上半期の対中投資、前年同期比19.1%増の約18億ドル(台湾)
ASEAN向け投資に勢い

2022年9月14日

台湾の投資審議委員会によると、2022年上半期(1~6月)の対外直接投資額は前年同期比4.2%減の約42億ドル、対中投資額は19.1%増の約18億ドルだった(いずれも認可ベース)。

投資先別に見ると、中国向け投資額が3割を占めて存在感がある。もっとも、近年ではASEAN向けの投資額が対中投資額に迫る勢いをみせている。これは、「新南向政策」による後押しや米中対立なども受けた結果だ。

上半期の対中投資は約18億ドル

2022年上半期の台湾の対中直接投資は、件数は5.9%減の191件、金額は19.1%増の17億9,558万ドルだった(図1参照)。件数は2019年以降、減少が続いている。2022年上半期も、同様の傾向がみられた。ジェトロが投資審議委員会に尋ねたところ、(1)中国で労働や環境保護にかかるコストが持続的に上昇しており、生産コストにおける優位性が低下した、(2)米中間の貿易紛争によって、台湾企業の対中投資意欲が大幅に低下したことが、ここ数年の対中投資減少の背景にあるという。

また台湾当局は、域内投資で優遇を受けることができる「三大投資方案」で台湾への投資を促進している。この方案のうち「歓迎台商回台投資行動方案」は米中対立の影響を受けた企業が対象になる(2022年4月20日付ビジネス短信参照)。2022年8月26日時点で、歓迎台商回台投資行動方案の認可企業は268社に上る。こうした支援策なども、対中投資減少の一因になっていると考えられる。

図1:台湾の対中直接投資件数と金額(認可ベース)の推移
台湾の対中投資額は2010年146億ドル、2011年144億ドル、2012年128億ドル、2013年92億ドル、2014年103億ドル、2015年110億ドル、2016年97億ドル、2017年92億ドル、2018年85億ドル、2019年42億ドル、2020年59億ドル、2021年59億ドル。2021年上半期は15億ドル、2022年上半期は18億ドル。対中投資件数は2010年914 件、2011年887 件、2012年636 件、2013年554 件、2014年497 件、2015年427 件、2016年323 件、2017年580 件、2018年726 件、2019年610 件、2020年475 件、2021年423 件。2021年上半期は203件、2022年上半期は191件。

出所:台湾経済部投資審議委員会の発表を基にジェトロ作成

業種別にみると、製造業が57.9%を占めた。投資額が大きい業種では、電気・電子部品が前年同期比11.0%減の2億3,531万ドル、卸・小売りが24.7%減の2億3,496万ドル、学術研究、専門・技術サービスが4.5倍の2億3,014万ドルだった。

表1:台湾の業種別対中投資件数および金額(2022年上半期)(単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 件数 投資額
金額 構成比 増減
電気・電子部品 28 235 13.1 △ 11.0
卸・小売り 46 235 13.1 △ 24.7
学術研究、専門・技術サービス 38 230 12.8 348.1
金融・保険 7 156 8.7 457.9
機械設備 16 155 8.6 91.7
電力設備 5 141 7.9 86.7
自動車および部品 4 94 5.2 181.1
製紙 1 82 4.6 42.4
卑金属 2 68 3.8 862.5
パソコン・電子部品・光学製品 3 60 3.3 △ 76.0

注:上位10業種だけを掲載。
出所:台湾経済部投資審議委員会の発表を基にジェトロ作成

地域別には、華東地域向けが13億2,853万ドル。対中投資額の74.0%を占めた。個別の省・自治区・直轄市別を見ると、江蘇省が件数は50件、金額は前年同期比8.0%増の5億2,778万ドルで、件数、金額ともに最大であり、金額については対中投資額の約3割を占めた(表2参照)。金額順にみると、江蘇省に次いで上海市が3.2倍の3億5,034万ドル、広東省が14.0%減の2億643万ドルだった。

表2:台湾の地域別対中投資件数および金額
(2022年上半期)(単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
地域名 件数 投資額
金額 構成比 伸び率
江蘇省 50 528 29.4 8.0
上海市 33 350 19.5 220.1
広東省 45 206 11.5 △ 14.0
浙江省 11 182 10.1 272.7
福建省 18 130 7.2 44.3
四川省 5 79 4.4 783.1
安徽省 3 71 4.0 △ 9.3
天津市 0 70 3.9 450.9
山東省 6 55 3.0 183.8
重慶市 2 40 2.2 △ 82.3

注1:上位10省・市だけを掲載。
注2:件数は新規投資のみカウント。金額は新規投資と増資を反映。
出所:台湾経済部投資審議委員会の発表を基にジェトロ作成

対ASEAN投資が対中投資に迫る存在感

ここで、中国以外の国・地域向け投資にも目を向けてみる。中国を除く対外直接投資件数(認可ベース)は2022年上半期、前年同期比28.0%増の256件。金額は4.2%減の42億1,545万ドルだった。金額ベースで見た主な投資先は、シンガポール(11億2,132万ドル)、米国(7億9,146万ドル)、韓国(4億6,197万ドル)、オーストラリア(4億959万ドル)と続く。日本向けは17件で、金額は4,156万ドルだった。

対外直接投資額の中でASEAN向けは、近年、中国に迫る勢いを見せている。2022年上半期の対ASEAN投資額は15億7,269万ドル。中国向けを含めた対外直接投資総額に占めるシェアは26.2%だった(中国は29.9%)。長期の傾向をみると、対中投資額のシェアは2010年に80%を超えたが、その後低下傾向にある。2021年は31.8%だった(図2参照)。他方、ASEANは、2019年以降は20%前後で推移。2021年は30.6%と、中国との差はわずか1.2ポイントだった。

図2:投資総額に占める対中国投資額と対ASEAN投資額(認可ベース)のシェア
対外直接投資総額に占める対中投資の割合は、2010年83.8%、2011年79.5%、2012年61.2%、2013年63.7%、2014年58.5%、2015年50.1%、2016年44.4%、2017年44.4%、2018年37.3%、2019年37.9%、2020年33.3%、2021年31.8%。2021年上半期は25.5%、2022年上半期は29.9%。対外直接投資総額に占める対ASEAN投資の割合は、2010年6.3%、2011年6.2%、2012年27.4%、2013年15.8%、2014年6.5%、2015年15.7%、2016年10.7%、2017年14.5%、2018年7.9%、2019年21.8%、2020年15.0%、2021年30.6%。2021年上半期は35.1%、2022年上半期は26.2%。

注:ASEANと中国のシェアは、投資審議委員会が発表した対外直接投資額(中国を除く)と、対中直接投資額の合計を基に算出。
出所:台湾経済部投資審議委員会の発表を基にジェトロ作成

ASEAN向け投資の増加には、中国に比べて相対的に低い投資コストが寄与していると考えられる。例えば、ジェトロが2021年度に実施した「進出日系企業調査」によると、ASEAN主要国で賃金水準は、おおむね中国の7~8割。コスト面での優位性が読み取れる(2022年7月4日付地域・分析レポート参照)。

また、米中対立と新型コロナウイルス感染拡大から、サプライチェーンが再編された。その結果、台湾回帰や中国以外での生産拠点拡大などが進んでいる。これは、台湾の経済部が6月30日に発表した「輸出受注と海外生産の実態調査統計(2021年)」から読み取ることができる。この統計によると、中国と香港での生産が輸出受注に占める比率は、前年比3.1ポイント減少の42.4%だった(2022年7月4日付ビジネス短信参照)。米中間で追加関税が課された2018年と比較すると、4.5ポイントの減少になる。この結果について、経済部は「生産ラインが台湾やASEANに移管されているため」と分析した。なお、輸出受注に占めるASEANでの生産比率は、2018年の1.6%から、2021年は3.2%に増加した。これは、情報通信商品や電子産品の生産比重上昇などを受けた結果と考えられる。

さらに、台湾は「新南向政策」を通じて、ASEANを含む18カ国との経済や貿易、人材交流などの発展を推進している。2022年上半期、政策対象18カ国に向けた投資額(認可ベース)の中で、ASEANは76.2%を占めた。

台湾の信用調査会社の中華徴信所企業(CRIF)によると、2022年第1四半期(1~3月)、台湾上場企業が新南向政策対象国で得た投資収益は1,621億8,000億台湾元(1台湾元=約4.6円、約7,460億2,800万円)に上った。前年同期比で実に2.9倍の伸びだ。その結果、中国での投資収益(1,026億4,500万台湾元、10.6%減)を初めて上回った(注)。 CRIFは、投資が多いシンガポールやベトナムの経済成長率が好調なことから、第2四半期(4~6月)の投資収益を1,800億台湾元と予測。「2022年第1四半期を境に、新南向政策対象国と中国の投資収益が逆転する可能性」を指摘している。

台湾企業にとって、対外直接投資先として中国の存在感はいまだ大きい。同時に、ASEANの存在感が高まってきた。米中対立や市場の優位性に加え、台湾当局の支援策が、その追い風になっている。


注:
CRIFは、2022年第1四半期に新南向政策対象国の投資収益が中国を上回った理由として、(1)当該期間に中国で新型コロナウイルス対策のゼロコロナ政策によって封鎖管理が実施され、経済成長率が下押しされたことや、(2)新南向政策対象国の経済成長率が増加したこと、などを挙げた。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか)
2018年4月、ジェトロ入構。海外調査部国際経済課、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課を経て現職。