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貿易協定で先行する関連ルールの確立(世界)
デジタル化とルール(2)

2020年10月20日

シリーズ(1)の「技術発展への対応急がれる国際ルール形成」では、デジタル関連の国際ルール不在に対するマルチ(多国間)やプルリ(複数国間)の取り組みを概観した。これらの枠組みは、各国・地域の国家安全保障など重要な政策目的に抵触することもある。合意形成に時間を要する中で、自由貿易協定(FTA)などの個別協定による関連ルール確立が先行している。

ルール作りで先行するFTAなどの個別協定

国際的なデジタル関連ルール形成が各枠組みで模索される中、FTAは1つのモデルになり得る。WTOなどによる多国間交渉と比べて相対的に交渉コストが小さいことから、特定分野でマルチに先行して合意が形成されることは他分野でもある。デジタル分野に関しても、多くの国が既にFTAに規定を盛り込んでいる。

2020年6月時点で、ECに代表されるデジタル分野の条項を設けるFTAは約70ある(図参照)。2003年に発効したシンガポール・オーストラリアFTAでは、初めて独立のEC章が設けられた。これ以降、ルール策定に積極的な米国をはじめ、オーストラリアやシンガポールなど環太平洋地域の国を中心に規定内容が質量ともに拡充された。デジタル関連規定を持つFTAの多くは、米国やそのFTA相手国による協定で、米国型のルールが広まりつつある。締結国が双方とも途上国である場合は、デジタル関連ルールが少ない傾向にあったが、2010年代後半からは中国など一部の新興・途上国でもEC章をFTAに設ける動きが出ている。

図:デジタル分野を規定するFTAなどの貿易協定
デジタル関連の規定を持つFTAの件数は約70件。最初にデジタル貿易章を持つFTAが登場した2003年以降、その件数は増加を続けている。とりわけ米国が締結したFTA、および米国のFTA相手国が締結したFTAに関連規定が多く見られ、同国の影響が強く及んでいる。

注1:デジタル分野を他の項目と同じ章に規定したものや、付属書として定めたものも含めた。
注2:米国やその相手国が締約国でないFTA(グラフの「その他」部分)を吹き出しで示した。
注3:日本は米国との間で「デジタル貿易協定」が発効しているため、米国の協定相手国として分類した。
注4:2020年は6月時点までの発効状況。
出所:「世界と日本のFTA一覧」(ジェトロ)および各協定文を基に作成

この10年で規定内容も大幅に近代化

デジタル関連ルールは、その内容も深化している。Froese(2019)によると、初期の関連規定は、単にEC市場の発展を相互に確認する程度の限定的な規律にとどまっていた。しかし、近年のFTAでは、各国が採用する規制もにらみ、より広範な規律を実現している(参考参照)。例えば、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の第19.17条(コンピュータを利用した双方向サービスの提供者や利用者の責任)では、「配信されたコンテンツから損害が生じた場合、その責任はプラットフォーマーやユーザーではなくプロバイダーにある」と規定する。プラットフォーマー(双方向サービスの提供者)とユーザーの双方を保護するための規定だ。また、FTAにおけるデジタル関連規定のボリュームとして、1つの協定に用いられる用語は2000年代前半の約500語から、2010年代には約1,000語にまで倍増した。特に、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)(2,685語)とUSMCA(3,236語)は用語数の多さが際立つ。

デジタル関連の用語を含む条項は、EC章のみならず、サービス章や投資章、貿易円滑化章、知的財産章など幅広い分野で横断的に取り扱われる場合がある。例えば、協定によっては、通関書類の電子化に関しては貿易円滑化章、プロバイダーの責任に関しては知的財産章に記載が見られる。「環境」や「労働」など、WTO協定の範囲外のFTAルールの弱みとして、こうした非貿易関心事項が紛争解決とひも付いていないことによる執行力の不足がよく指摘される。他方で、デジタル関連ルールは、8割以上のFTAで紛争解決の対象から明示的に除外されていない。つまり、デジタル関連ルールの適用や解釈をめぐって締約国間で紛争が生じた場合、8割以上のFTAで、締約国は拘束力を有する紛争解決手続きに訴えることができる。これにより、ルールの実効性が担保されていると評される。

参考:FTAにおけるデジタル関連規律の変遷:内容別条項数

2001~2003年:旧来の規定
貿易の電子化(37)
関税の不賦課(57)
貿易障壁の低減(3)
透明性の確保(21)
協力(54)
民間の関与(3)
EC促進(32)
政策の調和(4)
2003~2009年:シンガポール・オーストラリアFTA(初めてEC章を設置)以降
定義(49)
EC関連国内法の維持(17)
電子署名(27)
消費者保護(36)
個人情報の保護(21)
2009年以降:比較的新しい規定
適用範囲(12)
無差別原則(27)
他の章との関係(39)
ネットへの接続、ネット利用(4)
技術の中立性(1)
国境を越えるデータの移転(7)
ネット相互接続料の分担(2)
コンピュータ関連設備の設置(4)
サイバーセキュリティー(3)
要求されていない商業上のメッセージ(8)
ソースコード(4)
プロバイダーの責任(2)
WTOルール整合性(26)
紛争処理に関する規制(1)
コンピュータ相互サービス(1)
政府公開データ(1)

注:カッコ内は同内容を規定した条項の数で、協定の件数ではない。
出所:Marc D.Froese, "Digital Trade and Dispute Settlement in RTAs: An Evolving Standard?" Journal of World Trade 53.5 (2019)から作成

デジタル分野に特化した複数国間協定も

とりわけ、米国が自国型のデジタル関連ルールをFTAで普及させる中、目下最も広範なルールを規定するのが、2020年7月に発効したUSMCAのEC章だ(表参照)。TPP11プラスとして例えば、個人情報の保護に関し参照すべき国際指標として、APECの越境プライバシールール(CBPR)やOECDの枠組みを特記した。また、データの越境移転については、TPP11以上に円滑なデータ移転を可能とする文言を使用している。USMCAのルールは、米国にとっても、世界的にも、一定のモデルを提供するものであり、今後のFTAにも影響を及ぼすと考えられる。

デジタル分野を独立させた協定も登場した。2020年1月に発効した日米デジタル貿易協定がその1つの例だ。同協定は、円滑で信頼性の高い自由なデジタル貿易を促進するためのルール整備を目的に締結された。アルゴリズムや暗号の開示要求を禁止するなどTPP11の規定を強化するものや、SNSを念頭に置いたサービス提供者に対する民事上の責任に関する規定(前述のUSMCA19.17条参照)なども盛り込まれた。

表:米国の貿易協定などにおけるデジタル関連規定
類型 項目 ペルー 韓国 コロンビア パナマ TPP11
(参考)
日米
デジタル
USMCA
2009年2月 2012年3月 2012年5月 2012年10月 離脱 2020年1月 2020年
7月
一般 定義
適用範囲および一般規定(重要性の確認)
自由化 デジタル・プロダクトの無差別待遇
電子的な送信に対する関税不賦課
情報の電子的手段による国境を越える移転 ●(*1)
コンピュータ関連設備の設置要求の禁止
金融サービスにおけるコンピュータ関連設備の設置要求の禁止
ソースコード開示要求の禁止
アルゴリズム開示要求の禁止
インターネットへの接続およびインターネット利用に関する原則
信頼性 オンラインの消費者の保護
個人情報の保護 ●(*2)
要求されていない商業上のメッセージに対する措置
サイバーセキュリティーに係る事項に関する協力 ●(*3)
コンピュータを利用した双方向サービスの提供者や利用者の責任
円滑化 国内の電子的な取引の枠組み
電子認証および電子署名
貿易に係る文書の電子化
政府公開データへのアクセスおよび利用拡大
インターネットの相互接続料の分担交渉の認可
その他 協力
紛争解決
透明性(法の公開など)

注1:年月は発効年月を指す。
注2:該当する条文があれば○表記とした。●はTPP11を超える水準のルールを規定した項目。
注3:米国・韓国FTAより古いFTAの規定ぶりについては、「ジェトロ世界貿易投資報告」2018年版113ページ(2.29MB)も参照されたい。
*1:国境を超える情報の移転をより制限しない書きぶりに。
*2:考慮すべき国際指標としてAPECやOECDの枠組みを明記。
*3:米国国立標準技術研究所(NST)のガイドラインに基づき、サイバーセキュリティへの対応をより明示的に表記。
出所:米国の各FTA、日米デジタル貿易協定、米ビジネス・ソフトウエア・アライアンス資料から作成

シンガポール、チリ、ニュージーランドの3カ国間で2020年1月に基本合意に至った、「デジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)」も、デジタル分野を特出しした協定の一例だ(2020年1月28日付ビジネス短信参照)。DEPAにはUSMCAを超えるルールとして、例えばフィンテック分野について、金融機関と外部のシステムをつなぐAPIの開放を進める。また、人工知能(AI)については、企業に適切な活用を促す一方、AIが分析したビッグデータを域内で円滑に移管できるようにして、ビジネス環境を整備することをうたっている。

従来のFTAでは、デジタル分野だけを取り扱った項目を物品貿易などの基本部分から切り離して締結する形式はなかった。それだけ、デジタル分野の規律が重要視されていることの表れであり、今後もこうした分野限定型協定が増える可能性はある。実際、シンガポールは2020年3月に、オーストラリアとも別途のデジタル経済協定に合意した。域内でデジタルルールが充実するのは歓迎される一方、ルールの乱立による規律煩雑化の弊害も懸念される。

内容面で拡充が進むFTAのデジタル関連ルールだが、そのまま多国間ルールに転用される可能性は低い。条項を共通化する動きはほとんど見られない上、国内規制の導入理由や程度が国によって異なり、調整が進みづらいためだ。例えば、TPP11のEC章は、当初米国が交渉に参加していたころの形式のまま適用されており、途上国も含めたTPP11加盟国は、米国型の高水準なデジタル関連ルールに従う。アルゴリズム開示要求の禁止やデータの自由な越境移転といった、比較的新しく国際議論も決着を見ないルールも含まれることから、これらがWTOでそのまま適用されるとは考えづらい。当面はWTOでの各国提案を軸に、均衡点を探る動きが続くとみられる。

デジタルビジネスの進展、さらには新型コロナの感染拡大を背景に、デジタル化が急速に進んだ。政策目的を達成するため各国・地域が法規制の整備に個別に動く中、国際的共通規範の不在が浮き彫りとなった。WTOを含めた国際機関やフォーラムでの作業が進む一方で、より短期間に合意形成が可能なFTAや分野特化型の協定で先行してルール策定が進む。国際ビジネス展開に当たっては、今後もデジタル技術の活用が不可欠だ。輸出先や進出先における法規制への対応に留意しつつ、国際ルールの策定状況についても情報収集を行うことが肝要だ。

デジタル化とルール

  1. 技術発展への対応急がれる国際ルール形成(世界)
  2. 貿易協定で先行する関連ルールの確立(世界)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
吾郷 伊都子(あごう いつこ)
2006年、ジェトロ入構。経済分析部、海外調査部、公益社団法人 日本経済研究センター出向を経て、2012年4月より現職。世界の貿易投資、および通商政策に関する調査に従事。共著『メイド・イン・チャイナへの欧米流対抗策』、『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)など。

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