部分的ロックダウンで回復基調が頓挫(ドイツ)
危機克服へ向けてデジタル化推進

2020年12月11日

部分的なロックダウンを導入

欧州では2020年10月以降、新型コロナウイルス感染が再拡大。その猛威にさらされた。欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、欧州(注1)の感染拡大は11月5日にピークに達し、その後は減少傾向がみられるものの引き続き高水準で推移、12月9日時点の累積感染者数は1,432万392人、死者35万6,836人となっている。

ドイツでも、感染者数が急増。10月中旬以降、1日当たりの新規感染者が2万人を超える日も珍しくない。12月9日現在、感染者数は121万8,524人、死者数も1万9,932人に上る。人口10万人当たりの1週間の新規感染者数は149人、重症者用病床も増加傾向にある。

直近2カ月の経緯を振り返りたい。新型コロナウイルス感染者数の再拡大に伴い、アンゲラ・メルケル首相は10月14日、各連邦州の首相と対策について協議(2020年10月21日付ビジネス短信参照)。「ソーシャルディスタンスの確保」と「衛生規則の順守」「マスクなどの着用」という3原則を再度呼びかけるとともに、「コロナ警告アプリの活用」や「密室に複数人が集まる場合には定期的に換気すること」を強く推奨した。また、各地域の感染状況に応じて規制を強化する、「ホットスポット戦略」をとることを確認した。この戦略の下では、過去7日間の10万人当たり新規感染者数50人を基準とし、これを超過した場合、地域ごとに追加規制が導入される。

しかし、政府の呼びかけにもかかわらず、感染者数の増加が続いた。10月下旬には国内のほとんどの地域で上述の基準値を超える感染者数が報告され、75%以上の感染経路の追跡が不明になる事態に至った。こうした状況を受け、メルケル首相は10月28日に各州首相と再度協議。11月2日から同月末まで、ドイツ全土で部分的なロックダウンを導入することで同意した(2020年10月30日付ビジネス短信参照)。これにより、公共の場所での接触人数が最大10人までに制限された。このほか、日帰り旅行を含む不要不急の私的旅行や親族などの訪問の自粛を要請、さらに、飲食店を閉鎖(持ち帰りや配達を除く)することなどを決めた。なお、一般の小売店舗については、顧客1人当たり10平方メートルの売り場面積の確保を前提に営業継続を認めたほか、学校や幼稚園なども継続するとした。

部分的ロックダウンの効果を見極め、12月以降の対応やクリスマスと年末年始の見通しについて決定するため、メルケル首相と各州首相は11月16日に会議を開催。感染者数の大幅な減少が見られないことから、少なくとも11月末までロックダウンを継続することを確認するとともに、国民に対し感染防止策を徹底するよう再度要請した。その後、11月25日に再度開催された会議では、過去7日間の10万人当たりの新規感染者数が目標とする50人に達していないとして、部分的なロックダウンを12月20日まで延長することを決定。さらに12月1日からは、800平方メートルを超える中規模・大規模店舗への入店可能人数の制限を強化。このほか、私的な集まりの最大参加者数を5人まで、業務上の出張も自粛要請の対象とするなど、制限の一部を厳格化した(2020年12月2日付ビジネス短信参照)。さらに12月2日には、部分的ロックダウンを1月10日まで再延長することが決まった。ロックダウン決定後も感染者数の増加に歯止めが利かない状態が続いていることもあり、今後さらなる厳しい制限が導入される可能性も否めない。

飲食業やイベント、小売業に悪影響も

ドイツ商工会議所連合会(DIHK)の調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (全業界の企業1万3,000社以上が回答、11月17~20日に実施)によると、全体の約7割の企業が「(前年に比べ)2020年の売り上げが減少する」と予測している(表1参照)。また、観光業(94%)や外食・宿泊業 (93%)、文化・クリエーティブ産業(90%)などで影響が大きい(表2参照)。売り上げ減少の理由としては、「需要減少」(51%)や「注文のキャンセル」(29%)、「事業の停止」(26%)が挙げられた。

表1:新型コロナウイルス危機の売り上げへの影響(全業種)
売り上げへの影響 回答の割合
売り上げ増加 13%
影響なし 11%
10%以下の売り上げ減少 12%
10%-25%の売り上げ減少 20%
25%-50%の売り上げ減少 19%
50%以上の売り上げ減少 17%
現時点で予測不可能 7%

注:端数処理により合計は100%にならない。
出所:ドイツ商工会議所連合会(DIHK)

表2:産業別新型コロナウイルス危機の売り上げへの影響
項目 売り上げ
増加
影響なし/
予測不可
売り上げ
減少
製造業 16% 15% 69%
建設業 25% 39% 37%
小売業 21% 13% 66%
卸・仲介 23% 16% 61%
自動車販売 11% 16% 73%
運輸・倉庫 10% 17% 74%
観光業 1% 5% 94%
外食・宿泊 2% 5% 93%
文化・クリエーティブ産業 2% 8% 90%
健康産業 13% 22% 65%
金融・保険 17% 30% 54%
その他サービス業 13% 24% 64%

注:端数処理により合計は100%にならない場合がある。
出所:表1に同じ

連邦政府は今回導入した部分的なロックダウン、飲食業やイベント事業者など大きな影響を受ける事業者に「11月緊急支援(Novemberhilfe)」を講じている(2020年10月30日付ビジネス短信参照)。この支援策では、部分的なロックダウンにより事業停止対象となる事業者(企業、自営業者、協会などの非営利団体)のほか、事業停止事業者の取引先やグループ企業も一定の条件下で対象になる。そうした事業者には、一定の上限額の下、前年同月の売上高の75%相当を給付型つなぎ資金として支給する(注2)。さらに、政府は11月13日、中小企業向けに固定費を補助する給付型つなぎ資金第3弾の実施を承認。対象期間を2021年1~6月末までとし、補助額については最大月額20万ユーロ(現行5万ユーロ)へ拡張する方針を示した。また、売り上げが大きく減少しているものの、固定費が少ないため給付型つなぎ資金に申請できない個人事業者に対しては、「新スタート支援(Neustarthilfe)」を新たに導入。2019年の売上高に応じて、最大5,000ユーロを前払いで給付するとしている。

一方、閉鎖対象となっていない小売業は「11月緊急支援」の対象とならないケースが多い。小売産業からは、厳しい現状を訴える声が聞かれる。ドイツ小売業連盟(HDE)が11月23日に発表した調査(580社が回答)によると、国内小売業の11月第3週の売り上げは前年同期比で3分の2程度にまで減少。市街地の小売店の来客数は、40%減少したという。HDEは、市街地の多くの店舗が倒産の危機に瀕しているとし、「11月緊急支援」の対象拡大や給付型つなぎ資金の支給条件の緩和などを要求している(注3)。

経済への影響は避けられず

部分的な制限措置が発表されて2日後の10月30日、経済・エネルギー省は秋季経済予測を発表(表3参照)。2020年の実質GDP成長率予測を、9月に予想したマイナス5.8%からマイナス5.5%に引き上げた。2021年については、4.4%のプラス成長のまま予測を据え置いた。また新たに、2022年はプラス2.5%と予測した。GDPが危機前の水準に戻るのは早くとも2021年末から2022年初頭としている。

表3:経済・エネルギー省による秋季経済予測(△はマイナス値)
項目​ 2019年
(実績)​
2020年
(見通し)​
2021年
(見通し)​
2022年
(見通し)​
実質GDP成長率(%)​ 0.6​ △5.5​ 4.4​ 2.5​
階層レベル2の項目内需​ 1.2​ △3.8​ 3.7​ 2.4​
階層レベル3の項目個人消費​支出 1.6​ △6.9​ 4.5​ 3.4​
階層レベル3の項目政府消費支出​ 2.6​ 4.7​ 0.8​ △0.4​
階層レベル3の項目総固定資本形成​ 2.5​ △3.8​ 4.8​ 3.0​
階層レベル4の項目機械設備投資​ 0.5​ △15.8​ 11.9​ 4.3​
階層レベル4の項目建設投資​ 3.8​ 3.1​ 1.8​ 2.3​
階層レベル4の項目その他​ 2.7​ △1.5​ 3.1​ 2.9​
階層レベル2の項目輸出​ 1.0​ △10.3​ 7.1​ 5.4​
階層レベル2の項目輸入​ 2.6​ △7.1​ 6.0​ 5.4​
消費者物価上昇率(%)​ 1.3​ 0.5​ 1.3​ 1.4​
失業者数(100万人)​ 2.3​ 2.7​ 2.6​ 2.4​

出所:経済・エネルギー省

これとは別に、政府の経済諮問委員会(通称「五賢人委員会」)が11月11日、2020年と2021年の経済予測を発表している。2020年の実質GDP成長率をマイナス5.1%(6月時点の予測ではマイナス6.9%)、2021年を3.7%(同4.9%)と予測した。また、GDPが新型コロナウイルス感染拡大前の水準に戻るのは、早くとも2022年との見方を示した。

連邦統計局の11月24日の発表によると、第3四半期(7~9月)の実質GDP成長率(確定値)は前期比で8.5%(季節調整済み)だ。ドイツ経済は春先のロックダウン以降、力強い回復を記録したことが示されている。一方、第3四半期で見られた力強い回復は、感染拡大第2波の到来と今回の部分的な制限措置で頓挫するという見方が大多数だ(表4参照)。ifo経済研究所の景況感調査によると、11月の企業の景況感は90.7ポイント。10月の92.5ポイントから減少した。半年後の経済への期待を示す「期待指数」も10月の94.7ポイントから91.5ポイントに下落するなど、サービス業や商業を中心に多くの企業から今後の先行きに悲観的な見方が示されている。また、これらの予測は部分的ロックダウン延長前に発表されており、影響はより深刻化する可能性がある。

表4:経済研究所による部分的ロックダウンへの評価
団体名​ 発表日 予測内容​
ドイツ経済研究所(DIW)​ 11月2日 11月の部分的なロックダウンは、第4四半期のGDPを2.5ポイント押し下げる(193億ユーロの経済損失に相当)と予測、5月から続く回復プロセスは中断する。外食・宿泊業や文化・イベント産業などの消費者向けサービス産業に大きな影響。失業者数は第4四半期に約5万人増加し、さらに40万人の従業員が短時間労働を実施する可能性を指摘。​
ifo経済研究所​ 10月30日 11月の部分的なロックダウンは2020年第4四半期の経済成長を大幅に減速させ、100億ユーロ強の経済損失を発生させる。外食・宿泊業や文化、イベント産業などの売り上げは減少。年末まで民間消費の成長は見込めないと指摘。
iwd​
〔ケルン経済研究所(IW)の付属機関〕​
11月3日 部分的なロックダウンにより、2020年に約200億ユーロの経済損失が発生し、年間でのGDPを0.75ポイント押し下げると予測。9月予測時点では、2022年早期に危機前の水準に回復するとしたが、本措置により回復がさらに遅れると指摘。失業者数は2020年末時点で、2019年末と比較して、50万人増加すると予想。 ​

出所:各経済研究所プレスリリースからジェトロ作成

今後の企業倒産増加も、懸念される。連邦銀行(中央銀行)は10月13日に発表した金融安定レポートの中で、ドイツの金融システムは現在安定しているものの、今後は多くの企業が倒産に追い込まれる可能性が高いと指摘。あわせて、市中銀行に対して債務不履行への備えを進めるべきと提言し、危機に瀕した企業への貸し渋りが経済回復の足かせになってはならないとした。連邦統計局によると、8月の国内企業の倒産件数は1,051社だった。前年同月比で35.4%減少したものの、これは政府による新型コロナ禍対策の一環として倒産申請義務が9月30日まで停止されていたためとみられる。DIHKの調査(11月25日発表、1万3,000社以上が回答)によると、「自己資本の減少」(40%)や「流動性の不足」(27%)、「貸し倒れリスクの増加」(10%)など、多くの企業が財政面の問題を抱えているという(表5参照)。また「倒産の危機に直面している」と回答した企業は、全体の9%に達する。

表5:コロナ危機の企業財務への影響(複数回答)
項目 回答割合
自己資本の減少 40%
流動性の不足 27%
貸し倒れリスクの増加 10%
倒産の危機 9%
外部資本増加による負担増 9%
外部資本へのアクセスが困難 7%
ネガティブな影響なし 38%

出所:ドイツ商工会議所連合会(DIHK)

デジタル化へのシフトを促進

多くの企業が危機対応のカギとして位置付けるのがデジタル化だ。ドイツIT・通信・ニューメディア産業連合会(BITKOM)が11月16日に発表した調査(従業員20人以上のドイツ企業605社が参加)によると、84%の企業が「自社の事業運営上、パンデミックによってデジタル化の重要性が増した」と回答した(2020年11月26日付ビジネス短信参照)。

小売業にとってもデジタル化は急務だ。ドイツ小売業連盟(HDE)は中堅・中小企業のデジタル化を促進するため、さまざまなパートナーとともに、国内小売業のデジタル化を支援するプログラムを展開している。8月には、アマゾンなどと提携し、「クイックスタート・オンライン(quick start online)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」と名付けたオンラインポータルを開設すると発表。オンラインセミナーなどを通じた情報提供などを9月から開始した。さらにHDEは9月、グーグルなどとの提携の下、小売事業者向けの広範なデジタル化に向けたイニチアチブ「将来のビジネス(Zukunft Handel)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を開始すると発表した。国内25万社の中小規模の小売店舗を対象に、オンラインビジネスを開始するための支援やトレーニングコースを提供するほか、6つの分野で賞を新設して成功事例の表彰を行う。さらに11月には、DHLとの提携の下、「DHLアクト・ローカリー(DHL lokal handeln外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )」プログラムを開始すると発表。小売業者が実店舗のデジタル化を進め、幅広い顧客層へリーチするための方法やパートナーの紹介、専門分野や法律、データ保護などに関するアドバイスの提供を行うとしている。

一方、デジタル化への投資に二極化の傾向もみられるという。前述のBITKOMの調査では、43%の企業が「デジタル化への投資を増やす」とした。一方で、中小規模の企業を中心に全体の約30%が「デジタル化への投資を減少させる」と回答した。その理由として、「新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、財源が不足」(66%)や「春のロックダウンにより、プロジェクトが延期」(59%)、「倒産の危機によって、デジタル化への投資の優先順位が劣後」(59%)などが挙げられた。BITKOMは、パンデミックによるデジタル化の急進が国内経済のさらなる深い分裂を引き起こす可能性を指摘している。


注1:
EU加盟国とノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン、英国。
注2:
部分的ロックダウンの延長を受け、11月27日に「12月緊急支援」として支援期間の延長が決定されている。
注3:
なお、閉鎖の対象とならない等の理由で「11月緊急支援」「12月緊急支援」の対象外となる事業者で、11月、12月の売り上げが減少した事業者について、給付型つなぎ資金第3弾の支援対象とすることが12月1日発表された(2020年12月10日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。