VW、バレンシアにEV向け大型バッテリー工場建設へ

(スペイン)

マドリード発

2022年03月28日

ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は3月23日、スペイン東部バレンシアに電気自動車(EV)向け車載バッテリーセル工場を設置すると発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。欧州内に建設予定のセル製造拠点6カ所〔合計年間240ギガワット時(GWh)、合弁を含む〕のうち、ドイツとスウェーデンに続く3カ所目(注)となり、生産能力は年間40GWhで、2026年の稼動開始を予定している。

VWはスペイン内に2つある製造拠点でEV生産を計画している。当地各紙によると、バルセロナ県ではグループ傘下のセアトからスピンオフした高性能スポーツ車ブランド「クプラ」やシュコダの小型EVモデル、ナバラ県ではVWの多目的スポーツ車(SUV)のEVモデルなどの生産が想定されているという。バレンシアにはVWがEV分野などの包括提携を結ぶ米国フォードの生産拠点もあり、現地では同工場への供給の可能性も期待される。

EV・コネクテッドカー分野の復興基金プロジェクト第1号

今回発表された新バッテリー工場の建設は、VWがセアトや、自動車部品、通信、電力大手、リチウム採掘企業などと組んで実施を目指す、大規模な電動モビリティーエコシステム構築プロジェクトの根幹をなす。この工場の建設に加え、リチウムなどの原料採掘に始まるバッテリーのバリューチェーン構築と、VWグループの乗用車製造拠点の電動化を含めた投資予定額は70億ユーロ(外部サプライヤーの出資を含む)に上る。VWは「スペインで過去最大の産業投資」を行い、同国の電動モビリティー化を主導する意向だ。

この巨額の投資の前提条件となるのはEU復興基金による支援だ。スペイン政府が復興基金支援の目玉として掲げる「EV・コネクテッドカー分野の戦略的復興・変革プロジェクト(PERTE-VEC)」(2021年7月29日記事参照)では、2021~2023年に42億9,500万ユーロの公的支援を予定し、総額240億ユーロの官民連携投資を見込んでいる。この公的支援の7割に相当する約30億ユーロがEV開発・生産支援に投じ、今回のVWのバッテリー工場のようなプロジェクトの支援に充てる。EV開発・生産投資の支援対象プロジェクトの公募は4月1日に始まり、年内にはバッテリー工場の建設が現実化していくとみられる。

なお、VWはバッテリー工場で3,000人規模の新規雇用創出を予定する。その一方で、セアトはバルセロナ工場の電動化によりギアボックスなどの従来部品が不要となるほか、車両組み立てに要する時間も30%短縮されることから、直間接雇用を含め2,500~2,800人の人員過剰が生じるとしている(3月9日付「ヨーロッパ・プレス」)。産業変革が進む中、自動車業界の雇用のミスマッチが顕在化しつつある。

(注)スウェーデンの製造拠点は、ノースボルトのリチウムイオン電池セル工場への出資。詳細は2021年6月16日記事参照。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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