新型コロナ禍で2020年通年の新車販売台数が半減(インドネシア)
低価格グリーンカーがモデル別の首位に

2021年3月15日

インドネシアの新車販売台数は2020年、前年比でほぼ半減となった。台数減は、新型コロナウイルス感染拡大による影響に起因する。人気車種は、新型コロナ禍で若年層の嗜好(しこう)に変化が見られ、初めて低価格グリーンカーがモデル別販売台数の首位となった。インドネシア政府は環境規制と電気自動車(EV)政策を打ち出している。今後は、EV産業をめぐる動きが加速するとみられる。

激減した生産台数は6月以降回復傾向に

インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)の発表によると、2020年のインドネシアの自動車販売台数は、53万2,027台(表1参照)。2019年の販売台数は103万126台だった。新型コロナ感染拡大による影響から、2020年は前年比48.4%の大幅な減少となった。

表1:カテゴリー別販売台数(単位:台数・%)(△はマイナス値)
項目 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 前年比
乗用車計 861,965 842,474 874,675 785,539 388,886 △ 50.5
階層レベル2の項目セダン 13,832 8,335 6,704 6,412 4,749 △ 25.9
階層レベル2の項目4×2 608,034 596,146 634,378 557,613 275,860 △ 50.5
階層レベル2の項目4×4 4,928 3,439 3,150 4,060 3,627 △ 10.7
階層レベル2の項目LCGC 235,171 234,554 230,443 217,454 104,650 △ 51.9
商用車計 200,729 184,890 276,631 244,587 143,141 △ 41.5
階層レベル2の項目バス 3,959 3,597 3,519 3,774 1,971 △ 47.8
階層レベル2の項目ピックアップ 120,652 128,278 143,473 135,383 90,733 △ 33.0
階層レベル2の項目トラック 66,774 39,348 113,909 93,594 42,680 △ 54.4
階層レベル2の項目ダブルキャビン 9,344 13,667 15,730 11,836 7,757 △ 34.5
合計 1,062,694 1,027,364 1,151,306 1,030,126 532,027 △ 48.4

出所:インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ジャカルタ首都圏を中心に2020年4月以降、大規模社会制限(PSBB)(2020年4月10日付ビジネス短信参照)が導入された。消費市場が低迷する中、日系自動車メーカーなどは工場を一時停止するなどの対応を取った。結果、生産台数は4月に約2万1,432台、5月には約2,510台にまで落ち込んだ(図1参照)。その後、6月になると制限付きで経済活動を再開する動きが進み、同月以降の月別生産台数は次第に上昇した。

図:月別生産台数(単位:台数・%)
生産台数は、1月から3月まで毎月10万台から11万台だったが、4月に前年同月比で約8割減少し、2万1,432台となった。5月に通年で最低の2,510台を記録した後、8月までに29,584台まで回復し、9月に59,573台まで上昇した。11月には5月以降で最高の72,386台となった。12月には再びやや減少し、68,173台となったが、前年同期比では上昇を続け、マイナス30%程度の水準まで回復した。

出所:インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)

2020年通年のブランド別の販売台数は、首位がトヨタの16万1,256台(前年比51.4%減)で、ダイハツが9万724台(同48.8%減)、ホンダが7万3,315台(同46.6%減)と続いた(表2参照)。日本ブランドのシェアは96.6%と、2020年も市場の大多数を占めた。シェア首位のトヨタ(30.3%)に次いで、ダイハツ(17.1%)、ホンダ(13.8%)など、上位5ブランドで市場の8割を占めた。スズキは12.4%と前年から2.7ポイント、シェアが拡大した。

表2:主要ブランド別販売台数(△はマイナス値)
順位 ブランド名 2019年 2020年 前年比 シェア率
1 トヨタ 331,797 161,256 △ 51.4 30.3
2 ダイハツ 177,284 90,724 △ 48.8 17.1
3 ホンダ 137,339 73,315 △ 46.6 13.8
4 スズキ 100,383 66,130 △ 34.1 12.4
5 三菱自動車 119,011 57,906 △ 51.3 10.9
6 三菱ふそう 42,754 21,359 △ 50.0 4.0
7 いすゞ 25,270 16,422 △ 35.0 3.1
8 日野 31,068 12,621 △ 59.4 2.4
9 日産 12,302 10,849 △ 11.8 2.0
10 ウーリン(五菱) 22,343 6,581 △ 70.5 1.2

出所:インドネシア自動車製造業者協会(GAIKINDO)

新型コロナ禍で若年層の嗜好に変化

モデル別では、ホンダのブリオシリーズが4万879台で、2020年の新車販売台数の首位に躍り出た。ホンダ・プロスペクト・モーター(HPM)のビジネスイノベーション・アンド・マーケティング・セールスダイレクターのユサック・ビリー氏は「ブリオの躍進は、新型コロナのパンデミック下でのオンラインメディアの活用や、公共交通機関ではなく車を利用したいという消費行動の変化によるもの。特に若年層への販売が伸びた」と述べた(「ビジネス・インドネシア」紙1月18日)。「ブリオ・サティア」は、インドネシア政府が2013年に導入したエコカー政策の「低価格グリーンカー」(LCGC)の対象モデル。販売価格は約1億4,900万ルピア(約112万円、1ルピア=約0.0075円)と安価だ。低価格かつエコフレンドリーな点が若年層の消費ニーズと合致したとみられる。

直近の自動車販売をめぐる動きとしては、オンライン販売の活用がある。三菱ふそうトラック・バスの現地販売代理店カルマ・ユダ・ティガ・ベルリアン・モーターズが2020年9月、インドネシア最大のECサイト「トコペディア」で、全ての現地モデルを購入可能にしたと発表した。コロナ禍に伴うPSBB中でも実店舗に行かずにオンラインで購入できる仕組みとなる。同社セールス・アンド・マーケティングディレクターのドゥリジャモノ氏は、「トコペディアでの販売は、消費者に手軽なサービスを提供する一環で、特にパンデミック下の消費者のニーズに応える必要があった」と述べた(「ビジネス・インドネシア」紙、2020年9月1日)。

環境規制と電気自動車政策に注目

環境面では、環境大臣令2017年第20号PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます) (5.36MB)で二酸化炭素(CO2)排出規制が定められている。同法令は新車の排出ガスについて、ユーロ4の基準に準拠することを定めたものだ。この規制をに基づき、政府は自動車のCO2排出量の段階的な削減を進めている。

インドネシアでは、電気自動車(EV)の普及はまだ進んでいない。しかし、政府はアジアのEV製造拠点を目指す動きを進めている。2019年8月にはEV促進に関する政令を発表した(2019年8月23日付ビジネス短信参照)。また2020年9月には、ルフット海洋・投資担当調整相が2024年をめどにリチウムイオン電池を国内製造したい考えを示した(「リパブリカ」紙、2020年9月16日)。さらに、インドネシア投資調整庁は、2021年の新規投資としてEV関連産業への期待を示している。今後、インドネシアでのEV産業をめぐる動きが注目される。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
北條 恵理(ほうじょう えり)
2011年、ジェトロ入構。人事課、ビジネス展開支援部 途上国ビジネス開発課を経て2019年から現職。