新たに設けたジャパン・ハラール・ショーケースが好評(マレーシア)
国際食品見本市FHM、初出展の日本企業がマレーシア市場に挑む

2019年11月19日

マレーシア最大規模の国際総合食品見本市「フード&ホテル・マレーシア(FHM)2019」にジャパンパビリオンが設置され、同国で初めての販路拡大に挑む日本企業など34社・団体が和牛や水産物、緑茶、加工食品、菓子、調味料、日本酒などを出展し、売り込みを図った。展示会の様子や各社の取り組みなどをリポートする。

ムスリム・フレンドリーの日本産食品をまとめて展示

FHMは1991年から隔年で開催されており、2019年で15回目の開催となる。世界50カ国・地域から約1,500社が出展し、11カ国・地域がナショナルパビリオンを設置している。2019年の来場者数は約3万人に上った。ジェトロは2013年からFHMにジャパンパビリオンの出展を続けており、今回が4回目となる。

ジャパンパビリオンに出品した34社・団体のうち、マレーシアで初めて販路拡大に挑む企業は8社だった。出品物は和牛や水産物、緑茶、加工食品、菓子、調味料、日本酒などだ。ジャパンパビリオンには過去最高となる約500人のバイヤーが来場し、活発な商談が行われた。

特に来場客が集まったのは「ジャパン・ハラール・ショーケース」だ。ハラール食品やムスリム・フレンドリーの日本産食品をまとめてジャパンパビリオン内で展示するスペースを初めて設置した。ハラール食品に関心が高いバイヤーの関心を集めた。今回の出品者のうち9社はハラール認証を取得済みで、19社はアルコールや豚由来成分などを使わないハラール・フレンドリーの食品を出品した。こうした日本食材をマレーシア人に普及するため、冷凍ホタテ貝、梅干し、のり、魚肉ソーセージ、めんたいこソースなどの出展物を使った料理を実際に調理して紹介するムスリムフレンドリーの「料理デモ」も実施された。


ジャパンパビリオン中央に料理デモコーナーを設置
(ジェトロ撮影)

ジャパンパビリオン専用の商談スペースも用意
(ジェトロ撮影)

他国との差別化や商品説明がカギ、と出品者の声

今回出品した日本企業に、FHMの感触やマレーシア市場の魅力と課題などを聞いた。黒にんにく、切り干し野菜、濃縮ジュースなどを生産する柏崎青果(本社:青森県おいらせ町)は2017年に続き2回目の出品だった。柏崎進一代表取締役は「前回はイベント販売など単発的な引き合いが多かったが、今回はインポーター候補など、継続的に販売してくれそうな引き合いが得られた」と成果を語った。また、ここ数年で(1)日本通のマレーシア人が意外なほど増えていること、(2)健康志向が高まっていること、(3)話題性がある商品、新しい商品に興味が高いことなどが感じられたという。


青森県の柏崎青果(ジェトロ撮影)

中国・北アジアやシンガポール、米国など世界10カ国・地域にかきを中心とする冷凍水産物を輸出しているヤマナカ(宮城県石巻市)は、マレーシアとインドネシアの市場開拓を狙って参加した。同社の強みである高度な急速冷凍技術を使い、生きたかきと変わらない新鮮な状態を保てることや、流水で10分で解凍できる点などをアピールした。同社事業企画室の千葉賢也氏は「生きたかきよりフードロスを抑えられることから、レストラン業者などの関心が高かった」という。しかし、「マレーシアでは依然として、中華系やシェフを中心に『冷凍食品は生食より鮮度が落ちる』というイメージが定着してしまっている」と課題も感じたようだ。


宮城県のヤマナカ(ジェトロ撮影)

大洋酒造(新潟県村上市)はアジアの展示会を中心に海外販路開拓を進めているが、マレーシアでは初の出展だった。村山智社長は「シンガポールや台湾、韓国での展示会に比べ、具体的な商談ができ、輸入会社の候補が数社見つかった」と語った。課題として、マレーシアではまだ日本酒が一般的でないため、純米と純米でない酒の違いや、グレード・格付けの違いなどについて認知度が低いことを挙げた。日本酒の認知度を上げるため、「(日本のように)いろいろな種類の酒を少量ずつ試飲できるセットのような形式で提供するといったアプローチをする必要がある」として、日本酒普及への意欲を見せた。


新潟県の大洋酒造(ジェトロ撮影)

精肉のオクダ(三重県名張市)は2019年4月に開催されたマレーシア国際ハラール見本市(MIHAS)のジャパンパビリオン(2019年10月2日付地域・分析レポート参照)に参加し、伊賀牛の販路拡大を目指してFHMにも出展した。奥田哲也社長は「日本産牛肉の輸入が解禁されたことを契機に、マレーシア市場は今後も伸びが期待できる」と話す。マレーシアやシンガポールの輸入業者、レストラン業者からの反応は良いが、先行するオーストラリア産牛肉との価格差が課題だ。販売先を中上流階級の中華系に絞り、「将来的にはオーストラリア産のWAGYUではなく、トップグレードな日本産和牛をマレーシア人に浸透させたい」と語る。


三重県の精肉のオクダ(ジェトロ撮影)

2018年の農林水産物輸出額は80億円を突破

日本の農林水産省によると、2018年の日本からマレーシア向けの農林水産物・食品の輸出額は前年比12.8%増の約86億円に達し、過去最高を更新した。内訳は農産物が約56億円、水産物が約29億円、林産物が約2億円だった(図参照)。

図:日本からマレーシア向け農林水産物の輸出金額推移(過去10年間)
2018年の日本からマレーシア向けの農林水産物・食品の輸出額は前年比12.8%増の約86億円に達し(注)、過去最高を更新した。内訳は農産物が約56億円、水産物が約29億円、林産物が約2億円だった。

出所:農林水産省「2018年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」を基にジェトロ作成

日本からマレーシア向けの農林水産物・食品の輸出上位10品目をみると、アルコール飲料が2年連続1位だった(表参照)。マレーシアは人口の約6割をイスラム教徒が占めるが、2割強の中華系マレーシア人を中心に、日本酒の需要が拡大しつつある。また、日本産牛肉は2017年11月にマレーシア向け輸出が解禁されてから、翌年に2億6,500万円を記録し、和牛の需要も高まっている。

表:日本からマレーシア向け農林水産物・食品の輸出上位10品目(品目別内訳)
順位 2016年 2017年 2018年
1 いわし
552百万円
アルコール飲料
559百万円
アルコール飲料
570百万円
2 アルコール飲料
516百万円
いわし
552百万円
さば
489百万円
3 ソース混合調味料
322百万円
ソース混合調味料
307百万円
いわし
448百万円
4 さば
320百万円
緑茶
277百万円
ソース混合調味料
334百万円
5 配合調整飼料
250百万円
さば
274百万円
緑茶
323百万円
6 緑茶
225百万円
配合調整飼料
260百万円
牛肉
265百万円
7 菓子(米菓を除く)
186百万円
ホタテ貝(調製)
240百万円
ホタテ貝(調製)
218百万円
8 錦鯉等
111百万円
菓子(米菓を除く)
153百万円
配合調整飼料
218百万円
9 スープ ブロス
108百万円
清凉飲料水
134百万円
いか
192百万円
10 かつお・まぐろ類
96百万円
錦鯉等
126百万円
スープ ブロス
168百万円

出所:農林水産省「2018年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」を基にジェトロにて作成

ターゲットを明確にしたマーケティングを

日本からマレーシアへの食品輸出が年々増加していることは、日本食や日本産製品への関心が高まっていることを裏付けている。2025年までに先進国入りを目指すマレーシアは、1人当たり国民総所得(GNI)が1万460ドル(2018年)に達し、中高所得層を中心に購買力は上がっている。マレーシアには約1,000店の日本食レストランがあり、2013年からビザなしで日本に渡航できるようになったため、日本への旅行経験が豊富なマレーシア人も増えている。こうした背景から、日本産の食品への需要は今後も増加が見込めそうだ。

一方、マレーシアでは民族別、所得層別などさまざまなセグメントの消費者がいる。市場開拓の上では、自社製品の価格帯や商品の材料(ハラール対応可能かどうか)によって、ターゲットとする消費者層を明確にすることが重要だ。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
エスター頼敏寧
2009年、ジェトロ入構。ジェトロ・クアラルンプール事務所にて2年間調査アシスタントを務め、2016年に再入構し現職。