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デジタル展示会では自社製品PRに入念な海外メディア対策を(米国)
世界最大級のテクノロジー見本市CESにおける日本企業の挑戦(1)

2021年3月29日

米国ラスベガスで毎年1月に開催される世界最大規模のテクノロジー見本市「CES」は、最新の技術トレンドや製品が発表される場として世界の関心を集める。ジェトロは2019年から3年続けて、同展示会にジャパン・J-Startup(注1)パビリオンを設置し、日本の革新的なスタートアップのグローバル展開を支援してきた。本稿では、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、初めて完全デジタルで開催されたCES 2021(2021年1月11~14日)への出展支援から見えた、デジタル、またはリアルとデジタルのハイブリッド形式の展示会出展における課題と対応策を紹介する(注2)。

史上初のデジタル開催、出展者・参加者ともに「手探り状態」

CESは1967年以降50年以上開催されている歴史ある大規模展示会だ。CES 2021は史上初の完全デジタル形式での開催となった(2021年1月18日付ビジネス短信参照)。出展企業数は約2,000社(前年:約4,500社)、参加(注3)者数は約8万人(同:約10万人)、スタートアップの出展国・地域数は37カ国・地域(同:46カ国・地域)で、いずれも前年から減少した。

デジタル開催により、物理的移動に伴う費用や時間が不要になったことで、出展や参加のハードルは低くなったといえる。それにもかかわらず、出展企業数、参加者数ともに例年よりも大幅に少なかった主な要因は、実際に展示製品を見て触れることができないというデジタル環境の性質にあると考えられる。今回参加を断念した企業・個人の多くは、デジタル形式での展示会では製品の魅力を参加者に伝えきれない、または、製品の良さが分かりづらいと判断したとみられる。

実際、出展した日本企業からは、「時差対応に加え、ジェスチャーやその場の空気を読んで対応することができない。言葉だけのコミュニケーションは難しかった」「当社の製品は量産前のプロトタイプ段階で在庫数が少ない。そのため、記事を書くためにサンプルを郵送してほしいという各地メディアの要望に十分に対応できず、記事化の機会を逃してしまった。実際の展示会であれば、在庫数が少なくても、その場でメディアを含む多くの人に製品を実際に見せ触れてもらうことができるが、デジタル展示会ではそれができないので厳しい」など、デジタル開催ならではの壁を感じさせる声も多く寄せられた(表1参照)。消費者向けのハードウエア製品を扱う企業が多く出展し、国内外の投資家やディストリビューターなどのスタートアップ関係者向けにPRしたり、最終製品として完成させるためのフィードバックを得ることが重視されるCESのような展示会では、リアル開催の効果をデジタルで再現することは簡単ではないといえよう。その他の課題としては、「自社のデジタルブース訪問までの導線が分かりづらかった」「主催者が用意したシステムを使いこなすことができなかった」など、デジタル展示会のインフラへの適応に苦慮する企業も多くみられた。

表1:デジタル展示会で苦労した点
順位 項目
1 集客、PRの仕方、ブース訪問までの導線が分かりづらい
2 主催者のシステムの使い方が煩雑
3 時差対応が大変
4 相手の反応がわからない
4 言語だけのコミュニケーションが困難
6 会期までの準備・作業工程が多い
7 メディア対応が大変
8 他の出展企業への効率的なアプローチの仕方が不明

出所:出展企業へのアンケート結果からジェトロ作成

ただし、デジタルでの開催は、出展企業にとって必ずしもマイナスな面ばかりというわけではない。今回のCESでは、デジタルという特性を生かし、会期後1カ月間はCESのデジタルプラットフォーム上に継続して製品展示が可能だった。そのため、過去のCESに出展経験のある日本企業からは、「リアル開催の場合、基本的には会期中しかメディアや企業とのやりとりは行われないが、オンラインの場合、会期後も引き続きメディアや企業からの問い合わせが続いた」という声が聞かれた。また、「自社の(オンライン)ブースへのアクセス数を増やすために、(プラットフォーム内で)企業検索する際に自社が検索結果のトップに表示されるよう、あらかじめ関連するキーワードを入れてSEO(Search Engine Optimization、注4)対策を行った結果、有力リード(実際のビジネスにつながる見込みのある相手)獲得につながった」「他の出展企業やカンファレンスも、時間をかけて見ることができた」など、デジタル出展を前向きに捉える声が寄せられた。

韓国のスタートアップが大きな存在感

CES 2021の出展者数を国・地域にみると、米国が579社(前年:約1,600社)と最多、次いで、韓国341社(同:約400社)、中国203社(同:約1,000社)だった(図1参照)。韓国は中国を上回る数の企業が出展し、国としてのプレゼンスを発揮した。韓国では深刻な就職難への対応策として、政府が雇用創出を目的に、スタートアップに対して手厚い支援を提供している(注5)。それに加え、国内市場が小さいために創業時から海外市場を見据えているスタートアップが多いことが、CESのような世界的に注目される大型展示会への出展を後押ししているとみられる。

図1:全参加企業1,967社の国・地域別内訳
米国579社(29.5%)、韓国341社(17.4%)、中国203社(10.3%)、フランス135社(6.9%)、台湾130社(6.6%)、オランダ85社(4.3%)、日本77社(3.9%)、カナダ73社(3.7%)、イタリア57社(2.9%)、イスラエル52社(2.6%)、香港36社(1.8%)、イギリス35社(1.8%)、スイス34社(1.7%)、ドイツ25社(1.3%)、スウェーデン10社(0.5%)、タイ10社(0.5%)、インド9社(0.5%)、デンマーク7社(0.4%)、ナイジェリア6社(0.3%)、ロシア6社(0.3%)、その他54社(2.7%)。

注:CESプラットフォーム上の国・地域別出展企業数データに基づき、企業の所在地によって分類。例えば、日本人による創業、日本発の企業であっても、米国本社の場合は米国企業としてカウントしている。
出所:CES主催者情報を基にジェトロ作成(2021年1月10日時点)

ジェトロ支援スタートアップの参加は過去最多に

日本からの出展は77社で、国・地域別では7位だった。そのうち、ジェトロが出展支援を行った企業は53社に上る。支援企業数は、エウレカパークにジェトロが初めてジャパン・J-Startupパビリオンを設置したCES 2019では22社、2年目のCES 2020では28社と徐々に増え、今回の53社は過去最多となった(図2参照)。2021年の出展企業を分野別にみると、IoT(モノのインターネット)とインフラストラクチャーが29社と最多だった。また、所在地別では、京都や大阪を中心とする地方発のスタートアップの出展も目立った(表2参照)。CESのような海外の展示会に目を向けるスタートアップが年々増えている理由としては、展示会自体の認知度が日本国内でも高まり、海外市場へ自社製品をPRする場として注目されていることが挙げられる。

図2:ジェトロが支援したCES出展スタートアップ企業数の過去3年間の推移
2019年に22社、2020年に28社、2021年に53社となった。そのうち、Jスタートアップ企業は、8、6、10社だった。

注:円の上の数字はJ-Startup企業数。
出所:ジェトロ作成

表2:ジャパン・J-Startupパビリオン出展53社の分野別および所在地別内訳

分野所在地
項目 出展企業数(社)
IoTとインフラストラクチャー 29
ヘルス&ウェルネス 27
スマートシティー 17
人工知能 16
ライフスタイル 13
ロボティクス 10
スマートホーム 10
輸送/車両技術 10
小売・ショップテック 4
アクセシビリティー 3
オーディオビデオ 3
フィンテック 3
ゲーム 3
スポーツテック 3
広告、コンテンツ、マーケティングなど 2
スペーステック 2
デザインとソース 1
XR(仮想空間技術) 1
分野所在地
項目 出展企業数(社)
東京都 31
京都府 5
大阪府 5
茨城県 4
神奈川県 4
宮城県 1
山形県 1
長崎県 1
米国 1
合計 53

注:分野は企業の重複あり。
出所:ジェトロ作成

効果的だったのはプレスリリースと独自コンテンツ

CESのような展示会が海外展開の足掛かりとして注目される中、デジタル化が進む展示会への出展で成果を上げるには、どのような対策を取ればよいのか。ジェトロはCES 2021へのスタートアップ53社の出展者に対して、PR用コンテンツを重視した支援を行った。例えば、ジェトロと契約した英語が話せるタレントを起用するなどして製品PR動画の作成を手助けしたほか、英語でのプレスリリースやホームページをより分かりやすく、魅力的にするよう、海外のPR専門家を活用して各社個別に指導を行った。また、主催者が用意したデジタルプラットフォーム上に加え、ジェトロ独自のウェブサイトにも各社の製品の概要やPR動画を掲載し、情報発信の場を広げた。

中でも特に効果的だったのが、英語でのプレスリリース作成や会期前の積極的な情報発信といった海外メディア対策だ。ヘルステック企業のクォンタムオペレーション外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、PR専門家のサポートを受けてプレスリリースを作成し、情報発信を行うことで、80件近くの海外メディアに取り上げられた。米国テック系ニュースサイトのエンガジェットが主催する「ベスト・オブ・CES」(注6)でデジタルヘルス・フィットネス製品部門のファイナリストに選出されたことも、海外からの注目を集めることに貢献した。また、足腰の負担を軽減するアシストスーツを開発するアルケリス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます は、海外メディアへのプレスリリース配信後、ロイター通信からオンライン取材を受け、ロイターの記事としてツイッター上で紹介された。その結果、同記事に掲載された動画の再生回数は累計20万回を超えた。米国だけではなく世界各国のメディアに掲載・転載されたことで、外国企業からの問い合わせが増えた、と同社の藤澤秀行代表取締役はその成果を強調する。

完全デジタルという状況下では、情報が埋もれてしまいやすい。そのため、事前準備として、自社製品の強み、社会に与える価値やインパクトなどの情報を分かりやすく整理しておくことが重要だ。その上で、海外メディアの関心を引くプレスリリースを作成し、積極的に情報発信する。そうすることで、海外の主要メディアへの記事掲載につながる可能性は大きくなる。また、デジタル展示会では、リアルの展示会場で起きるような偶発的な出会いはあまり期待できない。その分、参加者をデジタル上のブースに誘導するため、主催者が準備するプラットフォームの機能や使い方、どのような導線でページにアクセスするのかを事前に把握することが重要となる。

今後、「ポスト・コロナ」の時代においては、デジタルのみの展示会や、実際の展示とデジタル展示を組み合わせたハイブリッド型の展示会が一般的になると考えられる。そこでは従来以上に、会期前の入念な事前準備が海外市場を切り開くためのカギとなる。


注1:
日本のイノベーション政策の一環として、2018年に経済産業省主導で立ち上がったスタートアップ企業の育成支援プログラム。経済産業省、ジェトロ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局を務めている。詳しくは、J-Startupオフィシャルサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます参照。
注2:
CES 2021のイノベーション・アワードを受賞した日本企業2社の取り組みについては、2021年3月29日付地域・分析レポート参照
注3:
出展企業、メディア関係者は含まない。
注4:
検索結果で特定のウェブサイトが上位に表示されるようにウェブサイトの内容などを調整すること。検索エンジン最適化ともいう。
注5:
韓国のスタートアップ支援策については、2020年4月8日付地域・分析レポート参照
注6:
エンガジェットがCES出展企業から分野ごとに最優秀企業を選出する賞。

世界最大級のテクノロジー見本市CESにおける日本企業の挑戦

  1. デジタル展示会では自社製品PRに入念な海外メディア対策を(米国)
  2. コミュニケーション・ロボット、ベビーテック分野での日本企業の優位性(米国)
執筆者紹介
ジェトロイノベーション・知的財産部スタートアップ支援課
瀧 幸乃(たき さちの)
2016年、ジェトロ入構。対日投資部誘致プロモーション課、ジェトロ・ベンガルール事務所、イノベーション・知的財産部イノベーション促進課などを経て、現職。

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