iPhone製造が本格化(インド)
台湾系大手OEMメーカーの動きが活発化

2022年12月22日

インドで、iPhone(アイフォン)の製造が本格化しそうだ。2022年のインド国内の携帯電話販売状況を見ると、iPhoneのシェアは増加傾向にある。加えて、南インドでiPhone製造能力拡大の動きも見られるからだ。

本レポートでは、インドでのiPhone製造を巡る現状を概観するとともに、それに影響を及ぼしている要因について説明する。

iPhone14の製造開始に、中国とインドでほぼタイムラグなし

台湾の電子機器受託製造(EMS)大手の富士康科技集団(フォックスコン)は、インド南部、タミル・ナドゥ(TN)州チェンナイ近郊のスリペルムブドゥールに工場を擁する。ここで、同社がiPhone14の製造を開始することが、9月末に報じられた(「タイムス・オブ・インディア」紙9月26日)。片や、iPhone14の販売開始時期は、インド、日本などでは9月16日だった。つまり、世界市場での販売開始とインドでの製造開始に、時期的な差があまりないことが分かる。これは同時に、インドと中国間で、iPhone14の製造開始時期に差がほとんどなくなったことも意味する。

インドでのiPhone製造は2017年に開始されたが、iPhone12の販売開始ごろまでは、インドで製造されるのは旧機種に限られていた。しかし、iPhone13では、中国に遅れること半年でインドで製造が始まった。続くiPhone14で、世界での最新機種発売とインドでの製造開始との間にタイムラグがほぼなくなったかたちだ。アップルは、地政学的リスクを軽減する目的で、iPhone製造を中国からベトナムやインドなどに移すと報じられている。今後も、この動きは続くと予想される。

南インド・ホスールに大規模工場建設へ

このような状況の中、インド中央政府のアシュウィニ・バイシュナウ通信相は11月15日、TN州ホスール近郊に「インド最大規模のiPhone製造拠点が設立される見通し」と述べた(「ヒンドゥスタン・タイムス」紙11月16日)。インドで現在、iPhoneを製造しているのは、フォックスコン、和碩聯合科技(ペガトロン)、緯創資通(ウィストロン)の3社だ。一方、前述のように、フォックスコンはTN州のスリペルムブドゥールで、ペガトロンは同じくTN州のマヒンドラ・ワールド・シティーで、iPhone14製造を開始している。そのため、ホスール近郊のiPhone製造拠点設立に関与するのはそれ以外の企業とみる向きが多い。また、ホスール地域にはiPhoneの部品製造に携わるタタ・エレクトロニクスの工場も立地している。同社も相当程度関与することが予想される。

ちなみに、ホスールではここ数年、インド系の電気自動車(EV)二輪製造に関する新規投資が過熱しており、急速に発展してきた。(2022年8月22日付地域・分析レポート参照)。一部企業は、数年後にEV四輪車の製造も開始予定だ。こうした状況下、さらにiPhone製造拠点の新規設立が発表されたかたちだ。ホスールは今後ますます注目を浴びる地域になりそうだ。

新型コロナ禍により、中国でiPhone14減産に至ったことも影響

インドでのiPhone製造能力拡大には、フォックスコンが中国工場(河南省鄭州市)で減産に至ったことも影響していると考えられる。同工場は、iPhone14の8割を製造予定とされていた。しかし、2022年に同工場勤務者から新型コロナウイルス感染者が発生。そのため、中国のゼロコロナ政策により一時期、隔離措置を強化、同工場の製造量に影響が出る結果に陥った(フォックスコンの親会社、鴻海精密工業の劉揚偉董事長による決算説明会での発言、「ロイター」11月10日)。

この問題は現在も尾を引いている。また、今後、同様の事態が発生しないとも限らない。有事の際のリスクヘッジを考えると、中国でのiPhone製造をどこかで補完する必要性が浮かび上がってくる。

そういった思惑から、アップル側がインドでiPhoneの製造能力拡大を急ぐ可能性もある。

中央・州政府とも、インセンティブ供与に乗り出す

インドでは、新型コロナ禍以前から国内製造を振興している。ナレンドラ・モディ首相は、「メーク・イン・インディア」というスローガンを提唱してきた。とは言え、製造業に関する具体的なインセンティブは乏しかった。しかし、新型コロナ禍でのサプライチェーン断絶に端を発する「自立したインド(Self-reliant India)」(2020年5月14日付ビジネス短信参照)を目指す動きの中で、中央政府は生産連動型インセンティブ(PLI)スキームを発表。採択企業を認定した。iPhone製造企業3社(フォックスコン、ペガトロン、ウィストロン)は、いずれもその採択企業に含まれる(2020年10月13日付ビジネス短信参照)。

同時に、ホスールがあるTN州も、電子機器産業振興政策(Tamil Nadu Electronics Hardware Manufacturing Policy 2020)を提供している(2020年9月17日付ビジネス短信参照)。

インドの中央政府と州政府が講じるこれらのスキームも、iPhone製造を後押しする間接的な支援になっている。

執筆者紹介
ジェトロ・チェンナイ事務所長
中山 幸英(なかやま ゆきひで)
2004年、ジェトロ入構。市場開拓部、日本台湾交流協会台北事務所、インド政府商工省(ニューデリー)、ジェトロ・チェンナイ事務所次長などを経て、2020年11月からジェトロ・チェンナイ事務所長。