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【中国・潮流】「共同富裕」に向けた取り組みが進む
中国ならではの取り組みも

2021年10月22日

毛沢東時代にまで通じる概念

2021年8月17日の中国共産党中央財経委員会(以下、中央財経委員会)で、習近平国家主席が「共同富裕」を促進すると述べた。中国の大手検索サイト・百度が運営する百度百科(中国版ウィキペディア)で「共同富裕」を検索すると、その定義は「すべての人々が勤勉と相互扶助、つまり(貧富の)二極化の解消と貧困の撲滅による普遍的な繁栄を通じて、最終的に十分な生活水準を達成できること」とあった。これは、毛沢東元国家主席によって1950年代に最初に提唱された概念だ。また、特色ある社会主義の建設という鄧小平氏の理論でも重要な内容の1つとされる。

中国共産党の全体会議で「共同富裕」に初めて言及された文書は、「第14次5カ年(2021~2025年)規画と2035年までの長期目標綱要に関する建議外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」とされる。この文書は、2020年10月29日に開催された中国共産党第19期中央委員会第5回総会(五中全会)で承認された。その後、2021年3月5~11日に開催された第13期全国人民代表大会(全人代)第4回会議で、「第14次5カ年規画と2035年までの長期目標綱要外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」自体が承認された。その中でも、民生・福祉の拡充に関する部分を中心に「共同富裕」に6回言及されている。

中央財経委員会の韓文秀副主任は8月26日、「『共同富裕』とは勤労による富、イノベーションによる富を奨励し、勤勉で合法的なビジネスと起業家のリーダーが富を得ることを奨励するもの」と説明。先に富を得たものが後から富を得る人々を助けるのであり、「裕福な者を殺し、貧しい人に分け与えるものではない」とも述べた。共同富裕でも一定の格差は存在し、均一な平等主義とは異なる旨も付け加えている。

また、発展に伴い人々の生活の保障と改善を堅持するとして、「人々の教育レベルを改善し、発展能力を高め、より包摂的で公平な条件をつくり出し、社会での上向きの移動を円滑にする。より多くの人々が豊かになる機会を創出しなければならない」と述べた。

そして、1次分配を進めるためには課税、2次分配のために社会保障、3次分配には資金移転などによる調整をそれぞれ強化し、そのことにより中所得者層を拡大させるとした。なお、3次分配の資金移転は強制ではなく、自主的なものとした。税制による適切なインセンティブを提供することで、分配構造改善に向け補完的な役割を果たす、と説明した。

格差縮小に向けた動き

中国は2012年11月の第18回党大会で、2020年までの小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的建設という目標を設定し、貧困撲滅に取り組んできた。そして2020年中に貧困脱却を達成したと宣言した。ただし、貧困脱却は終着点ではない。「共同富裕」という目標の実現に向けて都市と農村の格差縮小に取り組む必要があるとした(2021年3月9日付ビジネス短信参照)。

2020年11~12月に実施された第7回人口センサスでは、中国の都市人口が9億199万人、農村人口が5億979万人となった。都市と農村の可処分所得の差は縮小傾向にはある。しかし、依然として2.5倍以上の開きがあるのも事実だ(図参照)。第14次5カ年規画では、常住人口の都市化率を65%に引き上げる目標を掲げた。その一方で、農村部での物流体制整備、農産品の販売促進、インフラ建設促進など、農村経済の振興による格差縮小などを通じて、都市と農村の発展の格差を是正する動きもある。

図:中国の都市と農村の1人当たり可処分所得の推移
2000年には2.74倍だったが、2000年代に拡大し、2007年には3.14倍となった。2010年代には縮小したものの、2020年でも2.56倍の差がある。

出所:国家統計局の発表を基にジェトロ作成

教育レベル改善に向け、無償オンライン学習やネットゲーム規制も

中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁は2021年7月24日、「義務教育段階の生徒の宿題負担と校外学習負担のさらなる軽減に関する意見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。学習塾の規制のほかに、より優れた無料のオンライン学習サービスの開発と提供を通じて教育分野でも公平性の確保を促すとしている。この意見を受け、国家発展改革委員会など3部門は9月2日、「義務教育段階の校外学習塾の費用に課する監督・管理の強化に関する通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。この通知では、学習塾に対する価格調査を強化し、適正な価格設定による家計への負担軽減を図るとした。このように、教育のレベル改善や家庭の収入の差による教育の機会の不均衡をなくすための措置が取られている。

さらに、国家新聞出版署は8月30日、「未成年者のオンラインゲーム依存を防止するための管理強化に関する通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(2021年9月13日付ビジネス短信参照)を発表。オンラインゲーム会社に対し、未成年へのオンラインゲームサービスの提供について時間制限を課すとした。具体的には、金・土・日曜日と法定休日の午後8~9時に制限される。ネットゲームに依存することなく、勉学に励むよう求めた措置とみられる。

早くも3次分配を表明する大企業も

2021年8月17日の中央財経委員会での習近平国家主席による「共同富裕」促進に関する発言以降、その実現に向けた企業の巨額の資金投入の発表が相次いだ。

  • テンセント(インターネットプラットフォーマー)は「共同富裕専門プロジェクト」を立ち上げた。8月18日、習主席発言のまさに翌日のことだ。資金は500億元(約8,500億円、1元=約17円)。独自のデジタル技術と技術力を組み合わせ、農村の活性化、低所得者層の所得拡大、末端医療システムの改善、教育のバランスの取れた発展などの分野で、継続的に支援を提供する。
  • 拚多多〔ピンドゥオドゥオ、電子商取引(EC)サイト運営〕は8月24日、総額100億元を投じて、農業科学技術の専門プロジェクトを立ち上げると発表した。
  • アリババ(EC最大手)も9月2日、「共同富裕」の目標達成に協力することを発表。2025年までに1,000億元を投入。地域のデジタル化の推進、中小企業の成長・海外進出支援、農業の産業化推進、質の高い就業支援、配達員や運転手などに向け保険・保障の拡充などを進める。あわせて、200億元の共同富裕基金も設立するとした。
  • 吉利汽車(自動車大手)は8月30日、「共同富裕」に積極的に応じ、社員1万884人に1億6,700万株の自社株を付与すると発表した。

浙江省がモデル区として先行

こうした中、華東地域の浙江省が、共同富裕に向けた取り組みのモデル地域となっている。中国共産党中央委員会と国務院は2021年6月10日、「浙江省の質の高い発展による共同富裕モデル区の建設の支持に関する意見外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表。浙江省の目標が示された。具体的には、(1)2025年までに共同富裕モデル区として実質的に質の高い発展を遂げ、都市と農村の発展格差と収入格差、生活水準の差をそれぞれ縮める、(2)2035年までに共同富裕を基本的に実現し、1人当たり域内総生産(GRP)と都市・農村住民の収入をいずれも先進国レベルにする、ことなどを挙げた。

この意見を受け、浙江省は2021年7月19日、「浙江省の質の高い発展による共同富裕モデル区建設実施計画(2021~2025年)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表した。中所得者層の規模を2倍にし、10年で住民の収入を倍増させるという計画だ。公平な就職環境を実現し、戸籍や出身地、性別などによる就職の障害を排除する。このほか、高所得者層や企業家が公益事業や慈善事業を実施することを推奨し、それらの事業実施に関する税の優遇制度を運用するなどとしている。

2021年は第14次5カ年(2021~2025年)規画と2035年までの長期目標が制定された最初の年に当たる。そのため、共同富裕についても様々な関連施策などが発表されている。今後、現実に実施されていく中で、微調整や修正などが行われる可能性もあるだろう。

貧富の格差の是正は世界的な課題だ。その中で、中国の共同富裕の取り組みの行方が注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所 経済信息・機械環境産業部長
高橋 大輔(たかはし だいすけ)
1997年経済産業省入省、国際関係、エネルギー・環境関係部署、製造産業局自動車課(2016~2018年)を経て、2018年6月よりジェトロに出向し現職。

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