フォードが生産拡大、新車販売は首都圏集中
2021年のルーマニアの自動車産業(前編)

2022年6月20日

2021年のルーマニアの自動車生産台数と新車登録台数はともに減少した。ルーマニアでは、依然として中古車の販売割合が高い。新車と中古車の県別の登録台数についても解説する。

2021年の国内生産台数は前年比4.0%減

ルーマニア自動車製造者協会(ACAROM)の2022年1月13日の発表(ルーマニア語)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、2021年の国内自動車生産台数は、ダチアが前年比0.7%減の25万7,405台、フォードが8.7%減の16万3,350台となり、合計で4.0%減の42万755台だった(表1参照)。両社の車種別の生産台数は公開されていないが、ルーマニアのアルジェシュ県ミオベニにあるダチアの工場では、小型乗用車「サンデロ(Sandero)」、小型SUV(スポーツ用多目的車)「ダスター(Duster)」、小型セダン「ロガン(Logan)」を生産し、ドルジ県クラヨバにあるフォードの工場では、小型SUV「エコ・スポーツ(Eco Sport)」と小型SUV「プーマ(Puma)」を生産している。すべてエンジン車である。

表1:国内完成車メーカー別生産台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー 2019年 2020年 2021年
台数 台数 台数 伸び率
ダチア 349,528 259,099 257,405 △ 0.7
フォード 140,884 179,008 163,350 △ 8.7
合計 490,412 438,107 420,755 △ 4.0

出所:ルーマニア自動車製造者協会(ACAROM)のデータを基にジェトロ作成

ダチアの全世界における販売面では、サンデロが好調で、2021年欧州市場でモデル別売り上げ3位を獲得した。2021年3月に発売したバッテリー電気自動車(BEV)の「スプリング(Spring)」も好調で、2021年に2万7,876台を販売、同年末時点で4万6,000台以上の受注残を抱えた(2022年2月7日付ビジネス短信参照)。

フォードは2022年3月14日のプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます の中で、フォード・ヨーロッパ(ドイツ)が運営するクラヨバ工場の所有権をフォード・オトサン(トルコ)に引き継ぎ、2023年内に次世代型小型商用車「トランジット・クーリエ」および小型多目的車「トラルネオ・クーリエ」の生産を開始し、また2024年にはこれらのBEVを生産する予定と発表した。工場の所有権の移転については、発表時点で規制当局と交渉中であり、2023年第3四半期に完了する見込みだ。

国内新車登録台数、現代グループとトヨタがシェア拡大

自動車製造業者・輸入業者協会(APIA)のデータ(注)によると、2021年の国内乗用車の新車登録台数は前年比4.1%減の11万9,832台だった(表2参照)。法人による購入が54%で、個人による購入が46%となった。メーカー・グループ別にみると、1位はダチアを擁すルノー・グループで登録台数は4万2,627台(シェア35.6%)、2位はフォルクスワーゲン(VW)・グループで1万8,728台(15.6%)、3位は現代グループで1万2,360台(10.3%)と続いた。現代グループの登録台数は38.8%増と大幅増、シェアを3.2ポイント拡大し、2020年に3位だったステランティス・グループを逆転した。

日本勢で最もシェアが高かったのは、レクサスを含むトヨタで9,037台(シェア7.5%)だった。登録台数が前年比37.9%増、シェアが2.3ポイント拡大した。

表2:メーカー・グループ別新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー・グループ(G) 2019年 2020年 2021年
台数 シェア 台数 シェア 台数 シェア 伸び率
ルノーG 63,589 39.8 49,903 39.9 42,627 35.6 △ 14.6
階層レベル2の項目ダチア 50,315 31.5 39,940 32.0 34,833 29.1 △ 12.8
階層レベル2の項目ルノー 13,274 8.3 9,963 8.0 7,794 6.5 △ 21.8
フォルクスワーゲンG 25,855 16.2 21,900 17.5 18,728 15.6 △ 14.5
階層レベル2の項目シュコダ 12,372 7.7 10,288 8.2 7,967 6.6 △ 22.6
階層レベル2の項目フォルスワーゲン 10,306 6.5 9,441 7.6 7,812 6.5 △ 17.3
階層レベル2の項目アウディ 1,607 1.0 1,154 0.9 1,712 1.4 48.4
階層レベル2の項目セアト 1,188 0.7 620 0.5 740 0.6 19.4
階層レベル2の項目ポルシェ 331 0.2 335 0.3 285 0.2 △ 14.9
現代G 10,540 6.6 8,908 7.1 12,360 10.3 38.8
階層レベル2の項目現代 8,019 5.0 6,852 5.5 9,532 8.0 39.1
階層レベル2の項目起亜 2,521 1.6 2,056 1.6 2,828 2.4 37.5
ステランティスG 16,306 10.2 12,561 10.0 10,389 8.7 △ 17.3
階層レベル2の項目プジョー 3,655 2.3 3,517 2.8 3,388 2.8 △ 3.7
階層レベル2の項目シトロエン 2,609 1.6 2,170 1.7 2,322 1.9 7.0
階層レベル2の項目オペル 7,896 4.9 2,766 2.2 1,936 1.6 △ 30.0
階層レベル2の項目ジープ 513 0.3 1,476 1.2 1,358 1.1 △ 8.0
階層レベル2の項目フィアット 1,490 0.9 2,388 1.9 1,191 1.0 △ 50.1
トヨタ 7,001 4.4 6,554 5.2 9,037 7.5 37.9
階層レベル2の項目トヨタ 6,714 4.2 6,363 5.1 8,832 7.4 38.8
階層レベル2の項目レクサス 287 0.2 191 0.2 205 0.2 7.3
フォード 11,908 7.5 6,874 5.5 7,802 6.5 13.5
スズキ 4,960 3.1 3,956 3.2 4,381 3.7 10.7
BMW G 3,930 2.5 3,138 2.5 3,556 3.0 13.3
階層レベル2の項目BMW 3,696 2.3 2,861 2.3 3,275 2.7 14.5
階層レベル2の項目ミニ 228 0.1 267 0.2 269 0.2 0.7
メルセデス・ベンツG 3,785 2.4 3,073 2.5 3,361 2.8 9.4
階層レベル2の項目メルセデス・ベンツ 3,540 2.2 2,972 2.4 3,290 2.7 10.7
マツダ 2,776 1.7 2,121 1.7 2,498 2.1 17.8
日産 4,896 3.1 2,700 2.2 1,562 1.3 △ 42.1
ボルボ 941 0.6 669 0.5 975 0.8 45.7
合計(その他含む) 159,696 100.0 125,006 100.0 119,832 100.0 △ 4.1

注:シェア0.2%未満のものは省略しているため、メーカー・グループ別の内訳の合計値が総計と合わない場合がある。
出所:自動車製造業者・輸入業者協会(APIA)のデータを基にジェトロ作成

トヨタに次いで多かったのはスズキで4,381台、3位にマツダ2,498台と続いた(表3参照)。マツダは2020年に日本勢で3位だった日産を逆転した。トヨタは2019年の登録台数を上回り、スズキ、マツダもともに2020年比でそれぞれ10.7%、17.8%増加したものの、両社は2019年の水準までには回復しなかった。

表3:日本メーカー・ブランド別新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
メーカー・ブランド 2019年 2020年 2021年
台数 台数 台数 伸び率
トヨタ 6,714 6,363 8,832 38.8
スズキ 4,960 3,956 4,381 10.7
マツダ 2,776 2,121 2,498 17.8
日産 4,896 2,700 1,562 △ 42.1
ホンダ 1,510 1,023 890 △ 13.0
レクサス 287 191 205 7.3
三菱 575 560 187 △ 66.6
スバル 16 30 35 16.7
合計 21,734 16,944 18,590 9.7

出所:自動車製造業者・輸入業者協会(APIA)のデータを基にジェトロ作成

2021年の乗用車総登録台数のうち76.8%が中古車

ルーマニアの2021年における新車と中古車を合わせた乗用車総登録台数は51万5,589台で、うち新車が23.2%、中古車が76.8%と、中古車が大勢を占めた。この傾向は数年来変わっていない(図1参照)。

図1:新車と中古車の登録台数の推移
2019年新車登録台数159,696台、中古車登録台数444,601台。2020年新車登録台数125,006台、中古車登録台数381,495台。2021年新車登録台数119,832台、中古車登録台数395,757台。

出所:新車は自動車製造業者・輸入業者協会(APIA)、中古車は内務省運転免許自動車登録所(DRPCIV)のデータを基にジェトロ作成

なお、日本は2021年の新車の乗用車と軽自動車の登録台数が合計で405万2,384台、中古車登録台数が324万5,779台と、新車の割合の方が大きい(日本自動車販売協会連合会および全国軽自動車協会連合会のデータ)。経済成長に伴う所得の増加により、ルーマニアでは新車販売が伸びる余地は大きい。

新車登録は過半が首都圏に集中

2021年の新車登録台数を登録地別にみると、首都のブカレスト市とそれをドーナツ状に囲むイルフォブ県が全国の54.2%と過半を占める。この首都圏の人口は全国の11.9%であることから、購買力が他地域に比して相当高いことがうかがえる(表4参照)。人口1万人当たりの新車登録台数の全国平均は55.0台だった。ブカレスト市とイルフォブ県のほか、人口の多い上位9県の内訳をみると、首位はブカレスト市で276.1台、2位がイルフォブ県で128.6台と他地域に抜きん出ており、3位はダチア工場を擁すアルジェシュ県で65.0台、4位は北西部のクルージュ県で全国平均と同一の55.0台だった。

全国の新車登録台数を動力別にみると、ガソリンとディーゼルのエンジン車の合計割合が56.3%と過半を占めた一方、ガソリン・ハイブリッド車とディーゼル・ハイブリッド車の合計割合は25.3%、BEVは5.2%だった。

表4:動力別、県別の新車登録台数(2021年) (単位:台、%、人)

動力別
県名 ガソリン ディーゼル ガソリン+LPG (バイ・フューエル) ガソリン・ハイブリッド ディーゼル・ハイブリッド BEV 不明 新車登録台数
総計
ブカレスト 23,420 13,092 4,894 13,071 2,597 2,592 1 59,667
イルフォブ 2,636 1,222 554 1,162 152 349 0 6,075
クルージュ 1,633 598 421 907 126 385 1 4,071
アルジェシュ 1,164 540 1,688 497 26 140 0 4,055
コンスタンツァ 1,353 288 492 1,158 49 220 0 3,560
ティミシュ 1,200 338 263 844 63 256 0 2,964
ヤシ 1,005 245 401 814 37 246 0 2,748
プラホバ 1,126 252 418 673 50 146 0 2,665
ドルジ 726 186 483 626 43 131 0 2,195
バカェウ 746 168 208 307 20 78 0 1,527
スチャバ 512 143 188 331 16 87 0 1,277
その他(31県) 12,291 3,322 5,942 6,653 484 1,712 0 30,404
合計 47,812 20,394 15,952 27,043 3,663 6,342 2 121,208
全国合計に対する動力別割合 39.4 16.8 13.2 22.3 3.0 5.2 0.0 100.0
新車登録台数(総計と割合)、人口別
県名 新車登録台数
総計
新車登録台数(総計)に占める割合 人口
(2021年)
人口1万人当たりの新車登録台数
ブカレスト 59,667 49.2 2,161,347 276.1
イルフォブ 6,075 5.0 472,343 128.6
クルージュ 4,071 3.4 739,575 55.0
アルジェシュ 4,055 3.3 623,472 65.0
コンスタンツァ 3,560 2.9 758,186 47.0
ティミシュ 2,964 2.4 760,284 39.0
ヤシ 2,748 2.3 976,586 28.1
プラホバ 2,665 2.2 775,278 34.4
ドルジ 2,195 1.8 679,151 32.3
バカェウ 1,527 1.3 730,256 20.9
スチャバ 1,277 1.1 763,762 16.7
その他(31県) 30,404 25.1 12,606,677 24.1
合計 121,208 100.0 22,046,917 55.0

出所:人口はルーマニア国家統計局(INS)、新車登録台数は内務省運転免許自動車登録所(DRPCIV)のデータを基にジェトロ作成

中古車登録は首都圏と北西部に多い

全国で2021年に登録された中古車は39万5,757台で、県別で最も大きな割合を占めたのはブカレスト市の8.4%、次いでクルージュ県の4.6%だった(表5参照)。人口1万人当たりの登録台数でみると、北西部のクルージュ県とティミシュ県、北東部のスチャバ県が上位を占めた。

表5:県別中古車登録台数(2021年)(単位:台、%)
県名 中古車
登録台数
割合 人口1万人当たりの中古車登録台数
ブカレスト 33,277 8.4 154.0
クルージュ 18,046 4.6 244.0
スチャバ 16,573 4.2 217.0
ティミシュ 16,147 4.1 212.4
プラホバ 13,846 3.5 178.6
ドルジ 13,152 3.3 193.7
バカェウ 12,031 3.0 164.8
ヤシ 11,928 3.0 122.1
アルジェシュ 10,957 2.8 175.7
コンスタンツァ 10,349 2.6 136.5
イルフォブ 8,285 2.1 175.4
その他 (31県) 231,166 58.4 183.4
合計 395,757 100.0 179.5

出所:内務省運転免許自動車登録所(DRPCIV)のデータを基にジェトロ作成

また、ルーマニアには中古車の車齢による輸入制限がないため、車齢15年以上の旧型の乗用車も登録台数全体の29.4%を占めている。これを県別に分解すると図2のようになる。車齢5年以下の新しい年式の中古車はブカレストで多く登録されている。全国的には車齢が9~16年の登録台数が多い。中古車は環境負荷が大きく、大気汚染の増加の原因となっている。環境省は、中古車の廃棄と引き換えに電気自動車などの新車エコカーを購入した場合に補助金を支給するなど、対策を進めている。詳細は後編「エコカー販売倍増も充電設備数増加が課題」で解説する。

図2:2021年に登録された中古車の車齢別台数(県別)
1999年以前(車齢22年以上)7,817台、2000年(車齢21年)4,204台、2001年(車齢20年)6,463台 、2002年(車齢19年)9151台 、2003年(車齢18年)13,179台 、2004年(車齢17年)18,531台 、2005年(車齢16年)24,892台 、2006年(車齢15年)32,055台 、2007年(車齢14年)32,167台 、2008年(車齢13年)31,012台 、2009年(車齢12年)27,016台 、2010年(車齢11年)27,836台 、2011年(車齢10年)28,830台 、2012年(車齢9年)22,993台 、2013年(車齢8年)16,817台 、2014年(車齢7年)14,193台 、2015年(車齢6年)14,515台 、2016年(車齢5年)18,611台 、2017年(車齢4年)19,710台 、2018年(車齢3年)14,170台 、2019年(車齢2年)6,084台 、2020年(車齢1年)4,416台 、2021年(車齢0年)1,095台 。

出所:内務省運転免許自動車登録所(DRPCIV)のデータを基にジェトロ作成

図3:ルーマニアの人口の多い県
ルーマニアの地図:首都ブカレストはルーマニアの南東部にあります。ブカレストとそれをドーナツ状に囲むイルフォブ県に全人口の11.9%が集中しています。その他、人口の多い上位9県の位置関係は次のとおりです。南東部:プラホバ県、コンスタンツァ県 南西部:ドルジ県 南部:アルジェシュ県 北西部:クルージュ県、ティミシュ県 北東部:スチャバ県、ヤシ県、バカェウ県

出所:ジェトロ作成


注:
APIAは一部の車両を乗用車ではなく、小型商用車のカテゴリに分類しているため、DRPCIVの登録台数よりも少ない。APIAはメーカー・ブランド別のデータが明確なため、本稿では新車のメーカー・ブランド別のデータはAPIAから引用した。一方、県別登録台数はDRPCIVのデータを参照しているため、新車の動力別・県別データと中古車のデータはDRPCIVから引用した。

2021年のルーマニアの自動車産業

  1. フォードが生産拡大、新車販売は首都圏集中
  2. エコカー販売倍増も充電設備数増加が課題
執筆者紹介
ジェトロ・ブカレスト事務所
西澤 成世(にしざわ しげよ)
2003年、ジェトロ入構。海外投資課、輸出促進課、ジェトロ・広州事務所、麗水博覧会チーム、環境・エネルギー課、イノベーション促進課、ジェトロ福井、ジェトロ・ラゴス事務所などを経て、2021年3月から現職。