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ラトビアのIT産業を支える人材事情
ドイツ、インド、CIS諸国などから外国人留学生を広く受け入れ

2020年3月18日

バルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)の真ん中に位置するラトビアは、2004年にEU加盟、2014年にはユーロを導入した。人口191万9,000人の小さな国だが、情報通信技術(ICT)製品・サービスの輸出額は2018年に過去最高の7億7,900万ユーロを記録、輸出額に占めるICT製品の割合はバルト3国で最も高く、日本をもしのぐ。成長するラトビアのIT産業を支える人材事情を探る。

ICT製品・サービスの輸出額が過去最高を記録

ラトビア投資開発公社(LIAA)のカスパルス・ロージェカルンス長官は「ラトビアのIT関連の輸出額は増えており、2018年にはエストニアのIT関連輸出額を超える7億7,900万ユーロに達した」と、ジェトロのインタビューで答えた。ラトビア銀行の貿易統計によると、ICT製品・サービスの輸出額は過去10年間で5倍に増加しており、2018年には前年の6億2,400万ユーロから25%増加し、過去最高を記録した。

図1:ラトビアのICT製品・サービスの輸出額
2008年150百万ユーロ、2009年151百万ユーロ、2010年162百万ユーロ、2011年186百万ユーロ、2012年239百万ユーロ、2013年281百万ユーロ、2014年291百万ユーロ、2015年360百万ユーロ、2016年533百万ユーロ、2017年624百万ユーロ、2018年779百万ユーロ。

出所:ラトビア銀行の統計からジェトロ作成

バルト3国に関して、輸出に占めるICT製品の割合を国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計で比較すると、2017年でのラトビアの輸出に占めるICT製品の割合はバルト3国の中で最も高く、9.345%を占めた(エストニア9.279%、リトアニア4.076%)。2016年、2017年と続けて割合は低下したものの、輸出に占めるICT製品の割合が低下傾向にある日本とは対照的に、割合が増える傾向を2015年まで示していた。

図2:バルト3国の輸出に占めるICT製品の割合
2000年エストニア25.259%、日本22.702%、リトアニア4.768%、ラトビア0.869%。 2001年エストニア21.333%、日本20.356%、リトアニア4.752%、ラトビア1.072%。 2002年日本19.898%、エストニア13.344%、リトアニア4.289%、ラトビア1.059%。 2003年日本19.372%、エストニア14.576%、リトアニア4.431%、ラトビア1.467%。 2004年日本18.442%、エストニア17.243%、リトアニア5.309%、ラトビア1.647%。 2005年エストニア17.041%、日本16.945%、リトアニア5.281%、ラトビア1.952%。 2006年日本15.948%、エストニア13.049%、リトアニア4.674%、ラトビア2.832%。 2007年日本13.162%、エストニア6.216%、リトアニア3.875%、ラトビア3.424%。 2008年日本11.839%、エストニア5.422%、ラトビア4.610%、リトアニア3.021%。 2009年日本12.082%、ラトビア5.644%、エストニア4.731%、リトアニア2.487%。 2010年日本10.677%、エストニア7.951%、ラトビア5.772%、リトアニア2.710%。 2011年エストニア11.475%、日本9.228%、ラトビア5.389%、リトアニア2.402%。 2012年エストニア10.903%、日本9.147%、ラトビア6.138%、リトアニア2.265%。 2013年エストニア11.611%、日本8.644%、ラトビア7.671%、リトアニア2.428%。 2014年エストニア12.798%、ラトビア9.797%、日本8.369%、リトアニア2.939%。 2015年エストニア11.907%、ラトビア11.519%、日本8.519%、リトアニア3.947%。 2016年エストニア12.527%、ラトビア10.499%、日本8.313%、リトアニア3.864%。 2017年ラトビア9.345%、エストニア9.279%、日本8.351%、リトアニア4.076%。

出所:国連貿易開発会議(UNCTAD)の統計からジェトロ作成

ラトビアの2000年時点でのソフトウエアの総売り上げはGDPの0.74%と欧州でも最高レベルで、当時のラトビアの6大ソフトウエア企業では各社の生産高の50%から90%を国外に輸出している。IT分野はソフトウエア輸出という政策的見地から政府の強力な支援があり、ITクラスターも設置された〔2001年9月19日開催のバルト3国ビジネスセミナーでのカルビティス経済相(当時)、ラトビア開発庁のエルーツ理事長(当時)らの発言〕。ラトビア政府は労働集約型経済から知識集約型経済への移行に取り組む中で、科学や技術分野で優秀な人材を育成しソフトウエアの輸出に注力してきた。ICT製品の輸出に占める割合の着実な増加は、政府の長年にわたる取り組みの成果と言えるだろう。

外国人留学生も学べる9つのITプログラムを提供

ラトビアの主要なICT企業と大学、国の機関が創設したIT教育プラットフォームBaltic IT Society(BITS)によると、IT分野はラトビア経済で最も急速に成長している分野の1つで、成長速度を今後も維持するためには、ITやコンピューターサイエンス分野の高等教育修了者を毎年約3,000人輩出させる必要があると推定されている。

ラトビアでは現在、知識集約型経済への転換に向けて9つのIT学習プログラムが提供されている(参考参照)。

参考:ラトビアで提供されている9つのIT学習プログラム

  • ニューヨーク州立大学バッファロー校、ラトビア大学、リガ工科大学とのダブルディグリープログラム
  • リガ工科大学のコンピュータシステム
  • ラトビア大学のコンピューティング/コンピュータサイエンス学部
  • ベンツピルス大学の応用科学、技術起業家精神とリーダーシップ
  • ラトビア生命科学大学の持続可能な開発のための情報技術
  • レゼクネ技術アカデミーのプログラミングエンジニアリング
  • 運輸通信研究所(TSI)のコンピュータサイエンス
  • トゥリバ大学のコンピュータシステム
  • リエバヤ大学の情報技術

出所:「Baltic IT Society」(BITS)からジェトロ作成

これらのIT学習プログラムはラトビア人のみならず、外国人留学生の参加も広く受け付けている。2013年の留学生は1,500人にすぎなかったが、2017年に8,400人、2018年には1万人に達したと発表されている。2017年のデータによると、これら留学生のうち51%以上はドイツ、インド、CIS諸国から来ている。BITSは外国人留学生が首都リガを選ぶ主な理由について、次のように説明している。

  • 他の欧州諸国と比較してラトビアの生活費は安く、多くの大学は授業を行う講義棟のすぐ近くに寮を有している。また、通りは混雑しておらず、清潔で空気がきれいな町で、質の高い生活を送ることができる。
  • 多くの大学では、夏と冬の年2回入学が可能。留学生は大学への申請をビザ発行の期限に容易に合わせることができる。
  • ラトビア大使館でのビザの手続きは、多くの国で国際的なビザ申請の代行機関であるVFSグローバルのネットワークを介して申請できる。
  • 多くのグローバルIT企業の拠点があり、これらの企業や地元企業が世界中のクライアントのITプロジェクトに取り組んでいる。多くの国のIT企業は優れたITインフラと熟練したIT技術者を求め、ビジネスの場をバルト3国に移している。また、高速かつ大容量でアクセス可能なインターネット、優れた通信、発展するスタートアップの集積、法律が整備されていることも強みとなっている。

ミニMBAコースで外国人材も育成、アイデアの事業化を推進

ラトビアのIT産業を支える人材事情について、ラトビア投資開発公社(LIAA)のカルパルス・ロージェカルンス長官は次のように説明する。ラトビア政府はIT産業の発展に力を入れており、その一環としてLIAAではミニMBAコースを開講している。このコースは、EUの欧州地域開発基金を活用し、LIAAのプロジェクト「イノベーション・モチベーション・プログラム」の枠組みで実施されている。これはIT産業の発展を強く意識したもので、既に企業で働いているビジネスパーソンを対象に、1年間で新規事業を立ち上げるために必要なビジネス知識を身につけられる内容となっている。特に、医療や技術分野のビジネスパーソンの参加が多いという。外国人もこのコースに通うことができ、優れた人材を広く集めるために、ウクライナやロシア、ベラルーシ、カザフスタンなどからも積極的に受け入れている。さらに、起業家を呼び込むためのスタートアップビザ(2018年6月15日付地域・分析レポート参照)や、EUにおいて大学卒業者の欧州労働市場参入を促すためのブルービザ(EUブルーカード)を通して、EU域外からも質の高いIT人材の誘致に取り組んでいる。


ラトビア投資開発公社(LIAA)のカスパルス・ロージェカルンス長官
(ジェトロ撮影)

輸出・イノベーション賞の創設でIT産業の輸出奨励

LIAAと経済省は「Export and Innovation Award(輸出・イノベーション賞)」を2004年に創設した。この賞は、ラトビア企業の国内外での競争力の強化、輸出の質の高度化と量の拡大、高付加価値製品の創出などを目的とする。授賞式は毎年行われており、2019年12月に第15回授賞式が開催された。賞の創設にかかわったビチェ=フレイベルガ元大統領が来賓として出席し、「ラトビアには世界に誇る、国際的競争力を有する技術革新と製品がある」などと受賞者を祝福した。2019年の輸出大賞は、翻訳ソフトの作成・販売を手掛けるスタートアップのTILDEが受賞した。言語の専門家がエストニア語と英語を自動翻訳するさまざまなソフトの翻訳能力を比較したところ、TILDEの性能が最も高く、人間による翻訳の64.9%相当の精度があると報告されている。ちなみに、Google翻訳は52.1%という結果だったという。そのほか、IT技術を背景とする受賞者は、GPSを利用した車両走行や作業の効率化のための管理ソフトの開発・販売をするMaponが輸出競争力賞(小規模企業部門)の3位を受賞した。こうしたラトビア政府の支援を受け、外国市場を目指すIT関連企業やスタートアップ企業が数多く誕生している。

西欧のみならずCIS諸国とのビジネス関係にも目配り

ラトビアの人口は191万9,000人(2019年)で岐阜県(198万6,900人)と同程度の規模、面積は6.5万平方キロで北海道(8.3万平方キロ)の約80%と一回り小さい。リガの人口は約70万人で、経済活動は人口の約半分が住んでいるリガとその周辺に集中している。また、労働人口(15~64歳)は総人口の約65.4%だ。バルト3国の真ん中に位置し、古くから西欧、CIS諸国を結ぶ交通・通運の要衝となってきた。半径800キロの範囲に約1億人の消費者が存在すると言われ、バルト3国の中で最初にWTO加盟を果たし、EU加盟前は多くの国と自由貿易協定を締結してきた。特に、バルト3国の中でロシア系の人口比率が最大(全人口の約26%)で、ロシア語をはじめとする語学に堪能な人が多く、英語などの外国語で会話できる人口は95%に及ぶ。母国語に加えて少なくとも1つの外国語を話せる居住者の割合はヨーロッパ諸国の中で2番目にランクする。また、旧ソ連時代に形成された技術者層と高学歴志向のために質が高く安価な労働力の供給が可能で、70年以上の工業技術の実績を生かしてハッブル宇宙望遠鏡のセンサーを作るなど、電子産業で高い技術水準を持つ。こうしたラトビアの優位性に着目した投資では、2013年に三井物産が子会社を通じ、リガ港内のターミナル運営会社RUTの株式を取得、コンテナターミナルを運営している。また、2019年12月には、丸紅が出資するMM Capital Partnersがラトビアのガス輸送パイプライン・貯蔵事業を運営するAS Conexus Baltic Gridの株式の29.06%を購入する契約に署名し、関係機関の承認が得られ次第、株式を取得する。


天皇誕生日祝賀レセプションが開催されたリガ市内のブラッグヘッド会館
(ジェトロ撮影)

IT関連分野で日本との協力開始、両国企業間の協働に期待

2018年1月に安倍晋三首相が日本の首相として初めてバルト3国を訪問、その際に合意した日本からのミッション派遣を受け、同年9月にバルト3国経済ミッションを派遣、23社36人(うち17人は日本から)が参加した(2018年10月3日付ビジネス短信参照)。ラトビアでは、参加者はスタートアップ企業とのネットワーキングに臨んだほか、ドローンを手掛けるスタートアップAERONESを訪問した。同社はドローンを活用した高所でのメンテナンスの次世代型の解決策を提供しており、例えば、世界的に増加している風力発電のメンテナンス作業で活用されている。ドローンを風力発電のブレード(回転翼)付近へ飛ばし、液体を高圧で噴射して雪や氷を除去、さらに、コーティングをすることでタービンの寿命を伸ばすという。これまでのクレーンなどを使ったメンテナンスと比べると、低予算で素早く安全に行えることをアピールし、欧州各国や米国、中国などの外国市場を狙っている(2018年11月15日放送「世界は今―JETRO Global Eye」)。このミッション派遣をきっかけに、沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)は、ラトビア投資開発公社(LIAA)と、相互の国際連携を図る目的で包括的連携協定(MOU)を2019年1月10日に締結した。ICT領域のパートナーとして、ビジネスに向けた調査事業、テストベッド事業、投資事業などを発展させるための情報交換、沖縄・ラトビア双方の民間企業間の連携支援などを行うとしている。

今後は、従来型産業への投資に加え、IT関連分野での日本企業とラトビア企業との協働が期待される。

執筆者紹介
ジェトロ・ワルシャワ事務所長
清水 幹彦 (しみず みきひこ)
1992年、ジェトロ入構。ジェトロ・デュッセルドルフ事務所、海外調査部情報企画課、ジェトロ・ブリュッセル事務所、ジェトロ佐賀などを経て、2018年8月から現職。世界経済・金融危機とヨーロッパ(勁草書房)、欧州経済の基礎知識(ジェトロ)などを共著。

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