使い捨てプラスチックにもメス、「基本ストローなし」拡大へ(マレーシア)
プラスチックにまつわるマレーシアの環境保護策の今(2)

2019年5月20日

2017年末に中国が廃プラスチックの輸入を禁止したことを受けた輸入規制などの動きは、東南アジアにも広まっている。マレーシアでも例にもれず、環境面への配慮から廃プラスチックの輸入規制を強化している(2019年5月20日記事参照)。後編の本稿では、さらに派生したマレーシアの動きを報告する。プラスチックの利用そのものも環境に配慮すべきとして、使い捨てプラスチック製品をゼロにするためのロードマップも発表され、国家として環境に配慮したプラスチックの在り方を模索している。

ロードマップで使い捨てプラスチックのゼロ化目指す

エネルギー・科学・技術・気候変動・環境省(MESTECC)は、2018年10月に構想を発表していた、使い捨てプラスチックの利用に関する国家計画である「使い捨てプラスチックゼロに向けたロードマップ」を、2019年1月3日に策定した。ロードマップは2018年から2030年まで、3段階の計画で使い捨てプラスチックの利用をゼロにするのが目標だ(表参照)。

2019年に入り、既にさまざまな施策が始まっている。まず1月、プラスチックストローについては、「基本ストローなし(No Straw by default)」を合言葉に、リクエストがない限りストローを提供しないという取り組みが、クアラルンプールなどの連邦直轄地とクアラルンプール近郊のセランゴール州で開始された。2019年から2021年までの第1段階では、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ファストフード店を始めとするチェーン店やドラッグストアといった特定店舗を対象とし、2020年1月にも運用を徹底する。2022年以降は「基本ストローなし」の対象を特定店舗以外にも拡大するほか、パック飲料用などを含めたストローには、バイオストローを採用することを進めていく方針だ。現在、「マイストロー」と称して、金属や木製のストローを販売する店が増え始め、新たなトレンドも生み出しているようだ。

表:「使い捨てプラスチックゼロに向けたロードマップ」におけるアクションプラン(プラスチックストローおよびレジ袋)
段階 プラスチックストロー レジ袋
第1段階
(2018~2021)
  • 「基本ストローなし」の取り組みを特定店舗で導入
2019年
特定店舗に対し、レジ袋に20センの公害手数料を課税
公害手数料は州が徴収、導入時期は州政府の判断に
よる

2021年
全国で公害手数料課税の導入完了(特定店舗)
第2段階
(2022~2025)
  • 「基本ストローなし」の取り組みを非特定店舗へ拡大
  • バイオストローへの移行
2022年
公害手数料課税を非特定店舗へ拡大
レジ袋製造業に公害税を課税(連邦政府が徴収)

2025年
全国で公害手数料課税の導入完了(非特定店舗)

注:アクションプランには第3段階(2026~2030)があるが、ストローおよびレジ袋は第2段階までに一通り完了する計画。
出所:エネルギー・技術・科学・気候変動・環境省「使い捨てプラスチックゼロに向けたロードマップ」


マイストローを売る店が増加(ジェトロ撮影)

レジ袋については、2019年から各州の権限で有料化を開始し、州政府が1枚当たり最低20セン〔約5.4円、1リンギ(=100セン)=約27円〕を、公害手数料(Pollution charge)として徴収する。3月15日から連邦直轄地において導入されており、スーパーマーケットなどでレジ袋1枚が20センで販売され始めた。マレーシアでは、スーパーマーケットなどで買い物をすると、レジの担当者が袋詰めをしてくれるのが一般的だが、レジ袋有料化後は、まず「レジ袋はご利用ですか」と必ず聞かれるようになった。


スーパーマーケットでのレジ袋有料化(ジェトロ撮影)

連邦直轄地における有料化については、連邦直轄区省からの通達が3月10日と導入直前だったにもかかわらず、各店舗での運用は徹底されているようだ。レジ袋有料化および公害手数料の徴収は、ストローと同様、2019年から2021年までは特定店舗を対象とし、2021年末までに全州に適用することを目指す。2022年から2025年までに非特定店舗に拡大し、レジ袋製造業者に公害税(Pollution Tax)を課すほか、国民に対してはエコバックの利用徹底も呼び掛けていく。


エコバック利用を呼び掛ける表示(ジェトロ撮影)

ストローやレジ袋以外にも、食品包装、持ち帰り食品用のパックやカトラリー(スプーンやフォーク)などを環境にやさしい製品に代替することが、ロードマップの初期段階に盛り込まれている。マレーシアでは外食文化が浸透しているが、同時に、持ち帰りもよく利用される。その際、屋台やレストランではポリ袋やプラスチック製の使い捨て容器が利用されるのが一般的で、道を歩けば、多くの人が持ち帰りの容器をぶら下げて歩く光景を目にすることができる。こうした身近なプラスチック製品の代替から、少しずつ着手していく方針だ。

食品に関連するもの以外では、綿棒、ポリ袋、プラスチック製の鉢植え、カテーテルなどの使い捨て医療用品、おむつ、生理用品など、多岐にわたるプラスチック製品について、生分解性プラスチックへの代替を進めていき、段階的にその対象を広げていく意向だ。

前述のように、同ロードマップは、生分解性プラスチックへの代替、プラスチックストローの原則禁止、レジ袋の有料化、レジ袋の製造に対する課税といったプラスチック利用を規制する施策だけでなく、リサイクル意識への啓発や環境にやさしいプラスチック代替品の研究開発に対するファンド設立などを含む、包括的な計画となっており、具体的な運用も始まっているのが現状だ。

最大の課題は国民の意識改革

ロードマップの目標実現に向けての課題としては、国民の環境に対する意識の欠如が挙げられる。最も顕著な例は、ごみの分別だろう。マレーシアでは、2015年9月に「2007年固形廃棄物及び公共清掃管理法」が施行され、2016年6月までに、セランゴール州、東部のクランタン州、中部ペラ州を除いて、ごみの分別制度が導入された。同制度において、ごみは、一般ごみ、紙ごみ、プラスチック・空き缶、ガラス・衣類・電化製品類・エアロゾール、の4つに分類することとされている。しかし、制度導入から約4年が経過した現在、リサイクルを前提としたごみの分別および回収方法がいまだ浸透していないようだ。報道では、「分別の基準がよくわからない」「所定のごみ回収場所がなく、どこに捨てればいいかわからない」「せっかく分別しても、回収する際に一緒にされており意味がない」といった国民の声を紹介している(2019年1月6日付「フリーマレーシアトゥデイ」紙)。家庭ごみの分別方法の普及、回収する側である各市役所の指定業者への回収方法の周知・指導の徹底に問題がありそうだ。

とはいっても、プラスチックを足掛かりとして、国民生活で環境保護に対する意識が芽生える土壌は整った。環境にやさしい国づくりは、一日にしてならず。一人一人の意識変革、行政側の体制強化などの継続的な実践が、政府の最大の課題といえよう。

プラスチックにまつわるマレーシアの環境保護策の今

  1. 行き場を失いつつある廃プラスチックの行方は?(マレーシア)
  2. 使い捨てプラスチックにもメス、「基本ストローなし」拡大へ(マレーシア)
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。