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技術系スタートアップ支援を経済復興の柱に(フランス)
政府、育成に2年間で37億ユーロ投資

2020年10月30日

新型コロナ禍で戦後最悪の景気後退に見舞われる中、フランスでスタートアップの資金調達が堅調だ。スタートアップ・エコシステムの成熟や政府によるリスクマネーの供給強化が背景にある。政府はスタートアップ企業の成長・発展を経済復興の原動力と捉え、2022年までに総額37億ユーロを技術系スタートアップの育成に充てる。

監査法人アーンスト・アンド・ヤングが9月3日に発表した「フランスにおける2020年上半期のベンチャーキャピタル(VC)動向」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、2020年上半期のVCの投資件数は360件、投資額は27億ユーロ。前年同期の27億9,000万ユーロ(366件)をやや下回る水準だ。しかし、2018年まで半期ベースの投資額が20億ユーロに届かなったことを考えると、新型コロナ危機にもかかわらず、かなり健闘した数字といえる。

特に2020年上半期は、VCによる大型出資の拡大が顕著だった。1億ユーロ未満の案件は金額ベースで前年同期比9%減にとどまっている。一方で、1億ユーロを超えるレートステージ(成熟段階)のスタートアップ向け投資(グロース・エクイティ)は同19%増と、全体を押し上げた。欧州全体の中では、VCによる大型出資が急減したドイツ(80%減)を抑え、フランスは英国に次いで第2位となった。

また、同レポートによると、1億ユーロを超える大型資金調達に成功したのは、企業のサステナビリティー(持続可能性)を評価するエコバディス(1億8,200万ユーロ)、ネットユーザーの行動分析サービスを提供するコンテンツスクエア(1億7,300万ユーロ)、日曜大工用品のネット通販マノマノ(1億2,500万ユーロ)、リファービッシュ品通販のバックマーケット(1億1,000万ユーロ)、ネオバンクのクォント(1億400万ユーロ)だった。

いずれもフランス政府が育成に力を入れるスタートアップ企業だ。このうち、コンテンツスクエア、マノマノ、バックマーケットは2019年9月、政府が技術面で世界レベルのリーダーとなる潜在力を有すると評価した有望スタートアップ企業「ネクスト40」に選ばれた(2019年9月24日付ビジネス短信参照)。エコバディス、クォントも2020年1月、海外展開や資金調達、市場アクセスなど政府の強力な支援の対象となる123社のスタートアップ企業「フレンチ・テック120」に選ばれている(2020年1月29日付ビジネス短信参照)。

政府、リスクマネーの供給体制強化

フランスのスタートアップ企業が2020年上半期に新型コロナ危機の波を乗り切った背景には、スタートアップ・エコシステムの成熟や政府によるリスクマネー供給体制の強化が挙げられる。マクロン大統領は2019年9月、フランス生まれのユニコーンを2025年までに25社に増やす目標を掲げた。あわせて、官民投資ファンドの育成を通じ、向こう3年間に総額50億ユーロをスタートアップ企業に投資する計画を発表した(2019年9月24日付ビジネス短信参照)。これにより、アーリーステージのシードマネー供給に重点を置いた従来のスタートアップ支援から、レートステージでのリスクマネー供給を強化し、スタートアップ企業のスケールアップを目指す政策に軸足を移していた。

新型コロナ危機への対応でも、政府はスタートアップ企業への資金援助を早くに打ち出した。2020年3月に移動制限措置を導入するとすぐに、スタートアップ企業向けのつなぎ融資、政府保証融資など合わせて約40億ユーロのキャッシュフロー支援を行った。さらに、移動制限措置緩和後の6月には、技術系の企業を対象に約12億ユーロの資金支援策を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます。公的投資銀行BPIフランスが運営する投資ファンドの拡充を通じ、リスクマネーの供給を拡大した(2020年6月9日付ビジネス短信参照)。具体的には、将来の国家主権に関わる技術を開発するテック企業を外資による買収から守る投資ファンド「フレンチ・テック主権」ファンド(1億5,000万ユーロ)や、ディープテックに特化したスタートアップ・アクセラレーターを支援するファンド(1億ユーロ)などを新たに設立した。

スタートアップ育成を経済復興の柱に

こうした政府による支援を背景に、2020年7~8月もスタートアップ企業による堅調な資金調達の動きが続いた。9月9日付の「ラ・トリビューヌ」紙によると、7~8月の資金調達件数は75件、調達額は3億2,444万ユーロとなり、前年同期の2億9,600万ユーロを上回った。ヘルスケア電子機器のウィジングスが5,300万ユーロ、バイオテクノロジーのDNAスクリプトが4,600万ユーロの資金調達に成功するなど、医療技術やバイオテクノロジー分野が牽引した。ウィジングス、DNAスクリプトによる資金調達には、民間投資会社とともにBPIフランスの投資ファンドが参加した。

新型コロナ危機で大きな打撃を受けた自動車や航空機、観光などの基幹産業で早期の回復が見込めない中、政府は技術系スタートアップ企業の成長・発展を経済再生に向けたエンジンの1つと捉える。9月に発表した経済復興政策の中に、環境に次ぐ復興の第2の柱として、デジタル分野へ総額70億ユーロの投資を盛り込んだ。このうち、37億ユーロを技術系のスタートアップ支援に充てる。サイバーセキュリティーや量子技術など破壊的技術(Disruptive Technology)(注)の開発プロジェクトに約24億ユーロを投資し、技術上の国家主権の確保につなげる。さらに、スタートアップの大型資金調達支援に5億ユーロを拠出するほか、BPIフランス(4億ユーロ)や国家研究開発プロジェクト「未来投資計画」(8億ユーロ)を通じ、世界レベルでリーダーとなる技術系スタートアップを育てる。


注:
従来の価値基準の下ではむしろ性能を低下させるが、新しい価値基準では従来製品よりも優れた特長を持つ新技術のこと。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
山﨑 あき(やまさき あき)
2000年よりジェトロ・パリ事務所勤務。
フランスの政治・経済・産業動向に関する調査を担当。

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