韓国企業のベトナム進出ラッシュが続く

2019年3月18日

韓国企業のベトナム進出が依然、活発だ。中国に代わる生産拠点を、ベトナムに求める動きが続いている。エレクトロニクス業界では、セットメーカーのベトナム進出に伴い、部品メーカーがベトナムに集積しつつある。さらに、サービス産業でも、消費市場の拡大を見越した進出が相次いでいる。

2018年の対ベトナム直接投資額は過去最高を更新

韓国の対ベトナム直接投資は増加基調が続いている。2018年の直接投資額(実行ベース、以下同様)は31億6,217万ドル、新規法人数は822社と、いずれも過去最高を更新した(図参照)。国・地域別では、直接投資額は5位だったが、新規法人数は米国、中国などを大きく上回り、1位だった。韓国企業のベトナム進出ラッシュは一向に冷める気配がない。

図:韓国の対ベトナム直接投資の推移(実行ベース)
実行ベースの韓国の対ベトナム直接投資は2000年7,180万ドルから2008年に13億9,544万ドルに増加した後、一旦、減少した。しかし、2010年以降、再び増加し、2018年は31億6,217万ドルを記録した。韓国企業のベトナムでの新規法人数は、2000年29社から2007年に454社に増加した後、一旦、減少した。しかし、2012年以降、再び増加し、2018年は822社を記録した。

資料:韓国輸出入銀行データベース

表1:韓国の対ベトナム直接投資額の推移(実行ベース、主要業種別) (単位:100万ドル)
製造業(主要業種別) 製造業
(全体)
非製造業 合計
繊維・衣服 エレクトロニクス その他製造業
2000 8 4 22 34 37 72
2001 18 5 16 39 22 62
2002 49 1 87 136 25 162
2003 62 6 43 111 62 174
2004 40 7 44 92 92 183
2005 71 5 116 191 154 345
2006 89 16 195 299 302 601
2007 116 6 501 623 695 1,317
2008 143 24 532 699 696 1,395
2009 59 20 238 317 313 630
2010 99 85 286 471 412 882
2011 126 66 331 523 533 1,056
2012 114 90 332 536 446 982
2013 134 200 443 777 375 1,152
2014 214 335 507 1,056 604 1,660
2015 198 346 601 1,145 468 1,612
2016 342 507 917 1,766 608 2,374
2017 268 433 701 1,401 572 1,973
2018 240 620 1,094 1,954 1,209 3,162

注:「繊維・衣服」は原統計の「繊維製品製造業、衣服を除く」と「衣服、衣服アクセサリー、および毛皮製品製造業」の合計、「エレクトロニクス」は原統計の「電子部品、コンピュータ、映像、音響、および通信装置製造業」。
資料:韓国輸出入銀行データベースを基に作成

対ベトナム直接投資を牽引しているのは、製造業だ。韓国の製造業企業は2000年代中ごろまでは、中国に輸出向け生産拠点を求める傾向が強かった。しかし、その後の中国の生産コスト上昇を受け、中国に代わる生産拠点を求めるようになった。その本命がベトナムだ。製造業の内訳をみると、かつては繊維・衣類が比較的多かったが、2010年代に入ってからはエレクトロニクスが大幅に増加している(表1参照)。エレクトロニクスの直接投資の増加は、サムスン電子の携帯電話工場の建設が起爆剤になった。同社は、2009年にバクニン省の携帯電話の生産を開始(第1工場)、2014年にはタイグエン省の第2工場の生産を本格化させた。現在、同社は全世界での携帯電話生産のおよそ半数をベトナムで生産しているとみられる。同社は特に、第2工場の立ち上げを契機に現地での部品調達に注力するようになり、サムスン・ディスプレイ(バクニン省、ディスプレイ)、サムスン電機(タイグエン省、カメラ・モジュール)をはじめ、系列企業がベトナムで工場を建設する動きが広がった。

この流れは、現在も続いている。2018年4月以降の具体的な投資事例をみると、サムスン・グループ企業の進出は一巡した感があるものの、それ以外の多くの携帯電話部品メーカーがベトナムの生産拠点を新増設していることが確認できる(表2参照)。さらに、サムスン電子はホーチミン市でテレビ、エアコンなど家電製品の生産も開始している。サムスン電子の動きに刺激されたかのように、LGエレクトロニクスもハイフォン市に大型家電工場を建設するなど、ベトナムでの生産拡大に動いている。これらの動きを受け、エレクトロニクス部品メーカーが幅広くベトナムに進出してきている。

繊維・衣類の直接投資も、直接投資額はやや減少したものの、依然、引き続いている。個別企業のケースでみても、大手の太平洋物産が2015年にタインホア省に設立した衣類生産工場を拡張、といった事例が報じられている。韓国メディアでは、米中貿易摩擦、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP、いわゆるTPP11)、EUベトナム自由貿易協定(FTA)などがベトナムの優勢性を高めているとの見方も紹介されている。さらに、エレクトロニクスや繊維・衣類以外の製造業でも幅広く投資事例がみられる。

韓国の製造業企業にとってベトナムの魅力は、地理的優位性(韓国・中国から比較的近く、両国のサプライチェーンを活用しやすい)、優秀な若年層人材の層の厚さ、ベトナム社会・政治の安定性、ベトナムの企業文化の韓国との親和性の高さ(同じ儒教文化圏に属する)などである。さらに、セットメーカーのベトナム進出により、系列企業のベトナム集積が進みつつある状況だ。

韓国製造業企業のベトナム進出意欲は根強く、対ベトナム直接投資は当面、強含みで推移しよう。ちなみに、民間シンクタンクの韓国貿易協会国際貿易研究院が2018年6~8月に中小製造企業を対象に行ったアンケート調査(注1)の結果によると、「今後の海外生産拡大予定・検討中の地域・国」の最重要地域・国として、回答企業の37.3%がベトナムを挙げ、中国(23.2%)、インド(9.2%)、インドネシア(7.0%)、EU(5.6%)、米国(2.1%)などを抑え、ベトナムがトップとなっている。

サービス産業でもベトナム進出が拡大

サービス産業でも、韓国企業のベトナム進出が活発だ。物流をはじめとした企業向けサービス業の進出もさることながら、一般消費者向けサービス業の進出が相次いでいるのが注目される。近年の経済成長の結果、ベトナムの1人当たりGDPは2,587ドル(2018年、ベトナムの基礎的経済指標より)と、消費市場の本格的な立ち上がりが期待できる水準に達してきた。また、ベトナムは9,000万人台の人口大国であり、かつ、消費トレンドを主導する若年層が分厚い。韓国企業はこうしたベトナム消費市場の高い潜在力に注目し、ベトナム進出を急いでいる。

その代表的な事例の1つが外食産業だ。韓国外食業中央会の調査によると、ベトナムにおける韓国系外食企業の企業数、店舗数は2017年秋時点で31社、322店で、いずれも中国、米国に次ぐ第3位となっている。表2でも、ダッチカフェ、クムネチキン(いずれも2018年11月)、ハイト眞露(2019年1月)が新規に進出している。韓国の外食企業がベトナムに殺到している理由として、ベトナムの所得向上とともに、ベトナムでは韓流ドラマやK-POPの人気が高く、韓国の外食企業が比較的受け入れやすいという事情もあるようだ。

大手企業グループはこぞってベトナムに積極的に進出

主な大手企業グループ(いわゆる「財閥」)別にみても、各グループともベトナムに積極的に進出している。

企業グループでトップ(注2)のサムスン・グループは前述のとおり、中核のサムスン電子が北部で携帯電話、南部で家電製品を生産しており、関連のグループ各社もベトナムに進出している。さらに、近年はサムスンSDSが合弁物流会社を設立(2016~2017年)、サムスン火災が現地業界5位の保険会社に20%出資(2017年)といったように、グループ企業が相次いで進出している。

2位の現代自動車グループでは、中核の現代自動車が2011年からベトナムで委託生産を開始、2017年にタインコングループと折半出資で生産法人を設立している。現在、生産能力拡大に向けて動いており、また、タインコングループと販売会社も合弁で設立するMOU(了解覚書)を締結。2020年下半期に年間10万台の生産・販売体制確立を目指している。

3位の SKグループでは、SKイノベーションが1998年から石油開発事業などを続けている。最近では、2018年9月にベトナム企業の買収のため、グループ企業5社が出資したシンガポール現地法人を通じ、SKベトナム投資会社を設立した。SKグループは早速、この会社を通じて、食品事業などを手掛ける大手コングロマリットのマサングループの持ち株会社に出資している。

4位のLGグループは、前述のとおり、LGエレクトロニクスがハイフォン市に大型家電工場を建設した。さらに、これを契機に、LGディスプレイ、LGイノテックといった関連企業がベトナムで生産拠点を構築している。

5位のロッテ・グループは、1998年のロッテリアを皮切りに、ロッテ百貨店、ロッテマート、ロッテホテル、ロッテ製菓、ロッテシネマ、ロッテ資産開発など、グループを挙げてベトナムに積極的に進出している。2014年にオープンした超高層ビル「ロッテセンターハノイ」にはロッテマート、ロッテ百貨店、ロッテホテルなどグループ企業が入居し、相乗効果を高めている。さらに、ハノイで「ロッテモールハノイ」、ホーチミンで「エコ・スマートシティー」といった大型開発を進めている。

さらに、中堅の企業グループの中では、15位のCJグループの動きが特に目を引く。CJ グループは「ベトナムを韓国、中国に次ぐ第3の拠点にする」との目標の下、CJ第一製糖や、CJ フードビルが展開するベーカリーチェーン「トゥレジュール」、シネマコンプレックスのCJ CGV、テレビ通販のCJ ENMなどグループ企業が一斉に進出している。これらの企業は、ベトナム消費市場を主なターゲットにしている。また、CJ第一製糖は2016年にキム・アンド・キム(キムチ)、カウチェー(冷凍食品)、2017年にミンダット(肉加工)といった現地食品企業を買収している。

進出ラッシュの一方で課題も

以上のように、韓国企業のベトナム進出ラッシュは依然衰える気配を見せないが、進出に当たって課題もある。政府系シンクタンクの産業研究院のレポートは次の点を指摘している〔産業研究院(2018)参照〕。1つは、ベトナムの人件費上昇への対応だ。同レポートは「ベトナムの人件費が急速に上昇している傾向を考慮すると、ベトナムを単純な製造拠点としてのみ活用してきた戦略は変化が必要」としている。もう1つは、M&Aの活用だ。一般的に韓国企業はベトナム企業のM&Aに必ずしも積極的ではないとみられている。同レポートは「内需市場への効果的なアクセスとして、最近活発化したM&Aを通じた進出が有望」「韓国企業はより綿密、かつ積極的にベトナムのM&A市場への進出を考慮すべき」とM&Aの意義を強調している。


注1:
アンケート対象は、2017年に50万ドル以上の輸出実績のある中小企業。アンケート回答数は1,008社。ただし、本設問は「海外生産拠点を拡大する計画」とした企業のみを対象とし、回答数は142社。アンケートの詳細は、韓国貿易協会国際貿易研究院(2018年)を参照。
注2:
公正取引委員会は毎年、一定規模以上の資産を持つ企業グループを「相互出資制限企業集団」に指定し、総資産を基準にした順位を発表している。本稿の企業グループの順位は同委員会の2018年5月1日の発表に基づく。総資産額が100兆ウォン(約10兆円、1ウォン=約0.1円)を超える大手グループは、サムスンからロッテまでの5グループ。

参考資料

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部 主査
百本 和弘(もももと かずひろ)
2003年、民間企業勤務を経てジェトロ入構。2007年7月~2011年3月、ジェトロ・ソウル事務所次長。現在ジェトロ海外調査部主査として韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。