行き場を失いつつある廃プラスチックの行方は?(マレーシア)
プラスチックにまつわるマレーシアの環境保護策の今(1)
2019年5月20日
2017年末に中国が廃プラスチックの輸入を禁止したことを皮切りに、東南アジアでも輸入規制などの動きが広まっている。マレーシアでも、廃プラスチックのリサイクル処理工場による水質汚染などに端を発し、輸入規制を強化している。廃プラスチックが行き場を失いつつある中で、同国ではプラスチックの利用そのものの環境への配慮についても議論が及ぶ。プラスチックにまつわるマレーシアの環境保護策の最新動向を、2回に分けて紹介する。後編は2019年5月20日記事参照。
マレーシアに流入する廃プラスチック
世界の輸入統計をみると、中国での廃プラスチック輸入の禁止前(2016年)と禁止後(2018年)では、全世界で取引される廃プラスチックは金額、量ともに50%程度減少した。しかし、中国という巨大な受け入れ先を失った廃プラスチックのマレーシアへの流入は増加傾向にある。全世界の廃プラスチック輸入に対するマレーシアの比率は、2016年に、金額ベースで1.0%(6,623万ドル)、数量ベースで1.8%(29万トン)だったが、輸入禁止後の2018年には金額ベースで6.1%(1億8,570万ドル)、数量ベースで10.2%(87万トン)と急増し、数量ベースでは世界1位の輸入国となった(図1および図2参照)。
マレーシアの輸入統計をみると、2018年における廃プラスチックの輸入総額は前年比50.7%増の7億3,979万リンギ(1億7,755万ドル、1リンギ=約0.24ドル)だった(表1参照)。輸入相手国・地域(金額ベース)をみると、米国が全体の21.0%を占め、前年比2.0倍の1億5,546万リンギと最大で、次いで英国、日本、ドイツ、香港が続いた。輸入上位10カ国・地域からの輸入総額が全体の約8割を占め、いずれも欧米と東アジアの先進国・地域だった。
国名 | 金額(百万リンギ) | 構成比(%) | 前年比増減率(%) | ||||||
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2016年 | 2017年 | 2018年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | |
米国 | 36.8 | 76.0 | 155.5 | 13.4 | 15.5 | 21.0 | 23.1 | 106.7 | 104.4 |
英国 | 55.9 | 65.7 | 98.3 | 20.4 | 13.4 | 13.3 | 10.2 | 17.5 | 49.7 |
日本 | 37.2 | 62.7 | 97.0 | 13.6 | 12.8 | 13.1 | △ 0.5 | 68.5 | 54.6 |
ドイツ | 42.2 | 59.2 | 70.4 | 15.4 | 12.1 | 9.5 | 54.8 | 40.2 | 18.9 |
香港 | 5.1 | 50.1 | 56.2 | 1.9 | 10.2 | 7.6 | △ 14.9 | 878.8 | 12.3 |
オーストラリア | 9.1 | 27.2 | 29.2 | 3.3 | 5.5 | 3.9 | △ 14.7 | 200.2 | 7.4 |
ベルギー | 10.1 | 14.0 | 23.5 | 3.7 | 2.9 | 3.2 | 220.0 | 39.2 | 67.5 |
スペイン | 10.7 | 22.2 | 22.1 | 3.9 | 4.5 | 3.0 | △ 14.4 | 107.6 | △ 0.2 |
カナダ | 4.3 | 16.7 | 19.9 | 1.6 | 3.4 | 2.7 | 278.9 | 290.2 | 19.3 |
フランス | 1.1 | 8.2 | 18.3 | 0.4 | 1.7 | 2.5 | 25.0 | 649.7 | 122.9 |
合計(その他を含む) | 274.3 | 490.8 | 739.8 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 13.5 | 78.9 | 50.7 |
出所:マレーシア統計局
廃プラスチック輸入の規制、違法処理工場閉鎖の取り組みを強化
廃プラスチックの輸入急増をきっかけに、マレーシア国内では廃プラスチックの処理工場における深刻な環境汚染についての懸念が高まっている。報道によると、マレーシア国内には274の廃プラスチック処理工場があり、うち109が環境規制にのっとらず違法に操業している工場だという(2019年2月26日付「ニュー・ストレイツ・タイムズ」紙)。特に、違法工場の約6割が立地する、クアラルンプール近郊のセランゴール州での水質汚染が深刻のようだ。こうした実態を受け、マレーシア政府は2018年7月ごろから、違法工場の摘発・閉鎖に乗り出した。違法工場の取り締まりについては、主にエネルギー・科学・技術・気候変動・環境省(MESTECC)が担当し、国民からの違法工場に関する情報提供を求める、違法工場が立地する州政府と連携するなどして、全違法工場の閉鎖を目指している。
廃プラスチック輸入について、政府は輸入時に取得が義務付けられる輸入許可書(AP)の認可基準を強化することで、違法工場がAPを取得できないようにし、環境に悪影響を与えうる廃プラスチックの国内流入を阻止する取り組みを行っている(2018年10月15日付ビジネス短信参照)。APの発行については、担当省庁である住宅・地方政府省が、2018年7月23日から発行済みのすべてのAPを3カ月間停止し(注)、新たな認可基準を設けた上で2018年10月から再申請を受け付けると発表した。新たな認可基準では、従来の申請書類提出に加え、保管場所の収容能力の証明、国家固形廃棄物管理局(NSWMD)監督の下での建屋内清掃の実施、リサイクル処理後の廃プラスチックの販売先リスト、輸入廃プラスチック1トン当たり15リンギの税金の納付などの追加条件が課された。新基準によるAPの再申請は10月26日から開始され、19社が申請したが、2019年1月現在で承認された企業はない。ズライダ・カマルディン住宅・地方政府相は、APの承認が1件も下りていないことに対し、「申請があった19社が、認可基準を満たしているか監査を行う必要がある」と述べている(2019年1月5日付「ザ・スター」紙)。
廃プラスチック輸入は減少傾向、港湾では新たな問題も
APの停止以降のマレーシアの輸入統計を月別にみると、2018年8月から輸入が激減し、2019年1~2月の輸入総額は前年同期比81.1%減で、現状では廃プラスチック輸入を抑え込んだかたちだ(図3参照)。
前述のとおり、政府は環境に悪影響を与える廃プラスチックの規制を次々と実施しているが、新たな問題も浮上している。APが停止された2018年7月以降、港湾には輸入通関ができない廃プラスチックが滞留している。T・スブロマニアム税関局長は「2月末時点で、クラン西港には100個超、ペナン港には120個の廃プラスチックのコンテナが滞留している」と述べた(2019年2月25日付「ニュー・ストレイツ・タイムズ」紙)。税関は、通関業者に対し、廃プラスチックを、高分子材料(ポリマー)や樹脂材料(レジン)などの一般プラスチックと偽って輸入通関を行った場合は、直ちに通関業者ライセンスを取り消す、と警告している。
行き場を失いつつある廃プラスチックの行方は、新たな認可基準が導入されたAPの再発行の動向次第であるものの、約半年が経過した2019年4月現在でも認可が下りていないとみられ、この事態はしばらく続くことが予想される。
- 注:
- APが全面停止された約1カ月後の2018年8月16日、ズライダ・カマルディン住宅・地方政府相により、自由貿易区(FZ)に立地する工場および保税工場(LMW)が保有するAPについては、停止を延期した。なお、APの有効期限は発効後1年間である。
- 変更履歴
- 記事にある数値に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2019年6月27日)
- 第2段落
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(誤)全世界の廃プラスチック輸入に対するマレーシアの比率は、2016年に……数量ベースで1.8%(2億9,000万トン)
(正)全世界の廃プラスチック輸入に対するマレーシアの比率は、2016年に……数量ベースで1.8%(29万トン) -
(誤)2018年には……数量ベースで10.2%(8億7,000万トン)
(正)2018年には……数量ベースで10.2%(87万トン) - あわせて、関連するデータが盛り込まれている図2も訂正しています。
プラスチックにまつわるマレーシアの環境保護策の今
- 行き場を失いつつある廃プラスチックの行方は?(マレーシア)
- 使い捨てプラスチックにもメス、「基本ストローなし」拡大へ(マレーシア)
- 執筆者紹介
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ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり) - 2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。