「生活インフラ整備、維持の徹底」と「日本食の質の安定化」が重要
日系ゼネコンに聞く、インドでの社員寮運営(1)

2019年12月26日

インド西部グジャラート(GJ)州では、同州中部のマンダル・ベチャラジ地域にスズキやホンダ二輪をはじめ、自動車関連産業の集積が進む。それに伴い、同地域周辺に12軒程度の日本人駐在員向けホテル兼レストランが営業中だ。そうした中、日本食レストランを経営するインド人オーナーや他州の日系企業などからも注目を集めているのが、2018年4月に開設されたクマガイインディア(注)の社員寮だ。同社では寮のコンセプトを「初めての海外駐在者でも安心、安全、安定した生活環境を享受できるように」と掲げる。インド事業運営や税務会計、人事総務などの全般を担当する傍ら、社員寮の立ち上げ、寮運営アドバイスに携わる同社の清水謙一郎ゼネラルマネージャー(GM)に話を聞いた(11月23日)。2回に分けて、紹介する。


クマガイインディア社員寮の外観(1)
(11月23日、ジェトロ撮影)

クマガイインディア社員寮の外観(2)
(クマガイインディア提供)

過酷な環境下、駐在員の生活環境整備のため、寮立ち上げ目指す

質問:
社員寮設置の経緯は。また、立ち上げ以前の生活環境は。
答え:
当社駐在員は、社員寮立ち上げ前はホテル生活をしていたが、駐在員から「今のホテルでの生活を継続することは極めて難しい」との声が上がったためだ。弊社では2016年12月、グジャラート州でのプロジェクト実施のため現地法人を設立、20人程度の駐在員をグジャラート州の最大都市アーメダバードの中心部から北西約80キロに位置し、スズキやホンダ二輪などへのアクセスも良いヴィタラプール周辺に長期滞在させることとなった。通常、進出予定地の駐在員向けの宿泊施設を含めた生活環境整備として、周辺のほぼ全ての宿泊施設に足を運び、一定期間自らが宿泊するが、当時周辺には日本人駐在員向けホテルはほとんどなく、現場から車で45分程度に位置するホテルをベースとして生活を開始した。しかし3~4カ月たったころ、おびただしい数の虫の室内侵入、シロアリの発生、頻繁な停電、断水、温水供給設備の故障、断熱や遮熱性能が劣悪な構造物のため、長時間冷房が効かず、十分な休息がとれないといった問題が目立つようになった。食事についても、特に日本食メニューのバリュエーションが少なく、食材の鮮度やメニュー、味も満足のいくレベルではなく、海外での駐在経験豊富な駐在員でさえも、徐々に体調不良や生活環境に対する不満の声が大きくなり始めた。さらに、他州から随行してきたインド人のエンジニアも当地を「ジャングル」と呼称し、食べ物や生活環境が整っていないことを理由に逃避、離職するケースが多発、インド人にとっても住みづらい地域であることを認識した。
そこで、インド全域の主要な日系工業団地に隣接する日本人向け宿泊施設をくまなく視察し、工業団地の開発、分譲開始からの経過期間の長さ、入居する日系企業や駐在員の数に応じた各施設の整備状況や課題を整理した。当初は、市内のサービスアパートメントに住むことも検討したが、通勤に片道2時間を要するため、現場での作業スケジュールの調整や業務効率、そして何よりも駐在員に対する心身の負担の軽減を最大限に考慮し、ヴィタラプール周辺に社員寮を設け、日本人駐在員の生活環境を安定化させる方法を模索することになった。なお最近では、日本国内や東南アジア地域においても、相当のへき地でない限り、社員自らが社員寮の立ち上げに関ることはせず、日系専門業者に一括委託するケースが多いが、当地には適格なパートナーの進出予定がなかった。

社員寮立ち上げ経緯について語るクマガイインディアの清水GM(11月23日、ジェトロ撮影)

地場企業と協力し、安全・快適な生活を

質問:
社員寮立ち上げや運営面で工夫した点は。
答え:
地場建設会社による躯体工事を終えたインド人向けアパートに、基本的な生活インフラの整備を徹底することに重点を置いた。当社エンジニアによる図面の確認、施工手順や施工品質に関するアドバイスを基に、日本では当然備わっている居住性、防災対策面で不安な点をできる限り排除し、日本の建築基準に近いレベルまで、可能な限り底上げすることを念頭にアドバイスを行った。

3カ月間で日本の建築基準に近いレベルまで底上げ(内装工事を含む)させた社員寮(1)
(クマガイインディア提供)

3カ月間で日本の建築基準に近いレベルまで底上げ(内装工事を含む)させた社員寮(2)
(クマガイインディア提供)
質問:
寮の運営・メンテナンスにおける注意点は。
答え:
作業効率の観点と、複数社委託による余分なコスト負担を避けるため、駐在員の日々の生活に関するケア、食事や家具、什器(じゅうき)備品の手配、配車、清掃、事務などの寮施設および設備全体のメンテナンスを含むトータルマネジメントは、地場サービスプロバイダーに一括委託した。当社としては、サービスプロバイダーが主体的に、より効率的な運営と快適なサービスを提供するための仕組みづくりを確立してもらうことが大切だと考えており、トラブルレポート、対応内容の迅速な共有やそのデータ蓄積により、当該地域のさまざまな問題点を把握し、今後の品質向上に役立てるとともに、その都度相談に乗り、適宜アドバイスしている。

参考:クマガイインディアの寮立ち上げ・運営面での主な取り組み内容

(1)生活インフラ整備

  • 有事に備えた防災への配慮(階数、電気配線、消火設備および教育)
  • 周辺の上下水道インフラや給排水設備の状況把握、現地および日本基準での水質検査の実施
  • 脆弱な電力インフラへの対応(100%バックアップの実施)
  • 脆弱(ぜいじゃく)な通信環境への対応(専用線、複数SIM、ブースター設置)
  • 住居への害虫、小動物侵入防止措置
  • 施設に対する防風、防塵、防カビ、防暑、防寒対策、特に木製建具に対する防虫対策を徹底的に実施
  • セキュリティゲート設置(野犬対策)、CCTV、24時間セキュリティ人員の配置
  • 最低月1回のペストコントロール、日々の徹底的な掃除およびメンテナンス

(2)運営面で工夫した点

  • 寮の設備・食事・サービスやマネジメントを地場のサービスプロバイダに一括委託
  • インド人シェフが作った日本食に対し使用食材、メニュー、調理方法など細かくフィードバック
  • 全スタッフの待遇改善
  • 寮生活ガイドブック(マニュアル)の作成、設置
  • 家電、キッチン用品などの設置、世代別、おのおの異なる生活スタイルに対応
  • 24時間医療アシスタンス、日本製とインド製の常備薬をそれぞれ設置
  • 近隣クリニック、市内大手私立病院との契約と連絡体制の確立、緊急時マニュアルの作成
  • 駐在員赴任前診断、赴任時の医療キット配付、健康診断を目的とした一時帰国制度(年3回)を導入。診断結果を専門医、産業医が確認し、駐在継続可能かを判断

出所:同社へのジェトロのヒアリング


自炊もできるようにキッチン器具や家電など一式をそろえる(11月23日、ジェトロ撮影)
質問:
日本食の質の安定化はどのように実現しているのか。
答え:
インド人シェフが考えた日本食メニューで、日本人が食べておいしいと感じる日本食を安定して提供できるように、使用食材(調達、保管方法も含む)、メニュー、調理方法(味付け、料理のボリューム、盛り付けの仕方)など、細かくフィードバックし、少しでも安価に提供することを心掛けている。

昼食メニューの一例。アジはインド産(11月23日、ジェトロ撮影)

注:
株式会社熊谷組の100%子会社。

日系ゼネコンに聞く、インドでの社員寮運営

  1. 「生活インフラ整備、維持の徹底」と「日本食の質の安定化」が重要
  2. マンダル・ベチャラジ地域の駐在員生活底上げのために
執筆者紹介
ジェトロ・アーメダバード事務所
丸崎 健仁(まるさき けんじ)
2010年、ジェトロ入構。ジェトロ・チェンナイ事務所で実務研修(2014年~2015年)、ビジネス展開支援部、企画部海外地域戦略班(南西アジア)を経て、2018年3月よりジェトロ・アーメダバード事務所勤務。