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新型コロナ下でも水素社会に向けた動きが続く中国

2020年9月8日

中国では、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、水素燃料電池自動車(FCV)を新エネルギー車(NEV)として、購入補助金などにより導入を促進してきた。その結果、2018年以降は、EVとPHV合わせて毎年100万台を超える販売台数を記録しているが、FCVについては、2019年の販売台数は2,737台(生産台数は2,833台)にとどまっている。

EV・PHV導入の再現を目指す

中国では2012年の「省エネ・新エネ車産業発展計画(2012~2020年)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(以下、発展計画)において、2020年までにEV、PHVの累積販売台数を500万台とする導入目標が掲げられた。中国のEVとPHVの累積販売台数は、国際エネルギー機関(IEA)の統計によれば、2009年の500台から2019年には335万台まで伸びているが、発展計画で掲げられている目標を達成するには2020年内に約165万台の販売が必要となる。2020年の中国の自動車市場の動向を鑑みれば、目標達成は難しいものの、目標に近い台数まで伸びることが見込まれる(図1参照)。

図1:EV・PHVの累積販売台数
2009年に500台だったEV・PHVの累積販売台数は、2019年には334万9,100台に達した。2020年に500万台という目標がある。

注:2020年は目標値。
出所:IEA Global EV Outlook 2020よりジェトロ作成

FCVの累積販売台数については、2015年の10台から2019年には6,178台まで増加した。工業信息化部から依頼を受けた中国自動車工程学会が策定し、2016年10月に発表された「省エネ・新エネ車技術ロードマップ」の中で、FCVの累積販売目標は2020年までに5,000台となっている。2019年にすでに6,178台を販売しているため、2020年の目標は超えたものの、2020年上半期の販売台数は403台にとどまっていることから、2025年の5万台、2030年の100万台という目標達成は難しい状況にある(図2参照)。

図2:FCVの累積販売台数
2015年に10台だったFCVの累積販売台数は、2019年には6,178台で2020年に5,000台という目標を超えた。2025年には5万台、2030年には100万台という目標がある。

注:2020年、2025年、2030年は目標値。
出所:CAAM(中国汽車工業協会)統計、各種報道などよりジェトロ作成

一方、FCVの普及に不可欠な水素ステーションについては、2019年末までに全国で61カ所建設され、うち52カ所で運営を開始した。また、2020年上半期には11カ所が建設され、さらに30カ所を建設中とされている。2020年までに100カ所の水素ステーションを導入する目標は達成されそうな状況で、上海市では上海汽車、宝武鋼鉄などの国有企業も水素ステーションの建設に乗り出すなど、2025年以降の目標達成に向けた勢いを感じる(2020年7月21日付ビジネス短信参照)。

水素ステーションについては、各省市レベルで水素ステーション建設、運営への補助なども実施されている。水素ステーションの建設補助が受けられる金額は、ステーションが新設か既存ガソリンスタンドからの改築かによって異なり、また水素充填(じゅうてん)能力により異なる。山東省済南市では最大900万元(約1億3,500円、1元=約15円)の補助が受けられる。また、ステーションの運営補助は、水素の販売価格により異なるものの、水素1キロ当たり10~15元(約150~225円)程度の補助が受けられるなど、建設、運営とも支援策は引き続き実施される見込みである。

FCVは購入補助金からサプライチェーン構築へ

2017年以降、水素導入・振興に関する計画が中国各地で盛んに制定・発表された。

中国国家発展改革委員会系のシンクタンクは、現地紙に「熱の上がる水素には冷静な思考が必要」と題する記事が掲載された。それによると、中国の自主技術が未熟な状態で市場が大規模に拡大すれば、コア技術を持つ海外企業などに購入補助金などが流出する。すでに20以上の省市で水素発展計画があり、FCVの生産能力は10万台を超えるなど、無秩序な競争と過剰生産能力のリスクを防ぐ必要がある。中国にはエネルギー資源も豊富なため、エネルギー体系の中で水素を理性的に位置付けるべきだ、と主張する(「経済日報」2019年10月18日付)。

2020年4月23日に、財政部、国家発展改革委員会などがNEV補助金を2022年まで延長する通知外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表したが、FCVは購入補助金の対象から外れることとなった。同日に発表された通知の解説によれば、FCVや水素ステーションの導入は進みつつあるが、コアな技術力が欠けており、購入補助金では、産業サプライチェーンと基礎インフラ建設の構築を促進することに限界があった。そのため、モデル都市に奨励金を与える方策をとり、各地におけるサプライチェーン構築を支援していくこととした。これを受けて、上海市、広東省、山東省など、すでに水素ステーションがあり、FCVの路線バスを導入するなど、水素利用が進んでいる省市を中心に、モデル都市指定に向けた動きが見られる。

水素に関する中央政府や長江デルタ地域の動きも盛んに

2020年4月10日には、国家能源局が「中華人民共和国エネルギー法(意見請求稿)」を発表し、水素をエネルギーの定義に含めた。また、新型コロナウイルスの影響で、5月22日から開催された第13期全国人民代表大会(全人代)第3回会議において、国家発展計画委員会が発表した「2020年度国民経済・社会発展計画についての報告外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」の中で、国家としての水素エネルギー発展戦略の計画を策定すると言及した。

6月5~6日に浙江省で開催された「2020長江デルタ地域主要指導者座談会」では、上海市の李強書記をはじめ、長江デルタの1市3省から書記と省長が出席する中、「長江デルタ一体化発展重大協力事項」19プロジェクトの1つとして、長江デルタ水素エネルギー物流モデルルートの構築を内容とするプロジェクトも調印された(2020年6月15日付ビジネス短信参照)。

日本との協力については、2019年の「第13回日中省エネルギー・環境総合フォーラム」において、水素分科会が設置され、両国の政府・民間企業関係者が交流した。また、2020年6月5日に、トヨタ自動車が中国第一汽車、東風汽車集団、広州汽車集団、北京汽車集団、北京億華通科技と商用車用の燃料電池システム開発をすべく「連合燃料電池システム研究開発(北京)」の設立にかかる合弁契約を締結し、2020年中に北京市に企業を設立する予定となっている。

このように、中国では新型コロナの影響下でも水素社会構築に向け、中央・地方政府と、これに呼応する企業の動きが続いており、世界に先駆けてFCV分野における水素の実用化が進行していく可能性がある。

執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所 経済信息・機械環境産業部長
高橋 大輔(たかはし だいすけ)
1997年経済産業省入省、国際関係、エネルギー・環境関係部署、製造産業局自動車課(2016~2018年)を経て、2018年6月よりジェトロに出向し現職。

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