地場ブランドが存在感を増す中国の化粧品市場
SNSの活用が効果的

2020年12月23日

中国の化粧品市場は拡大を続けている。中国国家統計局の発表によると、2019年の化粧品の小売額は前年比12.6%増の2,992億元(約4兆7,872億円、約1元=16円)。2020年1~10月は、新型コロナウイルスの感染拡大により社会消費品の小売総額が5.9%減、アパレル(9.7%減)、宝飾品(9.8%減)、家電用品(7.0%減)など主要商品で軒並み減少した。その中で化粧品は、前年同期比5.9%増の2,569億元と好調に推移したことになる。

化粧品の需要拡大は、輸入額からも見て取れる。中国税関の輸入統計をみると、化粧品(HSコード3304類)は2013年以降2桁増を維持。2019年は前年比33.8%増の132億3,183万ドルで過去最多になった。執筆時点で統計の取れる2020年1~10月の輸入額はすでに前年を上回り、160億ドル近い(図1参照)。国・地域別では、日本からが最多で、輸入額は39億ドル。輸入総額に占める割合が24.7%となっている(図2参照)。

図1:中国における化粧品の輸入額の推移
2015年は約31億ドル、2016年は約40億ドル、2017年は約58億ドル、2018年は約99億ドル、2019年は約132億ドル、2020年1-10月約160億ドル。 国地域別にみると、日本は2015~2017年までは3位だったが、2018年にフランスを追い抜き2位となり、2019年と2020年1~10月はトップだった。韓国は2015年に2位、2016~2018年はトップ、2019年は2位、2020年1~10月は3位だった。フランスは2015年までトップだったが、2016年に韓国、2018年に日本に追い抜かれ、2019年は3位となった。2020年1~10月は韓国を追い抜き2位になった。米国は2015年以降4位、英国は2010年以降5位を維持している。

出所:中国税関およびGTAを基にジェトロ作成

図2:中国における輸入化粧品の国別構成比 (2020年1~10月)
日本は最多の24.7%、フランスは22.1%、韓国は20.0%、米国は10.6%、英国は8.8%、その他が13.8%となった。

出所:中国税関およびGTAを基にジェトロ作成

中国で化粧品を販売するには、輸入品・国産品問わず、厳しい審査をクリアする必要がある。この審査には長い期間と高額なコストがかかり、企業にとって負担が大きいものだった。しかし近年は、越境EC(電子商取引)政策の恩恵により、一般貿易に比べて簡便な手続きで輸入化粧品を販売できるようになった(2019年7月24日付地域・分析レポート参照)。また、中国政府は2018年7月から化粧品を含む外国製品の輸入関税を引き下げた。このように制度面での後押しもあり、日系企業にとって中国の化粧品市場はより魅力的になっている。もっとも、市場の拡大で化粧品ビジネスに参入する事業者やブランドが増加し、競争はむしろ激化している。また、ここ数年は中国の地場ブランドも商品力を高めてきており、日系をはじめとする海外ブランドの競争相手として存在感を増している。

中国地場ブランドのSNS戦略に注目

広東省広州市に本社を置く広州逸仙電子商務は、2015年に設立された企業だ。2017年にコスメブランド「完美日記」(PERFECT DIARY)を立ち上げた。完美日記は中国の若者をメインターゲットとし、アイシャドーや口紅といったメイク用品を主力商品としている(写真参照)。割安な価格とポップなデザインで若い世代から支持を集め、大手ECサイト「天猫」が11月に実施するビッグセール(ダブルイレブン)では、2018年以降3年連続で、初日販売額が1億元を超えている。また広州逸仙電子商務の2019年の売上額は、前年の約4.6倍の35億元と急増した。2020年11月には米国ニューヨーク証券取引所に上場。上場初日の時価総額は78億ドルを超えた(「ブルームバーグ」11月20日付)。


完美日記のアイシャドー(ジェトロ撮影)

完美日記の商品パッケージ(ジェトロ撮影)

短期間で急成長を遂げられたのは、SNSを効果的に活用したからだ。これまで、化粧品メーカーが新しいブランドを売り出す際には、有名人を起用して広告を打つというコストのかかる宣伝方法が一般的だった。しかし完美日記は、メインターゲットとなる中国の若者が多く利用する「小紅書」(RED)やTikTokなどSNSの公式アカウントから頻繁に情報発信を行った。

また、これまでの化粧品ブランドの公式アカウントでは、商品の宣伝写真だけが掲載されるケースが多かった。対して完美日記は、商品の使い方を詳細に紹介した動画や写真を積極的に投稿する。これらの投稿を見たSNSの利用者が商品を購入し、使用した画像や感想を書き込む。完美日記がこれらの投稿を再び公式アカウントで紹介することで活発なやりとりが生まれ、投稿件数とフォロワー数の急増につながった。2020年12月時点でのREDにおける完美日記の公式アカウントのフォロワー数は194万人を超え、他の大手化粧品ブランドの約10倍となっている。

ライブ配信を活用して訴求する日系企業も

中国でビジネス展開する日系企業も、すでにSNSを活用したPR活動を展開している(2019年7月24日付地域・分析レポート参照)。これまではKOL (キーオピニオンリーダー)を起用したマーケティングの実施、インフルエンサーを招いたイベントの開催といったやり方が多かった。ただ、近年はライブ配信を用いたプロモーションがみられるようになった。

資生堂は2020年11月、大手越境ECサイト「天猫国際」のダブルイレブンのECビッグセール期間中に、日本からライブ配信を行った。同社は従来、インフルエンサーを活用してライブ配信を行ってきた。しかし、今回は社員自らが商品紹介を行い、消費者に直接訴える方法をとった。これにより、消費者がブランドや会社への理解を深めることを狙った。

こうしたライブ配信は、中国市場で拡大の一途をたどる。中国インターネット情報センター(CNNIC)が発表した「第46回中国インターネット発展状況統計報告」(以下、報告)によると、中国のライブ配信アプリの利用者数は、2020年6月時点で5億6,230万人。インターネット利用者の59.8%を占めた。このうち、ライブ配信とECを組み合わせたライブコマースの利用者数は3億人を超え、2020年4~6月の3カ月間で4,430万人増えた。新型コロナ禍で外出が制限される中、EC利用が急増し、ライブコマースへの認知度も一気に高まったと考えられる。報告によると、2020年上半期に中国で実施されたライブコマースは1,000万回。閲覧回数は500億回を超えた。

消費者がライブコマースを利用するメリットとして、(1)商品をより詳細に見られる、(2)配信者(インフルエンサーなど)と視聴者間で双方向のコミュニケーションが取れる、(3)割安な商品を購入できる、ことなどが挙げられる。(1)について、通常のECサイトでは商品の写真や説明文からしか情報が得られないが、ライブ配信ではさまざまな角度で商品を見ることができる。化粧品の場合、配信者がその場で商品を使用することで色合いなどをイメージしやすくなる。(2)については、チャット機能が使用できるため、視聴者はリアルタイムで配信者に質問し回答を得ることができる。(3)については、配信者側で目玉商品をあらかじめ用意して割安な価格で販売するケースが多い。また、リアルタイムで商品の売れ行きがわかるため、視聴者の購買意欲を刺激するものとなっている。

KPMG中国首席エコノミストの康勇氏は「ライブコマースは、写真、動画に比べ、キャスターがリアルタイムにコミュニケーションして直接、消費者に訴えるところが、消費者の関心を引いている」と分析した(「新浪財経」10月14日)。KPMGとアリババ集団傘下のアリ研究院が発表したレポートでは、中国のライブコマースの市場規模は、2020年に1兆500億元、2021年には2兆元規模に急拡大すると予測している(2020年10月22日付ビジネス短信参照)。

中国では2021年1月から、新たに「化粧品監督管理条例」が施行される。同条例は、化粧品の審査などに伴う行政手続きを簡素化し、化粧品のリスクに応じた監督管理を実施していくことなどを目的にするものだ(2020年7月7日付ビジネス短信参照)。化粧品のうち、「特殊化粧品」(注1)を登録制、「一般化粧品」(注2)を届け出制に分けて管理する。これにより、メイク用品などの一般化粧品は、短期間で商品開発と販売が可能になるものと期待される。

現状、化粧品の国・地域別の輸入額は日本がトップだ。しかし、中国の地場ブランドの攻勢も油断できない。日系企業は、消費者への発信力や商品開発の速さなどの面で強みにもつ地場ブランドとの競争を意識し、SNSを効果的に使って消費者を味方にするプロモーション方法を実践していく必要があるだろう。


注1:
ヘアカラー用、パーマ用、シミ抜き用、日焼け止め用、抜け毛防止用の化粧品および新たな効能をうたう化粧品を指す。
注2:
注1以外の化粧品を指す。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
方 越(ほう えつ)
2006年4月、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、金沢貿易情報センターを経て2013年6月から現職。