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コミュニケーション・ロボット、ベビーテック分野での日本企業の優位性(米国)
世界最大級のテクノロジー見本市CESにおける日本企業の挑戦(2)

2021年3月29日

2021年に初の完全デジタル開催となった世界最大規模のテクノロジー見本市「CES」(注1)。例年のリアル開催とは異なる厳しい状況下でも、国内外メディアへの掲載や有力なリード(実際のビジネスにつながる見込みのある相手)獲得に成功した企業がある。本稿では、出展企業の中でCESの「イノベーション・アワード外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」(注2)を受賞し、海外から特に注目を浴びたコミュニケーション・ロボットとベビーテック分野の日本企業2社の取り組みを紹介するとともに、両分野で日本が持つ競争優位性を探る。

ロボティクス部門で最高評価の快挙

CES 2021のイノベーション・アワードのロボティクス部門で最高評価となる「ベスト・オブ・イノベーション」賞に輝いたのは、人工知能(AI)を搭載したセラピー型のコミュニケーション・ロボット「MOFLIN(もふりん)」を開発するバンガード・インダストリーズ(Vanguard Industries)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます だ。日本企業による同賞獲得は、CES 2019のアクセシビリティー部門で受賞したウィル(WHILL)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 以来2年ぶりの快挙となる。バンガード・インダストリーズはイノベーション・アワードだけではなく、米国テック系ニュースサイトのエンガジェット外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が別途実施する「ベスト・オブ・CES」アワードのロボット/ドローン部門のファイナリストにも選出された。その結果、国内では日本テレビやフジテレビなどで特集され、海外でもCNET、ギズモードなどの主要テック系メディアに取り上げられるなど、国内外で注目を浴びた。

同社がイノベーション・アワードで高く評価されたポイントとして、山中聖彦代表取締役は、(1)所有者との一連の意思疎通を強化学習し、コミュニケーションの方法を自ら学んでいく先端のAI技術、(2)人々がかわいいと感じるサイズ感と動物的な反応、(3)感情をベースとして成長し、変化する生き物らしさをAIロボットというコンセプトとして体現している点、そして(4)このようなテクノロジーが日常生活になじむ点だと強調する。


ロボティクス部門でトップ受賞したVanguard Industriesの「MOFLIN」(同社提供)

2015年からCESに出展しているユカイ工学外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます も、しっぽのついたセラピー型ロボット「Qoobo(クーボ)」や、家族をつなぐ「BOCCO(ボッコ)」など、一般家庭になじむコミュニケーション・ロボットを開発している。CES 2021では、問い合わせのあった海外メディアに対してサンプルを郵送するなど製品のPRに努めた結果、「テッククランチ」や「ワシントン・ポスト」「フォックス」を含む米国の主要メディアに掲載され、海外から大きな反響を呼んだ。

これまでも、ロボティクス部門では、グルーブエックス(GROOVE X)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が開発する家族型ロボット「LOVOT(らぼっと)」がCES 2019でアワードを受賞するなど、日本のコミュニケーション・ロボットは高い評価を得ている。コミュニケーション・ロボットに対するメディアの注目度の高さや実際のユーザーからのフィードバックをみると、物質的欲求がある程度満たされている欧米や日本などの先進国では、心理的充足感を求めるソリューションへの関心やニーズが高まっているようだ。特に、新型コロナウイルス感染拡大の影響でテレワークが一般化し、他者との交流が減少して孤独感を感じている人々の間では、日本特有のアプローチである「かわいらしいデザインで癒しを与えるロボット」がパートナーとして求められる素地が生まれているといえよう。

また、こうしたロボットは、スマートフォンのアプリなどのオンラインツールとは違い、実際に触れたり会話したりすることでぬくもりを感じることのできる点で、高齢者にとっても使いやすいインターフェースとなる。高齢化が世界に先駆けて進む日本だけではなく、高齢化が今後進んでいく海外においても、日本発のコミュニケーション・ロボットが普及していく余地は大きい。


高齢者と触れ合う日本のコミュニケーション・ロボット
(左2枚はユカイ工学の「BOCCO」、一番右はGROOVE Xの「LOVOT」)(両社提供)

日本のベビーテック製品、独自性と実績で海外からも高い評価

スマートホーム部門では、育児にかかわる技術・製品を開発するベビーテック企業のファーストアセント外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます がアワードを受賞した(注3)。同社は、世界初のAIによる赤ちゃんの泣き声診断機能を搭載した「ainenne(アイネンネ)」と呼ばれる睡眠トレーニングデバイスを開発した。デバイス開発に当たっては、150カ国15万人以上の赤ちゃんの泣き声のデータを基にした。ainenneを使うことで、「眠い」「お腹がすいた」「怒っている」「遊んでほしい」「不快」という赤ちゃんの5つの感情の推測が可能になる。国立成育医療研究センターと共同で行っている「子どもの成長・発達・生活習慣についてのビッグデータ解析研究」の成果がこのデバイスに活用されている。また、太陽光を模したLED光を発することで、赤ちゃんの体内時計を調整する睡眠トレーニングデバイスとしても機能する。


スマートホーム部門で受賞したファーストアセントの「ainenne」(同社提供)

赤ちゃんを対象とする「ベビーテック」という概念は、CES 2016で初めて提唱され、それ以来、CESの展示会場内にはベビーテック分野の展示スペースが設置されている。ベビーテック専門ウェブメディアを運営するパパスマイルの永田哲也代表取締役は「赤ちゃんを対象とするベビーテック業界では、使用に当たって赤ちゃんへの危険を回避する信頼性の高い製品が求められる。日本のベビーテック企業は、技術をアプリや製品として完成するだけではなく、地道な研究開発を重ね、国内外で赤ちゃんの生活と環境、生育に関するデータを取得するなどの実績を積んでいる。このように、製品の安全性や信頼性が担保されている点が海外からも高く評価されているポイントだ」と話す。ベビーテック製品の信頼性をめぐっては以前、大手電子商取引(EC)サイトで販売された中国製品を利用した赤ちゃんがけがするなど、ネガティブな報道があった。永田氏は、ベビーテック全体に対する安全と安心の信頼を得るため、日本のベビーテック製品の質を評価する仕組みを作り、質の高い日本製品を海外に向けて発信することの重要性を指摘する。同氏が中心となって2019年から日本で開催している「ベビーテック・アワード・ジャパン」(注4)もその取り組みの一環だ。同イベントでは国産ベビーテック商品やサービスを表彰している。米国で開催されている「ベビーテック・アワード」の創設者であるロビン・ラスキン氏も日本のベビーテック製品を高く評価しているという。

世界では人口増加が続き、ベビーテック市場は今後も拡大が見込まれる。例えば、米国では毎年400万人前後の新生児が誕生する〔米疾病予防管理センター(CDC)〕。これは日本(約90万人)の4倍以上だ。また、米国では子育てに最先端のテクノロジーが導入されつつあり、ベビーテック製品への受容性は高い。永田氏は「日本国内だけではなく、マーケットが伸びる世界でも、日本発のベビーテック製品を活用してもらい、1人でも多くの親の育児に対する不安を軽減し、赤ちゃんを心地よく育ててほしい」として、日本発のベビーテックが持つ大きな可能性に期待を寄せる。

アワード申請時は、製品の独自性や社会的インパクトのPRを

CESのイノベーション・アワードでは、先に紹介した企業のほかにもこれまで、ヘルステックのトリプル・ダブリュー・ジャパン(Triple W Japan)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2019年、フィットネス・スポーツ・バイオテック部門)やスマートアパレルのゼノマ(Xenoma)(2020年、アクセシビリティー部門)、抹茶エスプレッソマシーンを開発するワールド抹茶外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (2020年、ヘルス・ウェルネス部門)など複数の日本企業がアワードを受賞している。

製品を実際に手に取って確かめられないデジタル展示会では、アワード受賞という第三者からの評価は製品の信頼性を高め、他社との差別化要因ともなる。では、製品について審査員の理解を深め、受賞の可能性を少しでも上げるためには、何が必要か。過去の受賞者からは、アワード申請時の工夫点として、(1)商品の魅力、(2)他社との差別化ポイント、(3)デザイン性、(4)経営者としての製品への思い、(5)業界における信頼性(大手企業や研究機関との共同研究実施などの実績)、(6)開発する製品が消費者や世の中に与えるインパクト、(7)クラウドファンディングなどでのユーザーとのコミュニケーションや販売実績から見えてきた可能性などをアピールすることが有効との意見が聞かれる。

CES 2021では、日本のハードウエア製品やそのユニークなデザインがあらためて世界からの注目を浴びた。CESのような国際展示会への出展が今後も日本企業の製品・サービスのグローバル市場での成功に結び付くことが期待される。


注1:
CES 2021の概要や、日本企業の出展支援から見えたデジタル展示会の課題と対応策については、2021年3月29日付地域・分析レポート参照。ジェトロがCES 2021で出展支援した企業については、ジェトロウェブページも参照。
注2:
CESの主催者である全米民生技術協会(CTA)が毎年実施するアワードで、28の製品分野で注目すべき製品を表彰する。製品の品質、デザインの美しさ、ユーザーに提供する価値、製品仕様の独自性と新しさ、他の製品と比較した革新性という評価基準で審査される国際的な賞。
注3:
ファーストアセントを含む日本のベビーテック企業の海外展開への取り組みについては、「『世界は今- JETRO Global Eye』ベビーテックで変わる未来 ‐日本発!世界への挑戦‐(動画)」も参照。
注4:
永田氏は、自身が父親として子育てするに当たり、「核家族では保護者が一人でも倒れたら大変。育児にテクノロジーをもっと活用すべき」との考えから、ベビーテックに注目し始めた。同氏は、米国で「ベビーテック・アワード」を開催するイベント運営会社リビング・イン・デジタルタイムズに同アワードの日本版を作りたいとCES 2019の場で提案、交渉を行って同社から合意を取り付けることに成功。同年6月に、ベビーテック・アワード・ジャパン2019を日本で初開催した。この際に健康管理部門で大賞を受賞したのが、ファーストアセントだった。

世界最大級のテクノロジー見本市CESにおける日本企業の挑戦

  1. デジタル展示会では自社製品PRに入念な海外メディア対策を(米国)
  2. コミュニケーション・ロボット、ベビーテック分野での日本企業の優位性(米国)
執筆者紹介
ジェトロイノベーション・知的財産部スタートアップ支援課
瀧 幸乃(たき さちの)
2016年、ジェトロ入構。対日投資部誘致プロモーション課、ジェトロ・ベンガルール事務所、イノベーション・知的財産部イノベーション促進課などを経て、現職。

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