帰は、海外に移した事業拠点を自国に戻すこと。近接移転は、近隣国に事業拠点を移転すること。適正移転は、費用対効果が最も高い場所に事業拠点を移転すること。友好国移転と同盟国移転は、重要製品などの供給網を友好国または同盟国で構築すること。
執筆者紹介
ジェトロ ニューヨーク事務所 調査担当ディレクター
磯部 真一(いそべ しんいち)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部北米課で米国の通商政策、環境・エネルギー産業などの調査を担当。2013~2015年まで米戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員。その後、ジェトロ企画部海外地域戦略班で北米・大洋州地域の戦略立案などの業務を経て、2019年6月から現職。