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実装段階にあるプロバンス・アルプ・コートダジュール州のスマートグリッド事業(フランス)

2020年1月14日

日本ではほとんど知られていないが、フランスの地方各地で大規模で先進的なスマートグリッドやコネクテッドシティーの事業が進行している。しかも、これらの事業は実証段階を終えた社会実装の段階にあり、大企業が資金を負担し、スタートアップの技術を取り込む形で進められている。政府の補助事業として行われている例もあれば、政府の補助事業の採択に漏れた地方自治体が独自に取り組む例もあり、地方間の事業を通じた競争の様相を呈している。今回は、南仏のプロバンス・アルプ・コードダジュール(PACA)州のスマートグリッド事業を紹介する。

「産業化」を実現し、世界のショーケースに

PACA州は、地理的に送電網の端に位置することからブラックアウトを経験しており、エネルギー需給の効率化・最適化を図るスマートグリッド事業への取り組みの必要性を早くから意識してきた。ニース市はEUのスマートグリッド実証事業「グリッド・フォー・EU(Grid4EU外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )」(注1)の6拠点の1つに選定され、2012~2016年に実証事業「ニース・グリッド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を展開しており、この分野でのパイオニア都市に位置付けられている。この実績をもとに2016年からは、フランス政府の補助事業としてスマートグリッドを産業化する壮大な取り組みのフレックス・グリッド(Flexgrid)事業外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます が、2020年までの予定でPACA州全体で進められている。産業化とは、社会実装段階にあるスマートグリッドの技術や機器の導入を進めることであり、フランス政府は同地域を、フランスのノウハウ・技術を世界に向けて輸出するためのショーケースとする考えである。また、この同事業は再生可能エネルギーの導入促進やエネルギー消費の効率化を通じたCO2(二酸化炭素)排出削減・気候変動対策も視野に入れており、さらにはデジタル化の命題にも応えることを目的としている。フランス政府は現在、世界でエコロジー移行やデジタルの分野でリーダーシップを取れるようにEUを主導しようとしているが、その強気な姿勢には、こうした国内での先進的な取り組みの存在が影響していると考えられる。

46のプロジェクトが進行、さらに拡大の兆し

フレックス・グリッド事業は、PACA州政府が統括し、同州のエネルギー分野のクラスターであるキャップエネルジー(CAPENERGIES)がプログラム・マネージャーとなり、マルセイユからニースに及ぶ同州内でプロジェクトを実施している。同事業は、国の「未来投資計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (PIA、注2)」の一環として実施されたスマートグリッド事業の公募で、2016年3月に採択された3つのプログラム(注3)の1つ。同事業へは、国から5,000万ユーロの補助金が拠出されているほか、フランス送電管理会社(RTE)と配電管理会社(Enedis)による3,500万ユーロの投資を含め総額3億4,000万ユーロの投資が予定されている。

キャップエネルジーのフレックス・グリッドの責任者によると、プロジェクトは4つのカテゴリーに分類され(表参照)、その数は46に上る。

表:PACA州におけるフレックス・グリッド事業のカテゴリー別内容
カテゴリー 内容
スマート・エコノミー:スマート施設の整備 エックス・マルセイユ・プロバンス空港、新幹線(TGV)のエックス・アン・プロバンス駅、病院、ショッピングセンター、製鉄所などの州内の主要施設で、例えば太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーの生産、蓄電および電気自動車利用などを組み合わせ、施設ごとにエネルギーの生産と消費の最適化を図る。
スマートシティー・地区の整備 面的な広がりもった地区などでエネルギー最適化を図る。カンヌ沖合にあるレラン諸島やレ・オレスのスキー場、地中海沿岸地区、送配電網がない小規模村のグランジュなどで、地区全体のエネルギー生産(太陽光、バイオマス、水力など)と消費の自給・最適化を蓄電システムを活用して目指す。ニース都市圏での20の公共施設のエネルギー利用の最適化を図る取り組み(なお、ニース都市圏およびニース・コードダジュール商工会議所によれば、ニース市内の新築公共施設は自動的にこのネットワークに組み入れられることになっている)や、ニースの約100の集合住宅を対象とする天然ガスのコジェネレーションで生産される電力と熱の最適利用を図るためのプラットフォーム導入事業など。
再生可能エネルギーの生産増強 太陽光、風力、水力発電のほか、余剰電力を水素に変換後、さらにメタンガスに変換して天然ガス供給網に組み入れる取り組み(Power to Gas)など。
スマートモビリティー ボーキュリューズ県やバール県などで電気自動車の充電インフラを集中配備が進められている。充電施設は全て中央監視・制御され、電力需給の調整や再生可能エネルギーを優先的に系統に組み入れるように設計されている。

出所:ニース都市圏へのヒアリングなどを基にジェトロ作成

前述のほか、2019年10月8日のフレックス・グリッド運営委員会では、グリーンな水素製造(Engie社)をベースにした燃料電池や太陽光発電の活用を通じて、船舶停泊時のCO2排出を削減するトゥーロン港のプロジェクトを含む、7プロジェクトが新たに同事業の候補に選定された。計画の遂行に伴い、事業の外縁そのものが縮小することなく広がりを見せている点は、順調に進捗している1つの証左と考えられる。

横断的な取り組み

前述46のプロジェクトのほかに、フレックス・グリッド事業では、横断的な取り組みとして、エネルギー関連データ・プラットフォーム整備、スマートグリッドにかかる人材育成、市民の理解増進、サイバーセキュリティー、中小企業の動員促進、国際展開の促進、の6つの取り組みが進められている。データ・プラットフォームやサイバーセキュリティー以外に、社会学者や心理学者、社会マーケティングの専門家らが参加して、社会実装のプロセスや市民の行動変化を理解する取り組み、さらには普及を進めるためのインセンティブや逆に市民の抵抗などについての理解を深める取り組みも行われている点は、本事業がまさに社会実装の段階にあることを示すものといえよう。

ニース都市圏は独自の取り組みも

フレックス・グリッド事業の枠外で、ニース都市圏が独自に進める取り組みにも注目すべきものがある。その1つが、1,500の公共施設に中央ビル管理システムを導入する取り組みである。ビル内のエネルギー消費をリアルタイムで管理し、気象予報とビル内の活動を基に低価格な電力消費を実現するもので、2019年末までに200の建物に完備する予定となっている。また、EUのIRISプロジェクト(注4)を活用し、ニース都市圏の中心部全域に、低周波通信とWifi技術を組み合わせた統合センサーネットワークを配備する計画が進められている。2020年予定の5G(第5世代移動通信システム)サービス開始時には、このネットワークは5G対応に切り替えられる予定になっている。さらに、3つ目の取り組みとして、同都市圏の産業集積地帯(面積188ヘクタールに600社、従業員1万1,000人)を対象に、ラストマイル・モビリティーのサービスとして自動走行車の試験導入が進められている。パリ近郊のスタートアップであり、CEO(最高経営責任者)がルノーの自動走行車の最初の開発プログラムを主導したミラ・グループのeシャトルバスが導入されており、将来的にはレベル5の完全自動走行の実現を目標に掲げている。

PACA州のフレックス・グリッドを中心としたさまざまな取り組みは、同州を欧州随一のスマートグリッド先行地域とすることを目的とすることからも野心的と言える。国、州、都市圏、クラスターなど、関係者は多岐にわたり関係は錯綜しているが、個々のプロジェクトの実施責任主体は明確になっている。マルセイユからニースに及ぶ広大な領域での取り組みであることに加え、グリッド整備にとどまらずデータ・プラットフォーム整備やサイバーセキュリティー対策、さらには市民の理解増進など実に幅広い取り組みが同時並行的に実施されている。この壮大な取り組みが成功すれば、まさに輸出可能なスマートグリッド事業のモデルを世界に示すだろう点は大いに注目される。日本企業をはじめ外国企業にも門戸は開かれており、こうした取り組みに早くから参画することも検討に値すると考えられる。


注1:
Grid4EU:電力小売事業者、メーカー、研究機関と緊密に協力する配電事業者のグループ(チェコ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、スウェーデン)が提案した、革新的なスマートグリット事業。6カ国の大規模なデモンストレーションネットワークを中心に構成され、知見の共有、技術支援、レビューを促進。フランスの配電事業者エネディスがコーディネーターを務め、2011年11月から2016年1月まで実施された。
注2:
未来投資計画(PIA):未来産業の振興に向けた新規公的援助(補助金、融資、プロジェクト参加企業の資本増強)を行うもの。2010年の開始以来、累計570億ユーロが投入されており、「エネルギーシフト、サーマル(省エネ)改築と未来都市」分野には23億ユーロが充てられている。
注3:
他の2つは、ブルターニュ州およびペイ・ド・ラ・ロワール州のスマイル(Smile)事業、リール都市圏およびオー・ド・フランス州のユー・グリッド(You&Grid)事業。
注4:
IRIS:欧州委員会が掲げたイノベーション・研究プログラム「ホライズン2020」の枠内で、2017年10月から5年間実施されるEU資金によるプロジェクト。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所長
片岡 進(かたおか すすむ)
1991年、経済産業省入省、副大臣秘書官、繊維課長、内閣官房日本経済再生総合事務局参事官(総合調整担当)などを経て、2016年7月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所次長
井上 宏一(いのうえ こういち)
経済産業省において、エネルギー関係、化学産業関係、インフラ輸出に長年従事。新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)国際事業統括室長、国際プラント室および素材産業課企画官を経て、2019年7月より現職。
執筆者紹介
ジェトロ・パリ事務所
門元 美樹(かどもと みき)(在リヨン)
在仏日系学校法人で8年、2001年からジェトロ・リヨン事務所で勤務。2010年からパリ事務所コレスポンデント(在リヨン)、フランス南部3州を担当。

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