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ブルガリアが中国と中・東欧の第7回「16+1」サミットをホスト
金融、インフラ、電力など多分野で2国間の協力も合意

2018年8月28日

今回で7回目となる、中国と中・東欧の16カ国の首脳が一堂に会する「16+1サミット」が2018年7月、ブルガリアの首都ソフィアで開催された。米国との貿易戦争が激化する中、中国はこの会議の枠組みを通じて欧州との貿易・投資関係の深化に取り組んでいる。本会議では、西バルカン諸国を中心とする幅広い分野のインフラ整備や中・東欧諸国から中国への農産物の輸出などについて協議が進展し、特にブルガリアは中国と多分野で多くの合意を締結した。

EU理事会議長国終了のブルガリアで開催

2011年に中国が「一帯一路」構想を発表し、その翌2012年以降、中国と中・東欧諸国(注)の首脳を集める「16+1」サミットが毎年開催されている。第7回会合は、ブルガリアがEU理事会の議長国の任期(2018年1~6月)を終えた直後となる7月6~7日にブルガリアの首都ソフィアで開催された。中・東欧各国の首相や大統領をはじめ関係者のほか、中国からは政府職員約200人と企業関係者約500人が、また欧州各国の企業からは約1,000人が参加したとされる。オブザーバーとして、欧州委員会や欧州復興開発銀行(EBRD)なども参加した。このサミットを通じて、2カ国間を中心とする18の覚書が署名された。その多くはインフラ関連だが、会議参加国全体で「電子商取引と銀行間相互協力の改善」を内容とする協定を、ボスニア・ヘルツェゴビナは動物の感染症予防を目的とした検疫や科学技術の面での協力を促進する協定を中国と締結した。

ブルガリアは中国から多くの支援・約束を取り付け

開催国ブルガリアにとって最も重要な成果は、ソフィアに「中国-中・東欧グローバル提携センター」(Global Partnership Centre of CEECs)を設立する合意である。中国の出資で設置される同センターの趣旨は、16+1の参加国が中国との共同プロジェクトをEU法の総体系(アキ・コミュノテール)にのっとって遂行することである。ブルガリアのメディアは、同センター長にブルガリアのEU理事会議長国担当相であるリリアナ・パブロバ氏が就任すると報じている。当面は中・東欧諸国でのプロジェクトを対象とするが、中国側は将来的には全EU加盟国を対象とすることを目指すという。

中国の李克強首相は、初日に行われたブルガリアのボイコ・ボリソフ首相との共同記者会見において、「16+1でEUを分断することが中国の目的ではない」「中国は、法律、自由貿易のルールおよびEU法にのっとり、地域の発展のために透明性を確保しながら投資していく」などと述べている。

金融分野では、前述の「電子商取引と銀行間相互協力の改善」の覚書に関連し、ブルガリア国立銀行系のカード会社ボリカが中国のユニオンペイとブルガリアでの中国のクレジットカード「銀聯カード」の使用や、将来におけるQRコードやイーウォレット(電子マネー決済)を用いた支払いなどに関する覚書を締結した。

また、中国の国家開発銀行(CDB)は、ブルガリア開発銀行(BDB)に地方自治体や企業によるプロジェクトの支援のため、今後5年間に合計15億ユーロを融資することを約束した。中国は中・東欧地域全体に対して20億ユーロを融資し、建設を伴うプロジェクトに対する協調融資などに使用することを想定しているが、今回の合意でその75%がブルガリア向けとなった。BDBのストヤン・マフロディエフ最高経営責任者によると、両行はブルガリアのスタートアップなどを支援するためのジョイントベンチャー基金設立の可能性も検討しているとのことで、投資的な事業も対象としているようだ。

インフラ関連では、ニコライ・ナンコフ地方開発相が中国企業5社との覚書に署名した。覚書の内容は、国内の高速道路(チェルノ~モーレ、ルセ~ウェリコ・タルノボ、ビディン~ボテフグラド、ヘムス高速道路)やトンネルの建設である。その他、ソフィア周辺でのスマートシティー建設や、紙・パルプ企業スビロザによるバイオごみ熱電併給発電所の建設などについても合意に至った。

電力分野では、中国の中国核工業集団(CNNC)が建設計画が中断しているベレネ原子力発電所に関心を有しているとされるが、今回両国間でエネルギー協力のための覚書が締結され、中国がEUルールに基づいてブルガリアを支援していくことになった。李首相はボリソフ首相に対し、中国が同発電所が完成するまで最大限の協力を行うことを約束したという。

セルビアでは鉄道近代化計画が進展

その他の国のインフラ関連では、セルビアのベオグラードからハンガリーのブダペストを結ぶ鉄道を近代化する計画の第3期工区となるセルビアのノビ・サド~スポティッツァ路線(108キロ、投資額9億ユーロ余り)の建設、ベオグラード~ニーシュ間の鉄道の近代化計画(198キロ、投資額6億ユーロ)、果物・野菜工業団地の建設に関する覚書が締結された。また、モンテネグロでは中国企業によりアドリア海のバル港からモンテネグロ・セルビア国境に続く高速道路の建設が急ピッチで行われているが、ドゥシュコ・マルコビッチ首相は李首相との会談後、バル港から鉄道を敷設し、前述のベオグラード~ブダペスト鉄道路線に接続する構想について協議したと述べている。

膨大な貿易赤字や実現性に不満の声も

その一方で、中国に対しては、中・東欧各国からさまざまな要求が伝えられたようだ。これに対して、サミット中に開催されたビジネスフォーラムにおいて、李首相は「中国市場の開放によって欧州からの輸入拡大に努力し、中・東欧諸国の企業のビジネスチャンスを広げている」と述べ、特に農産物について関税を引き下げると宣言した。

各国首脳との会談では、ブルガリアのルメン・ラデフ大統領は、中国との貿易は増加しているものの潜在的可能性に比べると十分でないと述べ、ブルガリアの農産物などの中国市場へのアクセス改善を要求した。これに対し、李首相は記者会見において、ブルガリアの乾燥葉タバコを最大で年間1万トン輸入する方針を明らかにした(ブルガリアの乾燥葉タバコの推定生産量は年間2万5,000トン)。

スロバキアのペテル・ペリグリニ首相は現地メディアに対して、中国への野菜の輸出を可能とするための中国政府による認証手続きの完了を求めたほか、李首相が中国はスロバキア製完成車に課す関税を現行の25%から15%に引き下げることを予定していると述べた、と語った。また、中国から西欧各国への小包貨物を首都のブラチスラバ空港をハブとして輸送するパイロット事業について、スロバキア郵便事業会社が中国企業と交渉していることも明らかにした。さらに、李首相に対しスロバキアを介して中国が欧州に投資することを望んでいると述べたほか、具体的な事業としては、スロバキア、オーストリア、ウクライナ、ロシアの4鉄道会社による中国からの鉄道貨物便を増強する事業についても協議したという。

チェコのアンドレイ・バビシュ首相は李首相との対談で、チェコの中国からの輸入額が中国への輸出を10倍上回るとし、中国の輸入規制の緩和を要求した。

中国からの中・東欧への対内直接投資は限定的

中・東欧各国の対中貿易収支をみると、全ての国が貿易赤字を抱え、ハンガリーなど一部の国を除いて近年、赤字が拡大傾向にある(表1参照)。

表1:中・東欧16カ国の対中貿易収支

2010~2013年(単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
国名 2010年 2011年 2012年 2013年
アルバニア △ 155.0 △ 212.6 △ 200.2 △ 167.8
ボスニア・ヘルツェゴビナ △ 331.4 △ 392.0 △ 413.1 △ 462.0
ブルガリア △ 306.1 △ 385.1 △ 163.2 △ 115.9
クロアチア △ 1,056.7 △ 1,113.3 △ 1,121.0 △ 898.3
チェコ △ 6,011.1 △ 7,113.9 △ 5,663.2 △ 4,835.3
エストニア △ 224.6 △ 352.3 △ 494.4 △ 475.6
ハンガリー △ 5,382.1 △ 4,949.3 △ 4,098.7 △ 3,733.6
ラトビア △ 192.0 △ 254.4 △ 312.3 △ 255.7
リトアニア △ 402.7 △ 393.9 △ 464.7 △ 476.8
マケドニア △ 150.5 △ 163.3 △ 167.0 △ 205.4
モンテネグロ △ 88.7 △ 102.3 △ 126.8 △ 139.0
ポーランド △ 5,701.1 △ 6,099.5 △ 6,602.2 △ 6,880.1
ルーマニア △ 2,240.7 △ 2,137.4 △ 1,702.0 △ 1,473.0
セルビア △ 879.7 △ 1,056.5 △ 1,074.7 △ 1,129.3
スロバキア △ 1,042.8 △ 732.1 △ 1,069.5 △ 871.3
スロベニア △ 828.2 △ 934.4 △ 744.0 △ 848.9
2014~2017年(単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
国名 2014年 2015年 2016年 2017年
アルバニア △ 225.7 △ 286.2 △ 315.7 △ 306.3
ボスニア・ヘルツェゴビナ △ 688.2 △ 543.7 △ 545.0 △ 586.9
ブルガリア △ 331.7 △ 432.1 △ 572.8 △ 471.6
クロアチア △ 391.4 △ 454.6 △ 519.4 △ 581.9
チェコ △ 5,614.5 △ 8,856.8 △ 7,890.4 △ 8,399.4
エストニア △ 467.0 △ 489.7 △ 473.8 △ 468.9
ハンガリー △ 3,404.9 △ 3,887.8 △ 3,885.8 △ 4,032.8
ラトビア △ 246.9 △ 306.2 △ 280.5 △ 304.0
リトアニア △ 563.9 △ 623.0 △ 585.3 △ 643.1
マケドニア △ 256.0 △ 223.5 △ 348.9 △ 336.7
モンテネグロ △ 130.2 △ 181.7 △ 166.3 △ 215.0
ポーランド △ 8,874.9 △ 11,268.1 △ 12,349.6 △ 14,260.3
ルーマニア △ 1,787.2 △ 2,364.2 △ 2,825.3 △ 3,051.1
セルビア △ 1,162.4 △ 1,367.7 △ 1,353.2 △ 1,512.3
スロバキア △ 1,101.7 △ 1,700.3 △ 2,000.2 △ 1,865.5
スロベニア △ 915.8 △ 1,164.7 △ 860.2 △ 874.0
出所:
ウィーン比較経済研究所(WIIW)

「一帯一路」構想関連における中国による投資額については、2018年4月に公表された米国の戦略国際問題研究所(CSIS)のレポートによると、合計1兆~8兆ドルの幅を持つ各種の予測が紹介されているが、現在まで中国の同地域での投資額は限定的だ(表2参照)。

近年の大型案件としては、セルビアでの複数の高速道路建設(融資および投資)、石炭火力発電所の新設および脱硫装置設置(融資)や製鉄所の買収、チェコでの2015~2016年の中国華信能源(CEFC)による経営難に陥っていたサッカーチーム(SKスラビア・プラハ)の買収などが挙げられる程度である。

中・東欧各国への中国からの対内直接投資(ネット、フロー)の対内直接投資額全体に対するシェアをみると、チェコで2015年に59.6%、2016年は7.6%、セルビアでは2014~17年に5.5%、1.1%、3.4%、4.1%となったが、それ以外の国では1%前後またはそれ以下のシェアにとどまり、中・東欧全体で中国からの直接投資が盛んである、とは言えない状況にある。

表2:中国の対中・東欧諸国への直接投資(ネット、フロー)

2010~2013年(単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
国名 2010年 2011年 2012年 2013年
アルバニア n.a. n.a. n.a. 3.8
ボスニア・ヘルツェゴビナ n.a. n.a. n.a. n.a.
ブルガリア 5.3 49.2 40.6 26.2
クロアチア 0.4 0.1 0.1 0.2
チェコ 9.3 △ 84.7 34.0 6.3
エストニア 22.6 △ 41.7 26.5 △ 2.9
ハンガリー 100.1 △ 119.6 110.3 13.6
ラトビア 0.7 0.3 0.3 2.8
リトアニア △ 0.2 0.4 0.1 0.4
マケドニア 0.2 0.2 △ 0.0 △ 0.1
モンテネグロ 1.7 0.8 0.4 0.1
ポーランド 0.3 72.8 △ 115.5 △ 22.1
セルビア 2.0 5.0 0.0 △ 0.4
スロバキア 17.0 24.8 △ 7.3 △ 10.6
スロベニア n.a. n.a. n.a. n.a.
2014~2017年(単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
国名 2014年 2015年 2016年 2017年
アルバニア n.a. 4.5 2.4 n.a.
ボスニア・ヘルツェゴビナ 0.1 0.0 0.1 n.a.
ブルガリア 0.4 3.3 △ 21.3 4.2
クロアチア 1.1 3.2 △ 1.7 30.3
チェコ △ 3.1 249.7 462.9 219.9
エストニア 7.3 △ 6.5 △ 6.7 5.0
ハンガリー 102.2 15.2 76.7 △ 90.2
ラトビア 2.0 n.a. n.a. n.a.
リトアニア △ 0.7 0.4 2.4 1.5
マケドニア △ 3.9 6.1 26.3 n.a.
モンテネグロ 0.0 0.8 0.4 n.a.
ポーランド 63.3 △ 2.0 △ 26.4 n.a.
セルビア 82.5 24.1 70.0 103.4
スロバキア 4.6 △ 17.7 21.8 n.a.
スロベニア 1.2 4.3 5.6 n.a.
注:
ルーマニアはデータなし。
出所:
ウィーン比較経済研究所(WIIW)

ポテンシャルはあるが、リスクも多い

ウィーン比較経済研究所(WIIW)は2018年6月、計画されている全てのインフラなどのプロジェクトが実現した場合、ボスニア・ヘルツェゴビナやモンテネグロのGDPを10%、セルビアのGDPを7%程度引き上げるインパクトがあるとするレポートを公表した。マケドニアでは2%、その他の国々は1%程度増加すると予測し、中・東欧全域で一定の好影響が見込まれている。インフラへの投資には、産業競争力や国民生活向上など幅広い効果があるが、プロジェクトの実現可能性に疑問が残るほか、対外債務の増大や中国の政治的影響、汚職など、政治・経済両面においてリスクが多い、とWIIWは指摘している。


注:
アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マケドニア、モンテネグロ、ポーランド、ルーマニア、セルビア、スロバキア、スロベニア。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所(在ソフィア)
ウラジミール・カネフ
ブルガリアのソフィア工科大学後、留学先の東海大学で1978年卒業、1980年大学院修了。その後、ブルガリアで貿易会社勤務を経てコンサルタントとして日本政府関連のプロジェクト支援業務に従事。2014年よりジェトロ・ウィーン事務所コレスポンデント。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所 リサーチャー
エッカート・デアシュミット
ウィーン大学日本学科卒業、1994年11月からジェトロ・ウィーン事務所で調査(オーストリア、スロバキア、スロベニアなど)を担当。
執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所長
阿部 聡(あべ さとし)
1986年通商産業省(現経済産業省)入省。2016年7月より現職。

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