港湾および南部経済回廊の動向と課題を検証(カンボジア)
カンボジアのインフラ、ハード・ソフト両面で改善が急務

2020年3月24日

カンボジアでは経済成長に伴い、貿易額や物流量が年々増加している。一方、港湾では貨物取扱能力が限界に近づいており、拡張が予定されているほか、港湾と主要都市を結ぶ道路や、タイ・ベトナムとの国境を結ぶ南部経済回廊では舗装の劣化や渋滞などの課題がみられ、改修が進む。港湾や国道など主要なハードインフラの課題、整備状況に加え、ソフト面での課題を報告する。

貿易額は堅調に増加、船舶とトラックでの輸送が主流

カンボジアはこの10年ほど、7%前後の高い経済成長率を維持すると同時に、貿易額も順調に伸びている。2019年の貿易額は前年比18.7%増の350億4,700万ドルとなった(図1参照)。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の低迷や、EUによる一般特恵制度の1つ「武器以外のすべて(EBA)」の一部適用取り消しの決定(2020年2月20日付ビジネス短信参照)による影響を受けるとみられるが、カンボジアへの投資は縫製業を中心に増え続けており、今後も貿易額の増加が予想される。

図1:貿易額の推移(2010~2019年)(単位:100万米ドル、%)
2019年の貿易額は前年比18.7%増の350億4,700万ドルとなった。

出所:経済財政省関税消費税総局(GDCE)

貿易で主に用いられている輸送モードは、海上輸送とトラック輸送の2つである。ジェトロの「2019年度アジア・オセアニア日系企業実態調査」(以下、日系企業調査)によると、カンボジアの日系企業が「輸入で利用している輸送モード」(注1)は、海上輸送が58.5%、とトラック輸送が31.7%となり、これら2つの輸送モードが9割以上を占めることが分かった。以下では、海上輸送とトラック輸送に関わるインフラの整備状況を紹介する。

港湾では取扱能力増強に向けた建設の計画

海上輸送に関わるインフラとしては、国内唯一の深海港であるシアヌークビル自治港(SAP)と、河川港であるプノンペン自治港(PPAP)の2つが挙げられる。貿易が増えるにつれて、これらの港の貨物取扱数も伸びている。公共事業運輸省(MPWT)の年次レポートによると、2019年の貨物取扱数はSAPで63万TEU(20フィートコンテナ換算)、PPAPで28万TEU となった(図2参照)。いずれの港でも貨物取扱数は2017年以降、10%を超える高い伸びを示している。

図2:港湾別貨物取扱数の推移(2015~2019年)(単位:TEU、%)
公共事業運輸省(MPWT)の年次レポートによると、2019年の貨物取扱数はSAPで63万TEU、PPAPで28万TEU となった。

注:「TEU」は20フィートコンテナ換算。
出所:公共事業運輸省2019年次レポート

年間のコンテナ取扱能力はSAPが70万TEU、PPAPが30万TEUとなっており、いずれも限界に近づいていることから、カンボジア政府はSAPでの新コンテナターミナルの建設、PPAPでの新埠頭(ふとう)建設、コンテナヤード拡張などを進めている(2020年2月6日付ビジネス短信参照)。

また、SAPで取り扱われるコンテナは、首都プノンペンを往復するものも多いため、SAPとプノンペンを結ぶ国道4号線も重要なインフラとなる。国道4号線は、雨季のスコールや中国からの建設投資の動向などの要因で、特にシアヌークビル市内で渋滞が発生しやすい状況ではあるが、現在、シアヌークビル市内の道路の改修およびプノンペン~シアヌークビル間の高速道路の建設が進められており、渋滞の改善が期待される(2020年3月5日付地域・分析レポート参照)。

南部経済回廊の改修進む、高速道路の構想も

トラック輸送では、ベトナムのホーチミンとタイのバンコクを結ぶ南部経済回廊が主に利用されている。同回廊はアジアハイウエイ1号線とも重なり、ヒト・モノの流れを円滑化することでメコン地域の貿易関係の深化を促すとともに、隣接する両国からの生産移管先としてのカンボジアの魅力を高めている。

南部経済回廊は、タイ国境のポイペトとプノンペンを407キロ(約6時間)で結ぶ国道5号線と、プノンペンとベトナム国境のバベット間を166キロ(約3時間)で結ぶ国道1号線の2路線に大別される(図3参照)。いずれも道路は開通しているものの、舗装の劣化が進み、沿線都市や国境付近で渋滞がみられ、改善が急務となっている。

図3:カンボジアの主なインフラ
南部経済回廊は、タイ国境のポイペトとプノンペンを約407キロ(約6時間)で結ぶ国道5号線と、プノンペン-ベトナム国境バベット間を約166キロ(約3時間)で結ぶ国道1号線の2路線に大別される。

出所:Open Street Mapよりジェトロ作成

国道5号線では、日本のODAにより、道路の拡幅および沿線5都市でのバイパス道路建設などが行われている。改修は9区間に分けて行われ、うち8区間で工事が始まっている。事業費は約470億円(2020年1月31日時点の借款承諾額)で、2023年6月に完成する予定だ。また国道1号線では、プノンペンから60キロ地点にあるつばさ橋(注2)からバベットまでの約100キロの区間で、アジア開発銀行(ADB)およびカンボジア政府、州政府により、道路の拡幅や補修工事が行われている。

プノンペン~バベット間では高速道路を建設する構想もあり、FS(事業化調査)が行われている状況だ。バベットに隣接するベトナムのモクバイとホーチミン市を結ぶ区間では高速道路の建設が予定されており(2019年11月6日付ビジネス短信参照)、両国で高速道路が開通すれば、プノンペンからベトナムのホーチミンまでの所要時間の短縮につながる。

ソフト面も含めた課題解決が急務

これまでみてきた通り、経済成長に伴い、貿易額や物流量が増加し、港湾や道路といったインフラも整備されつつあるが、ハードだけでなくソフトの面でも改善されるべき課題がある。課題としては、主に以下の3点が挙げられる。

  • 通関の流通改善:タイ・ベトナム国境ゲートにおける通関迅速化。ポイペトでの貨物用の新国境の早期開設、バベット国境の開門時間延長(24時間化)やファストレーン設置による渋滞緩和など。
  • 諸手続きの簡素化と透明化:輸出入書類のペーパーレス化、原産地証明書申請費用改善、通関時の不透明費用撤廃など。
  • 鉄道インフラの整備:北線(プノンペン~ポイペト間)および南線(プノンペン~シアヌークビル間)の物流機能の改善。2019年4月に完成したタイ~カンボジア間の鉄道の営業運転開始に向けた整備。

これらは、カンボジア日本人商工会(JBAC)とカンボジア政府との間で開催される官民合同会議などでも取り上げられている(2020年2月27日付ビジネス短信参照)。カンボジアへの投資環境の改善に向け、ハード面およびソフト面でのインフラ整備が急務となる。


注1:
回答企業1社あたり最大5つの輸入品目について、輸送モードをアンケートした結果。
注2:
2015年4月に日本政府の無償資金援助で建設された、メコン川に架かる橋。鳥が翼を広げた形をしており、「つばさ橋」と呼ばれている。
執筆者紹介
ジェトロ・プノンペン事務所 海外投資アドバイザー
脇坂 敬久(わきさか たかひさ)
1976年東海電線株式会社入社(1985年住友電装株式会社に社名変更)、2017年住友電装株式会社退職、2018年4月より現職。