乗用車販売・生産とも、大きな復調なし(スペイン)
半導体不足や景気回復の遅れが影響

2022年11月24日

2021年、スペインの自動車販売・生産は、世界的な半導体不足や景気の先行き不透明などの影響を受け、全般的に低調だった。乗用車新車登録台数は、85万9,476台で、前年比1.0%増だった。一方で、代替燃料車がディーゼル車の新車登録台数を初めて抜くなど、低公害車の普及が着実に進んでいる。また、2021年の乗用車生産台数は209万8,133台。7.5%減になった。一方で、バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)の生産台数は前年から約4割増加。生産台数全体の1割近くを占めるに至った。

韓国車の登録台数が急伸

スペイン自動車工業会(ANFAC)によると、2021年の乗用車新車登録台数は前年比1.0%増の85万9,476台。2020年と同様、新型コロナ禍前の2019年を3割下回る水準に終わった。

確かに、新型コロナウイルスの感染状況は改善した。しかし、(1)景気の先行き不透明感が続いたこと、(2)世界的な半導体不足による供給制約が重い足かせとなり、感染状況が落ち着いた後の需要回復を取り込めなかったこと、が響いた。なお、乗用車以外では、小型商用車・バンが4.0%減の15万1,823台、トラック・バスが6.3%増の2万2,764台となった。

主要メーカー・ブランド別の新車登録台数をみると、首位のセアト〔フォルクスワーゲン(VW)傘下〕が、前年比17.2%増の8万1,613台と大幅に伸びた(表1参照)。高性能スポーツ車ブランド「クプラ」が奏功した結果とみられる。2位はトヨタ(レクサスを含む)で、5.4%増の6万8,462台。日系メーカー・ブランドの合計シェアは14.2%だった。

表1:主要メーカー・ブランド別新車登録台数とシェア(2021年)(単位:台、%、ポイント)(△はマイナス、―は値なし)
メーカー・ブランド 販売台数 前年比 シェア シェア
(前年との差)
セアト/クプラ 81,613 17.2 9.5 10.2
トヨタ/レクサス 68,462 5.4 8.0 0.3
プジョー 67,266 2.4 7.8 0.1
フォルクスワーゲン(VW) 61,724 △ 7.6 7.2 △ 0.7
現代 57,508 26.7 6.7 1.4
起亜 57,235 20.2 6.7 1.1
ルノー 51,700 △ 7.9 6.0 △ 0.6
シトロエン 47,072 7.4 5.5 0.3
ダチア 36,771 △ 6.7 4.3 △ 0.3
BMW 35,193 △ 0.1 4.1 △ 0.0
アウディ 34,732 △ 6.8 4.0 △ 0.3
メルセデス・ベンツ 33,676 △ 20.5 3.9 △ 1.1
オペル 30,350 0.4 3.5 △ 0.0
フォード 29,336 △ 15.6 3.4 △ 0.7
フィアット 28,231 △ 1.0 3.3 △ 0.1
シュコダ 26,439 16.6 3.1 0.4
日産 26,058 △ 25.0 3.0 △ 1.1
その他 86,110 0.3 10.0 △ 0.1
合計 859,476 1.0 100.0

注:トヨタは、レクサスを含む、セアトは、クプラを含む。
出所:スペイン自動車工業会(ANFAC)

増加が顕著だったのは、韓国勢。具体的には、現代と起亜ということになる。主に小型クロスオーバーSUV(スポーツ用多目的車)の好調により20%台の伸びに。韓国系メーカー・ブランドの合計シェアは、13.6%に達した。また、近年、SUVやBEVを中心に存在感を増しつつある中国車は、1,617台が登録された。これは、前年の8倍近くに当たる。中国系の主なブランドとしては、(1)上海汽車傘下のMG、(2)リンク・アンド・コー〔Lynk & CO、吉利汽車とボルボ(注1)による合弁〕、(3)東風小康汽車(DFSK)などがある。

なお、登録台数上位5モデルは、セアト「アロナ」(2万1,946台)、現代「ツーソン」(2万1,258台)、ダチア「サンデロ」(2万419台)、プジョー「2008」(1万9,426台)、トヨタ「カローラ」(1万6,983台)になった。

ついに代替燃料車のシェアがディーゼル車と逆転

乗用車の新車登録台数を燃料別にみると、代替燃料車のシェアが34.9%だった。前年から12.4ポイント増となり、大幅な伸びを見せたかたちだ。対照的に、ガソリン車は45.1%と前年から4.7ポイント減少。ディーゼル車に至っては、19.9%と7.8ポイント減少し、ついに、代替燃料車とシェアが逆転したことになる(図1参照)。

図1:乗用車新車登録台数の燃料別シェアの推移
ディーゼル車の割合は、2015年62.9%、2016年56.8%、2017年48.3%、2018年35.8%、2019年27.9%、2020年27.7%、2021年19.9%。ガソリン車の割合は、2015年35.1%、2016年40.2%、2017年46.6%、2018年57.5%、2019年60.1%、2020年49.8%、2021年45.1%。代替燃料車の割合は、2015年2.0%、2016年3.0%、2017年5.1%、2018年6.7%、2019年12.0%、2020年22.5%、2021年34.9%。

注:代替燃料車は、バッテリー式電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、ハイブリッド車(HV)、燃料電池車(FCV)、天然ガス自動車(NGV)、LPG(液化石油ガス)自動車を含む。
出所:ANFACのデータを基に作成

2021年の代替燃料車の新車登録台数は30万373台。前年から56.7%増加した(表2参照)。このうちBEVとPHEVを合わせた台数は、前年比62.3%増、6万6,910台だった。前年に続き大きく伸びた一方、登録台数全体に占めるシェアは7.8%とまだ低い。これは、スペイン国内で、充電ポイント整備が大幅に遅れていることが影響しているとみられる。その設置数は1万480カ所。国土面積がほぼ同じフランス(3万7,128カ所)と比べて、大きく見劣りする(注2)。

そのため、ハイブリッド車(HV)を軸に代替燃料車が普及していくという状況は、短期的に変わらないと見られる。代替燃料車を含めたすべての乗用車新規登録台数のうち、4台に1台がHVだった(21万9,423台)。前年比59.7%増と、伸び率も高い。なお、当年中スペインで登録されたトヨタ車は、8割がHVだ。

表2:代替燃料車の新規登録台数の内訳と主要モデル(2021年)(単位:台)(―は値なし)
項目 2020年 2021年 登録台数上位モデル
ハイブリッド車(HV) 137,425 219,423 トヨタ「カローラ」「C-HR」「ヤリス」(いずれもHVモデルだけ販売)、フィアット「500(マイルドHVモデル)」、現代「ツーソン(マイルドHVモデル)」
プラグインハイブリッド車(PHEV) 23,304 43,221 プジョー「3008(PHEVモデル)」、起亜「エクシード(PHEVモデル)」、メルセデス「A250e」、ボルボ「XC40(PHEVモデル)」、ルノー「キャプチャー(PHEVモデル)」
バッテリー式電気自動車(BEV)・燃料電池車(FCV) 17,927 23,689 テスラ「モデル3」、起亜「ニロ(BEVモデル)」、ルノー「ゾエ」、ダチア「スプリング」、プジョー「2008(BEVモデル)」
オートガス車(LPG) 9,880 12,895 ダチア「サンデロ」「ダスター」、ルノー「キャプチャー」「クリオ」などをレトロフィット
圧縮天然ガス車(CNG) 3,204 1,145 セアトやシュコダの既存モデルをレトロフィット
合計 191,740 300,373

注:販売店・ディーラーによる自社登録も含まれる。
出所:ANFAC

ANFACによると、2022年1~7月の乗用車新車登録台数は、前年同期比11.0%減と低迷している。その要因としては、(1)半導体不足による納期の長期化と、(2)インフレの加速による消費者の購買力低下が挙げられた。

この状況に、政府は2021年から、BEV、PHEV、燃料電池車(FCV)だけを対象に購入補助金を支給している。その結果として、2022年1~7月の補助対象車両の登録台数は、前年同期比で29.0%増加した。ただし、新車登録台数全体に占めるBEV、PHEV、FCVの割合は8.1%にとどまる。ちなみに、現行の購入補助制度は、2022年6月に当初予算の4億ユーロが払底。そのため、新たに2億2,500万ユーロの増額が発表された。

半導体不足による稼働停止などで生産不振

ANFACによると、2021年の自動車生産台数は209万8,133台。前年比7.5%減だった(図2参照)。国際比較では、ブラジルに再び抜かれ世界9位に順位を下げた。その背景には、(1)新型コロナ後の景気の先行き不透明による需要減に加え、(2)半導体逼迫の問題が顕在化したことがある。ステランティス、フォルクスワーゲン(VW)、ルノー、フォード、ダイムラー・メルセデス・ベンツなど、当地に所在する大部分のメーカーでは、部品不足により、年間を通じて断続的に製造拠点の稼働が停止された(注3)。

輸出台数も半導体不足や欧州市場の低調を反映し、前年比6.7%減の182万台になった(生産台数全体に占める比率は86.8%)。輸出先は9割方が欧州だ。一方で、日本も重要な輸出先の1つだ(欧州外では、メキシコ、モロッコ、チリに次ぐ市場)。2021年は小型車、バン、SUVの日本市場投入(注4)が相次いだ。その結果として、1万8,679台がスペインから日本に輸出された。これは、前年比2割増の実績に当たる。

図2:スペインの自動車生産・輸出の推移(2017~2021年)
生産台数は、2017年284.8万台、2018年282.0万台、2019年282.3、2020年226.8万台、2021年209.8万台。うち乗用車の生産台数は、2017年229.1万台、2018年226.7万台、2019年224.8万台、2020年180.1万台、2021年166.2万台。小型商用車・バンの生産台数は、2017年49.5万台、2018年49.7万台、2019年52.5万台、2020年43.1万台、2021年38.4万台。トラックの台数は、2017年6.2万台、2018年5.5万台、2019年5.0万台、2020年3.7万台、2021年5.2万台。輸出台数は、2017年231.8万台、2018年230.4万台、2019年231.0万台、2020年195.1万台、2021年182.1万台。

出所:ANFAC

BEV・PHEVの生産割合が1割近くに

スペインは、欧州でドイツに次いで自動車生産台数が多い。日欧米の完成車メーカー9社が16の製造拠点をスペイン国内に置いている(注5)。

生産台数のうち8割は、小型SUVなど小型車を中心とした乗用車だ。そのほか、小型商用車・バン、トラックも生産されている。

ここで、燃料別の生産台数を追ってみる。ガソリン車とディーゼル車が全生産台数に占める割合は2021年時点で、それぞれ57.9%、30.6%。いずれも、年々減少が続いてきた。一方で、BEVとPHEVの割合は合わせて9.2%。前年から倍増し、生産台数は19万4,936台と前年から39.3%増加した。

スペインで生産されている全45車種のうち、BEVは14車種、PHEVは7車種ある(注6)。代表的なBEVモデルとしては、プジョー「2008」、シトロエン「C4」、同「ベルランゴ」(およびトヨタがOEM供給する「プロエース」)、メルセデス・ベンツ「Vクラス」などがある(前年比36.6%増、7万6,492台)。また、PHEVモデルとしては、フォード「クーガ」、ルノー「メガーヌ」、同「キャプチャー」、クプラ「フォーメンター」など(同41.1%増、11万8,444台)。

自動車産業の電動化には、政府も取り組む。2021年末からは、「EV・コネクテッドカー分野の戦略的復興・変革プロジェクト(PERTE-VEC)」の公募手続きが始まった。これは、新型コロナ感染拡大からの復興計画に関わる官民連携事業とも捉えることができる。この枠組みで、電動化する上で鍵になる車載用リチウム電池工場の誘致をめぐる動きが活発化した。例えば、VWグループは2022年3月、東部バレンシア州に車載用リチウム電池工場を建設すると発表した(2022年3月28日付ビジネス短信参照)。また、同年6月には、中国再エネ開発大手「遠景科技集団(エンビジョングループ)」も参入。同集団傘下のバッテリー製造会社が、西部エストレマドゥーラ州に車載用リチウム電池工場を建設することを明らかにしている(2022年6月9日付ビジネス短信参照)。


注1:
ボルボは、本来スウェーデン系企業。ただし、現在、吉利汽車の傘下にある。そのため、中国系企業と考えることもできる。
注2:
EU代替燃料観測機関(EAFO)が示した2021年時点の情報に基づく。
注3:
断続的な稼働停止があった企業は、ステランティス、フォルクスワーゲン(VW)、ルノー、フォード、ダイムラー・メルセデス・ベンツなど、幅広い。
注4:
日本市場に小型車、バン、SUVなどを投入した企業としては、シトロエンやVW、メルセデス・ベンツ、ルノーなどが挙げられる。
注5:
日産は、バルセロナ工場を2021年末に閉鎖した。しかし、ほかに部品工場が2カ所あり、スペインでの生産を続けている。
注6:
共同開発車は、メーカーごとに1車種と計算。
執筆者紹介
ジェトロ・マドリード事務所
伊藤 裕規子(いとう ゆきこ)
2007年よりジェトロ・マドリード事務所勤務。