東南アジア諸国が廃プラスチック輸入規制を強化、日本の輸出量は減少
―輸出国側にも規制、求められる国内処理―

2019年6月18日

中国が2017年末に廃プラスチックの輸入を制限して以降、仕向け先の代替地となっていた東南アジア各国(ASEANなど)でも輸入規制が導入された。バーゼル条約の改正で輸出国側にも規制が敷かれ、今後はより一層、国内処理の必要性が高まる。日本は世界的に進む脱プラスチックを積極的に推進する姿勢だ。

次々導入される廃プラ輸入規制

アジアの国々で、廃プラスチック(以下、廃プラ)の輸入・利用規制が厳格化しつつある。2018年以降、域内でいち早く規制したのはタイとベトナム(2018年6月)、次いでマレーシア(2018年7月)だ。その後、インドネシアで輸入規制・禁止が検討され、インドでは2019年8月31日から全面輸入禁止となった(表1参照)。

表1:東南アジア・南西アジア諸国の廃プラ輸入規制

東南アジア
マレーシア 実質的に輸入禁止
タイ 一部輸入禁止。2021年には全面輸入禁止の方針
ベトナム 輸入基準を厳格化
インドネシア 輸入禁止・規制を検討中
ラオス 輸入禁止・規制を検討中
カンボジア 貿易管理品目で一部禁止
フィリピン 貿易管理品目で一部制限
南西アジア
インド 2019年8月31日から全面輸入禁止
スリランカ 貿易管理品目で一部禁止
バングラデシュ 貿易管理品目で一部禁止
パキスタン 貿易管理品目で一部禁止

注:2017年末の中国の輸入禁止を受けて規制を変更(検討)したのは、マレーシア、タイ、ベトナム、インドネシア、ラオス、インド。その他の国々は従来から制限、禁止している。
出所:各種報道・各国政府発表資料、ヒアリングを基にジェトロ作成

各国の規制の経緯、詳細は次のとおり。

マレーシア

マレーシアでは2018年7月23日、担当省庁が発行済みのすべての輸入許可証(AP)を3カ月間停止。新たな認可基準を設けた上で、2018年10月から再申請を受け付けると発表した。新たな認可基準では、従来の書類に加え、保管場所の収容能力の証明、国家固形廃棄物管理局(NSWMD)監督の下での建屋内清掃の実施、リサイクル処理後の廃プラスチックの売り先リスト、輸入廃プラスチック1トン当たり15リンギ(約390円、1リンギ=約26円)の税金の納付などの追加条件が課される。新基準によるAPの再申請は、10月26日から開始され、19社が申請したが、2019年1月現在で承認された企業はない。

廃プラ輸入規制を含む、マレーシアの環境保護政策については「地域・分析レポート:行き場を失いつつある廃プラスチックの行方は?(マレーシア)」に詳しい。

タイ

タイでは2018年7月、国内の港での廃プラや電子廃棄物などを積載したコンテナの荷揚げが禁止された(通達ベース)。さらに、ジェトロが工業省工場局に問い合わせたところ、当局がプラスチックごみの輸入ライセンスの発給を一時停止していることが分かった。足元の状況として、進出日系企業によれば、フレーク状の廃プラは輸入不可だという。今後、2016年までの輸入許可実績に応じて輸入枠を設定し、2021年には全面輸入禁止の方針。ただし、総選挙後の政権運営がいまだ確立したとは言えず、方針が変更される可能性に留意する必要がある。

ベトナム

ベトナムでは、ホーチミン市のカットライ港とヒェップフック港の2港で、港湾管理会社が廃プラの受け入れを2018年6月1日から一時制限(現在は解除)。7月にベトナム全土で、廃プラを含む輸入廃棄物の管理強化が行われ、10月末には天然資源環境省(MONRE)の輸入許可基準が厳格化された。当該基準を満たせば輸入可能だが、地方のMONREが新基準に沿った検査をする機能を有していないため、基準を満たしていても通関できない状態、つまり輸入禁止に等しい状態が続いていた。2019年3月、MONREが新たな通達を出し、検査主体を地方政府の天然資源環境省(DONRE)から民間の認定機関へと変更し、この問題は解決されている。また、2019年5月、廃プラを含む廃棄物の輸入者を「輸入廃棄物を使用する製造施設を有する組織または個人」に限定するなど、さらなる基準の厳格化が行われた(ビジネス短信:廃棄物の輸入規制を修正・補足する政令公布参照)。

インドネシア

インドネシアは2019年5月末時点で、輸入禁止・規制を検討中だ。現地報道によると、ヌルバヤ環境・林業相は、有害物質の輸入規定について定めた貿易相令「16年第31号」を見直して、プラごみ(廃プラ)の輸入を禁止する考えを明らかにした。

ラオス

ラオス商工省はジェトロの問い合わせに対し、天然資源環境省と商工省の間で「プラスチックのリサイクル処理工場の新規建設許可の停止と、廃プラスチック材の輸入停止が議題に挙がっている」と述べた上で、「登録されている68社のプラスチックリサイクル処理企業の存続が危うくなるため、輸入停止は時間をかけて協議する」と回答した(2018年9月)。

フィリピン

フィリピンは、以前から廃プラを貿易管理品目に指定しているが、これに加えて2019年1月、固形廃棄物輸入禁止法案が議会に提出された。ただし、法案化されるめどは立っていない。

インド

インドは従来、廃プラを輸入制限品目としていたが、法律を改正。2019年8月31日から全面輸入禁止となる。

輸入国だけでなく、輸出国への規制も

こうした規制が敷かれる中で、プラスチックごみを含むコンテナが輸出国側に送り返される事態が発生している。フィリピンのドゥテルテ大統領は2019年4月、カナダに対し、ごみ入りのコンテナを回収するよう要請。輸出申告上は「リサイクル処理できるプラスチック」とされていたが、実際はそのほとんどがリサイクル処理のできないごみだったためだ。その結果、カナダ政府が輸送費を負担する形で返送された。また、マレーシアも同様に、プラスチックごみを積んだコンテナを、日本を含む輸出国に送り返す方針を発表している。こちらも書類上では「リサイクル可能」とされていたものの、実際は再生不可能なごみだったため取られた措置だ。両国の姿勢に共通しているのは、「自分たちの国は世界のごみ捨て場ではない」という点だ。自分の出したごみは自分たちで処理してほしいという、至極当然な意見といえる。

それでは、輸出国側に対する規制はどうなっているのか。これに関しても、世界的に動きが進みつつある。ジュネーブで開かれたバーゼル条約締約国会議は2019年5月10日、リサイクルに適さない汚れたプラスチックごみを同条約の規制対象とする改正案を採択した。バーゼル条約は有害廃棄物の定義や輸出入を規定する国際条約で、約180の国・地域が批准している。改正された条約は2021年1月1日から施行予定で、汚れたプラスチックごみを輸出する際に相手国の同意が必要となる。

今回のバーゼル条約の改正は、ノルウェーがはじめに提案し、日本を含む各国が賛同したことで実現した。改正されたバーゼル条約が施行されれば、廃プラの貿易環境は大きく変わることになり、廃プラを国内処理する必要性は一層増すだろう。現に、原田義昭環境相は、バーゼル条約改正の共同提案国となることを発表した2019年2月26日の記者会見で、「国内の処理体制を整える必要がある」と述べている。

日本国内での処理は根付くか

日本の廃プラ(HS3915)の2018年の輸出量は約100万トンで、米国、ドイツに次ぐ規模となっているが、前年と比べると大きく減少した(表2、図参照)。また、2018年に日本が輸出した廃プラの50%以上が東南アジア(マレーシア、タイ、ベトナム)へ輸出された。

表2:主要国の廃プラスチック輸出量(単位:万トン、%)(△はマイナス値)
国・地域 2016年
輸出量
2017年
輸出量
2018年
輸出量 前年比
合計(39カ国・地域) 1,333.9 1,123.1 757.0 △ 32.6
EU(15カ国) 479.0 431.4 380.5 △ 11.8
米国 194.4 167.0 107.4 △ 35.7
日本 152.7 143.1 100.8 △ 29.6
メキシコ 43.0 37.4 30.9 △ 17.4
香港 281.9 179.1 28.9 △ 83.9

出所:グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

図:日本の廃プラスチック輸出量の推移
日本の廃プラ(HS3915)の2018年の輸出量は約100万トン(前年比約33%減)で、米国、ドイツに次ぐ規模となっている。また、2018年に日本が輸出した廃プラの50%以上が東南アジア(マレーシア、タイ、ベトナム)へ輸出された。

注:2018年の日本の輸出が多かった上位5カ国・地域と、中国、香港のみ掲載。
出所:グローバル・トレード・アトラスを基にジェトロ作成

世界的な脱プラスチックの動きの中で、輸出国・輸入国ともに規制を導入したことから、「廃プラ包囲網」はより強固なものとなった。日本を取り巻く環境も同様で、図に表されているとおり、中国のみならず東南アジア諸国が廃プラの輸入規制を敷いたことにより、国内処理の必要性はより一層高まっている。

2019年6月末に大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議において、議長国を務める日本は、海洋プラスチックごみ削減を会議における最大のテーマの1つに位置付けている。政府は5月31日、首相官邸で関係閣僚会議を開き、海洋プラスチックごみ削減に向けた行動計画案を策定。海に溶けやすい代替素材の開発や、ペットボトルすべてを再生利用するための支援など、国内で資源を循環させる方針を示した。

世界的な脱プラスチックの潮流は、これからしばらくは続くだろう。バーゼル条約改正への働き掛け、そしてG20の議題設定からは、日本政府がプラスチックごみ削減に本腰を入れて取り組む姿勢がうかがえる。日本は原田環境相の発言のとおり、国内処理体制を拡充・整備していく必要がある。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。