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外国直接投資の選別を強化するベトナム

2019年10月16日

ベトナムに対する韓国、中国の影響力が高まっている。韓国系のサムスン電子ベトナム(以下、サムスン・ベトナム)などによるベトナムの輸出や投資への寄与度は少なくなく、2019年上半期には、中国の投資が急増している。他方、外国直接投資の環境負荷への懸念も出ており、ベトナム社会への貢献が評価されている日本企業のさらなる進出を望む動きもある。ベトナム共産党も、技術面、環境面などの観点から投資を選別していく方針を出しており、今後の制度化、運用が注目される。

外国人観光客の4人に1人強が韓国から

ベトナム経済で、韓国人観光客の存在感は大きい。2019年1月から7月までのベトナムへの外国人観光客約980万人のうち、1位の中国289万人(前年同期比2.8%減)に次ぐ韓国からの観光客は約280万人(22.1%増)で、韓国が中国に迫る勢いである。また、韓国~ベトナム間のフライトは、往復で週501便(2019年6月時点)ある。ダナン着が週206便と最多で、韓国からのベトナム観光ツアーは「若手女性実業家とホーチミンに行き、投資について指南を受け『Rich(金持ち)』になる」をうたい文句にしたものなど、バラエティーに富む。

韓国企業の進出ラッシュ、韓国政府も支援

投資の面でも、韓国の存在感は大きい。ベトナム外国投資庁によると、2018年12月までの外国直接投資では、累積件数・総投資額(認可ベース)ともに韓国が第1位だ(日本は第2位)。韓国側の統計でも、2018年の直接投資額の国・地域別順位は、対ベトナム投資は5位だったが、新規法人数は米国、中国などを大きく上回り、1位だった。(2019年3月18日付地域・分析レポート参照

特に、サムスン・ベトナムの総投資額は174億ドルとされ、韓国からベトナムへの総投資額の約3割に相当し、存在感が大きい。サムスン・ベトナムの輸出額(2018年)は600億ドルを超え(注)ており、これは、ベトナムの輸出総額約2,355億ドルの約4分の1を占める。同社はベトナム南部(ホーチミン市)1カ所の家電生産工場に加え、北部2カ所(バクニン省、タイグエン省)にスマートフォンの生産工場を構える。スマートフォンなど携帯電話機は輸出総額の約2割を占め、ベトナム最大の輸出品目となっている。

韓国政府も、企業のベトナムへの投資支援体制を強化している。大韓貿易投資振興公社(KOTRA)が2019年1月、東南アジア・オセアニア地域の統括事務所を、シンガポールからハノイに移管したのは象徴的だ。なお、韓国貿易保険公社(K-SURE)は同年9月、ハノイ事務所を開設した。

ベトナム政府はサムスン・グループにさらなる期待

アジア開発銀行が2019年9月に発表した「アジア経済見通し」の補足版によると、2019年の東アジアの経済成長見通しは、貿易摩擦による貿易の停滞とエレクトロニクス分野の不振により、下方修正された。韓国経済については、当初予測より減速していると評価し、韓国の2019年の成長率予測を2.5%から2.1%に引き下げた。

また、サムスン・グループは業績が悪化し、2019年第2四半期は、前期に続く減収減益となっている(2019年8月6日付ビジネス短信参照)。同グループの業績、あるいは韓国経済の先行きは、韓国からベトナムへの観光客や直接投資などを左右しかねず、注視が必要であろう。サムスン・ベトナムの生産量が減少すれば、ベトナム経済への影響が出る、と懸念する現地報道もある。ベトナムにあるサムスン電子の関連子会社の売上高利益率は、2015年から2017年までは9%台で推移していたが、2018年以降は右肩下がりで、将来を楽観はできない(図参照)。

図:ベトナムのサムスン電子関連子会社の売上高利益率
サムスン電子関連子会社であるSamsung Electronics Vietnam (SEV)、Samsung Electronics Vietnam THAINGUYEN (SEVT)、Samsung Display Vietnam (SDV)、Samsung Electronics HCMC CE Complex (SEHC)の売上高利益率は、2015年9.4%、2016年9.4%、2017年9.5%、2018年7.0%、2019年(1-6月)6.0%。ただし、2015年はSEV、SEVTの2社のみの数値。

注:2016年以降は4社(Samsung Electronics Vietnam (SEV)、Samsung Electronics Vietnam THAINGUYEN (SEVT)、Samsung Display Vietnam (SDV)、Samsung Electronics HCMC CE Complex (SEHC))。2015年はSEV、SEVTの2社。なお、2019年は1月~6月の上半期。
出所:サムスン電子連結財務諸表からジェトロ作成

このような中、ベトナム政府は、サムスン・グループとの相互依存関係を強める動きを見せている。フック首相は6月、チョイ・ジュ・ホ社長に対して、同社の投資額を現在の174億ドルからさらに200億ドルへ引き上げるよう要請した。呼応するかのように、サムスン・グループのIT子会社サムスンSDSは、現地IT会社CMCの株式25%の取得を決めた。また、サムスン系列会社が、ベトナム初の液化天然ガス(LNG)ターミナル建設を国営会社ペトロベトナムから受注している。

米中貿易摩擦による中国からの投資急増の影響には懸念

韓国経済から受ける影響もさることながら、米中貿易摩擦の影響とみられる中国からの投資の急増や、貿易も注目される。中国からの新規・拡張直接投資額(認可ベース)が上半期に18億8,000万ドルと、前年同期比3.6倍に増え、国別認可額では韓国を上回り首位となった(2019年8月8日付ビジネス短信参照)。当地工業団地関係者からは「環境汚染を引き起こさない投資であれば歓迎する」と、環境負荷を意識した声も聞く。一方、人民元安による、ベトナムの中国向け輸出への影響について懸念する報道も見かける。

信頼できる日本企業の投資を望む声も

韓国や中国によるベトナムへの影響力の増加と、それに関わる懸念点が出てくる中、日本企業からの投資を望む動きもある。例えば、2019年8月、工業団地への投資誘致のため、ジェトロに来訪したティエンザン省の投資誘致ミッションは、日本企業進出を特に希望する理由について、「たしかに中国、台湾、韓国、シンガポール企業からの訪問者が絶えないが、ポートフォリオ全体の中で、国のバランスを取りたい。日越の2国間は文化的に近く、友好的な関係にある。日本企業はこれまで、雇用、技術移転、環境保護の面でベトナム社会に対して大きく貢献してきた。短期的ではなく、長期的な開発を実践しており、信頼できる」(ルー・バン・フィー同省外務局長)としている。

なお、日系企業の投資については、ニプロ・ベトナムが2019年9月、サイゴンハイテクパーク(ホーチミン市9区)の医療機器の新工場の竣工(しゅんこう)式を行った。出席した同工業団地関係者は「サムスン・ベトナムの家電工場を超える300億円規模の投資で、(工場の)質・(生産予定)量ともにすばらしい」と評価した。

投資を選別する方針を党中央委員会が文書で明確化

ベトナム共産党中央委員会は、8月20日付決定50-NQ/TW「2030年までに、外国投資協力について制度・政策を完成させ、質と効率を高めるための方向性を示す、中央委員会による決定」を公表した。同決定では、2018年までのハイテク外資系企業からの投資により、投資金額、案件の質ともに向上し、雇用創出、労働者の所得向上、生産能力・生産性の向上、国家収入の安定につながり、経済改革が進み、国際舞台におけるベトナムの地位と名声が強化された、と評価している。大きな影響力のあるサムスン・グループなどによる投資を肯定的に捉えていることがうかがわれる。

他方、いくつかの企業、投資案件については、資源と土地を浪費し、労働、給与、税、社会保障、環境に関わる政策と法律に違反している、と指摘した。このような問題に対処するため、外国投資を安全保障の観点も加えて選別できるようにする、さらに時代遅れの技術を用いた、環境汚染や資源浪費の可能性のある案件は認めないことを明らかにした。

同決定は、中国企業だけでなく、中国から生産移管を図る他国企業も含め、中国からの投資が急増し、地方からも懸念が表明されている時期に発表された。長期かつ包括的な観点から、政府が外国投資について取るべき対応の方向性を示したものであり、政府が具体的な制度を策定するのはこれからだ。サムスン・グループをはじめとする韓国企業や中国企業による今後の対ベトナムへの投資動向と、ベトナム政府の対応が注目される。


注:
チョイ・ジュ・ホ社長が、ズン副首相との面談の際に言及した数字(2019年2月27日付ベトナムニュース)。なお、サムスン電子連結財務諸表(2018年末)によれば、ベトナムに立地する子会社上位3社の売上高合計は約70兆ウォン(約560億ドル)。ベトナムの2018年の名目GDP(2,400億ドル)の23%に該当する。
執筆者紹介
ジェトロ・ホーチミン事務所 所長
比良井 慎司(ひらい しんじ)
1996年、経済産業省入省、ジェトロ・シンガポール事務所勤務(2006~2009年)、在トルコ日本大使館勤務(2011~2015年)、経済産業省資金協力課長(2015~2017年)。2019年より現職。専門はアジアを中心とした国際開発。

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