エネルギーリスク高で、蓄エネへ
世界のグリーンビジネス(1)

2022年8月15日

エネルギー価格の高騰や、全世界的な温室効果ガス排出削減の取り組みの加速を背景に、蓄エネや省エネ技術に注目が高まっている。脱炭素目標を宣言したグローバル企業が着々と排出削減に取り組む。さらにその過程で、生産から廃棄までのあらゆる工程において脱炭素化ニーズが生まれる。その結果、鉄鋼などの素材グリーン化や、輸送・移動サービスにおける脱炭素化など、特定のグリーンビジネスが拡大を続ける。そこで、世界経済が混乱する中で拡大するグリーンビジネスの事例を、2回に分けてみていく。

本稿では、エネルギー価格や物価の高騰を背景に注目を集めるエネルギー貯蔵の事例などを紹介する。

エネルギー価格の高騰が「最大のリスク」に

エネルギー価格の高騰は2022年に入り、産業界において最大のリスクとして認識されている。ドイツ商工会議所のアンケート調査によると、2021年年初の調査時点で「今後12カ月の最大のビジネスリスク」は、「内需」(57%)や「外需」(50%)だった(複数回答、図参照)。その後、調査を重ねるたびに、内需や外需の比率は2022年年初まで減少基調を示した。他方で、2021年年初から伸び続けたのが「エネルギー価格、物価」だ。2022年4月の調査時点で、最大の78%に至った。なお、それほど急増したのは、調査実施のタイミングも影響したとみられる。2022年4月の調査は、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2 月24日)後に実施されたからだ。

図:ドイツ企業の今後12カ月における最大のビジネスリスク
調査実施時期(調査対象企業数n)(複数回答、単位は%)は、2022年4月(n=23,427)、2022年年初(n=26,741)、2021年秋(n=26,622)、2021年初夏(n=約27,000)、2021年年初(n=約30,000)の順に、エネルギー価格、物価は78、64、58、42、30。技術力不足は56、61、59、43、38。労働コストは46、43、40、34、32。経済政策は44、39、43、49、47。内需は41、37、36、48、57。外需(※)は34、24、27、37、50。資金調達は10、8、8、11、12。為替レート(※)は6、5、5、6、7。

注1:(※)は、輸出できる産業だけで設定された選択肢。
注2:調査実施時期は2022年4月、2022年年初(2021年12月末~2022年1月中旬)、2021年秋(9~10月)、2021年初夏(4月~5月初旬)。
注3:2021年初夏と年初のnの詳細は不明。
出所:ドイツ商工会議所公表資料からジェトロ作成

エネルギー貯蔵ビジネスにも商機

化石燃料などのエネルギー価格は上昇傾向が続く(2022年4月27日付ビジネス短信参照)。他方、電力に関しては、再生可能エネルギー(再エネ)は化石燃料に比べ発電コストが低い(注1)。こうした背景から、再エネや蓄電など、クリーンエネルギー投資は2020年以降、年平均で前年比12%増で推移してきた。IEAは、「2022年は1兆4,400億ドルになる」と予測している。また、これらの投資により、再エネの電力供給量(2022年)は前年比10.7%増となる見通し。化石燃料(石炭が同0.3%増、天然ガス同1.9%減)よりも伸びが大きくなるとみられる(2022年7月22日付ビジネス短信参照)。

再エネの導入増とあわせ、エネルギーの有効利用の観点からエネルギー貯蔵にも注目が集まっている。再エネは発電量が天候に左右され、コントロールするのが難しい。他方で、再エネによる余剰電力を蓄電し、売電価格が高くなるタイミングで販売すれば、販売収入増となる。また、自動車と建物などのインフラとをつなげるV2X(Vehicle to X、注2)でも、蓄電の仕組みが必要になる。電気だけでなく、熱エネルギーについても同様だ。貯蔵できると新たに熱を生産しなくて済む。すなわち、蓄熱することで省エネによるコスト削減や排出削減につながる。

そのため、電気や熱などのエネルギーを、さまざまな方法で貯蔵するエネルギー貯蔵ビジネス事例がみられる。例えば、エナジー・ボールト(スイス)は2022年5月、DGフューエルズ(南アフリカ共和国)向けにエネルギー貯蔵システムの提供を発表した(注3、表参照)。また、バッテリーメーカーのESS(米国)は2021年9月、エネルギーを長期間貯蔵できるフロー電池をSBエナジーの米国拠点に供給すると発表している。

表:エネルギー貯蔵関連ビジネス動向
企業 分野 貯蔵方法 ビジネス動向
エナジー・ボールト(スイス) エネルギー貯蔵 重力(ブロック)を利用した位置エネルギー 米国で持続可能な航空燃料(SAF)プロジェクトを手がけるDGフューエルズ(南アフリカ共和国)向けにエネルギー貯蔵システムを提供(2022年5月)。
ハイビュー・パワー(英国) エネルギー貯蔵 液化空気エネルギー 同社液化空気エネルギー貯蔵システムをスペインに設置(2021年5月)。
サングロー(中国) エネルギー貯蔵 液体冷却エネルギー インドのタタ・パワー・ソーラー・システムズと共同開発したエネルギー貯蔵システムをインドのラダック地方に設置(2022年5月発表)。
ESS(米国) エネルギー長期貯蔵 フロー電池 SBエナジーの米国拠点に、長期間貯蔵できるフロー電池の供給を発表(2021年9月)。
BASF(ドイツ) 化学 有機レドックスフロー電池(ORFB) イエナバッテリーズが市場投入する有機レドックスフロー電池(ORFB)に用いる電解液の1種類をBASFが生産・供給(2020年2月発表)。
ポーラー・ナイト・エナジー(フィンランド) 地域暖房 フィンランド西部の発電所で、砂による高温蓄熱施設の商業運転を開始(2022年7月発表)。
ハイデルベルクセメント(ドイツ) セメント生産 特殊コンクリート 新興企業エナジー・ネストと共同開発した、特殊コンクリートを使用した熱エネルギー貯蔵システムを市場投入(2019年)。

出所:各社ウェブサイトなどから作成

排出削減とエネルギー価格高騰を背景に省エネへ

エネルギー価格の上昇は、燃料コスト増にもつながる。そのため、そもそものエネルギー使用量を削減する省エネにも期待が高まることにつながる。例えば、ガスボイラーによる暖房をヒートポンプにすると、エネルギー消費量を半分近くに削減できる〔IEA「電力市場報告書(2022年7月版)」、2022年7月22日ビジネス短信参照〕。欧米主要国では実際、ヒートポンプの導入を増やす政策を講じている。またそれに呼応して、関連企業がビジネス展開している(2022年8月15日付地域・分析レポート参照)。

太陽光や風力などの再エネの導入増は、発電容量の増加など、エネルギー供給サイドでのビジネスに影響する。しかし、それだけでなく、送電網(グリッド)やスマートメーター、蓄電など、需要側のインフラ整備・拡充のビジネスにもつながっている。また、排出削減への取り組みだけでなく、エネルギー価格の高騰も背景にある。

産業向けにも消費者向けにも、省エネニーズは今後も高まるとみられる。


注1:
国際エネルギー機関(IEA)の「世界エネルギー投資報告」(2022年6月23日付ビジネス短信参照)によると、ガスや石炭に比べ、太陽光や陸上風力の方がおおむね低コストだ。ちなみに、ここでコストを比較する上では、設備投資や運転・保守など発電にかかる各種経費をベースに算出される均等化発電原価(LCOE)が用いられている。
注2:
V2Xの例としては、(1)電気を電気自動車(EV)などに貯蔵したり、(2) EVを移動(またはEVにより輸送)して電気を住宅に送ったりする、ことが考えられる。
注3:
エナジー・ボールト(スイス)は、位置エネルギー(重力に基づいてブロックを上下移動させることで生じるエネルギー)の貯蔵技術を持つ。
また、DGフューエルズ(南アフリカ共和国)は、持続可能な航空燃料(SAF)生産のため、米国でグリーン水素プロジェクトを手がける企業だ。

世界のグリーンビジネス

  1. エネルギーリスク高で、蓄エネへ
  2. 素材や輸送サービスも脱炭素化
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。