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技術発展への対応急がれる国際ルール形成(世界)
デジタル化とルール(1)

2020年10月20日

この数年のデジタルビジネスの急拡大に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大も重なり、世界はデジタル化への対応を余儀なくされている。各国・地域が消費者保護や安全保障といった政策目的で関連法規制の整備に動く中、WTOを含めた国際機関では、国際共通ルールの策定に取り組んでいる。しかし、経済力や交渉スタンスの異なる国々が多数参加するマルチ(多国間)やプルリ(複数国間)での合意形成は難航が見込まれる。

デジタル化で生じる課題に各国・地域が個別に対応

中国の通信アプリ「WeChat(ウィーチャット)」や、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」をめぐる米中間の摩擦が続いている。トランプ大統領が2020年8月6日、WeChatを提供するテンセント、TikTokを提供するバイトダンスとの国内取引を禁止する大統領令を発出。9月下旬には、米連邦地裁が同大統領令に基づく取引禁止措置をそれぞれ発動直前に差し止めるなど、混乱の様相を呈している。

こうした混乱の背景には、中国による米国民の個人情報収集に対する国家安全保障上の脅威がある。インドも、国家主権や安全保障に損害を与えるとして、TikTokを含む約180の中国系アプリの使用を相次ぎ禁止するなど、個人情報収集への懸念が高まる傾向にある。こうした各国の政策の思惑と、これに関する国際ルールの発展状況を整理したい。

国家戦略の1つとしてデジタル化を推進する方向性は、基本的に世界共通と言える。例えば、米国は世界で最も精力的にデジタル貿易の自由化を推進してきた国の1つであり、国際交渉の場でも制約のない越境データ移転の重要性を主張してきた。また、EUは「デジタル時代に対応した欧州」を政策として掲げ、次世代技術に関する規制提案・標準化を中心に、デジタル化に向けた作業プログラムを実践中だ。新興・途上国でも、戦略的なデジタル化の推進により、経済成長や雇用創出を実現することを戦略として打ち立てる例は多い。

一方で、情報通信機器を中心としたデジタル関連財貿易の拡大やデータ流通量の急増に判い、これらを管理するための規制も増加しつつある。特に、2020年の新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の感染拡大により、世界中でリモートワーク拡大によるデータ移転の増加や、市民追跡のためのデータ利用、ビッグデータによるコロナスクリーニングなど、個人情報保護やサイバーセキュリティーへの関心は従前より高まった。

具体的には、各国・地域は消費者保護や国家の安全保障確保、自国産業の保護・発展といった政策目的を達成すべく、図に示すような各規制を導入している。特に、個人情報に関する認識が世界的に高まり、法整備が加速する傾向にある。マーケティングなどで企業が活用する個人情報に関し、その越境移転を規制するケースは多い。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2020年6月時点で、世界の66.0%の国・地域がデータ保護やプライバシーに関する法律を制定している。

また、追って詳説する環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)や、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)などが加盟国に禁じたデータ・ローカライゼーションは、犯罪捜査を含むさまざまな法執行上の目的で自国内のデータ流通を管理することや、自国産業の競争力を維持向上させることを目的として採用される。グローバルに企業活動を行いつつ重要情報を本社と共有する日本企業にとっては、過度なローカライゼーション規制は障壁となる可能性がある。また、個人情報保護の関連では、EUの一般データ保護規則(GDPR)運用が契機となり、アジアやアフリカなど他地域でもこれを参照するかたちで法律が整備される流れがある。さらには、欧州の一部や中南米各国、ASEAN各国ではデジタル課税が活発化するなど、国際議論の決着を待たずに措置導入に動くケースもある。

図:国家でデジタル分野の規制を行う目的とこれに対応する国際ルール形成の枠組み
各国・地域で「消費者保護、安全保障確保」「自国産業の保護・発展」といった政策目的を達成するため、様々なデジタル関連の法規制が導入されている。例えば、消費者保護のためのサイバーセキュリティ対策、自国産業の保護のためのデジタル課税などがこれに該当する。この分野に関する国際共通規範が無い中、WTO、G20、OECD、APECといったフォーラムにおいて、関連ルールの策定に向けた取り組みが加速している。

注:国際ルール形成の枠組みの「:」以降は、代表的な取り組みを例示。
出所:Centre for International Governance Innovation(CIGI)資料などを参考に作成

国・地域別にみると、法規制に対するアプローチには濃淡がある。米国は元来、基本的に開放されたデジタル環境を志向してきた。ただ近年は、巨大テック企業による膨大な個人情報の収集と管理体制の不備に対する懸念が高まり、各州がプライバシー法の制定に動いているほか、オンラインプラットフォーマーの反競争的行為に対する監視の目も強まる。また、EUは2018年5月のGDPR適用開始以降、2年間で270件以上の案件で制裁金を科すなど着実にGDPRを実施するほか、eプライバシー指令の改正にも取り組んでいる。また、個人情報保護法の新設や改正、運用強化に動くASEAN主要国、独自のプラットフォーム構築に意欲を示すインド、デジタル環境における自主権を主張する中国などといった特色がある(表参照)。

表:主要国・地域のデジタル関連ルール形成の特徴と最近の動向
国・地域 概要 最近の関連ルール整備状況
米国 個人情報保護に転機
  • 巨大テック企業による個人情報の管理体制への懸念から、各州がプライバシー法制定へ。カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)は、個人情報に関する消費者の権利と企業の義務を明確化し、他州のモデルに。
  • プラットフォーマーの反競争的行為に対する監視強まる。
中南米 デジタル課税に向けた法整備が加速
  • ブラジルでは、デジタル課税に関する法案が2020年5月に議会に提出された。国内における売上高に応じて課税率が決まる。
  • その他の中南米の主要国では、OECDルールに準拠しつつも、デジタルサービス事業者に対して付加価値(VAT)納税させるべく、法整備が進む。
欧州 新体制下でルール形成に関する作業プログラム始動
  • 「デジタル時代に対応した欧州」政策の下、2020年初にデジタル関連ルール形成に関する作業プログラム公表。​単一市場の現代化と強化へ。​
  • デジタルサービス法案など、データ経済における競争政策の見直し進む。​閲覧履歴の追跡に関するeプライバシー規則案の採否にも関心。​
  • デジタル課税ルールの統一は単一市場実現の観点から重要。
中国 サイバーセキュリティー法対応が課題
  • ネットワーク上の「個人情報」や「重要データ」の取り扱いに関しサイバーセキュリティー法(2017年施行)とその関連細則や標準などで規定。
  • 情報を国外提供する際の安全評価義務に関しては不明確な部分も多く対応に苦慮する企業も。
  • 国際交渉においてはインターネット主権や規制の権利を尊重する立場。
ASEAN データ関連規制が深化
  • 主要国で個人情報保護法、サイバーセキュリティー法の制定や改正などデータに関する規制強化の動き。新型コロナにより、個人情報の保護・活用の両面でルール形成への関心高まる。
  • 2020年以降デジタル課税を導入する国が主流に。
インド 個人データの適正な利活用目指す
  • 国民選別番号制度や、これに基づく総合デジタル公共インフラを整備。個人による信頼確保の下、情報の利活用を促すアプローチを採用。
  • 国会審議中の個人情報保護法案では、過度なデータ・ローカライゼーションは回避される方針へ。
アフリカ諸国 デジタル移行戦略の下ルール整備へ
  • アフリカ連合(AU)が「アフリカデジタル移行戦略2020-2030」を採択。
  • 個人情報を適切に取り扱うための法制度作り進む。南アフリカ共和国やケニアはGDPRに準拠したデータ保護法導入へ。
  • ソーシャルメディアへの課税の動きも。

注:太字は具体的な法規や制度に関する記述。
出所:各種資料から作成

急ピッチで進む国際ルール策定

デジタル関連のこうした各種規制について、国際的に共通した規範があれば、その対応についても一定程度の見通しが可能となるはずだ。しかし、デジタル化の進展は、例えば、世界の貿易ルールをつかさどるWTOの発足時には想定されていなかった環境変化だ。技術の発展にルール形成が追い付かず、その間に各国がそれぞれに適正と判断した法規制を導入する中、関連ルールの調和を図るための交通整理が必要とされる。とりわけ新型コロナの感染拡大以降は、個人情報やサイバーセキュリティー上の問題が露呈し、国際ルールの不在にあらためて目が向くこととなった。

こうした中で、例えばG20では、2019年の大阪サミットでデータ流通・ECに関する国際的ルール作りを進める「大阪トラック」を立ち上げるとともに、「信頼性のある自由なデータ流通」(DFFT)の概念を提唱。DFFTの概念の下、プライバシーやセキュリティーに対する信頼を確保しながらも、データの自由な流通を実現するかたちでルール形成を進める。また、OECDではデジタル課税ルールの調和、APECではプライバシーに関する規律の国際化が検討されている(図参照)。

WTOでは、特にECの相互発展に向けて、いかに自由な取引環境を確保するかについて議論が進んでいる。GATTやサービス貿易に関する一般協定(GATS)といった既存のルールで明確にECを規律できない中で、WTOでは物品やサービスという従来の枠組みを超えて、論点の整理を行ってきた。2020年8月現在、84のWTOメンバーが電子商取引交渉に参加しており、中にはアフリカ諸国も含め新興・途上国も新規に参入しつつある。一方で、米国やEU、中国といった主要メンバー間で交渉に対するスタンスが大きく異なる(詳細は「ジェトロ世界貿易投資報告」2020年版の図表Ⅳ-52参照(2.77MB)PDFファイル)。WTOは2021年に予定されている第12回閣僚会議までに統合交渉テキストを作成することに合意しており、有志メンバーがここでいかに着地点を見つけるかに注目が集まる。

他方で、多国間や複数国間での合意形成に時間がかかる中、自由貿易協定(FTA)などの個別協定でデジタル関連のルール形成が活発化する傾向が顕著に表れている。詳細は「貿易協定などで先行する関連ルールの確立」で解説する。

デジタル化とルール

  1. 技術発展への対応急がれる国際ルール形成(世界)
  2. 貿易協定で先行する関連ルールの確立(世界)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
吾郷 伊都子(あごう いつこ)
2006年、ジェトロ入構。経済分析部、海外調査部、公益社団法人 日本経済研究センター出向を経て、2012年4月より現職。世界の貿易投資、および通商政策に関する調査に従事。共著『メイド・イン・チャイナへの欧米流対抗策』、『FTAガイドブック2014』(ジェトロ)など。

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