新たなEC手法として存在感を高めるライブコマース(中国)

2022年2月16日

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大期には、巣ごもり生活の常態化に伴い、オンライン販売が伸びたが、なかでもライブコマースは新たな販売手法として注目を集めた。ライブコマースは、販売する商品に関するライブ放送を通してその商品をPRし、PRした商品はEC(電子商取引)サイトを通じて販売する販促形態の1つであり、ライブ放送とECが融合したものである。

新型コロナを契機に存在感を高めたライブコマース

コンサルティング会社のiResearch(艾瑞諮詢)は、同社が2021年2月に発表した「2020年ライブコマース白書」(以下、白書)の中で、2020年の中国のライブコマース流通取引総額(GMV)前年比約3倍の1兆2,299億元(約22兆1,382億円、1元=約18円)、ライブコマースによる取引額がEC小売額に占める割合11.2%と前年(4.2%)から大きく上昇するとそれぞれ予測している(図1参照)。GMV、EC小売額に占める割合は、2017~2019年も拡大傾向にあったが、2020年の大幅上昇をみると、新型コロナの感染拡大がライブコマース飛躍につながったといえるだろう。例えば、新型コロナが感染拡大した2020年2月に、各企業がライブコマースを発信するため、淘宝ライブコマースに登録し、新規登録者数が前月比の約7倍であった(「人民論壇」2020年9月17日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。iResearch(艾瑞諮詢)は、2025年にはライブコマースのGMVは6兆4,172億元、EC小売額に占める割合は23.9%に達すると予測している。

図1:中国ライブコマース取引規模(2017~2025年)
ライブコマースによる流通取引総額(GMV)は2017年が168億元、2018年が1,205億元、2019年が4,168億元。以降は予測値だが、2020年は1兆2,299億元、2021年は2兆514億元、2022年は3兆1,017億元、2023年は4兆2,029億元、2024年は5兆3,166億元、2025年は6兆4172億元。ライブコマースがEC小売り額に占める割合は、2017年が0.3%、2018年が1.5%、2019年が4.2%。以降は予測値だが、2020年は11.2%、2021年は15.1%、2022年は19.5%、2023年は22.3%、2024年は23.7%、2025年は23.9%。

注:2020年以降は予測値。なお、ライブコマースに関する公式統計は発表されていない。
出所:iResearch「2020年ライブコマース白書」(2021年2月)を基にジェトロ作成

中国におけるライブコマースは、極めて短期間で発展を遂げた。2016年の淘宝(タオバオ)、京東(JD)などECプラットフォームの参入を皮切りとして、その後、快手やTikTokなどのSNSも参入するなど、現在では多くの企業がライブコマースに取り組んでいる。

2019年のダブルイレブン(注1)では、タオバオにおけるライブコマースによる取引金額は200億元近くに達し、取引総額(2,684億元)の約7%を占めた。李佳琦氏をはじめとする、トップレベルのKOL(注2)以外にも、取引金額が1億元を超えたKOLによるライブコマースの数は10以上にのぼったという(「澎湃新聞」2020年10月20日付(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

ECユーザーの6割超がライブコマースを利用

2020年以降は、新型コロナもあり、消費促進の有効な手段として、各社のライブコマースへの取り組みが加速化した。例えば、TikTokを運営するバイトダンスは、自社の戦略を各プラットフォームの雰囲気に合わせて調整しながら展開している。同社は、2020年6月にライブコマース担当部署を立ち上げるなど、ライブコマースに力を入れている。

企業によるライブコマースの活用事例として、大手電機メーカーの珠海格力電器の取り組みが挙げられる。2020年6月18日に開催した販促イベントでは、董明珠董事長自らライブコマースを行い、102億7,000万元を売り上げた[(「36Kr」2020年12月14日(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます]。2020年通年では、董事長自ら合計13回のライブコマースに参加し、販売総額は476億元にのぼったという[「テンセント」2021年12月22日(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます]。

消費者の視点からみても、ライブコマースの存在感は高まっている。EC利用者が2017年6月の5億1,400万人から、2020年6月の7億4,900万人に増加する中、ライブコマースの視聴者数も、2017年6月の3億4,200万人から、2020年6月には5億6,900万人へと大幅に増加した(図2参照)。また、中国互聯網絡信息中心(CNNIC)が発表したデータによると、ライブコマースを見て商品を購入したことのある人はライブコマース利用者全体の66.2%(2020年)に達した。また、2020年12月までに、中国のライブコマースのユーザー数は6億1,685万人となり、2016年12月に比べ2億7,254万人増加、ネットユーザー全体の62.4%を占めたという。

図2:ライブ視聴者数とネット購入者数の推移
ライブコマース視聴者数は、2017年6月が3億4,200万人、2018年6月が4億32,500万人、2019年6月が4億3,300万人、2020年6月が5億6,200万人。EC利用者数は2017年6月が5億1,400万人、2018年6月が5億6,900万人、2019年6月が6億3,900万人、2020年6月が7億4,900万人。

注:データは6月単月の数値。
出所:36Kr Research(36氪研究院)「2020年中国ライブコマース業界研究報告」(2021年2月発表)を基にジェトロ作成

ライブコマース発展に伴い課題も明らかに

ライブコマースの急速な発展に伴い、問題点も次第に認識されるようになった。例えば、ライブコマースを経由して購入した商品の返品率が高いという問題があるが、白書では主に2つの要因を指摘している。

1つ目は、メーカーとKOLの連携が弱い点だ。KOLは受注に対して責任を負わず、アフターサービスなどの対応を行わない。そのため、ライブコマースを見て商品を購入したユーザーが販売業者に問い合わせをしても、満足のいく回答がされず、返品につながってしまう。

2つ目は、刷単(注3)行為による架空取引が散見されることにある。KOLの報酬賃金は、対象商品の販売額の多さによって決まるため、販売額を多く見せるために刷単という架空取引によって販売額の水増しを行ったケースがみられた。刷単が行われる背景には、刷単の実施コストが非常に低いことや、KOLの販売ノルマや販売同業者間の熾烈(しれつ)な競争が背景にあると考えられる。

販促および重要産業として注目されるライブコマース

ライブコマースは、新型コロナを契機に大きな注目を集めたが、新型コロナの感染が落ち着いた後も、ライブコマースは売り上げや競争力確保のための重要な要素として発展を続ける可能性が高い。企業にとって、顧客獲得のための広告料金やアンバサダー(広告塔)起用料金などの宣伝コストは年々高くなっている。しかし、ライブコマースでは、受注だけでなく、顧客の属性や習慣などのデータも獲得できる。こうして獲得したデータは、効率的な宣伝とマーケティングにも活用でき、さらに多くの顧客獲得につながる。また、大きな広告費用の負担が難しい中小企業にとっても、ライブコマースを通して自社の知名度を高めることで、顧客の獲得につながる可能性もある。

ライブコマースの存在感が高まるにつれ、関連の投資金額も増加している。シンクタンクの36Kr Researchによると、2020年1~10月のライブコマースに関連する投資は合計27件、投資総額は18億1,700万元に達し、10カ月で2019年通年の投資件数、金額を上回った。

また、政府による支援措置が導入されるなど、ライブコマースの発展を後押しする動きもある。2020年6月には、浙江省杭州市のハイテク産業園区内におけるライブコマース産業園区の建設計画が発表された(2020年7月3日付ビジネス短信参照)。

一方で、規制措置も設けられている。中国政府は2021年4月、「ライブコマース管理弁法」を制定、プラットフォーム企業に対して、健全なアカウントの登録、情報の安全管理、営業行為の規範化などを求めた(表参照)。この規制に対応していないプラットフォームに対しては、プラットフォーム名の公表などの処罰が科せられることになった(2021年4月30日付ビジネス短信参照)。

表:2020年以降の中央政府および地方政府が発表したライブコマースに関する主な政策
発表機関 方案 発表時期 内容
上海市政府 「上海市オンライン新エコノミー発展促進行動方案(2020~2022年)」 2020年4月 ライブコマース、ソーシャルEC、コミュニティECなどのスマートな販売新業態を促進する。
北京市商務局 「北京市新消費による品質的な新生活促進行動方案」 2020年6月 「インターネット+」という新たな消費を育成し、規模を拡大させる。マッチングプラットフォームを構築し、オフラインビジネスとECなどの協力、ライブコマースなどの新モデルを推進する。
杭州市商務局 「杭州市ライブコマース経済発展の加速についての意見」 2020年7月 杭州を拠点とし、全国KOLランキング100位以内であれば、年間販売額によって奨励金を付与(5億元以上あるいは200万元以上の奨励金)。認定人材には杭州で不動産購入などさまざまな優遇政策を受けることができる。
網信弁(注)、
公安部、商務部など
「ライブコマース管理弁法(試行)」 2021年4月 ライブコマースにおける管理を強化し、プラットフォーム企業に対するルールを示し、消費者の権益を保護することによりライブコマース産業の健全な発展を促す。
商務部 「”十四五”時期ビジネスエリアの基準化建設の強化についての指導意見」 2021年8月 ビジネスエリアにおけるデジタル技術応用基準モデルの建設を強化し、ライブコマース、ソーシャルECなどの健康的な発展を促進する。ECビジネスサービスベースシステムを完備し、支払い、モニタリング、人材育成などの基準を作る。

注:網信弁は「中華人民共和国国家互聯網信息弁公室」、ネット環境の安全性などを監督および指導する部署。
出所:Fastdata極数「2021中国ライブコマース業界報告」(2021年10月)を基にジェトロ作成

ライブコマースは、新型コロナの影響を受け、利用者数、取引金額ともに急拡大を遂げた。中国経済体制改革研究会インターネット・新エコノミー専門委員会の祝華新主任は「ライブコマースは内需を喚起する強力なツールであり、今後も発展の余地がある」と述べている[「人民網」2021年10月13日付(中国語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます]。

一方で、普及に伴う高い返品率や、アフターサービスが不十分といった課題も浮かび上がった。これらの課題に対しては、政府も関連規定も整備するなど、対応が進みつつある。適正なルールの下で問題点が改善されることで、ライブコマースはより安全で、消費者が満足できる、主要な販売促進ツールとして発展を続けるだろう。


注1:
毎年11月11日に開催される中国の一大ECセールイベント。アリババが2009年に「ネットショッピングを楽しむ日」として始めた。
注2:
集団の意思決定(流行、買い物、選挙など)に関して、大きな影響を及ぼす人物のこと。
注3:
業者などに代金を支払い、受注を記録するものの、実際は購入が行われていない行為。
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所
侯 恩東(こう おんとう)
2018年、ジェトロ・上海事務所に入所。調査事業を担当。