今後に不透明感も、積極的にESG経営
2021年の乗用車市場(ドイツ、後編)

2022年7月28日

ドイツの自動車市場を読み解く連載。後編では、2022年の販売と生産はどう見通されているのかを考察する。

ドイツ3大自動車メーカー〔フォルクスワーゲン(VW)、メルセデス・ベンツグループ、BMW〕のいずれも、半導体などの部材・原材料不足の継続やロシアによるウクライナ軍事侵攻の影響を受けるというのが見立てだ。また、各社とも、世界的に注目される環境・社会・ガバナンス(ESG)の取り組みを進めている。

今後の生産・販売に半導体供給など不確定要因

前編では、2021年の販売実績を中心に見ていった。では、2022年、国内外市場での販売と生産台数はどう予測されているのだろうか。

ドイツ自動車産業連合会(VDA)は2022年4月、当年のドイツ国内の乗用車生産台数予測を、前年比7%増の330万台に下方修正した。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響などを受けた結果だ。前回予測(2022年2月)では、13%増の350万台だった。

国外の生産台数予測も同じく、2%増の960万台に下方修正した。前回予測では、5%増の990万台だった。

その上で、ドイツ自動車3大メーカーの見通しを確認してみる。

VW

VWの見通しは、「2021年年次報告書」(2022年3月公表)から読み取ることができる。報告書によると、同社が2022年に全世界で販売する乗用車台数を前年比5~10%増と予測している。ただし、(1)新型コロナウイルスの感染状況が悪化しないこと、(2)部品や原材料の不足が緩和する(特に半導体)こと、を前提にしている。

生産台数は、半導体の不足に影響される。とはいえ同社は、2022年下期には上期より半導体不足の状況が改善すると予測している。なお、同社が2021年に全世界で生産した乗用車(中国の合弁会社を含む)は、前年比6.9%減の828万2,954台。新型コロナ禍と、半導体不足による生産停止やサプライチェーン断絶が響いた。同社が計画していた生産台数を、約200万台下回った。なお、2021年にドイツ国内で生産した台数は148万3,281台。前年比9.2%減だった。

メルセデス・ベンツグループ

「2022年第1四半期 期中報告書」(2022年4月発表)で、(1)ウクライナ情勢、(2)半導体などの部材・原材料不足、(3)新型コロナウイルス対策の行動制限強化(特に中国)、が2022年の生産に影響を及ぼすとした。一方で、2022年の全世界販売台数は、2021年を多少上回るという予測だ。

半導体不足については、「2021年事業報告書」(2022年3月発表)に言及がある。供給状況は改善に向かっているという。ただし、半導体不足の解決の時点は予測できないとした。

BMW

「2021年報告書」(2022年3月公表)で、2022年の販売台数は、ウクライナ軍事侵攻の影響で2021年の水準にとどまるとしている。半導体不足は2022年下期まで改善されないとの見通しを示した。

大手3社とも、ESG経営に積極対応

世界中の多くの企業が、環境・社会・ガバナンス(ESG)を重要視している。ここからは、ESGに関連するドイツ3大自動車メーカーの取り組みを紹介していく。環境問題の解決を中心に、人権尊重・ダイバーシティの確保、長期的な経営戦略の策定などの課題にも触れる。

VW

同社が掲げる目標は、2050年までのカーボンニュートラル(炭素中立)実現だ。そのため、2030年までに、二酸化炭素(CO2)排出量を2018年比で30%削減する目標を設定。「科学的根拠に基づく目標設定イニシアチブ(Science-Based Targets initiative:SBTi、注1)」から承認を取得した。VWによると、2021年3月時点で、製造プロセスの電源の41%が再生可能エネルギー(再エネ)由来になった。なお、再エネ100%利用の拠点は43カ所に上る。

同社の「第4回ESGカンファレンス」(2021年10月開催)では、蓄電池リサイクル工場で蓄電池に使用されている原材料のリサイクル率を95%にする目標を紹介した(注2)。その目標達成に向けて、リチウム、コバルト、ニッケル、マンガンなどの原材料の回収率を高める。また、電極を再利用した原材料で生産を進める構えだ(2021年2月8日付ビジネス短信参照)。

カンファレンスでは、人材多様性にも言及された。同社の2021年の管理職ポジションに占める女性の割合は16.3%。前年比で1.2ポイント上昇したという。2025年までには、この割合を20.2%に拡大させる目標を掲げている。

メルセデス・ベンツグループ

同グループ傘下のメルセデス・ベンツは2022年4月、投資家やアナリスト向けに「ESGカンファレンス」を初開催した(2022年4月19日付ビジネス短信参照)。

これに先立って同社は、「アンビション2039(Ambition2039)」計画(2019年5月発表)の中で、2039年までに完全なカーボンニュートラルを実現する目標を決定していた。その目標達成に向けて目指すのは、乗用車1台当たりの全ライフサイクルCO2排出量を、2030年までに2020年比で50%以上削減することだ。さらには、2030年までに、生産に必要なエネルギーの7割以上を再エネでカバーする予定。この目標達成のため、自社の太陽光・風力発電設備を増強するほか、外部からの再エネ調達をさらに進める。

また、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26、2021年11月開催、注3)では、ドイツ自動車メーカーとして初めて、主要市場で販売される新車について、2035年までに全てゼロエミッション車にすることを目指す共同声明に署名した。

メルセデス・ベンツは、リサイクルなど、サーキュラー・エコノミー(循環経済)への取り組みも進めている。車両1台当たりで使用されるリサイクル素材の割合を、2030年までに4割まで拡大することを目指す。同社は現在、ドイツ南部バーデン・ビュルテンベルク州のクッペンハイムに、蓄電池リサイクル工場を建設中だ。工場はカーボンニュートラルとし、操業は2023年を予定する。

人権尊重についても、「人権尊重システム(Human Rights Respect System)」を導入済みだ。その目標として、サプライチェーン全体での人権確保を掲げている。先に述べたESGカンファレンスでは、リスクが高いとされる24種の原材料(コバルト、リチウムなど)について、必要な措置を取ることを強調した。

人材多様性については、管理職ポジションの女性の割合を2030年に3割に引き上げる予定だ。

BMW

2050年までに、自社の生産拠点だけではなくバリューチェーン全体を、完全にカーボンニュートラルにする目標を掲げている。生産された車両1台当たりのCO2排出量については、すでに2020年に2006年比で78%削減できている。これをさらに推し進め、2030年までにスコープ1とスコープ2(注4)のCO2排出量を2019年比で80%減らすことを目指している。また、2030年までに、車両1台当たりのスコープ3上流(注4)でのCO2排出量を2019年比で少なくとも20%削減するとしている。そして、BMWのCO2排出量削減に関する目標は2020年に、SBTiから承認を取得している。

BMWは、リサイクルや使用素材の削減などにも積極的だ。既に欧州内における自動車生産で約3割がリサイクル素材で生産、その割合を段階的に5割に拡大させるとしている。持続可能な技術の促進のため、BMWグループのベンチャーキャピタル部門「BMW i Ventures」を通じ、カギとなる技術に投資している。例えば、2021年10月には、リチウム抽出技術を有する米国のスタートアップ企業、ライラック・ソリューションズ(Lilac Solutions)に投資した。

人権尊重とコンプライアンスについては、「コンプライアンス・マネージメント・システム(Compliance Management System)」を導入した。このシステムでは、問題について(1)予防、(2)監視、(3)管理、(4)対応する措置が策定されている。

人材多様性にも一定の進展がみられる。BMWグループの管理職ポジションの女性の割合(全世界)は、2021年末時点で18.8%。前年比で1.0ポイント上昇した。同社は2025年までに、この割合を22%に高めることを目指している。


注1:
SBTiは、世界自然保護基金(WWF)、CDP(旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、世界資源研究所(WRI)、国連グローバル・コンパクトによる共同イニシアチブ。気候変動による世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べ1.5度に抑える上で、科学的知見に整合した削減目標を設定することを推進している。
注2:
VWの蓄電池リサイクル工場は、2021年1月、ドイツ北部ニーダーザクセン州ザルツギッターでパイロット運用を開始した。
注3:
COP26は、2021年11月、英国グラスゴーで開催された。
注4:
温室効果ガス(GHG)排出量の算定、報告の基準の1つ。そのスコープ1では、事業者自らによるGHGの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)を対象にする。スコープ2は、他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出。さらに、スコープ3では、スコープ1とスコープ2以外の間接排出(事業活動に関連する他社の排出)にまで踏み込む。 「スコープ3上流」とは、スコープ3のうち原材料調達やその輸送に関する部分のこと。

2021年の乗用車市場(ドイツ)

  1. 新規登録台数が前年比10.1%減
  2. 今後に不透明感も、積極的にESG経営
執筆者紹介
ジェトロ・ミュンヘン事務所
クラウディア・フェンデル
2020年よりジェトロ・ミュンヘン事務所で調査および地域間交流を担当。