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EU新体制下での新たな成長戦略
2020年政治経済展望セミナー(西欧編)報告

2020年2月5日

ジェトロは1月15日、在英日本商工会議所の後援の下で「2020年政治経済展望セミナー(西欧編)」をロンドン市内で開催した。ブリュッセル、ロンドン、アムステルダム、デュッセルドルフ、パリのジェトロ事務所員が各国の政治・経済動向や有望な産業について説明した。以下、概要を紹介する。

新体制下で、さらなる成長を目指す

政治面では、2019年12月に発足したEU新政権にとって、2020年は本格的な稼働の年となる。ウルズラ・フォン・デア・ライエン新欧州委員長は、新たな成長戦略として「欧州グリーンディール」と題する環境政策を掲げる。今後の政策の中心となることに加え、新たなグローバルスタンダードの構築を目指すEUの動きは注視する必要がある。また、巨大テック企業への課税など、公平な課税ルールの策定もアジェンダとして掲げている。

英国のEU離脱(ブレグジット)は、2019年12月の英国下院総選挙でのボリス・ジョンソン首相率いる与党・保守党の大勝により、2020年1月末の円滑な離脱が確定。一方で、ジョンソン政権は、ブレグジット後の移行期間を2020年末からは延長しない方針を掲げており、1年弱の交渉期間の中で規制基準も含めたEUとの通商交渉に合意し、第2のノー・ディール(合意なき離脱)を回避できるかにはなお不透明性が残る。オランダでは、反EUや厳格な入国管理などを主張する新興政党の「民主主義のためのフォーラム(FvD)」が上院の野党第1党となる躍進を見せたものの、引き続きマルク・ルッテ連立政権は健在だ。ドイツでは、2大政党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が支持率を落としている一方、環境政党である緑の党の政権入りを望む声が増加傾向にあり、極右政党のドイツのための選択肢(AfD)、極左政党の左派党(Linke)の存在感が増している。フランスでは、エマニュエル・マクロン大統領の年金制度改革に反対するデモや労働組合のストライキが長期化しているものの、年金改革法案の均衡年齢撤回に対して改革派の一部労働組合は歓迎しており、労働組合間にくさびを打ち込むことに成功している。

経済面では、EUについてはブレグジットを巡る英国との通商交渉や、関税とデジタル課税、イランなどを巡る米国との関係、「体制的ライバル(systemic rival)」である中国への対応が課題として指摘された。英国にとっても、EUとの通商交渉が大きな課題となるとともに、並行して行われる米国や日本など各国との通商交渉にも注目が集まる。各国の経済状況について、オランダでは、イノベーションボックス税制など複数の税制優遇措置(ジェトロの国・地域別情報ページ参照)があるほか、2021年に法人税の標準税率が25%から21.7%に引き下げが予定されるなど、企業の優位性が高い一方で、租税回避対策として低税率国などの関連会社への支払い利子、ロイヤルティーに対する源泉税導入など税制改正が実施されること(2019年9月26日付ビジネス短信参照)が紹介された。ドイツでは、地政学リスクを背景に、世界的な経済成長の先行きが不安視される中、生産減速の懸念を抱える自動車産業が、電動化・自動運転などへの転換期を乗り越える研究開発に資金を注入する動きがみられる。フランスは、マクロン政権誕生後、回復を続けてきた国内経済が、輸出ペースの落ち込みによりやや減速基調となるも、依然として失業率は改善傾向にある。

デジタル化など産業転換を見据えた動き

欧州各国での注目される分野や、日本企業への期待についても説明があった。EUは、欧州デジタル化対応も主要なアジェンダとして掲げる。人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、第5世代移動通信システム(5G)といった分野で、GAFA(注)など超巨大IT企業と競合せず、特定の最重要分野における技術的主権の確保を目指すほか、国際標準・規制枠組みにおける主導的地位を狙う。また、華為技術(ファーウェイ)の5Gに対する米国の圧力など、米中の対立構造がある中、日EU経済連携協定(EPA)で戦略的パートナーシップが確立・強化されている日本に対しては、信頼できるパートナーとしての期待が高まっており、ビジネス面でも日本企業に対するEUの関心が高まっているとの説明があった。

各国の状況に目を移すと、英国では、ジョンソン政権が自由貿易港の設置や国内の輸送インフラ整備に向けた大規模投資などを掲げている。また、2017年11月に発表された産業戦略では、AI・データ経済やクリーン成長、将来型モビリティ、高齢化社会が重要課題として挙げられており、ブレグジット以降の産業振興が期待される。オランダは、2019年6月の欧州委員会「欧州イノベーション・スコアボード」で初のトップグループ入りを果たした。博士課程の学生数などの人的資源や国際的な人材交流などの研究システム、イノベーションフレンドリーな環境が高く評価されている。ドイツでは2019年2月に発表された「国家産業戦略2030」においてデジタル化、AIの活用、蓄電池生産などの次世代技術の開発・普及を推進することが示された。AIは自動運転や医療診断などを重要分野として活用を促すことで、ドイツが強みを持つ自動車産業や医療産業にさらなる優位性をもたらすことが期待される。また、2019年9月に発表された2030年までの気候変動対策パッケージでは、温室効果ガス削減目標の達成に向けた具体的な法制度を整備する方針を掲げており、水素や再生可能エネルギーなど政策に資する環境型技術の開発が求められる。(2019年10月1日付ビジネス短信参照)また、自動車関連企業は次世代技術を求めスタートアップとの協業も積極的に行っている。フランスはデジタル経済への移行を念頭に、スタートアップ支援政策「フレンチ・テック」を推進している。次世代技術に関しては、パリのみならずフランス全土に拠点を設置して地域間競争のメカニズムを導入したほか、各拠点にテーマを設け、ネットワーク化を図った。また、多くの地方においてスマートコミュニティ、コネクテッドシティへの取り組みが進展している。(2020年1月14日付地域・分析レポート参照


ディスカッションおよびQ&Aセッションの様子(ジェトロ撮影)

注:
グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルのこと。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
木下 裕之(きのした ひろゆき)
2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2018年3月から現職。

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