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ラテン系有権者に多様性、きめ細かなアプローチが課題(米国)
2020年大統領選、接戦州でマイノリティー市民は(後編)

2021年1月22日

2020年11月の米国大統領選挙で、民主党のジョー・バイデン前副大統領が勝利した。ドナルド・トランプ大統領(共和党)は激戦州となったフロリダ州やテキサス州を制し、当初は優勢という見方もあった。しかし、2016年の大統領選挙でトランプ氏が勝ったミシガン州やペンシルベニア州でバイデン氏が勝利したことなどが影響。最終的な選挙人獲得数では、バイデン氏が306人、トランプ氏232人という結果だった。

前編に引き続き、接戦州でバイデン氏の勝敗を決した要因を探る。今回は、とくにラテン系(ヒスパニック系)有権者に焦点を定め、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ノースカロライナ州の各接戦州でのマイノリティー有権者の果たした役割を探る。また、近年、ラテン系人口が増加して選挙結果が注目されていたテキサス、フロリダ両州についてもあわせて報告。補足として、上下院選での状況にも簡単に触れる。

ウィスコンシン州―ラテン系有権者の投票増がバイデン氏勝利に寄与

ウィスコンシン州も、民主・共和両党の勝者が頻繁に入れ替わる「スイング・ステート」だ。今回の選挙では、バイデン氏が得票率で0.6ポイントという僅差で上回り勝利した。2016年の大統領選挙では、トランプ氏がヒラリー・クリントン氏を0.8ポイント上回って、勝利していた。

バイデン氏は、デーン郡で得票率75.5%を獲得し、トランプ氏に18万票の差をつけた。同様にミルウォーキー郡では69.1%獲得し、やはり18万票差だった。州全体では、バイデン氏が2万票上回った。

ウィスコンシン州では、マイノリティー有権者の割合は、黒人層が6%、ラテン系が4.2%と比較的低い。州全体の投票数は2016年の310万票から330万票に増加した。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、黒人の住民が多いミルウォーキー郡の投票数は民主党が期待していたほど増加しなかった。それでもバイデン氏が勝利したのは、ミルウォーキー周辺でトランプ氏が勝利した地域でバイデン氏との票差が少なかったことが要因といわれる。

ラテン系有権者の支援団体Voces de la Frontera Action(注a)は、今回の選挙結果について、次のように分析した。

  • 2016年のウィスコンシン州のラテン系有権者の投票率は46.7%だった。これに対し2020年は、選挙直前の世論調査から類推すると74%と大きく上昇した。
  • それを踏まえ州内のラテン系有権者数を基に計算すると、今回のラテン系の投票者数は6万2,568人になる。今回バイデン氏とトランプ氏の票差は2万608票だった。ラテン系有権者の投票数の増加がバイデン氏の勝利に寄与したと推測できるという。

ウィスコンシン州では今回、民主党がラテン系有権者の支持を獲得したことになる。しかし票差の少ない選挙では、今後も地域のマイノリティ・コミュニティーのまとまった票数が動くことで結果が左右されるものと考えられる。

ペンシルベニア州―マイノリティーへのアプローチが今後とも課題

ペンシルベニア州は、選挙人の数が20人と比較的多い。それだけに、選挙結果を左右する州として重視されてきた。結果としては、バイデン氏が得票率で1.2ポイント上回り勝利した。2016年の大統領選挙では、トランプ氏がクリントン氏を0.7ポイント上回っていた。

フィラデルフィア郡でバイデン氏が得票率81.4%を獲得し、トランプ氏を47万票上回った。近隣のモンゴメリー郡は62.6%獲得で13万票差、ピッツバーグのあるアレゲニー郡は59.4%獲得で15万票差だった。州全体では、8万1,000票の差になった。

ペンシルベニア州のラテン系有権者の割合は5.3%と比較的低い。しかし、ラテン系有権者数は、2010年から2019年の間に約4割増加した。今回の選挙で、30万人のラテン系有権者が新たに登録したという。ラテン系住民や移民の支援団体であるカーサ・イン・アクション(CASA in Action)は、2020年8月にバイデン氏への支援を表明。個別訪問や電話で投票や登録方法などについて説明するなど地道な活動を続けた。同団体のペンシルベニア支部のタイス・カレロ氏は「ラテン系有権者の増加がなければ、選挙結果はどうなったかわからない」と指摘する。その他にもメーク・ザ・ロード・ペンシルベニア(Make the road Pennsylvania)、ミ・ファミリア・ボータ(Mi Familia Vota)などの支援団体が、若年のラテン系有権者を中心に投票を呼びかけた。

一方、フィラデルフィア市に限ると、2016年選挙時にクリントン氏が95%の黒人票を獲得していたのに対し、今回はこれを2ポイント下回った。すなわち、黒人票を十分獲得できなかった可能性もある。「トランプ氏が選挙戦でうまく立ち回り、人種差別的とみなされていなければ、マイノリティー票の動向によっては今回の選挙結果も違っていた」とする指摘もある。両党にとって、マイノリティーへのきめ細かなアプローチが次回選挙でもカギとなる。

ノースカロライナ州―次回選挙でのインパクトが予想されるラテン系有権者

ノースカロライナ州では、トランプ氏の得票率が1.3ポイント上回った。2016年には、トランプ氏がクリントン氏を3.7ポイント上回っていた。

得票率では、州都ローリーのあるウェイク郡や人口の集中するシャーロットのあるメクレンバーグ郡で、バイデン氏が6割を超えた。しかし、郊外ではトランプ氏が票を集めた。州全体では、トランプ氏が7万4,000票上回った。

ノースカロライナ州では、ラテン系有権者の割合が4.4%と比較的低い。ラテン系人口が若く、ラテン系有権者数が少ないことやラテン系有権者の政治的意識がまだ確立されていないため、選挙登録する人も少ない。ウィスコンシン州やペンシルベニア州のようにラテン系有権者が民主党を支持する動きが大きくはみられなかった、とされる。

2024年選挙時には、ラテン系移民第2世代の多くが有権者になる。これが政治的にインパクトを与える可能性もある。

なお、出口調査結果をみると、同州のラテン系有権者は、バイデン氏が勝利した州と比較してトランプ氏への支持率が高い。特に男性のラテン系有権者がトランプ氏を支持する傾向が強い。これは同氏の過激な言動が「マチズモ(男性優位主義)」を信奉する男性にアピールしたという見方もある。

同州の黒人有権者の割合は22%と高い。しかし、ノーサンプトン郡など人口の半数以上を黒人が構成する郊外の郡で、バイデン氏はクリントン氏が2016年に獲得した黒人票に及ばなかった。要因の1つは人口中絶問題で、人口中絶に反対するトランプ氏が票を獲得したとみられる。

ラテン系有権者の多様性を示したテキサス、フロリダ

今回の選挙では、トランプ大統領が勝利したテキサス州、フロリダ州でも、ラテン系有権者の動向が注目された。両州でラテン系有権者の全有権者に占める割合は、それぞれ30%、20%と高い。

テキサス州では、トランプ氏の得票率が5.5ポイント上回った。2016年の大統領選挙では、トランプ氏がクリントン氏を9.0ポイント上回っていた。

得票率では、州都オースティンのあるトラビス郡ではバイデン氏が7割獲得したが、郊外では、トランプ氏がおおむね7~8割獲得した。州全体では、トランプ氏が63万票上回った。

アルバニー大学のホセ・クルーズ教授は、テキサス州のラテン系住民は保守的と指摘。テキサス州では、ラテン系でも「エバンジェリカル(福音派)」だったり人工中絶に反対する人々が多かったりして、トランプ氏に票を投じる者が多かったという。

トランプ氏の再選チームは、2020年9月に同州でキャンペーンツアーを開始するなど、積極的に選挙戦を展開した。これに対して民主党は、ペンシルベニア州やアリゾナ州の選挙運動に注力した。バイデン氏やカマラ・ハリス氏は選挙前に同州を訪れただけで共和党に比べて選挙活動が不足していた、という指摘もある。国境沿いのヒダルゴ郡など2016年の選挙でクリントン氏が圧倒的な強さを見せた地域で、今回はトランプ氏が票差を大きく縮めた。一方、バイデン氏は州全体での得票率は46.5%と、2016年選挙時のクリントン氏(43.5%)を上回った。都市部を中心とするダラス、トラビス、ベクサー、ハリスの各郡で順調に票を獲得。人口増もあって、これら各郡合計の票差を2020年は91万票に伸ばした形だ(2016年は62万票)。

フロリダ州でも、トランプ氏の得票率がバイデン氏を3.3ポイント上回り、37万票の差をつけた。2016年の大統領選挙では、得票率で1.2ポイントの僅差によるトランプ氏の勝利だった。今回選挙ではわずかにせよ差を広げたことになる。地域別には、オーランド、マイアミ、タンパ、ジャクソンビル、タラハシーの都市部ではバイデン氏がトランプ氏を上回った。しかし、郊外でトランプ氏が票を集めた。

フロリダ州では、キューバやベネズエラからの移民が多数を占め、出身国の社会主義体制に反対する者が多く、共和党のイメージ戦略により民主党=社会主義という見方を盛んに喧伝(けんでん)したことで、共和党に有利になったとみられる。ラテン系有権者も出身国が様々で、プエルトリコ系は保守的でエバンジェリカルもいるという多様性があり、民主党が多様性に対応できなかったといわれる。マイアミのあるマイアミ・デ―ド郡では、2016年選挙では得票率でクリントン氏がトランプ氏を29.6ポイント上回っていたが、今回はバイデン氏が7.3ポイント上回るにとどまった。バイデン氏は今回の大統領選挙で、全米ではラテン系有権者の約7割の票を獲得したが、次回選挙に向けて、民主党はラテン系有権者の多様性を見極め、アプローチしていくことが求められる。

下院選で、民主党は予想外の苦戦

大統領選と同時に実施された議会選挙ではどうだったのか。

下院選では、民主党は222議席を獲得し過半数(217議席)を守った。ただし、共和党から3議席を奪う一方で、13議席を共和党に奪われるという予想外の苦戦を強いられた。2018年の中間選挙で民主党の女性議員が躍進したことで、女性票が民主党に流れることを危惧した共和党が女性候補を擁立。中間選挙で当選した民主党女性議員などから議席を奪う結果となった。

上院選では2021年1月5日、ジョージア州2議席が決戦投票に持ち込まれた。その結果、民主党が2議席とも獲得。上院全体では、民主党と共和党それぞれ50議席の同数になった(2021年1月7日付ビジネス短信参照)。採決で賛否同数の場合は議長に投票権が与えられ、議長は副大統領が兼務することになっている。そのため、政権(次期は民主党)が政策を推し進めるのに、若干なりとも有利になる。

ラテン系有権者の支援団体ラティノ・ディシジョン(Latino Decision)は、2020年12月21日に声明を発表。連邦下院選挙で得票率の差が12.1ポイント以下で民主党が敗れた15の選挙区(注2)を取り上げ、「次の2022年の中間選挙で民主党が議席を奪還するには、それぞれのコミュニティが抱える問題を理解すべき」と提言した。安定的政権運営のためには、民主党は次の中間選挙で下院の議席を増やすことが必須だ。次の選挙に向けた戦いは、既に始まっている。


注1:
Voces de la Fronteraを英語に訳せばVoices of the Border。
注2:
カリフォルニア州8区、21区、22区、25区、39区、48区、50区、コロラド州3区、フロリダ州の26区、27区、ニューメキシコ州2区、テキサス州10区、21区、23区、24区。

2020年大統領選、接戦州でマイノリティー市民は

  1. 有権者の多様性が進展、接戦州で勝敗要因に(米国)
  2. ラテン系有権者に多様性、きめ細かなアプローチが課題(米国)
執筆者紹介
海外調査部米州課 課長代理
松岡 智恵子(まつおか ちえこ)
展示事業部、海外調査部欧州課などを経て、生活文化関連産業部でファッション関連事業、ものづくり産業課で機械輸出支援事業を担当。2018年4月から現職。米国の移民政策に関する調査・情報提供を行っている。

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