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イタリアが「一帯一路」構想に関する覚書に署名(中国)
主要国にも広がる「一帯一路」

2019年6月27日

イタリアは3月23日、中国と「一帯一路」構想に関する覚書を締結した。これにより、イタリアはG7の中で同構想に係る覚書を交わした最初の国となった。イタリアは同構想に参画し、インフラ分野などでビジネス協力を展開するほか、中国からの投資増を促し、景気回復の一助とすることなどを狙っている。これに対して、米国やEUの一部の加盟国からは、イタリアの中国傾斜を懸念する声も上がっている。

本レポートは、「一帯一路」構想をめぐる昨今の中国とイタリアの関係緊密化の状況を紹介しつつ、両国間の経済交流が拡大していることを示す。そして、それに対する欧州各国などの見方に言及する。

中国企業がイタリア港湾事業に参画

中国の習近平国家主席は3月21日から26日、イタリア、モナコ、フランスを訪問した。その中で、習主席は同23日に、イタリアのコンテ首相とローマで会談を行い、両国は「一帯一路」構想に関する覚書を締結した。

中国外交部によると、この覚書を契機に、「一帯一路」構想と、イタリアの「北部の港建設」「イタリア投資計画」の結合を強化し、各分野での互恵協力を推進するとしている。また、密接に利益を融合させることにより、協力の最適化とレベルアップを推進し、宇宙技術、インフラ建設、交通、環境、エネルギーなどの優先分野で、早期に多くの成果を上げるとした。

覚書の中には、中国交通建設がジェノバ西リグリア港湾ネットワーク管理局や東アドリア港湾ネットワーク管理局と結んだ協定も含まれている。これにより、中国企業がイタリアの港湾事業に参画することとなった。ジェノバ西リグリア港湾ネットワーク管理局との協定には、インフラ投資のプラットフォーム構築やジェノバ港とジェノバ市のインフラのレベルアップが、アドリア港湾ネットワーク管理局との協定には、トリエステ港とモンファルコネ港の物流の改善などが盛り込まれている。

イタリアはG7の中で初めて「一帯一路」構想に関する覚書を締結した国となった。イタリア以外のG7各国などは、「一帯一路」構想に慎重な姿勢を取っていたため、さまざまなメディアがこれを大きく報じた。

中国からの投資を、低迷するイタリア経済回復の起爆剤に

イタリアは覚書締結前から、「一帯一路」構想に興味を示していた。

イタリアは2015年、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に参加した。AIIBはアジア太平洋地域のインフラ整備の支援を目的とした銀行で、2015年末に中国主導で設立された。現在、100近くの国・地域が参加しており、その中には英国やドイツも含まれている。イタリアの出資額は25億7,180万ドルで、2万8,252の議決権を保有している。

2017年5月に開催された第1回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムには、イタリアのジェロンティーニ首相(当時)も参加した。その際、「『一帯一路』構想は中国とイタリア両国により幅広い分野で協力する重要な機会をもたらしてくれる。イタリアの経済発展にも大きな機会をもたらす。イタリアは『一帯一路』構想を受け入れるだけではなく、その中に積極的に参画していく」とコメントしている(「人民網」2017年5月15日)。

今回の覚書締結の1カ月後の4月、コンテ首相は北京で開かれた第2回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラム(2019年05月22日付ビジネス短信参照)に出席し、その際、習国家主席と会談した。会談の中でコンテ首相は同フォーラムの成功に祝意を伝えるとともに、「イタリアの『一帯一路』構想への態度はゆるぎなく、この構想は世界に大きなチャンスを与えるだろう」と発言した。また、「イタリアと中国は戦略的パートナーであり、中国企業のイタリアへの投資を歓迎する。イタリアは中国企業への差別的な政策は取らない」と、イタリアへの投資を呼び掛けた。

報道などによると、イタリアが「一帯一路」構想の覚書に締結した理由の1つに、中国による投資を低迷する経済環境の回復に利用したいというイタリアの思惑がある。イタリアはリーマン・ショックや欧州債務危機以降、経済環境と財政状況が悪化しており、GDP成長率も0%前後と低水準で推移している。2016年、2017年には成長率が1.0%を超えたが、2018年には0.9%と再び減速した(図1参照)。IMFも2019年と2020年のイタリアの経済成長率をそれぞれ0.1%、0.9%と予測しており(2019年4月時点)、今後、イタリアの経済が劇的に改善するとは考えにくい。

イタリアのディマイオ副首相は、一連の覚書による経済協力規模は200億ユーロに上るとしており、中国からの投資を取り込むことで、このような局面を打開しようとしているという。

図1:イタリアGDP成長率
イタリアはリーマンショックや欧州債務危機以降、経済環境と財政状況が悪化しており、GDP成長率も0%前後と低水準で推移している。2016年、2017年には成長率が1.0%を超えたが、2018年には0.9%と再び減速した。

出所:CEIC、Istatからジェトロ作成

投資、貿易ともに増加傾向

近年は中国からイタリアへの投資が伸びている。中国対外直接投資統計公報で中国からイタリアへの投資額を見ると、2015年までは1億ドル前後で推移していたが、2016年に前年比7倍の6億3,344万ドルと急成長した。2017年には33.0%減の4億2,454万ドルとなったが、2015年以前と比較すると非常に大きな額と言える(図2参照)。

図2:中国の対イタリア投資額の推移
中国対外直接投資統計公報で中国からイタリアへの投資額を見ると、2015年までは1億ドル前後で推移していたが、2016年に前年比7倍の6億3,344万ドルと急成長した。2017年には33.0%減の4億2,454万ドルとなったが、2015年以前と比較すると非常に大きな額と言える。

出所:中国対外直接投資統計公報からジェトロ作成

中国外交部によると、中国企業や金融機関は近年、M&A、株式取得、共同出資などを通じて、イタリア企業と良好な関係を築いている。中国企業は「インテル・ミラノ」や「ACミラン」といった有名サッカークラブ、高級ヨット製造企業など、幅広い分野への投資を積極的に行っており(表1参照)、イタリアは中国企業の旺盛な投資を自国の経済成長の起爆剤にしようとしていると各種メディアが報じている。

表1:中国の対イタリア投資案件の例
中国企業 内容
2008 中聯重工科技発展 2億7,100万ユーロで世界第3位のコンクリート機械設備メーカー、CIFAの株式を100%取得。
2012 山東重工(濰柴集団) 3億7,400万ユーロで高級ヨット製造企業のフェレッティの株式の75%を取得。
2013 中国石油天然ガス集団 42億ドルでEni東アフリカ会社の株式の28.57%を買収。Eniはイタリア最大の資源会社。
2014 国家電網 21億100万ユーロでイタリアのCDP社からCDP RETIのの35%を取得。
2014 上海電気集団 4億ユーロでイタリアの重電企業のアンサルド・エルネジアの株式の40%を取得。
2015 中国化工集団 71億ユーロでイタリアのタイヤ大手ピレリから株式の26.2%を取得。
2016 蘇寧雲商集団 2億7,000万ユーロでイタリアのサッカークラブ「インテル・ミラノ」の70%の株式を取得。
2016 AGIC インベスト 約1億ユーロでイタリアの先端技術やロボットを手掛けるジマテックの買収を発表した。
因みに、AGICインベストは中国投資有限責任が出資するプライベート・エクイティ・ファンド。
2016 中国遠洋海運集団 5,300万ユーロでヴァード・ホールディングの株式の40%を買収すると発表。ヴァード・ホールディングは、イタリアのヴァド港でリーファー・コンテナ・ターミナルを運営していた。
2017 中国交通建設 296万ユーロで、ベネチア港務局と中国交通建設をはじめとする中国・イタリア企業連合はベネチア沖の深水港の設計について契約を締結。
2017 中欧体育投資管理 7億4,000万ユーロでイタリアのベルルスコーニ元首相一族の持ち株会社であるフィンインベストから、イタリアサッカー1部リーグ(セリエA)の「ACミラン」の株式の99.93%を取得。

出所:中国外交部、ジェトロ調査レポート、各種報道などからジェトロ作成。

また、イタリアでは投資面だけでなく、貿易面でも中国の存在感が大きくなってきている。

2018年の貿易動向についてイタリア側の統計を見ると、イタリアにとって中国は5番目の貿易相手国にして、アジア最大の貿易相手国だった(表2参照)。世界各国との貿易で中国は大きな存在感を示しているが、イタリアも例外ではない。

表2:2018年のイタリアの貿易相手国 (△はマイナス値)
順位 貿易総額
(単位:100万ドル)
構成比
(単位:%)
前年比
(単位:%)
1 ドイツ 151,742 14.5 10.3
2 フランス 100,405 9.6 9.2
3 米国 68,931 6.6 10.1
4 スペイン 52,714 5.0 4.6
5 中国 51,866 5.0 9.4
16 日本 11,095 1.2 △ 0.2
合計 1,047,418 100.00 9.01

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

貿易総額については、2012年以降400億ドル台で推移していたが、2018年には2011年以来7年ぶりに500億ドル台となった(図3参照)。

一方、2018年の中国側の統計を見ると、中国にとってイタリアは24番目の貿易相手国・地域であり、EUの中で5番目の貿易相手国だった。中国の貿易額全体から見ると、イタリアの占める割合は1.2%にすぎない(表3参照)(注)。

表3:2018年の中国の貿易相手国(中国側統計)
順位 相手国 貿易総額
(単位:100万ドル)
構成比
(単位:%)
前年比
(単位:%)
1 米国 631,152 13.7 9.4
2 日本 327,193 7.1 8.4
3 韓国 313,342 6.8 12.0
4 香港 310,696 6.8 8.8
5 台湾 225,392 4.9 13.4
6 ドイツ 183,933 4.0 9.8
15 オランダ 85,381 1.9 9.2
17 英国 80,686 1.8 2.5
21 フランス 62,952 1.4 16.0
24 イタリア 54,326 1.2 9.9
合計 4,600,329 100.0 13.5

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

加えて、中国とイタリアの貿易は決して均衡を保っているとは言えない。中国側の統計を基に中国の対イタリア貿易収支を見ると、2018年は121億2,200万ドルの黒字を計上した。ここ10年間、中国は対イタリア貿易で黒字を保っており、2010年のピーク時と比べれば減少しているものの、貿易収支は近年は100億ドル前後で推移している(図4参照)。

図4:中国の対イタリア貿易収支
中国側の統計を基に中国の対イタリア貿易収支を見ると、2018年は121億2,200万ドルの黒字を計上した。

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

ちなみに、中国側の統計から貿易上位品目を見ると、輸出入ともに84類、85類など機械類が目立つ。84類と85類は中国の対イタリア輸出の約40%、輸入の約30%を占めている(表4参照)。

表4:中国の輸出入別主要品目

中国のイタリアへの輸出品目上位5品目
順位 HS 品目名 輸入額
(単位:100万ドル)
構成比
(単位:%)
前年比
(単位:%)
1 85 電気機器およびその部分品ならびに録音機、音声再生機ならびにテレビジョンの映像および音声の記録用または再生用の機器ならびにこれらの部分品および付属品 7,026 21.1 22.9
2 84 原子炉、ボイラーおよび機械類ならびにこれらの部分品 6,093 18.3 9.0
3 62 衣類および衣類附属品(メリヤス編みまたはクロセ編みのものを除く) 1,483 4.5 2.9
4 29 有機化学品 1,436 4.3 28.5
5 72 鉄鋼 1,257 3.8 29.3
合計 33,224 100.0 14.2
中国のイタリアからの輸入上位5品目
順位 HS 品目名 輸入額
(単位:100万ドル)
構成比
(単位:%)
前年比
(単位:%)
1 84 原子炉、ボイラーおよび機械類ならびにこれらの部分品 5,455 25.8 8.3
2 30 医療用品 1,834 8.7 -0.8
3 42 革製品および動物用装着具ならびに旅行用具、ハンドバッグその他これらに類する容器ならびに腸の製品 1,244 5.9 23.8
4 85 電気機器およびその部分品ならびに録音機、音声再生機ならびにテレビジョンの映像および音声の記録用または再生用の機器ならびにこれらの部分品および附属品 1,239 5.9 16.8
5 90 光学機器、写真用機器、映画用機器、測定機器、検査機器、精密機器および医療用機器ならびにこれらの部分品および附属品 1,025 4.9 14.5
合計 21,102 100.0 3.7

出所:Global Trade Atlasからジェトロ作成

EU以外の地域からも懸念の声

中国は他の欧州諸国とも覚書などを締結している。欧州の締結国は中・東欧の旧共産主義国や、ギリシャのように債務危機に見舞われた国が多く、フランスやドイツなど欧州主要国は覚書を締結していない(参考参照)。

参考:中国と「一帯一路」構想に関わる協力文書に署名した欧州の国家一覧

EU加盟国

  • オーストリア
  • ギリシャ
  • ポーランド
  • チェコ
  • ブルガリア
  • スロバキア
  • クロアチア
  • エストニア
  • リトアニア
  • スロベニア
  • ハンガリー
  • ルーマニア
  • ラトビア
  • マルタ
  • ポルトガル
  • イタリア
  • ルクセンブルク

非EU加盟国

  • ロシア
  • セルビア
  • アルバニア
  • ボスニア・ヘルツェゴヴィナ
  • モンテネグロ
  • 北マケドニア
  • ウクライナ
  • ベラルーシ
  • モルドバ

注:2019年4月30日時点
出所:一帯一路網からジェトロ作成

中国が欧州で影響力を強めていることがうかがえるが、このような中国の動きに対し、EUおよび一部のEU加盟国からは懸念を示す声が上がっている。

2018年10月、EUはインフラ整備などを通じて欧州とアジアのつながりを強化する新アジア戦略を採択した。戦略は財政面の持続可能性を重視するアジア支援を強調しており、中国の「一帯一路」構想を意識したものだとされている(「日本経済新聞」3月11日)。

EUの報道官は3月7日、「全加盟国はEUの結束を尊重する責任がある」とし、中国との首脳会談に臨むイタリアにEUへの配慮を求めた(同上)。

さらに、欧州委員会は3月12日、中国との関係を見直す「10項目の行動計画」を策定(2019年3月13日付ビジネス短信参照)、3月21、22日にベルギーのブリュッセルで開かれた首脳会議でそれを議論した(2019年3月25日付ビジネス短信参照)。具体策の作成には至らなかったものの、ユンケル欧州委員長は首脳会議後の記者会見で、「中国は競合相手だ」と、中国に対する警戒心を示した(「日本経済新聞」3月22日付)。フランスのマクロン大統領も同じ記者会見で、「中国は欧州の分断につけ込んでいる」と指摘した(「朝日新聞」3月28日)。なお、マクロン大統領はイタリア訪問後の習近平国家主席の訪仏を受け入れているが、その際、欧州企業の中国への要望を伝えるとともに、「『一帯一路』構想は国際規範に合致する必要がある」と述べたという(「ロイター通信」3月26日)。

懸念を示しているのはEUだけではない。米国の国家安全保障会議は日本時間3月10日、「イタリアは主要なグローバル経済であり、大きな投資先だ。『一帯一路』構想の承認は中国の略奪的なアプローチに正当性を与えることであり、イタリアの人々に何の利益ももたらさない」とツイートし、中国とイタリアを牽制した。3月15日には、ホワイトハウスの国家安全保障担当顧問の広報官が「中国の国威発揚のためのインフラ整備プロジェクトにイタリア政府がお墨付きを与える必要はない」と発言している(「ロイター通信」2019年3月20日)。

また、安倍晋三首相は4月24日、イタリアを訪問してコンテ首相と会談した。同会談では6月に大阪で行われるG20首脳会議への協力の呼びかけのほか、防衛協力の強化などで一致した。

しかし、この首脳会談は、コンテ首相が第2回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムに出発する前日に行われたことなどから、イタリアの中国への傾斜を食い止めるために行われたと推測するメディアも多い。首脳会談後の共同記者会見で、安倍首相の掲げる「自由で開かれたインド太平洋」にコンテ首相が力強い支持を表明したことや、持続可能な質の高いインフラが経済に果たす重要性で合意したことなど、「一帯一路」構想を意識したと思われる発言があったためと思われる。

さまざまな枠組みで拡大する中国と欧州各国との協力

2017年、中国の国有企業である中国遠洋海運集団(コスコ・グループ)が、ギリシャのピレウス港を運営する港湾公社の株式67%を約3億6,850万ユーロで取得するなど、中国は「一帯一路」構想の下、インフラ分野を中心に欧州での存在感を強めている。

さらに、中国は中・東欧諸国の16カ国と「16+1サミット」を2012年以降ほぼ毎年開催し、関係も深めている。2018年はブルガリアの首都ソフィアで同サミットが行われた(2018年8月28日付地域・分析レポート参照)。

今回、イタリアが「一帯一路」構想に関する覚書を締結した狙いの1つに、中国の旺盛な投資を取り入れることで、低迷する経済の回復を図ろうとしていることがある。今後、欧州各国の経済が低迷するようなことがあれば、「一帯一路」構想に賛同、覚書を締結する国が増えることも考えられる。

欧州各国の動向に今後とも注目していく必要があるだろう。


注:
相手国・地域に中国を含めた順位。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
楢橋 広基(ならはし ひろき)
2017年4月、ジェトロ入構。同月より現職。

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