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ジョホールとビンタン・バタム -シンガポール経済圏を行く(2) 新たな投資の波が訪れるバタム、ビンタン島

2019年3月27日

シンガポール国境近くのインドネシアのバタム島やビンタン島では近年、製造業への投資が再び活発化している。しかし、その投資の内容はこれまでとは様相が異なる。これまでの電子、造船だけでなく、新しい成長の推進役となる産業を模索する動きもある。インドネシアのリアウ諸島州とマレーシア・ジョホール州のシンガポール経済圏を展望する特集の2回目は、バタム、ビンタン両島への新たな投資と製造を取り巻く状況に焦点を当てる。

既存工場の拡張を含む投資が再び活発化、日系も4年ぶりに新規進出

シンガポールから南へ高速船で1時間ほどのところに、インドネシア・リアウ諸島州のバタム島とビンタン島がある。バタムは、1990年代に「成長の三角地帯」構想に基づき、シンガポールとインドネシアの両国政府のプロジェクトとして、シンガポールを補完する電子産業や造船を中心とする製造拠点として発展を遂げた(ジョホールとビンタン・バタム-シンガポール経済圏を行く(1)を参照)。しかし、バタム島からは2000年以降、賃金上昇や労働争議の激化など経営環境の悪化を受けて、日系を含む多くの製造業が撤退した。その後、新規進出の動きは停滞していたリアウ諸島州だが、近年になって新規進出が相次いでいる。

バタム島には22の工業団地がある。このうち、日系メーカーが最も集積するバタミンド工業団地では2018年、精密スプリング・ばね製造会社マルホ発條が進出を決めた(操業は2019年中に開始予定)。日系企業が同島に新規進出するのは、4年ぶりとなる。また、同団地では、既存の工場の多くも2018年、施設の拡張に踏み切っている。電子機器受託製造(EMS)のシークス・エレクトロニクスや、半導体メーカーのインフィニオン・テクノロジーズ、コンタクト・レンズ製造のチバ・ビジョンなどがそれぞれ、工場を拡張した(表参照)。


バタミンド工業団地の入り口(ジェトロ撮影)
表:バタム・ビンタンの工業団地における2018年の主な進出・拡張事例(稼働前を含む)
新規・拡張 進出企業名(本社所在地) 工場所在地
(バタミンド・
ビンタン)
事業
新規 ペガトロン(台湾) バタミンド 電子機器受託製造サービス(EMS)
シマテレックス(香港) バタミンド 家電の受託製造(OEM)メーカー
マルホ発條(日本・京都) バタミンド バネ製造
マイクロキャスト(シンガポール) バタミンド 亜鉛部品製造
サムヨン・プレシジョン(韓国) バタミンド 気密端子製造
スキャンジェット(スウェーデン) バタミンド タンク清掃機器製造
キューブ(豪州、シンガポールのシンガタックとの合弁) ビンタン オフショア海洋センター
バイオネジア・オーガニック・フーズ(独) ビンタン ココナツ加工食品
拡張、追加投資 シークス(日本・東京) バタミンド 電子機器受託製造(EMS)
インフィニオン・テクノロジーズ(独) バタミンド 半導体製造
NOK[エヌ・オー・ケー](日本・東京) バタミンド 工業用ゴム製品、オイルシール製造
グレース・ソリューション(インドネシア) バタミンド ワイヤーハーネス製造
チバビジョン(米国) バタミンド コンタクトレンズ製造
シコー・パナテック(スイス) バタミンド プラスチック射出成形
ルビコン(日本) バタミンド コンデンサ製造
ホンフォン・プラスチック・インダストリーズ (シンガポール) バタミンド プラスチック射出成形
バルタ・マイクロバッテリー(独) バタミンド バッテリー製造
インダストリアル・ブラッシュウェア(豪州、近隣工業団地からの移転) バタミンド ブラシ製造

出所:バタミンド工業団地2019年版ニュースレター、各種報道よりジェトロ作成

米中貿易紛争をにらみ、一部生産移転の動きも

上掲のバタムへの新規進出企業の中には、米中貿易紛争の影響を懸念して、一部生産拠点を移したとみられる企業も含まれる。台湾大手EMSのペガトロンは、中国での通信機器製造の一部を、バタミンド工業団地に移し、2019年中の稼働を予定している。同社は米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォン)」の組み立てメーカーだが、バタミンドでアイフォンの組み立て作業を行うかは不明だ。このほか、香港の家電OEMのシマテレックスと、韓国の精密機械製造会社サムヨン・プレシジョンの進出も、中国生産拠点の分散を図った動きとみられている。バタミンド工業団地では2018年8月以降、米中貿易紛争への懸念が高まる中、入居に関する問い合わせや視察が急増しているという。

ただし、バタム島に拠点を置く日系電子部品メーカーA社の幹部は、米中貿易紛争などの影響について、「昨年11月以降、受注状況があまりよくはない」と語る。このように、米中貿易紛争はさまざまな影響をもたらしている。

豊富な労働力、しかし賃金コスト増で省力化の動きも

バタムやビンタン進出の最大の魅力が、その豊富な労働力だ。同島の労働人口は2017年12月時点で37万7,117人(外国人労働者を含む)であり、2000年の15万5,591人から約2.4倍に増加した。ワイヤーハーネスを製造する住友電装では2016年2月、80人のオペレーター募集に対し、3,000人以上の求職者が押し寄せた(「ジャカルタポスト」紙2016年2月10日)ように、同島では人材獲得に苦慮する声は聞かれない。進出企業の中には、「人手が集まらず、外国人に依存しなければいけないマレーシアとは異なり、ここではインドネシア人でそろえやすい(日系電子部品メーカー)」との声もある。

ただ、シンガポールやマレーシアなどと比べてバタムやビンタンは、人材コストが安価と評価されていたが、最低賃金が継続的に上昇している(図参照)。2019年3月時点の月額最低賃金は、前年比8.0%増の380万6,358ルピア(約3万8千円、1ルピア=約0.01円)と、2011年時点と比べると3.2倍に増加した。

図:バタム市(リアウ諸島州)における最低賃金の推移
2011年の最低賃金は1180000ルピア、 2012年の最低賃金は1402000ルピア、賃金上昇率は18.8%、 2013年の最低賃金は2040000ルピア、賃金上昇率は45.5%、 2014年の最低賃金は2422092ルピア、賃金上昇率は18.7%、 2015年の最低賃金は2685305ルピア、賃金上昇率は10.9%、 2016年の最低賃金は2994111ルピア、賃金上昇率は11.5%、 2017年の最低賃金は3241125ルピア、賃金上昇率は8.2%、 2018年の最低賃金は3523427ルピア、賃金上昇率は8.7%、 2019年の最低賃金は3806358ルピア、賃金上昇率は8.0%。

出所:労働移住省、各種知事令を基にジェトロ作成

このような背景から、生産工程の省力化に踏み切る進出日系企業もいる。ポリ袋製造のサニパックでは現在、工場内で自動搬送システムを採用しており、製造機械への資材投入は機械化している。サニパックインドネシアの岩本昌人取締役社長は、省力化を進める理由として「一番の要因は最低賃金で、毎年約8%上昇している」と強調し、いかに人件費を抑えるかが課題だと語る。

このほか、バタムやビンタンでの経営コストの課題としては、賃金だけでなく、シンガポールとバタム間の海上輸送コストや電力コスト増も課題として声が挙がる。さらに、両島の政策をめぐる先行きも明確ではない。両島は共に自由貿易地区(FTZ)として輸出一大拠点として発展してきたが、インドネシア国内の消費市場が拡大するなか国内販売も可能な経済特区(SEZ)を設置する方針がこれまで繰り返し発表されたが、具体的な計画は明らかではない。

ハラル食品加工区やデジタル・パークなど、新たな産業集積を図る動きも

一方、バタムとビンタン両島では、これまでとは異なる産業の新たな集積を図る動きもある。ビンタン工業団地には、新たにハラル食品加工区が設置され、第1号入居企業としてドイツのバイオネジア・オーガニック・フーズが2019年中にも操業を開始する。また、同団地では新たに滑走路も設置し、航空機の保守・修理・整備(MRO)の専門区も設置する予定だ。さらに、バタム島北部で、造船関連産業を中心としたカビル総合工業団地(KIE)を運営するインドネシアのチトラ・マス・グループが2018年4月、スタートアップを含む情報通信技術(ICT)関連向けの総合団地「ノングサITデジタル・パーク」の第一期工事分を開設した。同団地に近接する場所には9本もの海底通信ケーブルが上陸するなど、インターネット環境が優れている。このような優れたネット環境と、シンガポールとのアクセスの良さを生かし、同団地はシンガポール企業に代わってソフトを開発するアウトソーシング先として位置付けており、2019年3月現在、IT関連企業や保険関連企業約50社が拠点を置いている。両島ではこれまで、電気・電子産業や造船関連産業の集積拠点として発展してきたが、これら産業に加えて、両島の経済の新たな成長の柱を模索する動きが続いている。


ビンタン工業団地:現在は空き地の場所に航空機MRO関連施設や
滑走路の設置などが計画されている(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所 調査担当
本田 智津絵(ほんだ ちづえ)
総合流通グループ、通信社を経て、2007年にジェトロ・シンガポール事務所入構。共同著書に『マレーシア語辞典』(2007年)、『シンガポールを知るための65章』(2013年)、『シンガポール謎解き散歩』(2014年)がある。
執筆者紹介
ジェトロ・シンガポール事務所
源 卓也(みなもと たくや)
2013年、富山県庁入庁。2017年4月よりジェトロへ出向。海外調査部アジア大洋州課を経て2018年4月よりジェトロ・シンガポール事務所にて、シンガポールの調査・情報提供に従事。

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