2020年の自動車販売は下半期に復調、政府支援が下支えも(ベトナム)
2021年は新型コロナ感染動向とビンファストのEV参入に注目

2021年7月6日

2020年の自動車販売市場は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界的に低迷した。ベトナムも例外ではなく、新車販売台数は前年を下回った。それでも、国内での感染がいったん収束したのに伴い、下半期は前年を上回る伸びをみせた。ベトナムの四輪市場は二輪市場に比べて7分の1程度にとどまっているが、 1億人弱の人口や安定した経済成長を踏まえると、四輪自動車のさらなる普及が期待される。また、ベトナムでも電気自動車(EV)を製造および販売する動きが出てきている。本レポートでは、2020年の自動車販売実績を振り返りつつ、2021年以降の注目点を探る。

新型コロナ影響も、市場規模は40万台超えを維持

ベトナム自動車工業会(VAMA)によると、2020年の新車販売台数は前年比7.8%減の29万6,634台だった。ただし、このVAMAの発表値には、韓国系のヒュンダイ・タインコンと地場のビンファストが含まれていない点に留意する必要がある。この2社が独自の基準で発表している販売台数を加えると、2020年の新車販売市場は約41万台と推定される(図1参照)。前年の約42万台よりも減少したが、2年連続で40万台を超える規模になった。

図1:2014年から2020年のベトナム新車販売台数の推移(単位:台)
ベトナムの新車販売台数について、2014年は157,810台、2015年は244,914台、2016年は304,427台、2017年は272,750台(VAMA非加盟を含むと約30万台)、2018年は88,683台(VAMA非加盟を含むと約35万台)、2019年は321,811台(VAMA非加盟を含むと約42万台)、2020年は296,634台(VAMA非加盟を含むと約41万台)。2020年の国産車(CKD)は109,530台、輸入車(CBU)は187,104台。

注:ヒュンダイ・タインコンとビンファストの販売台数はVAMAの発表値に含まれないが、本図では、2017~2018年はヒュンダイ・タインコン発表の台数をVAMA非加盟分(点線)として追加。2019年以降は、ヒュンダイ・タインコンとビンファスト発表の台数をVAMA非加盟分(点線)として追加。
出所:VAMA公表資料、ヒュンダイ・タインコンとビンファストの発表を基にジェトロ作成

ベトナムでは2020年1月下旬に新型コロナウイルス感染が発覚して以降、警戒感が高まり、外出の自粛など人々の行動にも影響が出始めた。3月には欧米からの帰国者経由で市中感染が広がり、政府は4月にベトナム全土で外出制限を伴う社会隔離措置を適用した。この措置下では、不要不急の外出が制限され、自動車販売店も一時的に休業せざるを得ない状況となった。4月後半から地域によっては制限が緩和されたが、同月の販売は大幅に落ち込み、VAMA発表の新車販売台数は前年同月比44.1%減となった(図2参照)。7月末には中部ダナン市を中心に感染第2波が発生し、7月と8月は自動車市場の復調の勢いが停滞した。しかし、第2波による外出制限措置の適用は一部地域に限定されたこともあり、影響は最小限にとどまった。その後は感染の収束とともに、販売台数が右肩上がりに伸び、10~12月は前年同月比がプラスに転じた。

図2:2020年1~12月のベトナム新車販売台数と前年同月比(単位:台、%)
2020年のベトナムの新車販売台数と前年同月比について、1月は15,649台(前年同月比27.8%減)、2月は17,536台(27.8%減)、3月は19,154台(41.0%減)、4月は11,761台(44.1%減)、5月は19,081台(30.5%減)、6月は24,002台(12.8%減)、7月は24,065台(9.8%減)、8月は20,655台(3.9%減)、9月は27,253台(1.9%減)、10月は33,254台(15.5%増)、11月は36,359台(22.6%増)、12月は47,865台(45.1%増)。

注:1月と2月はベトナムの旧正月(テト休暇)の日程により、月ごとの台数の変動が大きいため、1月と2月の前年同期比は両月の平均台数をもとに算出した。
出所:VAMA公表資料を基にジェトロ作成

政府の支援策、国産車の販売を下支え

VAMA発表の新車販売台数のうち、輸入車は前年比17.2%減の10万9,530台と落ち込んだ一方、海外ブランドを含む国内生産車(国産車)は1.2%減の18万7,104台を維持した(図1参照)。国産車の販売を後押ししたのは、政府による支援策だ。政府はベトナム国内の自動車メーカーを支援するため、2020年6月28日に政令70号(70/2020/ND-CP)を公布し、同日から12月31日までの期間、国内で組み立て生産された自動車の登録料を50%減額した(2020年7月15日付ビジネス短信参照)。自動車登録料は、仮に本体価格が300万円の国産乗用車を新たに購入する場合、通常30万円ほどかかる。この場合、支援策によって購入価格は実質15万円ほど値引きされることになり、輸入車に対する国産車の価格競争力が高められた。実際、支援策が発表された6月以降、国産車の販売は前年同月比で、輸入車を大きく上回る伸びが続いた(図3参照)。なお、2020年の国内自動車生産台数は前年比2.9%減の24万9,000台(統計総局の推計値)だった。

図3:2020年1~12月の国産車と輸入車の販売台数の前年同月比(単位:%)
2020年の国産車の販売台数の前年同月比について、1月と2月は平均21.2%減、3月は41.5%減、4月は48.7%減、5月は28.8%減、6月は3.7%減、7月は3.3%増、8月は10.9%増、9月は4.9%増、10月は24.9%増、11月は41.7%増、12月は49.1%増。2020年の輸出車の販売台数の前年同月比について、1月と2月は平均36.7%減、3月は40.1%減、4月は34.8%減、5月は32.7%減、6月は25.8%減、7月は27.3%減、8月は24.7%減、9月は12.5%減、10月は2.9%増、11月は1.6%減、12月は39.1%増。

注:1月と2月はベトナムの旧正月(テト休暇)の日程により、月ごとの台数の変動が大きいため、1月と2月の前年同期比は両月の平均台数をもとに算出した。
出所:VAMA公表資料を基にジェトロ作成

北部の乗用車は増加を維持

VAMA加盟企業の新車販売台数を用途別にみると、2020年は乗用車が22万1,274台(前年比6.7%減)、商用車は7万1,507台(10.1%減)、特別目的車(ダンプトラックなど)は3,853台(25.8%減)となった(図4参照)。乗用車は2017年を除いて年々増加する傾向にあったが、2020年はその勢いが止まった。商用車と特別目的車は2016年のピーク以降、減少している。2020年は、特にバスの販売台数が前年比70%減と、大幅に落ち込んだ。パンデミック下での旅行産業の低迷が、影響したものとみられる。

図4:2014年から2020年のVAMA加盟企業の用途別新車販売台数(単位:台)
VAMA加盟企業の用途別新車販売台数のうち、乗用車について、2014年は100,439台、2015年は143,392台、2016年は182,347台、2017年は154,209台、2018年は196,949台、2019年は237,054台、2020年は221,274台。商用車について、2014年は51,408台、2015年は89,398台、2016年は106,412台、2017年は104,725台、2018年は84,634台、2019年は79,567台、2020年は3,853台。特別目的車について、2014年は5,963台、2015年は12,124台、2016年は15,668台、2017年は13,816台、2018年は7,100台、2019年5,190台、2020年は3,853台。

出所:VAMA公表資料を基にジェトロ作成

地域別でみると、北部は12万1,875台(前年比0.9%減)、南部は12万1,790台(11.3%減)、中部は4万318台(10.8%減)だった。北部は、下半期に厳格な外出制限措置を適用せずに済んだため、販売台数が前年と同水準を保てた。中でも、北部の乗用車販売は、前年より2.6%増加した。

日系シェアは50%弱、韓国系とビンファストが存在感を増す

主要ブランド別にみると、ヒュンダイ・タインコンとトヨタの2社が上位を占めた(表1参照)。ヒュンダイ・タインコンの販売台数は8万1,368台(前年比2.3%増)と、前年を上回る販売実績を示した。これは、ヒュンダイ・タインコン独自の基準による発表で、VAMA加盟企業の発表値と一律に比較はできないが、トップ水準の販売台数であることに違いはない。乗用車のモデル別では、セダン「アクセント」、小型のハッチバック「グランドI10」、SUV(スポーツ用多目的車)「サンタフェ」の3種が、販売台数上位10モデルに入った(表2参照)。一方、トヨタの販売台数は、7万692台(前年比10.9%減)だった。セダン「ヴィオス」が3万251台(11.3%増)と、他を寄せ付けず、モデル別の首位を維持した。

表1:主要ブランド別の販売台数(2020年)(単位:台、%)(△はマイナス値)
ブランド名 販売台数 シェア 前年比
ヒュンダイ・タインコン(注1) 81,368 20.6 2.3
トヨタ 70,692 17.9 △ 10.9
タコ・起亜 39,180 9.9 30.2
タコ・マツダ 32,224 8.2 △ 1.5
ビンファスト(注1) 29,485 7.5 71.3
三菱 28,954 7.3 △ 5.5
フォード 24,663 6.2 △ 23.3
ホンダ 24,418 6.2 △ 26.2
タコ・トラック 24,119 6.1 4.8
スズキ(ビスコ) 14,518 3.7 23.2
いすゞ(注2) 8,925 2.3 7.1
プジョー 4,411 1.1 21.3
日野(注2) 3,325 0.8 25.7
ドータイン 2,960 0.7 △ 42.2
日産(TCIEV) 2,041 0.5 △ 21.7
レクサス 1,444 0.4 △ 4.4
タコ・バス 793 0.2 △ 64.5
ビエム 508 0.1 △ 49.2
ビナモーター(注2) 392 0.1 △ 48.5
サムコ 331 0.1 △ 50.2
大宇バス 85 0.0 △ 63.5
合計(注3) 394,836 100.0 △ 1.9

注1:ヒュンダイ・タインコンとビンファストの販売台数は自社基準に基づく。
注2:いすゞ、日野、ビナモーターは、バスシャーシを含まない。
注3:VAMAに加盟していない輸入ブランドの台数が反映されていないため、合計の台数は図1と一致しない。
出所:VAMA公表資料、ヒュンダイ・タインコンおよびビンファストの発表を基にジェトロ作成

表2:乗用車の販売台数上位10モデル(2020年)(単位:台、%)(―は値なし、△はマイナス値)
順位 モデル メーカー 形態 台数 北部 中部 南部 前年比
1 ヴィオス
(Vios)
トヨタ セダン 30,251 14,752 5,119 10,380 11.3
2 アクセント
(Accent)
ヒュンダイ
(注)
セダン 20,776 5.4
3 ファディル
(Fadil)
ビンファスト
(注)
ハッチバック 18,016
4 グランドI10
(Grand I10)
ヒュンダイ
(注)
ハッチバック 17,569 △ 2.9
5 エクスパンダ―
(Xpander)
三菱 MPV 16,844 5,506 3,101 8,237 △ 16.2
6 レンジャー
(Ranger)
フォード ピックアップ 13,291 5,045 2,665 5,581 △ 0.2
7 セラト
(Cerato)
タコ・起亜 セダン 12,033 6,614 1,284 4,135 6.4
8 CX-5 マツダ クロスオーバー 11,803 6,042 1,397 4,364 15.4
9 サンタフェ
(Santa Fe)
ヒュンダイ
(注)
SUV 11,425 23.8
10 CR-V ホンダ SUV 11,365 5,383 2,069 3,913 △ 14.8

注:ヒュンダイ・タインコンおよびビンファストが発表する販売台数は各社独自のもので、他のVAMA加盟企業の販売台数と一律に比較はできない。
出所:VAMA公表資料、ヒュンダイ・タインコンおよびビンファストの発表を基にジェトロ作成

上位2社に次いで、タコ・起亜が3万9,180台(前年比30.2%増)と、販売台数を伸ばして3位になった。これまで好調だった小型のハッチバック「モーニング」の販売は落ち込んだものの、セダンの「セラト」と「ソルト」、新規投入のクロスオーバー「セルトス」の販売が伸びた。ヒュンダイ・タインコンとタコ・起亜の両社が、前年よりも販売台数を伸ばした結果、韓国系ブランドの市場シェアは30%を超えた。日系ではスズキ、いすゞ、日野が販売台数を伸ばしたが、日系ブランドのシェアは前年よりも下がり、50%弱となった。

また、大手複合企業ビングループ傘下のビンファストの販売台数も増加した。ビンファストは、2018年11月に自動車販売を開始したばかりの新興企業だ。同社の発表によると、自動車の販売台数は、2019年が1万7,214台だったのに対し、2020年は前年比71.3%増の2万9,485台となった。同社独自の基準に基づく発表値であるため、他社と一律に比較はできないが、シェアは7.5%ほどとみられる。小型のハッチバック「ファディル」が1万8,016台と、売れ行きを伸ばし、モデル別の3位に入った。ビングループの不動産業と連携したキャンペーンを行うなど、ビンファストは地場ブランドとしての認知を高めている。一方、北部ハイフォン市にある同社工場の生産能力は25万台で、将来的には50万台に拡大予定であることを踏まえると、販売実績はまだまだ十分とはいえない。

2021年は復調に期待も、感染再発が足かせに

2021年の新車販売台数は、大幅な伸びへの期待が高まる中、手堅い増加にとどまっている。2021年1~5月は前年同期比52.5%増の12万6,894台で、新型コロナウイルスの影響がみられた前年と比べると、著しい伸びとなった(図5参照)。一方、パンデミック発生前の2019年と比べると、販売台数は同水準にとどまる。ベトナムでは2021年1月末に発生した第3波で、北部ハイズオン省を中心に一部の地域で社会隔離措置が講じられた。また、4月末に発生した第4波は、国内で過去最大の猛威を振るっており、北部のバクザン省やバクニン省を中心に感染者が急増した。ハノイ市でも外出自粛期間が長引いたほか、6月中旬からはホーチミン市でも感染が拡大し、南部地域での社会隔離措置も強化された。第4波の影響は6月末時点でも続いており、感染対策の強化と長期化によって、自動車市場にも影響を及ぼすとみられる。

図5:1~5月期の販売台数推移(単位:台)
1~5月期の販売台数について、2017年は109,906台、2018年は103,992台、2019年は126,921台、2020年は83,181台、2021年は126,894台。2021年1~5月期の国産車(CKD)は55,174台、輸入車(CBU)は71,720台。

出所:VAMA公表資料を基にジェトロ作成

また、2021年初めは、特に国産車の勢いが減速した。1~5月の販売台数で、輸入車は2019年と比べて7.7%増となった一方、国産車は5.3%減にとどまった。国産車に対する自動車登録料半減の優遇措置が、2021年1月以降は継続されなかったため、その反動で国産車の伸びがいったん落ち着いたとみられる。

ビンファストがEV事業に参入、政府に支援を要請

地場ブランドのビンファストが今後力を入れていくのが、EV事業だ。同社は2021年1月、自動運転支援機能付きのEV3車種を年内に販売すると発表した。そのうち、CセグメントのSUVクロスオーバータイプ「VFe34」は、3月24日に受注を開始(2021年4月2日付ビジネス短信参照)。このモデルは、42キロワット時(kWh)のバッテリーを使用し、フル充電で300キロメートル走行できる。11月に納車開始を予定しており、並行して国内のEV用インフラ整備を進めている。ビングループの関連施設をはじめ、年内に全国63省・市に2万を超える充電スタンドの設置を目指す。ビンファストの作業員へのヒアリングによると、コンドミニアムやショッピングセンターに設置される通常の充電スタンド(写真参照)のほか、高速道路沿いの施設には急速充電に対応したスタンドを設置する予定だという。


ビンファストのEV用充電スタンド(ジェトロ撮影)

ビンファストはEVモデルの開発にあたり、海外メーカーとの提携を進めてきた。2018年9月には韓国のLG化学と組み、リチウムイオン電池製造に向けて動き始めた。2021年3月には台湾の輝能科技(プロロジウムテクノロジー)と組み、EV用全固体電池パックの製造を進めると発表した。同年4月には、米国の半導体メーカー、エヌビディア(Nvidia)の自動運転車向けのチップを採用すると発表。高い情報処理能力を生かし、レベル2~3の自動運転機能を取り入れていく計画だ。また、ビンファストはオーストラリアやドイツ、米国にも研究開発拠点を有しており、2022年には北米や欧州にEVを輸出する予定だ。

ビンファストは、電気バスの事業も推進している。2018年8月からドイツのシーメンスと連携し、電気バスの開発・製造を進めてきた。ビンファストが製造した電気バスは、ビングループが開発したハノイ市東部の大型不動産プロジェクト「オーシャンパーク」内で2021年4月に運行を開始した。今後は、ハノイ市とホーチミン市の新規路線での運行も計画されている。


ビンファストの電気バス(ジェトロ撮影)

ビングループは、国内でEVを普及させるため、EVの特別消費税と自動車登録料に対する優遇措置を政府に提案した。2021年6月時点で、政府内ではEVの特別消費税と自動車登録料を5年間免除する方向で検討が進んでいる模様だ。一方、政府は温室効果ガス削減目標を制定しているものの(2021年4月28日付地域・分析レポート参照)、EV導入に関する目標などは打ち出していない。今後、ベトナムでEVの普及がどの程度進むのか、政府としてどの程度支援をしていくのか、まだ先の読めない状況にある。

パンデミックの影響を乗り越えて、2020年下半期に復調をみせたベトナムの自動車市場。2021年もその勢いが続くことが期待されるが、新型コロナウイルス感染再発が思わぬ足かせとなっており、前年に続いて感染収束が最重要課題となりそうだ。また、気候変動対策など国際的に環境意識が高まる中、ベトナムでもEVをめぐる動きが出始めた。EVの普及に向けて、政府としてどのような政策を打ち出していくのか、注目を集めている。

執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
庄 浩充(しょう ひろみつ)
2010年、ジェトロ入構。海外事務所運営課(2010~2012年)、横浜貿易情報センター(2012~2014年)、ジェトロ・ビエンチャン事務所(ラオス)(2015~2016年)、広報課(2016~2018年)を経て、現職。