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縫製工場での安全基準の今: 日系企業の取り組みと課題(バングラデシュ)
アジアのサプライチェーンにおける人権尊重の取り組みと課題(6)

2021年10月8日

バングラデシュの首都ダッカ近郊では、2013年4月24日、縫製工場などが入居するビル「ラナプラザ」が崩落。少なくとも1,132人の死者、2,500人以上の負傷者を出してしまった。その5カ月前にも、ダッカ郊外の縫製工場で火災が発生。112人の従業員が犠牲になった。これらの事故は当時、世界的にみても例のない労働災害だった。特にラナプラザ崩落事故には、世界が注目。縫製工場の建築構造や火災・電気などの安全性に対し、国内外の関心が急速に高まった。その結果、バングラデシュ政府、国際労働機関(ILO)や国際的アパレルブランドなどの支援の下、取り組みが進められた。バングラデシュでの従業員に対する安全配慮や建物の保安にまつわる問題は、世界的な課題と認識されるようになったと言えるだろう。

本稿では、サプライチェーンにおける人権尊重の観点から、バングラデシュの縫製工場での安全基準に対する動きや取り組み、進出日系企業の現状を、ヒアリング結果を基に報告する。

縫製工場の安全基準を定めた取り組みが進展

ラナプラザ崩落事故から約1カ月後、「バングラデシュにおける火災および建物の安全性に関する協定(the Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh)」(通称、アコード)が早くも策定された。アコードの目的は、悲惨な事故を繰り返さないことなどにある。縫製工場の建設や火災対策の安全基準が定められ、欧州を主としたブランドや小売企業(バイヤー)と国内外の労働組合(生産者)との間で順次締結。欧州の主要アパレルブランドなどが署名した後は、同協定を順守しているか否かが生産工場選定の基準とされた。2020年5月20日には、約4,500社の企業が加盟する縫製品製造業・輸出業協会(以下、BGMEA)などが民間団体として、新たに既製服産業持続可能性協議会(RMG Sustainability Council、RSC)を発足させた。同年6月1日からはRSCがアコードに代わり、欧州向け生産工場の検査や指導などの役割を継承している。

また、アコードが有していた安全基準としての機能は、「繊維・縫製産業における健康と安全のための国際協定(International Accord for Health and Safety in the Textile and Garment Industry)」に移管された。新協定は、2021年9月1日に新たに発効した。従来のアコードに加え、「人権デューディリジェンスへの取り組み」を重視する可能性などについて言及された。発効日時点で、欧州を中心とするアパレルブランド80社が署名。この際、日本企業としては、ファーストリテイリングが新協定への署名を発表している(注1)。なお、新協定下でも、生産工場の検査や指導などの役割を担うのはRSCだ。

また、アコードと同様の背景・目的により、「バングラデシュ労働者の安全のための同盟(Alliance for Bangladesh Worker Safety、通称・アライアンス)」も2013年に発足していた。アライアンスには、米国やカナダのバイヤーやアパレル・小売団体が参画。主として、米国向け輸出に求められる火災・建築安全基準としての役割を担った。しかし、発足当初の予定どおり、2018年12月末をもって活動を停止している(注2)。

BGMEAの日本市場開発部会長、UM・アシェク氏(注3)によると、2021年7月現在、欧州の主要バイヤーはバングラデシュの生産工場に対して、アコードの基準を少なくとも80%以上満たすことを取引条件とするケースが多い。同氏によると、BGMEA会員企業4,500社のうち、(1)アコードの基準を完全に満たす企業は360社、(2)92%以上の要件を満たす企業は1,241社、(3)80%~91%満たす企業は66社、だ。現在はアコードが主となっているものの、アライアンスの基準をおおむね(93%~100%)満たす企業は、全会員企業のうち654社という。

BGMEAは全ての会員企業に対して、労働法の順守、従業員への給与支払いおよび休日の付与などをチェックする機能も果たしている。さらに、会員企業の従業員家族への奨学金制度などを用意し、縫製産業に携わる従業員の環境改善に取り組む。協会内には、「労務環境」「市場開発」「資金調達」「空港開発(税関・物流関係)」「日本市場向け輸出促進」など、テーマ別に計72の部会を設置。各部会では部会長の指揮の下、会員企業にヒアリング・チェックする仕組みがある。部会間の横のつながり・情報共有も活発に行われているとみられる。「こうした活動が、欧米をはじめとする海外バイヤーから求められる安全基準の順守にも寄与している」と同氏は、話す。

当地の日系縫製企業の輸出先は、主に日本のバイヤー・市場だ。そのため、先述した欧米市場向け中心の取り組みとは異なる部分もみられる。以下では、主として日本向け輸出に携わる繊維商社および衣料品メーカーの取り組みの一部について、紹介する。

日系繊維商社:本社ガイドライン順守を大前提に取引先選定

ジェトロは、日系繊維商社である帝人フロンティア・ダッカ駐在員事務所の小山博之所長に、同社の関連の取り組みについて聞いた(2021年7月13日)。

質問:
貴社の調達に係るCSR(企業の社会的責任)、労働・安全衛生などに関する方針は。
答え:
当社には、環境安全・品質保証部という専門部署がある。当部が関連ガイドラインを策定し、これが国内外全ての取引における「組織の全体方針」として位置づけられている。具体的には、海外の取引先候補における強制労働・児童労働の有無や、従業員の平均年齢、従業員への賃金支払い(最低賃金などの法令順守)、残業・休日付与の状況の事前確認などが定められる。これらは他社とおおむね同様で、普遍的な内容と理解している。
質問:
バングラデシュにおける貴事務所の取り組みは。
答え:
新規の取引先を検討・選定する際、当所が実際に当該工場などに赴き、先のガイドラインのポイントを中心に事前確認する。取引先選定については当所(現地事務所側)に裁量がある。本社ガイドラインの順守を大前提に、日本市場のニーズをふまえ、製品の品質および生産コストを重要な要素として、取引先を選定している。
他方、欧米市場では、生産活動や調達に関連する環境対応やトレーサビリティーがとりわけ重要な要素だ。これらが、製品や企業の価値を決めると認識している。こうした背景から、生産国での新規の取引先選定に際して現地拠点の裁量は小さく、本社主導で確認・検討が進められるケースが多い。例えば、ある欧州の大手ブランドは、本社の専任者が現地に赴き、直接調査・評価した上で、取引先の選定可否を判断。取引先への定期的な監査も実施していると聞く。
質問:
バングラデシュの関連法制度などに関する課題は。
答え:
労働法をはじめ、必要な法制度は整備されている。また、多くの地場企業がアコードやアライアンスの基準を満たしていると認識している。 一方で、法制度の運用や基準を満たす工場の実態については、不透明な部分も少なくない。

日系衣料品メーカー:監査の動きはラナプラザ崩落事故以降に年々強化

加えて、子供服・婦人服などの衣料品生産を手掛けるMaruhisa Pacificの佐川康司社長にも同様に、関連の取り組みについて聞いた(2021年7月13日)。

質問:
貴社の調達に係るCSR、労働・安全衛生などに関する方針は。
答え:
現地法人(社長および総務部門)にて策定した方針の下、日本の取引先(バイヤー)などの基準に従い、年間で計3回程度の監査に対応。都度必要な改善に取り組んでいる。例えば、当社にとって最大の取引先である日本の大手小売り、およびアパレル企業は、ドイツ・テュフラインランド、フランス・ビューローベリタスといった監査機関を介し、年に1回程度、実地で1~2日かけて、安全に関して現状を確認する(消火器の数や点検状況など)。加えて、取引先は、ランダムに選定した当社従業員へのヒアリングにより、監査する。
当社は2010年6月から、当地で操業している。こうした監査の動きはラナプラザ崩落事故以降、年々強化されていると実感する。さらに、当社は輸出加工区(EPZ)に入居しているため、EPZを所管する輸出加工区庁(BEPZA)の方針・指摘に対しても、都度、対応している。
なお当社は、生産に必要な糸、ファスナー、値札、をバングラデシュ国内で調達している。それら取引先選定にあたっての条件として、全ての決済で銀行を介し信用状(L/C)で取引できることを重要視している。現状では、地場系サプライヤーには現金での取引を基本とするところが少なくない。しかし、当社は取引の透明性を確保する観点から、そうした企業とは取引しない方針だ。

想定される課題は、安全基準の順守やチェック機能の有効性

世界各国の企業・工場向けに監査プログラムを提供する香港のQIMAは2021年4月、工場従業員の安全やサプライチェーンに関する最新の調査(2021年1月~3月期)結果を発表した。この調査によると、工場における児童労働の有無、従業員の労働時間および賃金、従業員の衛生・健康・安全対策などに係る監査の国・地域別平均スコア(2020年)は、ベトナム、中国などを含む対象10カ国のうち、バングラデシュは台湾に次いで2番目にスコアが高い(注4)。その一方で、先述した日系企業の指摘にあるように、アコードやアライアンスの基準の順守やそのチェック機能の有効性については、懸念する声もある。

縫製業で進められてきた人権面での強化が、他分野に及ぶ兆しがでてきた。2021年7月8日、多くの縫製工場が立地するダッカ近郊(ナラヤンゴンジ市)の食品工場で、大規模な火災が発生した。現地報道によると、少なくとも20人以上の犠牲者が出たとされ、そのうちの多くは、12歳から17歳までの児童労働者だったとみられている。輸出志向型の縫製工場の火災・建築安全に係る取り組みが進められていた一方で、縫製産業以外の工場の安全性は見落とされていたことに焦点が当たった。今後、国内市場の拡大から投資や進出の増加が想定される国内市場志向の工場などについても、従業員の安全に関わる基準を順守することが、バングラデシュの喫緊の課題、と指摘する報道もある。

日本企業が当地で生産活動や調達を行う際には、サプライチェーン上の人権尊重に係る調査や対応が引き続き重要な関心事項の1つといえるだろう。


注1:
ファーストリテイリングは、アコードにも参画していた。
注2:
アライアンスは、現在、ELEVATE外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますという組織(本拠地:米国)に移管されている。
注3:
アシェク氏は、当地で縫製工場などを経営し、BGMEAの要職を長年にわたり務めてきた。
注4:
この調査で示されたスコアは、縫製工場に限定したものではない(具体的な業種やその割合は公開されていない)。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所
山田 和則(やまだ かずのり)
2011年、ジェトロ入構。総務部広報課(2011~14年)、ジェトロ岐阜(2014~16年)、サービス産業部サービス産業課(2016~19年)、お客様サポート部海外展開支援課を経て、2019年9月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ダッカ事務所 所長
安藤 裕二(あんどう ゆうじ)
2008年、ジェトロ入構。アジア経済研究所研究企画部、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、生活文化・サービス産業部、ジェトロ浜松などを経て、2019年3月から現職。著書に「知られざる工業国バングラデシュ」。

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