ロックダウンが成長市場ECビジネスにも影響(南アフリカ共和国)

2020年5月19日

個人インターネット普及率が56.2%(2017年、国際電気通信連合)と、アフリカ域内では高い水準にある南アフリカ共和国では、比較的近代的なインフラや物流、金融システムが整備されていることも手伝い、世界的な流れと同じく、Eコマース(EC)市場は拡大を続けてきた。

総合コンサルティング企業アクセンチュアが2019年に行った調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます では、南アの総人口約5,800万のうち、約2,000万人が毎日インターネットにアクセスしているが、ECの普及はいまだ道半ばだ。オンライン商品が配送途中に盗難に遭うなど、信頼性を不安視する消費者も依然として多く、また、余暇として週末にショッピングモールで家族で買い物を楽しむのが一般的なため、大手小売りもこれまでは実店舗への投資に注力してきた。アクセンチュアの調査では、小売り全体に占めるオンラインでの売り上げは1.4%にとどまるとしている。

しかし、セキュリティーを担保するデジタル技術の進歩やスマートフォンの普及も手伝い、2023年までに売り上げは年率19%増加すると予測している。現在、国内最大のECプラットホームであり、市場シェア5割を超えるとされるテイクアロット外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (takealot)のほかにも、インターネットオークション大手のビッドオアバイ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (bidorbuy)や、タイムセールを特徴としたワンデーオンリー(onedayonly)などの新興企業の台頭が目覚ましく、今後も中長期的に成長が期待される市場だ。

このような状況下、南アでも感染拡大が続く新型コロナウイルスの影響がEC市場にも表れ始めている。3月27日にロックダウン(外出禁止令、2020年3月27日付ビジネス短信参照)を開始した南アでは、大手小売りのウールワースやピックアンペイへの食品などのオンラインオーダーが急増し、両社はキャパシティーの増加への対応に追われている。また、人との接触機会の減少やソーシャルディスタンスの確保の観点から、ウールワースは「クリック・アンド・コレクト」というオンラインでの事前注文方式や、ドライブスルーサービスも導入するなどして、消費者や従業員の保護に努めている。

他方で、食品や医療品などの生活必需品以外の「ノン・エッセッシャル」商品の販売はEC上でも禁止されたことから、約4,000のEC企業が4月7日、 ECによる流通は比較的リスクが低いとして、ノン・エッセンシャル商品の取り扱いの許可を求めてエブラヒム・パテル貿易産業相宛てに嘆願書を提出した(「ITウェブ」4月15日、「テック・セントラル」4月25日)。しかし、パテル貿易産業相は4月25日、「公平な競争を担保するためには、実店舗やインフォーマルセクターの店舗も同様に再開を認める必要があり、これはさらなる新型コロナウイルス感染拡大を招く恐れがある」としてこの訴えを退けた。EC最大手のテイクアロットのキム・レイド最高経営責任者(CEO)は「南アはソーシャルディスタンスを確保するためにECが活用されていない世界で唯一の国だ」と反対意見を示している(「デイリー・マーベリック」4月29日)。

5月1日から始まったロックダウンの段階的緩和(2020年4月30日付ビジネス短信参照)により、冬服や学習本などの販売や、フードデリバリーなど小売りの制限が一部緩和されたことに伴い、EC上で扱える商品も増えた。さらに5月14日、産業界などからの意見をふまえ、政府は酒類・タバコを除くすべての商品のEC上での売買を認める緩和措置を行ったことから、ようやくEC市場の本格的な回復が期待される。しかし、クエンチ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (Quench)が行うような酒類のオンラインデリバリーなど全ての小売りが許可されるためには、さらなる感染拡大抑制が前提となっており、同社の場合、フードデリバリーへの一時的な転換を余儀なくされている。感染のピークが7月下旬~9月上旬になると予測されている南アでは当面、EC市場の売り上げにも影響が続く見込みだ。

執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
髙橋 史(たかはし ふみと)
2008年、ジェトロ入構後、インフラビジネスの海外展開支援に従事。2012年に実務研修生としてジェトロ・ヤンゴン事務所に赴任し、主にミャンマー・ティラワ経済特別区の開発・入居支援を担当。2015年12月より現職。南アフリカ、モザンビークをはじめとする南部アフリカのビジネス環境全般の調査・情報提供および日系企業の進出支援に従事。