欧州委、米国との新たな関係構築に向けたアジェンダ発表

(EU、米国)

ブリュッセル発

2020年12月04日

欧州委員会は12月2日、外務・安全保障政策上級代表と共同で、米国との新たな協力関係の構築に向けたアジェンダPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。米国大統領選挙でジョー・バイデン前副大統領の当選が確実なのを受け、EU内では米国との関係改善への期待が高まっている(2020年11月9日記事参照)。アジェンダでは、米国の新政権の誕生は中国などの権威主義に共同で対抗する自由主義の同盟国であるEUと米国の協力関係の強化に向けた「一世代に一度」の好機だと指摘。外交や安全保障政策だけでなく、新型コロナウイルス対策、環境、通商、デジタル政策など幅広い分野で米国との協力策を提案している。

デジタルや環境政策での関係強化を目指すも、対立も残る

特に注目されるのはデジタル分野だ。アジェンダは、ハイテク分野でEUと米国の共通政策が必要だとし、第5世代移動通信システム(5G)やサイバーセキュリティーなど重要インフラのサプライチェーンにおける安全保障に関する協力を提言した。また、人工知能(AI)分野やデータ移転に関する政策での協力、大手IT企業に対する競争法政策やデジタル課税などに関する対話を進めるべきだとした。

環境分野でも、バイデン次期大統領が気候変動に関するパリ協定への復帰を明言していることから、2050年までの気候中立(温室効果ガスの排出実質ゼロ)の達成を掲げるEUと同様に、米国にも2050年までの気候中立を目指すよう求めており、再生可能エネルギーなどの環境技術や、サステナブル・ファイナンス(持続可能な金融)といった分野での米国との協力の強化も必要だとした。

通商分野では、航空機大手への補助金をめぐるEUと米国の関税合戦(2020年11月10日記事参照)などの貿易問題の早期解決の必要性を強調し、日本とEU、米国による3極貿易相会合の取り組みをさらに深め、WTO改革を進めるべきだとしている。

ただ、EUは現在、米国のIT大手などを念頭に複数の新たな規制や課税法案と、既に米国が懸念を示しているカーボンリーケージ(排出制限が緩やかな国への産業の流出)防止のための炭素国境調整メカニズムの導入を検討しているなど、EUと米国の意見が一致しているとは言い難い分野もあり、どこまで関係強化が進むかは未知数だ。

今回のアジェンダは12月10、11日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)に提出される予定だ。承認された場合、欧州委としては2021年前半のEU・米首脳会議でアジェンダに関する協議を開始したい考えだ。

(吉沼啓介)

(EU、米国)

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