RCEP協定の意義と具体的な活用メリットとは
日タイ経済政策対話フォーラム(2)

2022年8月12日

日本とタイの修好135周年を記念した日タイ・ハイレベル経済政策対話フォーラムでは、タイ商務省、日本の経済産業省、ジェトロ、タイ投資委員会の4者で、どのように日本とタイの経済協力や経済連携を深めていくか、議論した。特に日本とタイが締結した3つの自由貿易協定(FTA)がテーマとなった。これまでの貿易の進展に加えて、2022年に発効した地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の意義や活用方法について、政府側での議論を紹介する。シリーズ2回目。

タイ貿易交渉局長が現在の日タイFTAの活用状況を紹介

タイ商務省貿易交渉局(DTN)のオラモン・サッタウィータム局長は、日タイがこれまで締結したFTAを通じ、両国関係がどのような形になってきたかを説明した。日本とタイの間には現在、3つのFTAが締結されている。2007年に日タイ経済連携協定(JTEPA)が発効した後、2009年にASEAN日本包括的経済連携(AJCEP)協定、そして、2022年に地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効している。


タイ貿易交渉局(DTN)のオラモン・サッタウィータム局長(ジェトロ撮影)

オラモン局長によると、JTEPAが発効する前の2006年と発効後の2021年のタイの対日輸出額を比較した場合、自動車・部品は約2.3倍に拡大したという。鶏肉加工品や化学品、機械・部品も拡大している。さらに、タイの対日輸入額も拡大しており、製造業に不可欠な原料の鉄鋼や機械部品、電気部品、自動車部品、化学品などの日本からの輸入が増えた。 同局長は「日タイで締結されたFTAが、過去15年間で両国の貿易・投資を拡大させたエンジンになっている」と強調した。JTEPA、AJCEP協定、RCEP協定では、大部分の品目の輸入関税が撤廃される。例えば、JTEPAでは、タイは日本から輸入する94%の品目に対して輸入関税を撤廃した。反対に、日本はタイに対して88%の品目の関税を撤廃した。また、2009年に発効したAJCEP協定では、タイは90%の品目の関税を撤廃し、日本は87%の品目の関税を撤廃した。

RCEP協定では、発効時点でタイは日本に対して66%の品目、日本はタイに対して73%の品目の関税を撤廃したが、今後は他の品目についても段階的に関税が削減されていく予定となっている。オラモン局長は「3つのFTAのうち、各事業者が自社にとって最適なものを選ぶことができる」と述べた。

続いて、オラモン局長は日タイFTAの利用状況を解説した。タイの対日輸出で、JTEPAの過去4年間の平均利用率は84.8%に上るという。他方、AJCEP協定の利用率は4.3%となっており、タイの対日輸出ではJTEPAの方がより多く利用されている。

タイの日本からの輸入については、オラモン局長は「JTEPAの利用率は過去4年間の平均で46.5%と、全体の半分にも満たない」と指摘する。同局長は「タイの輸入者はJTEPAを十分に活用できておらず、FTA活用促進に向けた調査をすべきだ」と述べた。AJCEP協定の利用率も1.6%と低いという。

オラモン局長によると、タイから日本への輸出品目でJTEPA、AJCEP協定が活用されている代表的な例として、鶏肉加工品やエビ加工品、ケーブル、ポリマーなどがあるという。他方、タイの対日輸入品目では、特に鉄鋼製品や自動車部品でFTAが活用されている。

次に、2022年に発効したRCEP協定について、同局長は「経済規模がメリットだ」と指摘する。RCEPには、ASEAN10カ国と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが参加しており、「交渉から離脱したインドにも、いつでも参加できるようドアは開かれている」と同局長はいう。「15カ国の総人口は合計で22億人に上り、世界人口の3分の1を占める。貿易総額も世界貿易の3分の1、タイの貿易総額の3分の2を占める」として、その重要性を強調した。

RCEP協定の活用状況について、オラモン局長は「例えば、タイから日本へ輸出する水産加工品や野菜加工品、果物やタピオカなどでRCEP協定が使われている」とし、2022年1~3月ではRCEP協定活用の輸出額が11億6,500万バーツ(約43億1,050万円、1バーツ=約3.7円)だったと述べた。金額としてはまだ小さいが、水産物などで活用が進んでいる。

RCEP協定は通常の二国間FTAと違う意義持つ

経済産業省通商政策局の矢作友良審議官(当時)は「オラモン局長の指摘するとおり、RCEP協定は世界でも最大級の自由貿易協定だ」と述べた。より広範な地域で市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる国々の間で知的財産や電子商取引など、さまざまな分野のルールを整備する点、また、RCEPが2011年にASEANによって提案され、ASEANの中心性(注)の概念に基づいて構築されたという点から、通常の二国間 FTA とは違う意義も持っているという。


経済産業省通商政策局の矢作友良審議官(当時)(ジェトロ撮影)

アジアでは多数のFTAによって高度なサプライチェーンが構築されているが、「RCEPによって地域のルール整備と、貿易投資の自由化、サプライチェーンの効率化といったことが期待される」と矢作審議官は言う。「例えば、既存の FTAでは原産地規則の達成が難しかった製品も、RCEP協定では利用できるなど利便性が高くなった」という。

矢作審議官によると、RCEP協定を活用してタイから日本への加工食品の輸出、ベトナムなどから日本への繊維製品の輸出が期待できる。広域FTAである点に着目し、複数のRCEP協定締約国の工場で製造した製品を日本に一度集約し、またRCEP協定締約国に輸出する動きもある。この協定によって原産地規則のルールが統一されたことにより、輸出や投資で企業の負担が軽減されるメリットもある。

RCEP協定では、既存FTAより原産地規則がシンプルに

ジェトロ・バンコク事務所の竹谷厚所長(当時)は「日本側でのRCEP協定の原産地証明書の発給件数をみると、発効から3カ月間で伸びている」と指摘した。タイ側の統計をみても、「RCEP協定はタイの対日輸出でも使われている。発効したばかりの協定で、まだ利用が進んでない面もあるが、今後十分なチャンスがある」と述べた。


ジェトロ・バンコク事務所の竹谷厚所長(当時)(ジェトロ撮影)

具体的にどういう品目にRCEP協定活用のチャンスがあるのかという問いに対して、竹谷所長は「例えば、魚肉加工品やアルコール飲料などだ」と述べた。JTEPAで魚類調製品の原産地規則は複雑だったが、RCEP協定であれば、HSコードの上2桁の関税番号変更基準(CC)か、付加価値基準(RVC)40%のどちらかを満たせば良く、ハードルが低くなっている。アルコール飲料でも、JTEPAではHSコードの上4桁の関税番号変更基準(CTH)のみだったが、RCEP協定の場合、RVC40%でも原産地規則を満たせるようになった。

また、竹谷所長は「タイに立地する企業の例では、例えば、日本から材料を輸入してタイで加工し、中国へ輸出するケースでも、RCEP協定の利用が可能だ。逆に、中国をはじめRCEP加盟国の原材料をタイで加工して日本に輸出するなど、RCEP協定は事業内容に応じて多彩な使い方が可能で、ビジネスプランが組み立てやすくなる」と述べた。

最後に、オラモン局長はRCEPの優れた点をさらに深掘りし、「RCEP協定によって関税手続きが簡易化した」点もメリットとして挙げた。RCEP協定は10年以上前に発効したJTEPAよりも「現実の貿易取引に即した実務的なルール設計の協定」という。同局長は「例えば、通関にかかる時間が限定され、より短時間で手続きが行える。腐敗しやすい商品を早く通関したい場合は(可能な限り)6時間未満で、一般品目は48時間以内に通関を終えるように規定されている」と述べた。また、物品貿易だけでなく、サービス貿易や投資についても促進が期待できる点を強調した。


注:
ASEANが域外の大国に影響されず、ASEANがまとまって地域で中心的な役割を果たすことを意味する。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、ジェトロ・カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。