2021年の米国住宅価格は過去最高の伸び、オフィス需要は低迷が続く

2022年5月9日

新型コロナ禍が続いた2021年、米国の住宅価格は過去最高となる前年比18.8%の伸びを記録した。地域別でみると、フロリダ州やアリゾナ州の都市での伸びが顕著であった。住宅価格の上昇に伴い、家賃の伸びも最近になって加速している。一方、オフィス賃料は軟調で、空室率も17%台と高止まりが続いており、オフィスの今後の需要動向は不透明さが残る。住宅ローン債務に対する家計のバランスシートは比較的健全であり、家計が過剰な債務を抱えている傾向はみられないが、今後、金利が上昇し利払い費が増加した場合や、ウクライナ情勢が景気に大きな影響を与えた場合は、家計のバランスシートが悪化し、消費減退につながる可能性もあり、引き続き注視が必要である。

米住宅価格指数は2021年18.8%増、過去最高の伸び率に

コロナ禍が継続した2021年の米国の住宅価格は、2020年に引き続き、大きく上昇した。米国の住宅価格動向を調べる際に参照されることの多い、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が公表するケース・シラー住宅価格指数(以下、ケース・シラー指数)の前年比伸び率は2021年に18.8%と、過去最高の値を記録した(図1参照)。

図1:ケース・シラー住宅価格指数の対前年比伸び率
米国の代表的な住宅価格指数であるケース・シラー指数は2021年に18.8%増と過去最高値となった

出所:スタンダード・アンド・プアーズからジェトロ作成

住宅価格の上昇には、需給両面の影響が作用した。需要面では、連邦準備制度理事会(FRB)の金融緩和策による歴史的な低金利に加え、コロナ禍によりリモートワークが普及し、都心部を離れて居住面積が広い一軒家を買い求める動きが広まったことが挙げられる。実際に、不動産調査会社Realtorが2021年に行った調査では、郊外部の住宅購入者は新型コロナの感染拡大開始以来約42%増加したと予想されている。

供給面では、こうした住宅への需要増により、材料となる木材の価格が2020年に続いて大きく上昇したことに加えて(図2参照)、コロナ禍における人手不足により、林業や建築業で旺盛な需要を処理することができなかったため、結果的に供給不足が生じた。このように需要急増と供給不足が重なったことが、歴史的な住宅価格上昇の主な要因となっている。

図2:木材価格指数の伸び率の推移
木材価格は2020年よりは鈍化したものの2021年も引き続き高い伸びを記録した

出所:米商務省からジェトロ作成

地域別ではフロリダ州やアリゾナ州で伸びが顕著、早期退職の影響も

米国では、新築住宅よりも中古住宅の取引量の方が圧倒的に大きく、その規模は新築住宅の約10倍となっている(図3参照)。ゆえに、住宅価格の一般的動向を見る際には、中古住宅価格を参照することが多く、前述のケース・シラー指数も中古住宅を参照とした価格指数である。

図3:新規住宅販売・着工数と中古住宅販売数
米国では中古住宅が流通の中心で新築住宅販売や着工件数と比べると10倍ほどの差がある

出所:米商務省、全米不動産業者協会

2021年におけるケース・シラー指数の前年比伸び率について、主要都市別にみて伸び率の高い3都市はフェニックス(アリゾナ州、32.5%)、タンパ(フロリダ州、29.4%)マイアミ(フロリダ州、27.3%)となっている(表参照)。他の都市も全般的に高いが、気候が温暖な地域に所在する都市の伸び率が特に高い傾向が見て取れる。また、ベビーブーマー世代などを中心に約300万人がパンデミックを機に早期退職したとの調査結果もあり、パンデミックの期間中に、上昇を続けた株式市場などで資産を増やしたシニア層が、気候が温暖で退職後の居住地として人気のあるフロリダ州などに多く移り住んだ可能性が考えられる。トップ3となったフェニックス、タンパ、マイアミの人口の伸びは年1~2%程度と底堅く推移しており、今回の住宅価格の上昇に照らして、シニア層の間で引き続き需要のある地域と言えそうだ。

表:主要都市別のケース・シラー指数の伸び率
都市名 人口(2020年) 2021年伸び率
アトランタ(ジョージア州) 498,715 21.90%
ボストン(マサチューセッツ州) 675,647 13.40%
シャーロット(ノースカロライナ州) 874,579 23.80%
シカゴ(イリノイ州) 2,746,388 12.20%
クリーブランド(オハイオ州) 372,624 13.30%
ダラス(テキサス州) 1,304,379 26.00%
デンバー(コロラド州) 715,522 20.30%
デトロイト(ミシガン州) 639,111 14.50%
ラスベガス(ネバダ州) 641,903 25.50%
ロサンゼルス(カリフォルニア州) 3,898,747 19.30%
マイアミ(フロリダ州) 2,701,767 27.30%
ミネアポリス(ミネソタ州) 429,954 11.40%
ニューヨーク(ニューヨーク州) 8,804,190 13.60%
フェニックス(アリゾナ州) 1,608,139 32.50%
ポートランド(オレゴン州) 652,503 17.90%
サンディエゴ(カリフォルニア州) 1,386,932 25.90%
サンフランシスコ(カリフォルニア州) 873,965 18.80%
シアトル(ワシントン州) 737,015 23.90%
タンパ(フロリダ州) 384,959 29.40%
ワシントンD.C. 689,545 10.50%
米国全体 331,449,281 18.80%

出所:スタンダード・アンド・プアーズ、2020年センサス調査からジェトロ作成

家賃も住宅価格に連動して上昇する一方でオフィス賃料は引き続き低迷

住宅価格の上昇に影響を受け、家賃も遅行するかたちで上昇している。消費者物価指数における家賃の前年比伸び率は、2021年前半は2%以下の水準が続いていたが、後半からは上昇に転じ、足元では4%程度の伸び率が続く(図4参照)。家賃の引き下げには家主との交渉が必要となることが多いため、家賃はいったん上がると下がりにくい特徴を持つと言われている。2022年に入っても住宅価格の上昇が続いていることを踏まえると、家賃の伸び率は今後も高い水準で推移する可能性がある。

図4:家賃伸び率(前年同月比)
消費者物価指数における家賃の前年度比伸び率は、2021年前半は2%以下の水準が続いていたが、後半からは上昇に転じ、足元では4%程度の伸び率が続く

出所:米労働省

一方、オフィス需要は比較的軟調だ。2020年10月に前年同月比マイナス0.2%を記録したオフィス賃料の伸び率は、直後に反動増で大きく上昇したが、その後再び低下。2021年末ごろになって4%近傍まで上昇したが、2022年2月は1.4%と伸びが鈍化しており、家賃のような継続的な伸びを示すに至っていない。背景の1つには高止まりする空室率があると見られ、2021年末の空室率は17.6%と、パンデミック前と比べて高い水準で推移する(図5参照)。

図5:オフィス賃料の対前年度比伸び率とオフィス空室率の推移
オフィス賃料は軟調で2022年2月は1.4%増と、家賃のような伸びを示すに至っていない。背景の一つには高止まりする空室率があると見られ、2021年末の空室率は17.6%と、パンデミック前と比べて高い水準で推移。

注:オフィス空室率は四半期ごとの推移。
出所:米労働省、クッシュマン・アンド・ウェイクフィールドからジェトロ作成

2022年に入り、コロナの感染状況が比較的落ち着きを見せるにつれて、企業も徐々にオフィス勤務に回帰しようとする動きが見られるが、パンデミック収束後もリモートワークと出社を組み合わせた勤務体制とすることを検討している企業の割合は約7割以上とする民間調査もあり、オフィス需要の低迷は今後も続く可能性がある。不動産調査会社RentCafeによると、2021年には過去10年で最も多い約2万件の住宅リノベーションがあったが、そのうち4割はもともとオフィスであったとされ、この流れは2022年も続くと予想されている。オフィス向けの賃貸を展開する不動産企業にとっては、厳しい状況が続きそうだ。

現状の評価と今後の見通し

高騰する住宅価格について、住宅ローンにより金融機関や家計に過度な負担が発生しているとの懸念も指摘されるが、2000年代後半の、いわゆるサブプライムローン問題が発生した時期と比べると、金融機関や家計の財務は健全だ。同問題の発生時は、クレジットスコアが低く、返済能力に不安があるとされるサブプライム層に対する金融機関の貸し出し割合は全体の約12%にのぼっていたのに対し、現在の同層への貸し出し割合は約2%と、2000年以降で最も低くなっている。実際に、FRBが大手金融機関23行に対して行った健全性審査では全行が基準をクリアしている(2021年6月28日付ビジネス短信参照)。家計を見ても、住宅ローン残高は過去最高水準に達しているものの(2022年2月16日付ビジネス短信参照)、返済90日以上の延滞している割合や、差し押さえ、または破産となった利用者の割合は2000年以降で最低水準にあり、過去に比して住宅ローンが家計の大きな負担になっている状況ではないと考えられる。

今後の見通しについて、低金利を背景にした住宅需要増加と、木材など材料不足の供給制約の両面から見ると、まず前者に関し、FRBは3月15、16日のFOMC(連邦公開市場委員会)で政策金利を0.25%幅引き上げ、2020年3月から続けてきたゼロ金利の解除に踏み切った(2022年3月17日付ビジネス短信参照)。すでに住宅金利はこうした動きに敏感に反応しており、30年物の住宅ローン金利は2022年4月14日時点で5.00%と、1年前から約2%幅上昇している(図6参照)。金利負担が増大すれば、住宅需要を減退させる効果があると考えられる。

図6:30年固定住宅ローン金利の推移
住宅金利が急上昇しており、30年物の住宅ローン金利は4月14日現在5.00%と、1年前から約2%上昇している

出所:連邦住宅金融抵当公庫(フレディ・マック)からジェトロ作成

しかし、今後さらに金利が上昇することを見越した購買需要が見込まれることから、住宅市場は2022年も堅調に推移すると予想されている。

一方、供給面では、木材価格の上昇はピークからは鈍化しているが、2022年も建設資材の価格高騰がある程度続くものと予想されている。また、配送などサプライチェーンの混乱が続いており、サプライチェーンの逼迫具合を示す指数であるGSCPIは2月に3.31と、いまだ高い水準にある(2022年3月8日付ビジネス短信参照)。このように、供給面からも住宅価格の上昇圧力が続くと予想されており、こうした状況から、2022年の住宅価格は10~15%程度の上昇が各種調査では見込まれている。

実際に、直近2022年1月のケース・シラー指数は前年同月比19.2%上昇と引き続き高い伸びが続いている。行き過ぎた住宅価格の上昇は、債務返済負担の増加などから家計のバランスシートを悪化させる。また、米国の持ち家比率は65%程度で、残りの約4割は家賃上昇の影響を直接的に受ける。家賃は、一般に米国家庭の月々の支出の3割ほどを占めるとされており、家賃が上昇すれば、こうした家計の消費意欲を減退させ得る。また、ウクライナ情勢の悪化を背景に、原油価格が一時期1バレル130ドルを超えて13年8カ月ぶりの水準に高騰しており、ガソリンや食料品価格の歴史的上昇が続いていることも、消費の悪材料となっている。コストプッシュ型の物価上昇から、インフレと景気後退が同時に進むスタグフレーション発生も懸念されており、今後の世界的な景気後退の可能性も指摘される。住宅価格は、投資対象としての性格も強く、景気の動向に大きく左右されることから、ウクライナ情勢の動向を含め、今後の米国および世界の景気に注視していく必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
宮野 慶太(みやの けいた)
2007年内閣府入府。GDP統計、経済財政に関する中長期試算の作成などに従事。中小企業庁や金融庁にも出向し、中小企業支援策や金融規制などの業務を担当。2020年10月からジェトロに出向し現職。