マンダル・ベチャラジ地域の駐在員生活底上げのために
日系ゼネコンに聞く、インドでの社員寮運営(2)

2019年12月26日

インド西部グジャラート(GJ)州ヴィタラプール(注)にあるクマガイインディアの社員寮。同社は「初めての海外駐在者でも安心、安全、安定した生活環境を享受できるように」をコンセプトに掲げて2018年4月に社員寮を設置、運営している。インド各地に展開する日本人駐在員向けホテル、日本食レストランや日系企業の社員寮運営にも参考になる点が多い。後編では、社員寮に住む駐在員の反応や変化、日本人駐在員が抱える生活面での課題について紹介する。

生活環境の改善に手応え、さらなる底上げを

質問:
社員寮に住む駐在員の反応や運営する中で得られた気付きは。
答え:
寮を整備してから、駐在員からの生活に関する不満の声はほぼなくなり、これまでに重篤な病気・怪我なども発生していない。また、親会社の重役から若手研修生、初めて海外渡航する社員や協力業者、女性など、寮にはこれまで多くの人が寝泊まりしてきたが、特段、問題なく帰国しているので、寮のコンセプトもある程度達成できていると考える。気付いてみると、寮設置のために地場建設会社との現場打合せを重ねたころから、「何か変わったことをやっている日本人がいる」と注目される存在となった。毎月、社員寮にはホテルや日本食レストランのインド人経営者が、事業提携の相談などに訪れる。寮完成後には、アンドラ・プラデシュ州のスリシティ工業団地に入居する日系企業担当者らが、自社社員寮設置のため、当社社員寮に数日滞在して参考とするなど、多くの企業に当社の取り組みに関心を持っていただいた。
当社にサービスプロバイダーから派遣されたスタッフが、周辺の同業他社からの引き抜きに遭ったり、食堂で働くインド人シェフから技術を習得しようと修行に来るシェフもいたりする。しかし、当社の蓄積してきた経験知が、マンダル・ベチャラジ地域の宿泊施設・日本食レストランのオーナーや日系企業などに浸透し、それらサービスを享受する日本人駐在員の生活環境底上げに確実につながると捉えているため、喜ばしいと考えている。同サービスプロバイダーは11月8日、日本人向けホテル兼レストランと日本人・インド人マネージャー向けのサービスアパートメント「モリナ・ホテル&リゾート」を当社社員寮付近に開業した。建物自体の施工品質・設備は、アーメダバード市内や日本、東南アジア地域の星付きホテルの足元にも及ばないが、2~3年前と比べると、確実に改善、進歩していると肌で感じることができた。開業に当たり、建物のレイアウトや部屋の間取り、内装、日本食メニューなど、同社からの相談に応じた。同地域の日本人駐在員に対する生活環境・サービス向上のため、今後もお互いに情報交換ができればと考えている。

モリナ・ホテル&リゾート(写真左の右手前)と日本食レストラン「一里」の朝食メニュー(右上)、
食堂エリア(右下)(11月8日、ジェトロ撮影)
質問:
日本の人事担当者や海外総務担当者へのメッセージは。
答え:
インドに限らず、海外で働く日本人駐在員がいかに高いパフォーマンスを発揮するかは重要であり、その大前提となるのが現地における生活環境の整備・向上だ。その参考事例として、当社社員寮が少しでも役に立てるのであればうれしい。さらには、大企業に比べ現地での生活環境整備に必要なリソースを十分に割けない中堅・中小企業等の担当者にとって、マネジメント面での負担軽減の一助となればと願っている。

社員寮とクマガイインディアの清水GM(11月23日、ジェトロ撮影)

アーメダバード進出検討企業の2割以上、進出上の課題に「生活環境」を回答

当地進出日系企業の間では、「アーメダバード市内からマンダル・ベチャラジ地域まで2時間弱要するため、通勤は難しい」「マンダル・ベチャラジ周辺に、マネジャークラスが住むことのできる環境(住居・病院・学校など)が必要」「工場と周辺都市(サナンド、ビランガム、カディ、メーサナ)との交通機関を充実させてほしい」などの課題が共通認識となっている。加えて、経済産業省の調査によると、在インド進出日系製造業で、次の進出候補先としてアーメダバードを検討している企業にとっても、「生活環境(日本人およびワーカー)」が進出する上での課題と回答した企業は23%に上る(図参照)。

図:GJ州進出に当たっての土地価格・インフラなど以外の課題(上位3項目)
グジャラート州進出にあたる課題として、日本人およびワーカーの生活環境を挙げる声は大きい。

出所:経済産業省「平成30年度質の高いインフラの海外展開に向けた事業実施可能性調査事業」レポート内アンケート調査結果

インド随一のインフラ整備状況や、州政府が外国企業誘致に積極的である点など、魅力的なビジネス環境を有するGJ州では、2014年以降、日系企業進出が増加してきた。他方、中国企業などの外国企業進出も加速しており(2019年8月30日付地域・分析レポート参照)、競争激化による取引先からのコスト値下げ要請やワーカーなどの不足・賃金上昇など、当地での事業計画策定の際に考慮する必要があるだろう。

当地での事業安定化を図る上でも、日本人駐在員やインド人従業員の生活環境向上に向けた自社内の取り組み強化は重要だ。とりわけ当地では、日本人1人体制で顧客開拓や生産管理などの事業運営を担っているケースが多く、駐在員の業務面・精神面での負担も大きくなっている。そのため、多くの日系企業は、本部から総務担当者を定期的に現地に派遣して、駐在員の現状把握やケアに努めるとともに、本社としてバックアップできる点がないか、常に情報収集を行うなど、管理面での配慮も求められる。


注:
グジャラート州最大都市アーメダバードから、北西に位置するマンダル・ベチャラジ地域の中心都市。同地域にはスズキやホンダ二輪を中心とした日系自動車産業が集積しており、ヴィタラプールには「マンダル日本企業専用工業団地」がある。

日系ゼネコンに聞く、インドでの社員寮運営

  1. 「生活インフラ整備、維持の徹底」と「日本食の質の安定化」が重要
  2. マンダル・ベチャラジ地域の駐在員生活底上げのために
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
丸崎 健仁(まるさき けんじ)
2010年、ジェトロ入構。ジェトロ・チェンナイ事務所で実務研修(2014年~2015年)、ビジネス展開支援部、企画部海外地域戦略班(南西アジア)を経て、2018年3月よりジェトロ・アーメダバード事務所勤務。