2021年の日本酒の最大輸出相手国は中国に
大連のバイヤー3社に最新市場動向を聞く

2022年4月13日

日本の財務省が発表した貿易統計によると、日本の中国向け日本酒輸出は新型コロナウイルス禍の影響が出た2020年を除き、増加を続けている。2021年は数量で前年比52.3%増の7,268キロリットル、金額で同77.5%増の102億8,000万円となった(図参照)。

図:中国向け日本酒の輸出量と輸出額の推移(2011~2021年)
2011年2.1億円、375キロリットル。2012年4.1億円、666キロリットル。2013年5.2億円、896キロリットル。2014年6.9億円、1,074キロリットル。2015年11.7億円、1,576キロリットル。2016年14.5億円、1,910キロリットル。2017年26.6億円、3,341キロリットル。2018年35.9億円、4,146キロリットル。2019年50.0億円、5,145キロリットル。2020年57.9億円、4,772キロリットル。2021年102.8億円、7,268キロリットル。

出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

日本酒の輸出先でみると、中国は金額ベースで2017年に世界第3位となり、2021年は初めて1位に躍り出た(表参照)。

表:日本酒の輸出額上位3カ国・地域および輸出額の推移(2012~2021年)
輸出全体
金額
1位 2位 3位
国・地域 金額 シェア 国・地域 金額 シェア 国・地域 金額 シェア
2012 89.5 米国 32.5 36.3% 香港 15.0 16.8% 韓国 12.0 13.4%
2013 105.2 米国 38.7 36.8% 香港 17.1 16.3% 韓国 13.8 13.1%
2014 115.1 米国 41.3 35.9% 香港 18.3 15.9% 韓国 13.1 11.4%
2015 140.1 米国 50.0 35.7% 香港 22.8 16.3% 韓国 13.6 9.7%
2016 155.8 米国 52.0 33.4% 香港 26.3 16.9% 韓国 15.6 10.0%
2017 186.8 米国 60.4 32.3% 香港 28.0 15.0% 中国 26.6 14.2%
2018 222.3 米国 63.1 28.4% 香港 37.7 17.0% 中国 35.9 16.1%
2019 234.1 米国 67.6 28.9% 中国 50.0 21.4% 香港 39.4 16.8%
2020 241.4 香港 61.8 25.6% 中国 57.9 24.0% 米国 50.7 21.0%
2021 401.8 中国 102.8 25.6% 米国 95.9 23.9% 香港 93.1 23.2%

出所:農林水産省貿易統計からジェトロ作成

増加を続ける背景には、新型コロナ禍前は中国人の訪日観光客の増加や、中国内での「獺祭」(だっさい)ブームに伴う日本酒の認知度向上(2021年3月26日付ビジネス短信参照)、日本酒の主要販路である日本料理店の増加、それに加え、コロナ禍後は新型コロナウイルスのため訪日観光できなかった人による国内消費の増加、EC販売拡大などが挙げられる。

中国における日本酒を取り巻く最新市場動向について、日本産酒類を取り扱っている大連のバイヤー3社に話を聞いた。

(1)獺祭ブームに乗って日本酒プレゼンスの向上図るべき(大連華湘商貿)

大連華湘商貿は2004年に設立の食品貿易業だ。関係会社の上海華湘貿易発展が日本から輸入している酒類のうち、日本酒、焼酎、梅酒の東北3省での販売を担当している。主な販売先は日本料理店で、中高価格帯の日本酒類を販売している。2017年に東北3省で初となるSSI(日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)認定の「国際利き酒師」資格を取得した周富林総経理に話を聞いた(3月23日)。

質問:
設立当初の2004年から現在までの東北3省における日本酒市場の変化は。
答え:
2011年の東日本大震災までは、東北3省では中高価格帯の日本酒として久保田の「千寿」(新潟県産)が人気だった。当社では千寿を代理販売しており、売れ行きは好調だった。しかし、東日本大震災後、中国政府による10都県(注1)の食品に対する輸入停止措置を受け、新潟県産は輸入できなくなったため、千寿に代わる売れ筋商品を目指し、各ブランドの市場獲得競争が激化した。その中で現在確固たる地位を築いたのが獺祭で、東北3省に限らず中国の他地域でも人気を博している。中高価格品を求める消費者に「日本酒=獺祭」というイメージが定着している。日本酒の注文時に獺祭を頼めば外れはないし、かつ接待時にもメンツが立つと思われているからだ。当社では獺祭を代理販売していない。
質問:
新型コロナウイルスの影響は。
答え:
設立年の2004年から2014年までは売上高が右肩上がりだったが、それ以降、とりわけ新型コロナウイルスが発生した2020年以降は、市場開拓の難しさが増している。主要な理由として、獺祭の市場シェアが高まっていることや、中国市場で展開する日本酒の種類が増加して競争が激化したこと、接待が減って中高価格帯の日本酒の消費が減少したこと、新型コロナ感染対策として料理店でのイートイン消費が規制されるケースが増えたこと、新型コロナ以降は消費者を引き付けるために、酒類持ち込みを許す料理店が増えたことなどが挙げられる。
質問:
消費者の日本酒に対する認知度は。
答え:
2004年当時、東北3省の多くの中国人は日本酒をよく分かっておらず、「日本酒とは日本料理店で温めて飲むお酒」という認識にとどまっていた。そのため、こちらから多くの日本料理店に出向いて、オーナーや店員を対象に日本酒講座を開き、日本酒の知識や料理とのペアリングについて教えた。十数年の年月を経て吟醸系の日本酒はハイクラスであることや純米日本酒は健康的とのイメージが定着しつつあるが、日本料理店や店員の入れ替わりが激しい中、日本酒の基礎教育は必ずしもうまく受け継がれていないのが現状だ。一方で、獺祭ブームを通じて、日本酒への関心は確実に高まっている。このブームに乗って日本酒全体のプレゼンスを高め、より多くのブランドが注目されればよいと考える。
質問:
今後の市場展望は。
答え:
食の口コミサイト「大衆点評」(注2)で東北3省の日本料理店のうち、客単価200元(約3,800円、1元=約19円)以上の店舗を検索すると、約200軒が出てきており、それらが日本酒の主要販売先になっている。ただし、コロナ禍によって、日本料理店の店舗数の増加と日本料理店における日本酒調達量の拡大は大きくは見込めない。一方で、大連は海鮮を食べることが多い街であり、海鮮料理と日本酒は相性が良く、海鮮料理店や一般家庭向けの市場開拓は有望とみている。今後もペアリング方法や日本酒の健康的なイメージを継続的に伝えていき、より多くの中国人の日本酒に対する理解を深めていきたい。

(2)売れ筋は獺祭と低価格帯だが、多様性求める消費層も出現(大連欣欣青果)

大連欣欣青果国際貿易は2005年に設立、2008年から日本産酒類の輸入販売を開始した貿易商社だ。日本酒、焼酎、リキュールを中心に取り扱っており、中でも日本酒のSKU数(注3)は106と、当社取り扱いのSKUの過半を占める(インタビュー時点)。中国各地の1,000店舗を超える日本料理店に卸しており、2020年にはEC販売も開始した。同社の日本語が堪能な王欣マネジャーに話を聞いた(3月21日)。

質問:
中国における日本酒の主要市場は。
答え:
上海市とその周辺地域、広州市や深セン市を中心とする珠江デルタ地域、北京市、大連市に集中している。近年は内陸地域の四川省成都市や重慶市、湖南省長沙市、広西チワン族自治区南寧市、陝西省西安市でも日本酒のニーズが拡大しつつある。中国における日本酒の主要販売先は日本料理店だが、近年はEC販売も拡大している。
質問:
日本料理店での消費動向は。
答え:
消費者が日本酒に触れ合うきっかけとして、日本料理店は重要なプラットフォームとしての役割を果たしている。一方で、近年はECで販売される日本酒が増えており、日本料理店への影響がある。一般的に、日本料理店での価格はスーパーマーケットやECより割高の値段設定となっている。そのため、同じ銘柄を日本料理店向けとオンラインのそれぞれで流通させた場合、消費者が日本料理店の価格とオンラインの小売価格を調べてしまい、日本料理店での消費に影響が出てしまうことがある。従って、日本料理店向けにはEC上で販売されていない銘柄を導入、またはEC上でも販売する場合は日本料理店への販売価格より高く値段設定をして、EC上では宣伝機能のみ果たすなどの差別化戦略を図ったほうがよい。
質問:
日本料理店にうまく参入するポイントは。
答え:
店舗でオーナーや調達担当者と接点を持つことが大事だ。ただし、それぞれの店舗向けに個別に営業することには限界がある。なおかつ、店舗の1回当たりの調達量は多くはなく、注文が入った際にスピーディーに配達することが求められるため、各地域に存在する日本料理店向けのネットワークを持つ卸売企業との関係構築が重要となる。当社の取扱商品も大半はこのような卸売企業を経由して、各地域の日本料理店に流通している。東北3省では当社が日本料理店に直接営業しているが、新商品を積極的に導入するのは、時代の潮流に合わせて常に変化しようとするオーナーがいる店舗だ。
質問:
売れ筋商品の特徴は。
答え:
獺祭と低価格品、例えば、日本料理店での販売価格が一升瓶で180~220元(約3,420~4,180円、1元=約19円)の価格帯の商品が売れている。純米大吟醸で、価格に優位性があれば可能性はあるが、獺祭より価格が高い場合は難しい。日本料理店では通常、仕入価格の2.5~3倍で販売しているため、仕入価格が高い商品に関しては、中国での知名度が高いか、または味やその他の面で消費者を引き付けられる特徴がない限り、日本料理店への参入ハードルは高いと考えてよい。一方で、獺祭以外の日本酒を求める消費者もいる。どこでも販売されている商品ではなく、他者と違うものを楽しみたいニーズもある。近年の新しい変化であり、このような消費層が増えれば、日本酒の市場はさらに拡大するのではないか。
質問:
2020年からスタートした貴社のEC販売の状況は。
答え:
2021年はEC販売の成長は速く、売り上げ全体の約2割を占めた。大手ECモールの淘宝、京東、天猫に自社店舗を設けているほか、TikTok、快手などのショートビデオアプリでIDと店舗を持っているインフルエンサーと連携してライブ配信も行った。新型コロナウイルス感染拡大以降、日本への渡航が困難となる中、TikTokや微博などのSNSを通じて日本商品の知識を得る若年層が増加している。当社ではSNSを活用した宣伝を重要視しており、中国内での専売権を持っている商品を中心に宣伝している。
質問:
今後の日本酒の調達ニーズは。
答え:
まず、秋田県、兵庫県、山形県など酒造好適米の主要産地の日本酒に関心がある。販売時の宣伝を考えると、商品やブランドにまつわるストーリーがあるなど、話題性のある商品が好ましい。さらに、パッケージに日本風の要素や高級なイメージがあるとよい。低価格帯の商品も市場があり、ぜひ検討したい。

(3)日本酒市場のさらなる拡大見込んで2022年から新規参入(大連翰哲国際貿易)

大連翰哲国際貿易は2011年に設立。日本産の菓子類を中心に輸入し、高級スーパーやコンビニ、卸市場、オンラインショップなど、中国各地の約1万3,000店舗に卸している。大阪と上海に子会社があり、2022年から日本酒やリキュールの輸入販売も予定している。張智総経理に話を聞いた(3月28日)。

質問:
日本酒の輸入を開始しようとした理由は。
答え:
当社から日本産食品を仕入れている卸売企業から、当社が日本酒を調達する意向があるか照会を受けることが増えたためだ。中国市場に参入している日本酒のブランドは多く、競争は激しいといえる。しかし、消費者の日本酒に対する認知度はまだ低く、日本酒の消費は流行程度にとどまっている。日本酒文化が中国で浸透し、愛好者が多く育てば、市場はさらに拡大するとみている。中国では多様な酒類商品を求める若年層が増えており、かつ度数の低い酒類へのニーズが確実に高まっている。また、中国市場にまだ展開していない日本酒のブランドが多く、開拓余地も大きい。当社は後発組ではあるが、中国の日本酒市場の拡大とともに、当社も市場開拓を図っていきたい。
質問:
日本酒の主要販路とターゲット層は。
答え:
まずは、高級スーパーマーケットなど既存の販路を活用する。そのほか、日本料理店や日本酒バー、EC、免税店などの販路も徐々に開拓する予定だ。中国における日本酒の消費層はピラミッド型で3つのタイプに分かれていると考えている。最上位に位置する層は日本酒への理解が深く、日本酒愛好者の層だ。この層は価格よりも品質を重視しており、希少性のある個性的な日本酒を求めている。真ん中の層は常に新しい潮流を求める消費者層で、最新のはやりものに敏感であり、商品やブランドにまつわるストーリーに引き付けられやすい層と言える。最後に位置する層は日本酒の初心者で、味よりも価格に敏感だ。従って、ターゲット層ごとに販売商品や宣伝戦略を差別化すべきと考える。
質問:
具体的な調達ニーズは。
答え:
4つある。1つ目は獺祭や十四代のような中国で知名度の高い商品。2つ目は、中国で1つ目ほど知名度が高くないが、純米大吟醸で価格面において優位性のある商品。3つ目は中国市場に初展開の商品で、日本でも一定の知名度がある商品。4つ目はコストパフォーマンスのよい低価格帯商品。獺祭などニーズの高い商品も仕入れておくと、その際に他の商品の宣伝や販売も併せて行うことができ、卸売企業を引き付けやすい。
質問:
中国で認知度の低いブランドをどのように育成していくか。
答え:
まずは、高級スーパーマーケットでの露出度の強化と、中国内の有力な食品展示会への出展、小紅書(注4)などSNSでの宣伝を考えている。菓子類の輸入を始めた時もそうだったが、日本企業と一緒に時間をかけてブランドの育成に取り組んできており、日本酒についても、そのような姿勢で臨みたい。日本酒に関する知識を勉強中であり、今後は利き酒師の資格も取得する予定だ。

注1:
福島県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、長野県、新潟県。
注2:
中国最大の口コミ投稿サイトで、レストランに限らず、幅広い業界の店舗情報と口コミ情報を掲載。
注3:
ストックキーピングユニットの略。商品の最小単位を表し、サイズや包装状態、販売単位数量を区別して数える。
注4:
口コミや写真の紹介を行うSNS機能とECが一体となったアプリ。
執筆者紹介
ジェトロ・大連事務所
呉 冬梅(ご とうばい)
2006年から、ジェトロ・大連事務所に勤務。経済情報部を経て、現在はヘルスケアなど各種事業を担当。