官民で取り組む日本とマレーシアのハラール協力
ハラール見本市「MIHAS」にジャパンパビリオンを初出展

2019年10月2日

マレーシア国際貿易産業省(MITI)は8月15日、日本に対するハラール食品などの輸出や物流、流通、小売り、認証、観光などのハラールバリューチェーン構築のための官民協力を行うイニシアチブ(Digital Trade Halal Value Chain for Tokyo Olympics 2020PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(583KB) )を発表した。2020年の東京オリンピックや2025年の大阪万博などでムスリム訪日客向けのハラール需要が高まる日本とマレーシア間でのハラール協力強化の機運が高まっている。

世界で人口が増え続けていくムスリム市場は、日本企業にとっても関心の高い市場の1つである。ASEANの中でも所得が高く、ハラール製品製造拠点としてのインセンティブが整備されるマレーシアでも、日系企業が食品を始めさまざまな分野でハラール認証を取得し、国内または第三国市場に展開している。ジェトロ・クアラルンプール事務所では、こうした日系企業のハラール製品・サービスの販路拡大を目的に、4月3~6日にマレーシア国際貿易・展示センター(MITEC)で開催されたマレーシア国際ハラール見本市(MIHAS)にジャパンパビリオンを初出展した。

ジャパンパビリオンでは4社がハラール食品を出展

ジャパンパビリオンには、ハラール認証を取得した食品関係の日系企業4社が出展し、約90件の商談が行われた。

MIHASは、MITIと同省傘下のマレーシア貿易開発公社(MATRADE)が毎年開催する国内最大規模のハラール展示会であり、2019年で16回目となる。食品を始め、医薬品、化粧品、金融、ツーリズム、電子商取引(EC)や物流など多岐にわたる分野が対象となっている。MATRADEのダト・ワン・ラティフ最高経営責任者(CEO)によると、インドネシア、韓国、タイ、台湾など44カ国・地域から、1,000社超が出展し、過去最高の出展者数を記録。72カ国から約2万1,000人が来場した。

出展した日系企業4社のうち、菓子製造のドンレミー(東京都)は、2017年にマレーシア・イスラム開発庁(JAKIM)のハラール認証を取得し、クアラルンプールで製造・販売する、どら焼きアイスなどのハラールスイーツを出品した。2018年にJAKIMのハラール認証を取得したホクト・マレーシア(長野県)は、自社工場で製造した、ぶなしめじを出品、マレーシア人になじみが薄い「しめじ」とその調理方法を伝えるために料理デモや試食などを行った。桃太郎食品(埼玉県)はハラール認証を取得したラーメンや近年ブームになっている「グルテンフリー」の生ラーメンなどを初出品した。伊賀牛オクダ(三重県)は、初めてハラール和牛をマレーシアへ出品し、輸入業者やレストランとの商談を行った。


ドンレミー(東京)(ジェトロ撮影)

ホクトマレーシア(本社:長野)(ジェトロ撮影)

伊賀牛オクダ(三重)(ジェトロ撮影)

桃太郎食品(埼玉)(ジェトロ撮影)

MIHAS出展において、最も役立ったと評価された点は「市場調査、情報収集」(93.8%)だった(図1参照)。特に日本の中小企業にとって、ハラール市場は日本でも情報が少なく、未知の世界だ。今回の出展を通して、「マレーシア人の受け入れやすい価格帯や味の嗜好(しこう)、日本食に対する認知度や日本食を食べる頻度などさまざまな情報収集ができた」という声が多かった。次いで、「マレーシア国内での販路拡大」と「ディストリビューターの発掘・継続取引」がそれぞれ81.3%で高かった。「マレーシア市場における販路拡大に向けて、期待できる新規代理店候補との商談ができた」とのコメントもあった。国内最大級のハラール見本市である同展示会にはハラール製品を扱う輸入業者、小売店、レストラン関係者が多数集まるため、ここでの商談が今後の商品展開への大きな足掛かりとなったようだ。

図1:MIHAS出展の役立ち度(4社、複数回答、%)
MIHAS出展において最も役立ったと評価された点は「市場調査、情報収集」の93.8%だった。 次いでマレーシア国内での販路拡大」、「ディストリビューターの発掘・継続取引」がそれぞれ81.3%だった。

注:各項目について、4社の回答を基に集計。
「役に立った」を4点、「まあ役に立った」を3点、「あまり役に立たなかった」を2点、「役に立たなかった」を1点、「今回の目的ではなかった」を0点として、各項目の点数取得率を役立ち度とした。
出所:ジェトロ調査

他方、ハラール食品の海外展開に向けて、今回の出展で明らかになった課題は、ブランドの認知度を高める必要があること、日本食の認知度は高いものの、食べる回数が少ないこと、などが挙げられた。味やパッケージなどハラール製品としての課題というよりは、各社製品がマレーシアではまだなじみの薄いものであり、買ってみようと思われる認知フェーズにない点を課題に感じた企業が多かったようだ。

マレーシアをハラールハブとした第三国への輸出戦略も

世界人口の約2割強を占めるハラール市場は、年々拡大しつつある。トムソン・ロイターの「世界イスラム経済レポート2018/2019」によると、2023年までに世界のイスラム経済はおよそ3兆米ドルに達すと予測されている。マレーシアは、同レポートの中で、イスラム経済圏においてビジネスチャンスが広がる国ランキング1位となった。2位以下は、アラブ首長国連邦やバーレーンなど中東諸国が続いた。世界最大のムスリム人口を擁するインドネシアや中東諸国などのムスリムにとって、マレーシアは人気の観光地であることから、マレーシア国内のハラール市場は拡大している。他方、ハラール食品をはじめとするマレーシアのハラール製品輸出金額も増加傾向にある(図2参照)。政府がハラール工業団地を設置し、投資インセンティブを用意するなど、投資環境は整ってきた。日系企業にも、マレーシアをASEANや中東などの第三国へのハラール製品の製造・輸出拠点として活用することを戦略としているところもある。

図2:マレーシアのハラール輸出額の推移
2014年の376.8億リンギから2018年には401億リンギとなった。

注:その他は、パーム油派生品、化粧品、医薬品、工業用化学品を含む。
出所:ハラール開発公社(HDC)の資料を基にジェトロ作成

東京オリンピック・パラリンピックへの期待も

2018年11月26日には、東京で世耕弘成経済産業相とマレーシアのモハマド・レズアン・モハマド・ユソフ起業家育成相が、ハラール協力に関する覚書を締結した。覚書の中では、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの準備のために、マレーシアがハラール専門知識向上で日本側に協力していくことや両国がハラール製品・サービスの貿易・投資促進などで協力していくことを確認した(2018年12月12日付ビジネス短信参照)。

マレーシアは、東京オリンピック・パラリンピックを見据え、ハラール食品の対日輸出増加を目指している。2017年にマレーシアから日本へ輸出したハラール製品は約28億リンギ(約728億円、1リンギ=約26円)に上ったが、レズアン起業家育成相は「2020年までに37億リンギを達成することが可能だ」とした。同相によると、約4万5,000人となる東京オリンピック・パラリンピックの選手や関係者のうち、約4割はハラール食品を必要とするという(「ザ・スター」1月25日)。

他方、日本企業の中にも、東京オリンピック・パラリンピックやムスリム訪日観光客の増加といった時機を捉えて、ハラール日本食の開発に取り組む例も少なくない。これら企業の中には、日本国内向けだけでなく、海外展開も見据えている企業もある。

今後、日本企業が拡大するムスリム市場を取り込むためには、ハラール認証の取得は欠かせないものの、MIHAS出展者からの声から分かるように、日本食材および自社ブランドの認知度の向上、現地の味覚に合う商品開発やレシピの考案などの工夫が不可欠だろう。

執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
エスター頼敏寧
2009年、ジェトロ入構。ジェトロ・クアラルンプール事務所にて2年間調査アシスタントを務め、2016年に再入構し現職。