欧州最大級の食品見本市「アヌーガ」開催、新たな食のトレンド示す(ドイツ)

2022年1月24日

ドイツ西部ノルトライン・ウェストファーレン州ケルン市で2021年10月、欧州最大級の食品関連見本市「アヌーガ(ANUGA)」が開催された。新型コロナウイルス禍の中、主催者や出展者、来場者は感染防止対策を徹底しながら、会場では活発な商談が数多く行われた。また「食の変革(food transformation)」をテーマに、代替肉や持続可能な食品など先進的な商品を展示するコーナーも設けられた。ジェトロはジャパン・パビリオンを設置し、日本企業の出展を支援した。本レポートでは、同見本市でのトレンドや、見本市で革新的とされた商品、日本からの出展企業について紹介する。

新型コロナ禍前より出展者と参加者は減少するも、世界各国から参加

ドイツ西部に位置するケルン市で2021年10月9~13日、欧州最大級の食品・飲料見本市「アヌーガ」が開催された。この見本市は2年に1回の開催で、36回目の今回は新型コロナ禍での開催のため、リアル参加とオンライン参加のハイブリッド形式で実施された。主催者の発表では、会場での出展者数は98カ国から4,643社、来場者数は169カ国から7万人以上に上ったという。一方で、前回の2019年は出展者数が106カ国から約7,590社、来場者数は201カ国から17万人以上と、出展者数、来場者数ともに前回と比べて大きく減少した。

出展者、来場者ともに見本市会場への入場時には(1)新型コロナワクチン接種証明書、(2)感染からの回復証明書、(3)陰性証明書のいずれかの提示が求められた。また、会場内での手指の消毒やマスク着用義務、握手の自粛など、感染拡大防止のための衛生ガイドラインが用意された。新型コロナ感染拡大の影響で、ドイツの見本市の多くはオンラインのみの開催や延期がされていたが、2021年9月以降はノルトライン・ウェストファーレン州デュッセルドルフ市で開催されたスタートアップイベント「Digital Demoday 2021」(2021年9月16日付ビジネス短信参照)、北部ニーダーザクセン州ボルフスブルク市で開催された「オートモーティブ・サプライヤーズ・サミット@IZB2021」(2021年10月13日付ビジネス短信参照)など、感染拡大防止ルールを守りながらリアルでの見本市やイベントの開催が再開されつつあった。

また、リアル開催に合わせて、デジタルプラットフォーム「アヌーガ@ホーム」も設置された。同プラットホームでは活発なネットワーキングや講演、ガイド付きツアーの参加が可能だったほか、出展者はデジタルショールームで自社商品の紹介ができた。

テーマは「食の変革」、革新的な商品も紹介

今回のテーマは「食の変革」だった。世界の食産業は変革期にあり、新型コロナ禍以前から、将来の世界人口約100億人でどのように食料を分け合っていくのか、気候変動対策のためにいかにして持続可能な産業へ移行するかなどの課題が明らかになっている。このテーマは、これらの課題に対して食産業の変革をどのように実現していくかという点に焦点を当てた。また、アヌーガでは最も重要な食産業のメガトレンドとして「持続可能性」と「健康」を掲げた。このほかにも、2021年の食産業の7つのトレンドと4つの注目トピックが示された(表1参照)。

表1:2021年アヌーガでの7つのトレンドと4つの注目トピック

トレンド
NO トレンド 特徴
1 代替肉タンパク質 消費者の「代替肉」への需要の拡大により、代替肉の原料は植物性タンパク質だけではなく、培養肉や昆虫まで拡大している。
2 クリーンラベル 原料、生産地、エシカル(倫理的)な面、環境面などの情報を消費者に伝える食品ラベルのこと。加えて、砂糖や人工的な原材料を減らし、代わりに植物由来や天然の原材料を使う健康的な食品という意味も含むようになっている。
3 手軽な食品・スナック(軽食) 食事の準備や食事にかける時間が短くなるにつれて、スナック(軽食)の需要が高まっている。調理不要または調理が簡単な食品、チルド食品などによるスナックは、手間暇をかけるしっかりとした食事の代替となり得る。
4 「〇〇フリー食品」や健康食品 「〇〇フリー食品」とは「グルテンフリー食品」など、特定の成分を含まない食品のこと。加えて、健康は最も重要なトレンドとして認識されている。食物不耐性の増加や、よい食生活への意識の高まりにより、健康的な食品や、グルテン、ラクトース、フルクトースなどを含まない「〇〇フリー食品」の市場シェアはますます高まっている。
5 植物性タンパク質やこれを含む食品 植物性タンパク質やこれを含む食品は肉の代替としてだけではなく、健康やフィットネスの要素としてもブームを迎えている。大豆やエンドウ豆、カボチャの種、ヒワマリの種から製造したタンパク質が多く使われている。
6 スーパーフードや古代穀類 スーパーフードはビタミンやミネラルなどの含有量が非常に多く、免疫力アップやコレステロール低減など健康に良い効果を与えるとされる。キヌアやテフ、アマランス、キビ、モロコシなどの古代穀類はスーパーフードの一部。
7 持続可能な生産や包装 持続可能性に対する消費者の意識はかつてないほど高まっており、企業は食品廃棄物やプラスチックごみの削減を求められている。食品は生産方法や包装の持続可能性の程度により評価、購入がなされるようになっている。
注目トピック
NO トレンド 特徴
1 ハラール 「ハラール」認証を取得した食品への人気が高まっている。中東地域での需要が欧米にも波及し、全体としてハラール食品市場は成長している。
2 コーシャ ユダヤ教の戒律に基づく食規定「コーシャ」の基準を満たした食品。最大の市場は北米で、中東やアフリカでも需要が高まっている。主なカテゴリーはパンなどのベーカリー、ソースなどの調味料、スナック。
3 食通向けやこだわりのグルメ食品 高品質、高級な食材や、自分が購入する食品の背景にあるストーリーや原産地に対する消費者の意識が高まっている。メーカーは味や品質を強調するため、原材料の産地情報の充実を重視するようになっている。
4 プライベートブランド プライべートブランドはいまや低価格、低品質の商品ではなくなっている。地元のブランドとの提携により、消費者の多様で地元産商品を求めるニーズに沿って独自の品ぞろえを実現している。

出所:主催者ウェブサイトからジェトロ作成

会期中には「アヌーガ・テイスト・イノベーション・ショー」というイベントも開催された。418社が1,332の商品やアイデアを持ち寄り、その中から審査員が革新性や持続可能性、創造性の観点から67商品〔主催者ウェブサイトPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(6.39MB)〕を選定した。これらの商品は会期中に特設コーナーで展示され、来場者やメディア関係者に対してアヌーガでの革新的な商品として紹介された。また、特に革新的な上位10品が発表され、ドイツからは2品が選出された(表2参照)。


特設コーナーの様子(ジェトロ撮影)
表2:「アヌーガ・テイスト・イノベーション・ショー」で上位10品に選定された商品
企業名 商品 商品概要
ロタオ ドイツ ビーガン・パラミツ団子 スーパーフードのジャックフルーツ(パラミツ)から作った代替肉のミートボール。
フロストクローネ・フード・グループ ドイツ 赤ビーツ団子 赤ビーツや野菜などを混ぜて団子状にした商品。冷蔵庫から出してすぐ食べることも、オーブンで温めて食べることも可能。
イル・ペースト・ディ・プラ イタリア 冷凍ペーストドロップ バジルペーストを冷凍し、1つ15グラムのドロップの形状にした商品。さまざまな調理、レシピに活用できる。
スルジタル イタリア 冷凍サフランソース 最高級の素材で作ったサフランソースを丁寧に冷凍保存した商品。
エスカル フランス 冷凍ホタテウエハース 殻に見立てたサクサクのウエハースの上にガーリック・パセリ・ソースとホタテを乗せた冷凍食品。フィンガーフードやブッフェでの提供も想定される。
カフェ・サティ フランス 堆肥化可能なコーヒーカプセル 堆肥化可能な素材でパッケージを作ったコーヒーカプセル。パッケージは100%リサイクル素材から作られており、室温で6カ月間で堆肥化可能。
アセイトゥナス・トレント スぺイン フレーバードオリーブ 8種類のフレーバーをつけたオリーブの実。100%サステナブルな缶に詰めており、1回分となるよう小分けにしている。
ファイネスト・セレクション ハンガリー 赤ビーツのバー 砂糖や人工甘味料、保存料など不使用で、有期の野菜とフルーツから作られたグルテンフリー・バー。
ロイヤル・ノルディック ラトビア サーモンジャーキー ノルウェー産の高品質なサーモンを使用したジャーキー。タンパク質とオメガ3脂肪酸が含まれており、間食や料理への使用が想定される。
IMAG オーガニックス メキシコ 低アルコールのラガービール 新種のホップと高貴なホップの品種ゴールディングを複雑にブレンドし、アガベシロップなどを入れたすっきりとしたさわやかな味を実現した低アルコールのラガービール。

出所:主催者ウェブサイトからジェトロ作成

上位10品に選出された商品はまさに「食の変革」に対応している先例といえよう。例えば、ドイツから選出された2011年設立のロタオ(本社:ベルリン市)は、ジャックフルーツ(パラミツ)を肉の代わりに使い、動物由来の原材料を全く使わない「ミートボール」や「ミートソース」といった商品などを製造・販売する。筆者自身もミートソースを試食したが、肉が入っているような食感と味だった。また、前述のショーで選出されたジャックフルーツ(パラミツ)団子のほか、スパゲッティ用のソースやハンバーガー用のパティなど商品展開も幅広い。

代替肉タンパク質はアヌーガのトレンドの1つである。人々が現在摂取するタンパク質の大部分は動物由来のものだ。一方で、環境への影響がより小さく、動物由来のものと遜色のない栄養がある植物由来タンパク質を求める動きが強くなっている。より多くの消費者が健康や持続可能性に注目するようになり、代替食品や代替原料への需要が増加傾向にあるという。代替タンパク質の利用は、植物由来のものだけではなく、昆虫や肉の細胞を培養して作られる培養肉へと拡大している。


ロタオのブースにはさまざまな商品が並ぶ
(ジェトロ撮影)

上位10品に選出されたロタオの
ビーガン・パラミツ団子(ジェトロ撮影)

日本から出展した企業も多くの商談実施

ジェトロは今回もジャパン・パビリオンを設置した。パビリオン内には日本から32社・団体が出展した。アヌーガは10分野(表3参照)に分かれており、そのうち「ファイン・フード」分野で調味料や加工食品関連の日本企業21社・団体が出展した。また「ドリンク/ホット・ドリンク」分野で日本茶や清涼飲料水、アルコールなど飲料関連の日本企業11社・団体が出展した。特に醤油やわさびなどの調味料や、ゆずを使用した飲料・調味料などの商品、出産を経験した和牛(経産牛)などを出展したブースが盛況だったほか、低カロリー・低コレステロールといった健康志向を前面に出した魚肉ソーセージなどに来場者が関心を寄せた。過去に出展経験のある出展者によると、例年より来場者は少なかったが、目的を持って来場するバイヤーが多く、手応えのある商談が多数できたという。

表3:アヌーガの展示分野
展示分野 出品物
ファインフード グルメ、デリカテッセン、一般食品
肉、ソーセージ、ジビエ、鶏肉
冷凍食品 冷凍食品、アイスクリーム製品
ドリンク ドリンク
パン・菓子類 パン、焼き菓子、スプレッド
乳製品 乳製品
有機食品 有機食品
ホットドリンク ホットドリンク
冷蔵・生鮮食品 惣菜、魚介類、果物、野菜など
料理コンセプト 調理、食品サービスケータリング市場向けの機器・技術

出所:主催者ウェブサイトからジェトロ作成


ジャパン・パビリオンの様子(ジェトロ撮影)

ゆず関連飲料に関心を持つ来場者
(ジェトロ撮影)

なお、今回のアヌーガの様子はジェトロの国際ビジネス情報番組「世界は今 JETRO Global Eye」でも紹介している(ジェトロウェブサイト)。

次回のアヌーガは2023年10月7日~11日に開催予定。

関連リンク

執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
作山 直樹(さくやま なおき)
2011年、ジェトロ入構。国内事務所運営課、ジェトロ金沢、ジェトロ・ワルシャワ事務所、企画課、新産業開発課を経て現職。