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経済成長する中・東欧の最新動向、人材確保が課題
現地所長が語る、中・東欧セミナー

2020年1月14日

ジェトロは2019年12月6日、「現地所長が語る―欧州ビジネス拠点としての中・東欧の課題と将来―」と題したセミナーを東京で開催した。ジェトロのワルシャワ事務所、ブダペスト事務所、プラハ事務所、ブカレスト事務所、ウィーン事務所の各所長が登壇し、セミナー前半では各国の経済・政治などの概況、後半で中・東欧のビジネス環境を知る上でカギとなるテーマの中から「人材確保へ向けた対応と代替案」および「デジタル関連分野でのビジネス動向」を取り上げ、各国の最新状況を解説した。


講演するウィーン事務所の野澤拓郎所長(ジェトロ撮影)

ポーランドは日本食がブーム、また質の高いIT人材が豊富

ワルシャワ事務所の清水幹彦所長は、ポーランドの2018年の実質GDP成長率は5.1%を達成し、過去10年を見てもEU(28カ国)平均よりも高い成長率が続いており、個人消費が経済を下支えしていると説明した。また、失業率は低下傾向で、日系企業から見ると雇用が難しくなっていると言う。進出日系企業拠点数は316(2018年10月時点、外務省調べ)で、南西部に自動車部品メーカーが多く位置し、東部では商社、また食品企業の進出もあると紹介した。投資優遇制度では、どのエリアでも、条件を満たせば法人税が減免される新特別経済特区制度(PIZ)があり、まだ企業の進出が少ない地域へ進出しても補助対象となり得るため、人材の確保がしやすい地域への進出が容易になると言う。また、ポーランドでは現在、日本食がブームになっており、ワルシャワだけで日本食レストランが200~300店舗ある。ワルシャワで開催した「和食紹介レクチャー・デモンストレーション(2019年12月2日付ビジネス短信参照)」では多くの参加者があり、「中・東欧日本産食品商談会(2019年10月23日付ビジネス短信参照)」では想定以上の商談数となり、日本産食品への関心が高まっている。デジタル分野においては、工学系の大学教育に力を入れ、質の高いIT人材が多く育っており、IT産業への就職も人気があると言う。また、ポーランド航空が成田~ワルシャワ間の直行便を毎日運航しており、日本とポーランドの距離感を縮めるのに貢献していると紹介した。

ハンガリーは人手不足が顕在化、最近では工場の自動化の投資も見られる

ブダペスト事務所の奧村明子所長は、ハンガリーの2018年の実質GDP成長率は4.9%と好調で、EU全体のGDP成長率を牽引していると説明した。ハンガリーの日系企業数は162社で(2019年7月時点、ジェトロ調べ)、2018年の失業率は3.7%まで低下しており、人材不足が顕在化していると言う。ハンガリーの輸出入は、ともにEUが全体の75%以上を占めており、うちドイツだけで約25%を占める。アジアでは対中貿易が大きいが、日系企業の存在も現地では重視されている。ドイツ向けの輸出が多いため、ハンガリーの北部に多くの自動車・部品メーカーが集積している。ハンガリーは海や山がない国のため平地が多く、道路網または鉄道網が周辺国と比べて発達している点が魅力。課題としては、ハンガリーの優秀な若手が、高い賃金を求め、ドイツ、英国、米国へ流出する問題を挙げた。この課題に対応するために、ドイツ系や韓国系の企業のように、日系企業は研究開発拠点を設置するなど魅力的な職場を提供する必要があると説明した。最近の日系企業の投資案件では、自動車産業の工場自動化などに資する投資がみられ、新規投資だけでなく、既存生産拠点の高度化に向けた2次投資、3次投資がみられると説明した。

チェコは失業率がEU28カ国で最も低い

プラハ事務所の木村玲子所長は、チェコの2018年のGDP成長率は3.0%で、2018年までは非常に経済が好調だったが、2019年はドイツ経済の影響を受けやや減速し、2.5%と予測されていると説明した。チェコはEUの中で失業率がここ数年最も低く、2018年は2.2%。それに伴い、名目賃金上昇率が7.5%(2018年)と高くなっている。チェコの産業の特徴は製造業の占める割合が大きいことで、GDP全体に占める製造業の割合はEU(28カ国)の平均19.7%に対し、チェコは32.4%と高い。特に自動車産業が集積しており、チェコ国内で年間144万台(2018年)を生産している。日系企業についても自動車関連分野が多く、日系企業数は266社、うち製造業が107社である(2019年8月時点、ジェトロ調べ)。チェコの輸出はEU向けが84%で、うちドイツが33%、輸入はEUからが64%で、うちドイツが25%となっており、ドイツとの経済的なつながりが強く、チェコへの外国企業の投資もドイツからが最も多く、次いで日本、米国、韓国の順である。労働者不足を背景に、チェコはオートメーションの促進など産業の高度化を目指しており、「国家イノベーション戦略2019-2020」では、2030年までにチェコを欧州の中で最も革新的な国にすることを目標にしていると説明した。

ルーマニアはEU28カ国の中で2番目に低い平均所得

ブカレスト事務所の水野桂輔所長は、ルーマニアの2018年のGDP成長率は4.1%で、1人当たりGDPは約1万2,300ドルだが、首都ブカレストではこの倍となり、国内都市間で格差があると説明した(所得格差はEUで3番目に大きい)。他の中・東欧諸国との違いは、ルーマニアは石油、天然ガス、欧州最大の金山など資源があることと紹介した。平均所得は、EUでブルガリアに次いで2番目に低い水準である。投資のインセンティブは、製造業向けの国家補助金(投資額の最大50%を還付)、ITエンジニアの個人所得税ゼロなどがある。政策面では、例えば環境税の廃止などEU全体の流れに逆行し、自国の経済をまずは発展させることに重きを置く傾向もみられると言う。また、社会保険料が37.25%と高めなことも課題の1つである。日系企業数は110社で、27社が53工場を持つ(2019年12月時点、ジェトロ調べ)。これまでは自動車部品分野が多かったが、最近は教育や飲料品、電動工具、ITなど、進出企業の産業分野も多様化していると言う。日本への輸出では、金額ベースで半分以上が木材であり、日本の住宅にも使われている。それに、たばこ・たばこ製品が続き、天然蜂蜜や、ワインなども日本に輸出されていると説明した。

スロバキアの進出は人手不足などから東部が狙い目

ウィーン事務所(スロバキアを管轄)の野澤拓郎所長は、スロバキア経済の特徴はGDPに占める割合がサービス業61.2%、製造業35.0%、農業3.8%と、製造業のシェアが高いことにあると述べた。これは、隣国チェコ(32.4%)を上回る水準。「国民1人当たりの自動車生産台数」が世界一であり、完成車メーカー4社がスロバキアで自動車を生産している。2018年の自動車の生産台数は108万台で、2019年は130万台を超える勢いであると言う。一方、他の中・東欧同様に、人材確保が困難で賃金が上昇している現状も説明。失業率が、首都ブラチスラバで2.84%、トルナバで2.58%と西部が特に低く、現在、西部へ工場を建設し、人材を確保するのは非常に難しい状況とした。一方で、東部に位置する第2の都市コシツェは失業率7.81%で、これから進出を検討する場合は、狙い目であると言う。コシツェは、ハンガリーを経由してスロベニアのコペル港へアクセスが良く、また工科大学もあるため優秀な人材がいると説明した。スロバキアの2018年の平均賃金(月収総額)1,013ユーロと、チェコよりも低いが、ルーマニアよりは高い水準。アジアからの投資で一番多いのは100社以上が進出している韓国で、製造業の日系企業進出数は22社(非製造業を含めると67社、2019年12月時点、在スロバキア日本大使館およびジェトロ調べ)、スロバキアに住んでいる日本人は200人程度であると説明した。

人材確保のためのさまざまな取り組み~デジタル化・産業の高度化も図る

セミナー後半では、「人材確保へ向けた対応と代替策」と「デジタル関連分野でのビジネス動向」の2つのテーマについて、パネルディスカッション形式で各国・地域の状況を紹介した。


パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

中・東欧各国で人材不足となる中、外国人労働力に頼る動きもみられる。ポーランドでは2018年の非EU市民の滞在許可発行数が約63万人とEUの中で最大になった。チェコ、スロバキアでは、政府の取り組みとして外国人労働者の受け入れを円滑にするため、労働許可の審査期間短縮や簡素化を行っているが、根本的な解決策となっていない。また、ハンガリーでは、年金受給者、若年層、育休中の女性向け支援策を通じての職場復帰や労働力の確保を進めているほか、残業時間の拡大などを行っている。

企業の取り組みとしては、チェコでは、ファクトリーオートメーションの推進を行っている日系企業があるが、チェコの人件費はグローバルに見るとまだあまり高くないため、生産効率化に向けた大型の設備投資よりも、人を雇用する方にコストメリットがあるのが現状で、できるところから少しずつ行っている企業が多い。また、一度雇用した従業員が辞めないように、勤務環境の改善や働きはじめの研修の充実などを行っている。ルーマニアでは、ドイツ式職能訓練制度(デュアル・システム)にヒントを得て、学校に通っているうちに、または卒業した人をターゲットに教育と実習をセットでプログラムを組み、実践的な技能を身に付けた即戦力となる人材を育成するとともに、人材確保を図る動きが進出ドイツ系企業を中心に進んでいる。

デジタル関連分野では、ハンガリーでは、企業がブダペスト工科経済大学と連携して、研究所や学生と組むことで、デジタル人材を確保するとともに、将来の取引先として抱え込む取り組みがある。チェコでは、第2の首都ブルノでICT(情報通信技術)分野の技術力が高い企業が多く輩出されている。特にチェコが強い分野は、サイバーセキュリティ、VR(仮想現実)/AR(拡張現実)、ゲーム、人工知能(AI)分野である。製造業が集積するスロバキアでは、生産工程の効率化への取り組みがみられ、一例として発電機部品メーカーが、大学からのスピンオフで設立された企業が開発した、デジタルファクトリー・シミュレーションという、仮想空間で生産ラインを組み立て、工場の中のモノの流れをシミュレーションすることができるソフトを導入し、生産開始前に運用計画を有効に立てることができるようになり、生産を最適化できた事例が紹介された。ポーランドでは、政府も産業の高度化を進めており、IT教育に力を入れている。大学がポーランド全域に立地しており、2018年は、大学生数は123万人、うち21%が工学・IT分野、大学卒業生数は32万人でIT分野で働く人材が増えている。ルーマニアでは、進出日系製造業のほとんどはいまだ労働集約志向なため、デジタル化はあまり進んでいないが、倉庫や製造プロセスを自動化した事例がある。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
宮口 祐貴(みやぐち ゆうき)
2012年東北電力入社。2019年7月からジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。

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