激動のドイツ政治情勢、低迷する2大政党

2020年1月17日

ドイツの政治情勢は、2019年に大きな変革期を迎えた。与党で中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と、その連立相手である中道左派・社会民主党(SPD)の支持率が低下する一方、環境政党である緑の党、および右派ポピュリスト政党であるドイツのための選択肢(AfD)の躍進が目立った。これまでの動きを振り返りつつ、2021年10月に控える次期連邦議会選挙を見据えた各政党の現状を紹介する。

立ち上げが難航した現政権

まずは、前回の連邦議会選挙にまで時計の針を戻したい。2017年9月に開催された連邦議会選挙では、アンゲラ・メルケル首相が率いる中道右派のCDU/CSUは第1党の座を維持したものの、得票率では戦後2番目に低い水準に沈んだ。さらに、連立パートナーのSPDの得票率も史上最低の水準であり、2大「国民政党」の退潮が鮮明になった。一方、右派ポピュリスト政党であるAfDは、既存政治の停滞感や新味のなさに対する不満の受け皿となり、第3党に躍進し、初めて連邦議会で議席を獲得した。また、前回は議席獲得に必要な5%の得票率を得られなかったリベラル派の自由民主党(FDP)が10.7%の得票率を取得して議席を回復、9.2%の得票率を得た左派党(Die Linke)、8.9%の緑の党も合わせ、連邦議会に議席を持つ政党数は5から7に増えた(2017年11月16日付ビジネス短信参照)。

SPDは選挙後、CDU/CSUとの連立で独自性が打ち出せず、その存在感が低下、それが支持率の低下を導いたとの考えから、連立の維持を否定し、下野する立場を表明。CDU/CSUは、FDPおよび緑の党との連立政権樹立を目指し、事前協議を進めたものの、同協議は2017年11月19日、FDPの離脱により頓挫した。政治の空白を回避すべく、フランク=バルター・シュタインマイヤー大統領の仲介などを経て、最終的にはSPDが再度、連立協議に参加することを決定し、翌2018年3月14日、第4次メルケル政権が発足した(2018年3月6日付ビジネス短信参照)。

州議会選挙でも連立与党は苦戦

しかし、連立政権の樹立後も、連立与党は州議会選挙での苦戦が続いた。2018年10月に開催された南部バイエルン州の州議会選挙では、CDUの姉妹政党で、同州を地盤とするキリスト教社会同盟(CSU)の得票率は37.2%にとどまり、1950年に次いで2番目に低い得票率となった(2018年10月16日付ビジネス短信参照)。さらに、その後行われたヘッセン州の州議会選挙でも、CDUの得票率は前回から11.3ポイント減の27.0%どまりで、大敗を喫した。SPDも得票率は10.9ポイント落とし、19.8%に落ち込んだ。選挙後、メルケル首相は次期CDU党首選に立候補せず、退くことを明らかにした(注)。その後、12月7日に党首選挙が行われ、アンネグレート・クランプ=カレンバウアー幹事長が選出された。

新体制下でも苦戦続く

2019年に入り、クランプ=カレンバウアー体制になってからも、CDU/CSUの選挙での苦戦は続いた。2019年5月26日の欧州議会選挙では、CDUが得票率22.6%(2014年の前回選挙:30.0%)で首位となり、23議席を獲得したが、前回より6議席減らした。一方、緑の党 は20.5%(10.7%)で21議席を獲得、前回の11議席から大きく伸ばした(2019年5月28日付ビジネス短信参照)。SPDの支持率低下の傾向はさらに顕著だ。欧州議会選では得票率が15.8%(2014年:27.3%)にとどまり、11議席減の16議席となった。同日に開催された北部ブレーメン州(ブレーメン市とブレーマーハ-フェン市で構成)の州議会選挙では、得票率26.7%を得たCDUの後塵(こうじん)を拝し、24.9%で第2党の座に甘んじた。同地はSPDの牙城であり、SPDは第2次大戦後73年間にわたり、常に州議会の第1党として州政権を担ってきた。これらの選挙結果を受け、当時のアンドレア・ナーレス党首が辞任している。

その後、2019年9月のブランデンブルク州とザクセン州の東部2州での選挙では、それぞれ第1党だったSPD、CDUは第1党の座は維持したものの大敗し、AfDの躍進を許した(2019年9月3日付ビジネス短信参照)。さらに、10月に実施されたチューリンゲン州の議会選挙でも、CDUは第1党から第3党に転落するなど得票数を落とした(2019年10月29日付ビジネス短信参照)。

関心が集まった党大会での動向

2019年11月から12月にかけて、各党は党大会を開催し、どのような政策の方針を打ち出していくか、大きな関心を集めた。「皆さんが私と同じ方向性に同調し、責任を果たしたいという気持ちを持っているなら、今すぐ腕まくりをし、取り掛かりましょう」。クランプ=カレンバウアー党首は11月に開催されたCDU党大会で、1時間半にわたるスピーチを上記の言葉で締めくくり、党の団結を呼びかけた。出席者はスタンディングオベーションで、同氏への支持を表明した。度重なる選挙での敗北や失言などにより、クランプ=カレンバウアー党首の党内での求心力が弱まっているとの見方が強まる中、党大会での動向が注目されていたが、ひとまずは同氏の下に党が団結していくことでまとまりを見せた。 一方、ナーレス前党首の退任後、暫定代表による運営体制が続いていたSPDは、共同党首ペアを選出する形で党首選が行われた。最初の党員投票を経て、現政権の財務相を務めるオラフ・ショルツ氏とクララ・ゲイビッツ氏のペアと、連立維持に懐疑的な見方を示すノルベルト・バルター=ボルヤンス元ノルトライン・ウェストファーレン州財務相とサスキア・エスケン議員のペアが決選投票に進み、その結果が11月30日に発表された。結果は、後者の連立政権懐疑派が勝利を収め、メルケル政権にも大きな衝撃が走った。バルター=ボルヤンス氏とエスケン氏は、メルケル首相が重視する財政均衡方針の撤回とインフラへの大規模投資、最低賃金引き上げなどの要求を掲げており、SPDが連立政権から離脱する可能性が浮上したためだ。その後、12月に開催されたSPDの党大会では、連立政権維持を前提とするとしながらも、CDU/CSUと政策についての新たな交渉方針を定め、さらなる投資を可能にするため、財政の均衡を義務付ける債務ブレーキ規定の廃止や、失業手当の支給期間の長期化と支給条件の緩和などを含む政策案を打ち出した。CDU/CSUが今後、SPDとの協議の中で、どこまで妥結できるかがポイントとなる。

高まる環境保護への高まり

2019年は、世界的な環境意識の高まりから、ドイツ国内でも地球温暖化や環境政策の動向が大きな話題となった。公共放送局ARDが、国連気候行動サミット2019がニューヨークで開催されていた2019年9月に実施したアンケート調査によると、「気候保護を経済発展より優先すべき」と回答した人が63%にも上った。(なお、経済発展を優先すべきと回答した人は24%だった)さらに同じくARDが1月9日に実施した調査によると、ドイツの政治の中で最も重要な課題として、「環境保護・気候変動」を上げた人は27%で、「難民・移民・難民政策・統合化政策」(31%)に次いで2番目に多く、前回調査時(2017年8月)に比べ、18ポイントも増加している。

これらの環境保護意識の高まりは、環境政党である緑の党に大きな追い風となっている。既述のとおり、欧州議会選挙や各州議会選挙で躍進したほか、ブレーメン州とブランデンブルク州とザクセン州では州政府の連立政権に入った。さらに現在連立交渉が続いているチューリンゲン州にも緑の党が交渉に入っている。2020年1月1月10日に開催された緑の党結党40周年のイベントにおいて、シュタインマイヤー大統領は「環境政策に取り組んでいない政治はもう想像できない。さらに環境政策や持続可能性は一般的に政治の尺度なった」とし、緑の党の存在感や責任感の高まりを指摘した。

支持率に大きな変化は見られず、今後の連立協議に注目

ARDが1月9日に発表した世論調査(調査期間:1月7~8日)によると、支持率は各党大会後も大きな変化は見られなかった(表1参照)。緑の党と答えた割合は23%で、CDU/CSU(27%)に次いで第2位となっているほか、AfDが14%で第3位に位置している。一方、SPDは13%と、第4位に低迷している。

一方同じく公共放送局のZDFが昨年12月13日に発表した世論調査(調査期間:12月10~12日)によると、大連立を維持せずに連立の組み直しを支持する人は25%にとどまり、69%は現状の大連立を次回まで維持すべしと回答したという。大連立を維持することで合意できなかった場合の他の選択肢としては、解散総選挙を求める声が58%と最も多く、CDU、FDP、緑の党の3党連立である「ジャマイカ連立」を支持する回答が21%、CDU/CSUによる少数与党を支持する声が15%だった(表2参照)。今後のCDU/CSUとSPDの連立協議の行方が注目される。

表1:世論調査:もし次の日曜日が連邦議会選挙だった場合の投票先(2020年1月9日発表)(△はマイナス値)
政党名 支持率 前回調査(2019年12月)との比較
単位:ポイント
キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU/CSU) 27% 2
社会民主党(SPD) 13% 0
ドイツのための選択肢(AfD) 14% △1
自由民主党(FDP) 9% 0
左派党(Linke) 8% 0
緑の党 23% 0
その他 6% △1

出所: ARD

表2:連立政権交渉が決裂した場合、希望する方向性
(2019年12月13日発表)
回答項目 回答率
CDU/CSU・FDP・緑の党による連立政権の樹立 21%
CDU/CSUの少数与党政権 15%
新たな総選挙の実施 58%

出所: ZDF


注:
ただし、首相の地位には任期終了までとどまる意向を示している。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所
ベアナデット・マイヤー
2017年よりジェトロ・デュッセルドルフ事務所で調査および農水事業を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・デュッセルドルフ事務所 ディレクター
森 悠介(もり ゆうすけ)
2011年、ジェトロ入構。対日投資部対日投資課(2011年4月~2012年8月)、対日投資部誘致プロモーション課(2012年9月~2015年11月)を経て現職。