素材や輸送サービスも脱炭素化
世界のグリーンビジネス(2)

2022年8月15日

世界経済が混乱する中で、拡大するグリーンビジネスがある。世界のそうした動きについて2回に分けてみるシリーズ。「前編:世界のグリーンビジネス(1) エネルギーリスク高で、蓄エネへ」では、電気や熱などのエネルギー貯蔵のビジネス事例を紹介した。続く本稿では、素材のグリーン化や輸送・移動サービスの脱炭素化の事例などを取り上げる。

欧州では、過去4年で中小企業でも取り組みが浸透

世界のグローバル企業の多くは、脱炭素目標を宣言。自社だけでなく、サプライチェーン全体を通じて温室効果ガス排出削減に取り組んでいる。グローバル企業やその調達先が脱炭素化に取り組む中、この流れをビジネスチャンスと捉え、脱炭素化につながる製品・サービスを提供する中小企業が増えている。欧州委員会が実施するアンケート調査「ユーロバロメーター」によると、グリーン製品やサービス(注)を提供する中小企業の割合は、EU(EU27カ国平均)で32%、米国で30%、トルコで19%だった(2021年時点、図1参照)。2017年と比べると、米国はほぼ横ばい。しかし、EUやトルコでは7ポイント上昇した。このEU・トルコでの傾向は、中小企業でも同様とみられる。

図1:主要国・地域の中小企業のグリーン製品・サービス提供の実施の有無
(2021年、2017年)
選択肢は左から順に「はい」「いいえ。けれども2年以内の実施を予定。」「いいえ。今後も予定はない。」「わからない/未回答」の順に(単位は%)、スウェーデン(2021年、n=555)は43、5、47、5。スウェーデン(2017年、n=483)は39、5、51、6。フランス(2021年、n=553)は38、10、50、2。フランス(2017年、n=491)は23、15、60、3。英国(2021年、n=459)は34、14、48、4。EU27 (2021年、n=13,343)は32、11、54、3。EU27(2017年、N=11,690)は25、8、63、4。米国(2021年、n=483)は30、11、55、4。米国(2017年、n=381)は32、10、50、7。ルーマニア(2021年、n=584)は24、30、43、4。ルーマニア(2017年、n=494)は12、19、66、4。トルコ(2021年、n=450)は19、12、64、5。トルコ(2017年、n=291)は12、14、69、4。

注1:四捨五入の関係で合計が100%にならない場合がある。
注2:フランス、スウェーデン、ルーマニアはEU27の内数。
注3:nは人口と回答企業数をもとに加重平均した人数。2017年のnは調査結果発表時点での人数(EU27を除く)。
注4:調査期間はそれぞれ、2021年11月8日~12月10日、2017年9月11~26日。
出所:ユーロバロメーターから作成

では、中小企業はグリーン製品・サービスの提供にどの程度の経験を積んでいるのだろうか。提供開始からの経過年数を「3年超」とする企業の割合は、米国で72%、英国67%、EU64%だった。先進国では、中小企業でも、ある程度ビジネスを軌道に乗せた企業が7割近くに及ぶことが見て取れる(図2参照)。他方で、取り組みが3年以内の中小企業の割合は、新興国で高い。例えば、ルーマニアでは57%、トルコで35%あった。これは、当該製品・サービスを提供する中小企業の割合が近年急激に増えたことを意味していると見てよさそうだ。

いずれにせよ、先進国と新興国とを問わず、近年、グリーン製品・サービスの需要は高いことがわかる。

図2:主要国・地域の中小企業のグリーン製品・サービス提供の経過年数
(2021年)
選択肢は左から順に「1年未満」「1~3年」「3年超」「わからない/未回答」の順(単位は%)に、スウェーデン(n=240)は8、18、73、1。フランス(n=210)は3、23、69、5。英国(n=154)は4、23、67、5。EU27 (n=4,215)は8、26、64、3。米国(n=144 )は8、18、72、2。ルーマニア(n=138)は17、40、42、1。トルコ(n=85)は13、22、60、5。

注1:四捨五入の関係で合計が100%にならない場合がある。
注2:フランス、スウェーデン、ルーマニアはEU27の内数。
注3:nは人口と回答企業数をもとに加重平均した人数。
注4:対象は図1で、グリーン製品・サービス提供の実施を行っていると回答した企業。
注5:調査期間:2021年11月8日~12月10日。
出所:ユーロバロメーターから作成

図1、図2は、ロシアのウクライナ侵攻前のものだ。しかし、企業の気候変動への投資の姿勢は、侵攻後も減退していない。そのことは、ドイツ商工会議所の調査結果からもうかがい知れる。当該調査でドイツ企業の国内投資のきっかけを侵攻前と侵攻後と比べてみると、「環境保護」は侵攻前から下がっていない(表1参照)。

表1:ドイツ企業の国内投資のきっかけ(複数回答、%)
項目 全業種 工業 建設 貿易 サービス
回答率 前回比 回答率 前回比 回答率 前回比 回答率 前回比 回答率 前回比
合理化 31 0 41 ▼1 23 △1 29 △1 26 ▼1
生産イノベーション 29 ▼2 32 ▼4 20 △1 24 ▼2 29 ▼3
規模拡大 25 ▼3 32 ▼3 19 ▼3 22 ▼3 23 ▼2
環境保護 28 1 36 1 25 2 26 1 24 0
リプレース(取替)需要 65 △2 64 △1 79 △1 64 0 64 △2

注1:調査実施時期は2022年4月。「前回比」は、2022年年初時点での調査結果からの増減(%ポイント)。△は前回比で増加、▼は同減少。ちなみに、2022年年初調査の実施時期は、2021年12月末~2022年1月中旬。
注2:調査対象企業数は2022年4月が2万3,427社、2022年年初が2万6,741社。
出所:ドイツ商工会議所公表資料からジェトロ作成

素材のグリーン化に動く製造業

ここで、具体的な製品やサービスについて考えてみる。企業が提供するビジネスには、どのようなものがあるのだろうか。調達先からの原材料、調達や出荷時に利用する物流サービス、従業員が出張時に利用する移動サービスなど、脱炭素化で対応すべき項目は多い。また、素材のグリーン化、輸送・移動サービスにおける脱炭素化などでも、需要が高まっている。ニーズを捉え、新たなビジネスを展開する企業が日々、生まれている。

素材をグリーン化するニーズが特に高いのが、製造業と言える。サプライチェーン全体で脱炭素化に取り組むに当たっては、調達材料などをグリーン化するのが有効なためだ。

例えば、ドイツの鉄鋼メーカーのザルツギッターは2021年10月、同社が生産するグリーンスチールを月に24トン、ドイツの高級家電のミーレに供給すると発表した(表2参照)。ザルツギッターは生産時にクリーンエネルギーを使用し、鉄くずを再利用することで製鋼。従来の鉄鋼生産と比べて66%の排出削減を実現できるという。ミーレは実証プロジェクトとして、このグリーンスチールを、同社のコンロやオーブンに利用する。実証を経て、他の家電にも導入する可能性があるとしている。

また、包装大手のモンディ(英国)は2022年2月、ドイツ化学大手のヘンケル向けに、同社食器用洗剤「Pril」の詰め替え用パッケージとして、リサイクル可能なパウチの提供を発表した。このパウチを利用することで、以前よりプラスチックの利用を70%削減することができるという。

この裏返しとして、グリーン素材を開発する動きもみられる。例えば、アノメラ(カナダ)は2020年11月、英国の化学大手クローダと、自然由来の美容品原料の共同開発で提携すると発表した。

表2:素材のグリーン化関連ビジネス動向
分野 企業 商材 ビジネス動向
鉄鋼 ザルツギッター
(ドイツ)
鉄鋼
  • エネルギーのオーステッド(デンマーク)との戦略提携に関する覚書(MoU)を締結(2022年1月発表)。
  • ザルツギッターの生産するグリーンスチールを、高級家電のミーレ(ドイツ)が月24トン使用(2021年10月発表)。
H2グリーンスチール
(スウェーデン)
鉄鋼
  • 自動車部品大手シェフラー(ドイツ)は、H2グリーンスチールから、製造過程でCO2をほとんど排出しない鉄鋼(グリーン鉄鋼)を、2025年以降、年間10万トン調達すると発表(2021年11月)。
  • メルセデス・ベンツが出資(2021年5月)。H2グリーンスチールから2025年以降、グリーン鉄鋼を調達すると発表。
  • BMWは、H2グリーンスチールから2025年以降、グリーン鉄鋼を調達、同社が調達する鉄鋼のCO2排出量を2030年までに約200万トン削減すると発表(2021年10月)。
化学 イーストマン(米国) 特殊材料 SAP(ドイツ)と協力し、バリューチェーン全体でリサイクル部材を追跡することができるシステムを試験導入(2021年5月発表)。
アノメラ
(カナダ)
美容品原料 クローダ(英国)と自然由来の美容品原料の共同開発パートナーシップを締結(2020年11月発表)。クローダが、パーソナルケア市場におけるアノメラの素材の独占売店になることも合意された。
その他 アディダス
(ドイツ)
テキスタイル 持続可能な繊維を開発するスピノバ(フィンランド)と連携して開発した「adidasTERREX HS1」を発表(2022年2月発表)。
天然素材の靴やアパレル製品を製造・販売するオールバーズ (米国)とカーボンフットプリントが極めて低いパフォーマンスシューズ「FUTURECRAFT.FOOTPRINT」を共同開発(2021年5月発表)。
100%リサイクル可能なパフォーマンスシューズ「フューチャークラフト・ループ」を発表(2019年4月発表) 。
靴等 海洋プラスチック廃棄物を使用した再生素材を使用した製品(シューズ、ユニフォーム、水着など)を製造・販売(2015年~)。
モンディ
(英国)
詰め替え用パウチ ヘンケル(ドイツ)の食器用洗剤「Pril」の詰め替え用パッケージとしてリサイクル可能なパウチを提供(2022年2月発表)。

出所:各社ウェブサイトなどからジェトロ作成

輸送・移動サービスで脱炭素化が進む

企業活動を行う際に物流サービスや移動サービスを利用する機会は、業種を問わない。こうしたこともあって、輸送・移動サービスには「グリーン」を売りにしたさまざまなビジネスがある。

貨物輸送では、ネオライン(フランス)が風力エネルギーを活用して脱炭素海上輸送サービスを提供するのが一例だ。同社は2021年3月、タイヤ大手ミシュラン(フランス)のカナダ―フランス間のタイヤ輸送で、2023年までにネオラインのサービスの利用を開始する契約を締結した(表3参照)。また、航空貨物のラタム・カーゴ(チリ)は2022年3月、「レッツ・フライ・ニュートラル・オン・フライデー」プログラムの実施を発表した。このプログラムでは、毎週金曜日の貨物輸送サービス利用による二酸化炭素(CO2)排出分をオフセットできる。オフセット対象のプロジェクトは、同社の運航地域である中南米の自然保護プロジェクトなどだ。ノルウェーの水産会社モウイのチリ拠点で生産したサーモンの輸送で、このサービスの利用が報道されている(2022年5月)。

旅客輸送では、米国のレンタカー会社ハーツの例がある。同社は、米国のEV大手テスラから10万台のEVを調達。そのうち最大5万台を、配車サービスのウーバー・ドライバー向けに提供することを発表している(2021年10月)。

また、物流における脱炭素化事例として、マルチモーダルシフトや輸送距離の短縮など別の形態による取り組みもみられる。輸送距離短縮の究極は、輸送の工程自体をなくすことにほかならない。しかし、そこまで行かなくても、従来、生産拠点から顧客の拠点まで輸送していたビジネスを、顧客の拠点内での生産に切り替えるというのも方策だ。例えば、フランスの産業ガス大手のエア・リキードは、顧客との間で産業プロセスを共有化。同社が小型生産施設を顧客拠点に設置し、同小型施設でのガス生産を優先する取り組みを進めている。この取り組みにより、道路輸送によるCO2排出の削減につながる。エア・リキードにとっては、同社顧客のサプライチェーン(調達)上で排出削減の機会(ビジネス)を提供できることになる。

さらに、脱炭素化の流れで、旧来型ビジネスを復活させる動きも出ている。欧州では、環境配慮型の移動手段として、夜行列車が再評価されている。そのため、フランス国有鉄道(SNCF)は2021年12月、パリ―ウィーン間の夜行列車を14年ぶりに再開させた。また国内路線でも、2030年をめどにパリ―ニース間をはじめ約10路線の運行を再開予定だ。夜行列車自体は古くからある。近年停止していたサービスを復活させるのは、現在の視点では「(古くて)新しいビジネス」ともいえる。

表3:輸送・移動サービス関連の脱炭素化ビジネス動向
分野 企業 ビジネス動向
海運 ネオライン
(フランス)
ミシュランと海上貨物輸送の契約を締結し、2023年までにカナダーフランス間のタイヤ輸送を開始(2021年3月)。
海運 日本郵船 日本郵船は、インドの製鉄大手、タタ・スチール向けの貨物輸送で、バイオ燃料を使用した試験航行を実施したことを発表(2021年11月)。
空輸 ラタム・カーゴ
(チリ)
毎週金曜日のフライトだけ排出分をオフセットする「レッツ・フライ・ニュートラル・オン・フライデー」プログラムの実施を発表(2022年3月)。
モウイ(ノルウェー)は、チリで生産したサーモンの輸送などで当該サービスを利用(2022年5月報道)。
宅配 イプリ
(フランス)
ラ・ポスト(フランス)の小包部門子会社コリッシモと、100回以上再利用可能な包装材で提携(2021年10月)。
鉄道 THIファクトリー(ベルギー) フランス、ベルギー、ドイツで走行する高速鉄道タリス(Thalys)は100%再生可能エネルギーを利用(2020年1月以降)。
レンタカー ハーツ
(米国)
テスラにEV10万台を発注。そのうち最大5万台を2023年までにウーバー・ドライバー向けに用意(2021年10月)
配車サービス クルーズ
(米国)
全電気自動運転車両による配車サービスを国外で初めてアラブ首長国連邦(UAE)のドバイで展開することを発表(2021年4月)。
マリンツアー バンプー・ネクスト
(タイ)
プーケットパトリツアー(タイ)と提携し、パンプー・ネクストが手がける電気フェリーによるタイ初のマリンツアーを提供(2020年11月)。

出所:各社ウェブサイトや報道からジェトロ作成

異業種参入による脱炭素化ビジネス例も

グリーンビジネスは、従来の取引先に向けて新たに提案して展開されるというのが典型例かもしれない。しかし、新たな取引先を開拓する手段としても、捉えることができる。さらに異業種に参入してビジネス領域を広げるというのは、その行きついた取り組みだろう。

ここではまず、英国のウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリングとエアロフォイル・エナジーの2社が共同して取り組んだ事例を取り上げてみる。前者の本業は、カーレースのエンジニアリング。後者は、レースカーの上空や周囲に空気を流すために開発されたエアロフォイルに関する技術をもつスタートアップだ。両社はこの技術を応用し、商品を適度な温度に保つ食品棚を開発した(表4参照)。この食品棚の導入により、冷気が食品棚から出るのを防ぐ一方、通路を温かく保つことが可能になる。両社はその食品棚を、英国の小売り大手セインズベリーズの店舗に2017年から設置。国内店舗のみで100万台の導入を目指すセインズベリーズは2020年3月、設置台数40万台を突破した。

表4:異業種への参入による脱炭素化ビジネス
企業 業種 参入業種 ビジネス動向
ウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング
(英国)
カーレースのエンジニアリング 食品棚 ウィリアムズ・アドバンスト・エンジニアリング(WAE)は、ウイリアムズF1グループの技術エンジニアリング部門。スタートアップのエアロフォイル・エナジー(英国)と共同開発した「エアロフォイル・システム」を、2017年から冷蔵エネルギーの効率利用の目的で店舗に設置。
クローダ(英国) 化学 風力発電のメンテナンスサービス
  • 化学大手のクローダは、風力タービンのギアボックスやベアリング向けの潤滑油添加剤を開発するレビテック(ドイツ)を2019年に買収。
  • その後、クローダは、センシェント・サイエンス(米国)と連携。風力タービンのギアボックスやベアリング向けの潤滑油添加剤を生産するに至った(2020年9月発表)。なお、センシェント・サイエンスは、風力発電機が稼働している状態で、部品の耐用期間を診断する技術を有する企業。

出所:各社ウェブサイトなどからジェトロ作成

これまで見てきたように、世界の企業が脱炭素化に向けて取り組みを進展。その中で、従来なかった新しい需要が生まれ、さまざまなグリーンビジネスが世界中で展開されている。

それらの中で、蓄エネや省エネは、エネルギー価格の高騰など、直近のビジネス環境の変化に対応する上でも有効だ。また、グローバル企業の脱炭素化目標宣言を背景に、生産から廃棄までのあらゆる工程で排出削減を進める必要性も生じている。グリーンビジネスの需要は、そうした中長期的な取り組みにまで広がっているのだ。

総じて脱炭素ビジネスは、世界経済が混乱する中で市場が拡大する貴重な領域といえよう。となると、脱炭素は、取引先からの排出削減要請への対応という「守り」の視点からだけ捉える必要はない。むしろ、新たに展開する「攻め」からも捉えることが大切だ。そうして、日本企業が世界の脱炭素化をリードすることが期待されている。


注:
ユーロバロメーターでは、グリーン製品・サービスを、環境リスクを軽減し、環境汚染の最小化や省資源につながる製品やサービスと定義。すなわち、(排出削減を含めた)エコラベルのついた製品やリサイクル商材を多く含む製品などを指す、としている。

世界のグリーンビジネス

  1. エネルギーリスク高で、蓄エネへ
  2. 素材や輸送サービスも脱炭素化
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。